2009ナミ誕作品



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『夕映え』

晴れていた空は徐々に色を変え茜色の夕焼けがサニーを包み始めた。スリラーバーク以来のこの航海は今をもって順調だ。
甲板からは誰かの騒ぐ声が聞こえる。下段の方からはバイオリンの音が響き金鎚の音と二重奏を奏でている。キッチンからはまだ下ごしらえの、しかし食欲をそそる香りが漂ってくる。ビュンビュンとまだ陽も落ちる前に重い物が空を振る音が船上に絶え間ない。
溶けてしまいそうな同じ色の髪をしたこの船の航海士は甲板から今沈みゆく夕日に彩られた光景を眺めている。

飽きず眺める。
何度も見た夕焼けを。そして二度と見ることのない夕映えを。


数字の順にストーリーが進んでゆきます

◎ 言葉にしねぇけど01
◎ 押しても駄目なら02
◎ そういうところも、その03
◎ その沈黙の意味は04
◎ 離れない05
◎ 泣く一歩手前の顔をしてる06
◎ おまえの「本当」は知っている07
◎ ただ声が聞きたいだけ08
◎ 何度でも09
『夕映え』
◎ ラスト・チャンス10





終章

足元に触れる砂の感触。目を閉じると本物の潮騒が聞こえてる。
瞼の裏の優しい光の気配にそっと目を開けると一瞬目がくらむ。
そこは一面夕焼けの色。夢に望んだ大海の染まる世界。
その中を互いの影は彩輪を背負ったような色合いに柔らかく溶けながらもハッキリと浮かんで見える。

二つの影は長く伸び、 そして一つになった。

目に心に鮮やかな その夕映えの中で。

(fin)



鳥小屋