『三日月の天秤からこぼれるもの』




「なんで目玉焼きが両面焼かれてんだよ!!俺様は半熟が好きだって言ってあるじゃねぇか!」
「るせぇ。Sunny sideなんてごめんだ。あんまりうるせぇときのこも付けるぞ。残さず喰え。」
朝食の卵一つといえど、好みは人様々だ。機嫌がよいときには個人の我が儘もきいてもらえるが、今朝のというよりもう昼に近いブランチの時間。昨日とうって変わった不機嫌で静かなコックに逆らうものはいなかった。
いつも女性二人に向けられるハートの目は今日は忙しくキッチンの片づけに向けられている。そのおかげか敵を討つように磨かれたキッチンはいつもより光って見える。流れるような無駄口も今日は控えめで煙草の数ばかりが増えている。

「調子悪そうだな?」朝食後青っ鼻の馴鹿が心配げに覗き込んできた。
「別に。」こんな小動物にすごんでも仕方ないが・・。
「おいチョッパーー!俺の手、診てくれ。」
慌ててウソップがチョッパーを連れていった。皆の空気からもそのあたりの気の使い方もわかりすぎるだけに益々自分が嫌になる。

ビビちゃんは部屋から出てこない。ナミさんが食事は運んでくれた。
今顔を見たら俺はきちんと振る舞えるだろうか?俺の・・月姫。
ウィスキーピークを出てから一緒にいられて、見かけの可愛らしさではなく芯の強さと、泣くことすら自分の敗北を認めるのが嫌で出来ないくらいのその気の強さに目を奪われて、気がついたらいつも見ていた。張りつめた心を隠し、あくまで気丈に俺達に指示する王女様。常に張りつめていた彼女の肩の力だけでも取ってあげたくて、彼女の願いなら何があっても守りたかった。

もう憂いなど無いはずなのに、幸せだけをあげたかったのに。俺の欲が君を苦しめる。
たった一夜の逢瀬はあまりに幸せすぎて夢のようで、伝説の月のお姫様の話と同じになってしまった。



そして…ルフィはいつもと全く変わりなかった。

「サンジーー飯っ!」
大口を開けてにっこり笑いながら次から次から飯を平らげる。
「美味ぇぞ〜〜。おかわり!」
こっちの気も知ってか知らねぇでかいつもと変わらないルフィに、言う文句も消えちまってそのままお代わりを盛ってやった。
・・助かった。こういうあたりの度量の馬鹿さ加減もコイツに勝てない証だと思うのに・・それに対して腹がたつわけでもない。
「美味ぇか?」
「うん、美味ぇ!もっとお代わり!」
「馬鹿野郎。全部喰っちまいやがって、もうねぇよ。」


昨日のルフィが俺の夢でなかった証拠に、嵐の後デッキで白い包帯の残骸を見つけた。
昨日ビビちゃんがしていたものが嵐にも流されずに俺に見つけられたのはどういう皮肉だ。
「てめぇのケリはてめぇでつけろってか?大人は大変だねぇ。」
口に出してみてはっきりわかった。幾ら年が下でもルフィを子供扱いする気はねぇ。
女を掛けた勝負に勝てるはずが無くて引き下がったのは俺だ。

どうも煙草の本数が増えている。あんまり吸いすぎると馴鹿が煩い。と思いながら次の煙草に火を点ける。紫煙は空に立ち上り、太陽に溶けて見えなくなる。



「病人じゃないんだからね。きちんと食べなさい。」
ナミさんの言葉は少々きつい。昨日からのことを聞いてこないだけありがたいけれど、放っておいて欲しいのに。布団の中に顔を伏せる私にテキパキ声を掛ける。
「後で食器をかたしに来るからね。」
「上の…様子は…?」
「サンジがハートマーク飛ばさない他は全然変わりないわ。普段通りよ。」
こちらも見ずにソファを整えながら言う。
「今日は好きにしていて良いわ。何かあったら呼ぶから。」
部屋を片付け、ゴミやら洗濯物やらを抱え部屋を出ていった。
そしてドアの前でくるりと振り向いて、一瞬ビビを凝視する。布団をすっかりかぶって外を見ないビビにもその視線の強さがはっきりわかる。すっと息を吸い、一言だけ残して去っていった。
「ネフェルタリ=ビビ。貴女は誰?ここで何をするの?」


もう、今日は寝る。
何も考えたくない。
このまま一人で波の子守歌を聴きながら……。
そういえばこの音は砂嵐にも似ている。
  帰りたい…砂漠に…。  私が私だった頃に…。

懐かしい音。
砂漠を渡る砂塵を含んだ砂の音。
国を守るために私は向かったのにもうアラバスタ王国はない。国王のお父様はもう居ない。
あの国にいた王女様は捨ててきた。あの王国を守ることが出来なかった許されざる王女は。
私はただの「ビビ」。海賊の仲間。
そう。いったい何のために海賊になってこの船に乗ったのだろう。


甲板で航路の確認を手伝うチョッパーが居た。
「あいつら大丈夫なのか?」
「トナカイのあんたにもわかるくらい剣呑としている?」
「いや…。雌の取り合いだろ?なのに二人とも笑ってるぞ。」
「だから余計に頭が痛いのよ。…一応これ以上は迷惑だから釘は差しておいたけど、あいつら相手にいつまでもつか。」

彼女を追いつめないで。
ルフィはナミの真剣さに口を真一文字に結んだ。サンジもただ煙草を吸っているだけで何も言わなかった。



結局うとうとするだけで眠ることも出来ずに、身体が痛くなってきて起き出した。
外は嵐の名残もなく船は快調に進んでいる事が船足からわかる。
ドアを開ける。太陽が眩しい。
外に出たとたんぱっと周りが緑色に燃えてしまって世界の像が結べなかった。
視界がはっきりして最初に目に入ったのは船首にいる男の子の姿だった。

ルフィは昼にはいつもの指定席に座ったまま遠くを眺めていた。
一匹だけ飛んできた海鳥と戯れるその姿は陽に溶けて眩しすぎて額に手を翳さないと見ることが出来ない。
(本当にあの日の彼なの?なんだか別世界の風景を見るみたい…)

もう船は日常に戻っていた。
甲板の皆にいつものスペシャルドリンクを配るサンジが居た。
お代わりを要求するルフィさんに文句を言いながらも笑顔で自分の分を分けてあげている。私もぎこちなく受け取り遠くに離れて二人を見ていた。
人のことを勝手に取り合って譲ったあげくに二人で仲直りして笑いあっている男達……。
二人とも互いの言い分を受け入れたと言うことなの?
…いえ。ルフィさんはそのままね。何者にも左右されないあの強すぎる意志を曲げるはずがない。では全ては自分のモノだと宣言するルフィさんをそのままサンジさん自身も受け入れたと言うことなの?抱いた女どころか自分自身までも…。

甲板のルフィさんと目があった。黒い瞳は真っ直ぐで、落ち着かない気持ちになる。
サンジさんはキッチンに戻っていった。さっきまで痛いくらいに視線は感じていたのに。






海賊時代の航路では幾らグランドラインでも横行する海賊は絶えない。遠方に出航することは危険でも近海だけなら自分の領海にすることが出来る。罠を張って通行する船の上前をはねる輩は何処にでもいるのだ。

曇天の空はぐずつくわけでもないが、重い印象が拭えない。視界が利きにくいので、航海士のナミの顔は冴えなかった。海流も読みにくくて困る。キッチンで熱いお茶を抱えて呟いていた。
「いやな感じ。」

音もなく一艘の大型船が近付いてきていきなり鬨の声があがり、男が大勢乗り込んできた。
挨拶も遠慮もあったものではない。
「敵か?」
甲板で昼寝中のゾロは起きる前から殺気に反応し、刀を構え、はらった。ルフィも飛んで出る。
「敵襲か〜〜!!」
「嬉しそうな声をあげんじゃねぇよ!!」
たまたま甲板に居たサンジも嬉々として蹴りまわる。ウソップはマストの上に逃げ込んでからパチンコを構え次々狙い当てていく。
ナミはちらりと外を覗いた。
「アレなら放っておいて問題ないでしょ。」
軽くウィンクをして一緒にいたビビに声を掛けた。
「でも……。」
なまじ腕に自信のあるビビは心配そうに覗いたと思うと振り向き
「やっぱり心配です!」
と駆け出していった。
「あっっっ!ビビ!・・・・せめて気晴らしになるくらいなら良いんだけど。」

ビビがドアから出て下の甲板を覗いた。
「サンジさん!」
少し離れたところから男がボウガンでサンジを狙っていた。名前を呼ぶことが精一杯で男に向かって走り出すと、男もビビの声に反応して標的を変えた。切っ先がビビに向けられる。

矢は放たれた。
「!」
長く伸びた腕がしなるより早く鉛星が矢に命中して軌道がそれる。足下に刺さった矢の太さは通常のそれより太く、サンジに刺さっていたならと思うとぞっとした。

「ビビちゃんを傷つけようとしたな……。」
腹の底から絞り出すような声だった。凍りそうな右瞳は固まったまま矢を放った男にだけ向けられた。一呼吸の待ちもなく間合いを詰め男の脳天に蹴りを振り下ろす。岩をも砕くサンジの容赦ない蹴りを喰らい、避ける隙どころか体がすくんで動かないその男は言葉を発することもなく……死んだ。

頭蓋骨がめり込み、眼球が片方潰れて眼窩からはみ出しているのが見て取れた。その光景に戦慄が走る。例えどんな相手でも動けなくするだけで生かしていたコックがその自戒も忘れ、力のままに鉄槌を降ろしたのだ。
慌ててビビは駆け下りてきた。サンジは黙ってビビの目を覗き込む。痛いくらいに掴んだサンジの両腕が震えている。いつもの饒舌さは何処へやら『怪我は?』と言う一言すら怖くて発声できないようだ。

「私は大丈夫・・ありがとう。」
その声を聞いて上から下まで眺めて、サンジはほっと一息ついた。
「礼には及ばないよ。俺はビビちゃんの騎士だから、当たり前のことだ。君を傷つける奴は絶対に許さない。俺のために傷つくなんて事はもう二度と…。」
はっとした顔をした。
「喋りすぎたな。ナミさんと約束したのに。」
くるりと後ろ姿をみせて、階下に隠れるよう指示した。後ろ姿が遠くに感じられつい今の状況も忘れて呼び止める。でも解らない。一体私は何と言うのだろう?

「…サンジさんはルフィさんのものなの?」
サンジが背中を向けたまま一瞬動きを止める。上からまた敵が襲ってきて、答えは貰えなかった。


予想外の化け物相手で形勢不利と見て取ったらしい敵の姿は波が退くように消えていた。動けないものも仲間に連れていかれたり海中に逃れるものが殆どの中で、さっきの死体は異様な光景を見せていた。

「えらくあっけなかったよな。」
戦いの緊張感も解けて船には余韻の興奮が残っている。確かにこの船のクルーは化け物だらけだが、ウソップでさえそう言うほど襲ってきたときの勢いから言えば拍子抜けしてしまった。

誰もが嫌がるであろう後始末はサンジとゾロが一応手を合わせ布でくるんで海中に投げ入れた。よくある水葬だが扱いとしては丁寧になされた。サンジは一人でやると言ったが、ゾロが俺の方が慣れている、と譲らなかった。

「私のせい…ですよね。」
ビビは遺体を投げ込んだ二人の側に立ち、祈りの形に手を合わせる。
何事もなかったような水面から目を離し、ゾロはちらりとビビを見たが何も言わなかった。もう一度海に目をやり黙祷のように頭を垂れてから一人去っていく。

残ったサンジはビビの右側に立ち、煙草に火を点けた。髪で隠れて表情が見えない。
「違うよ。俺が我慢しなかっただけだから…。ビビちゃんがそんな顔することないんだ。」
いつもと同じ優しい声。優しい風が吹き抜けていく。風が髪に絡んで、解けていく。
「さっきの話だけどさ…。君が何を選んでも、俺はビビちゃんのモノで、味方だから。俺は君を守る。過去なんか忘れて君はその心のままに進んで選んでいけばいいからね。」
「過去……?」
「……一時でも俺を選んでくれて俺は本当に嬉しかったから。」
「……じゃあ、ルフィさんは?」
「…泣く子と馬鹿には勝てないだろ?」
くしゃくしゃな笑顔はとっても力が無くて、私でも征服できそうに思えた。
このままルフィとこの男を二人とも欲してもかまわないのではないだろうか。
ルフィはそうとも言っていた。     影が心の底で揺らめく。





どがっっっっ

船の底から音が響いた。
「しまった!!」
甲板に走り出たナミの声が響いた。
「ここいら岩礁なんだわ。この潮の引いた時間じゃ海上に顔を出して来る!まんまと追い込まれちゃった!」
さっきの敵の目的は、土地勘のない彼らをここに追い込むものだったのだ。足を止められた船は普通為すすべもなく奪われてしまう。
「こんな簡単な罠にかかったなんて…。」
ナミが臍をかむ。このままではもうすぐ本当の敵が急襲をかけてくるだろう。
「すぐに塞いでくる!」
ウソップと、チョッパーが船底に走り出す。ビビもカルーに声を掛け、他に穴が空いていないか確認に走る。ナミは航路の確認する。海中を覗き、方向を定め舵を取る。男三人は殺気を隠すことなく三方の見張りに立った。

「来たぞ。」
口元に野蛮な笑みを浮かべた静かなルフィの声は船首から皆の耳に届いた。
まんまと術中にはまった獲物に近付く敵船の舌なめずりする音が聞こえるようだった。

「さっきの手応えよりはましか……」
ゾロの溜めた笑いが聞いてとれる。船内には緊張感よりは期待感の方が高い。幾ら罠にかけようとも、幾ら土地勘がなくても所詮この船の敵ではない。手応えの無い敵をあしらう余裕で皆やりたい放題だ。日頃穏やかな雰囲気のこの船のクルーも人種的に海賊の集まりの船であることは否めない。叫声をあげながら乗り込んできた二艘の巨大な船体に、嬉しそうに敵を飛ばすルフィも斬るゾロも蹴り飛ばしているサンジも己の本能に従い男達をなぎ倒している。
もやもやした船の雰囲気とさっきの敵の中途半端さもあって欲求不満解消にもってこいのようだ。 
ビビもなまじ自分の腕には自信があり、そこいらの男程度なら素手で殴り倒していく。


己達の優位を疑わなかった敵の中に怯えと恐怖が伝わるのに幾ばくもかからなかった。
怯えた者達は次に使い古された卑怯な手法をとる。
いくら拳で仲間を屠っていくとは言え、見た目は華奢でくみやすしと見たビビに大勢で襲いかかろうと飛びかかってくる。気付いたルフィとサンジが駆け寄る。
途中足を止め、「ゴ〜ムゴムの〜〜ガトリング!」と遠方から拳の連発が繰り出される。ビビの所にまで届く風圧で繰り出されたその威力に、近寄ろうと駆け寄った敵は根こそぎなぎ倒されていく。船外に落ちる物、マストにぶつかるもの。
大半の男が持っている肉厚な剣は幅も厚みもあり斬ると言うよりも人を殴りつけるための重厚なもので、それをかわしながらビビは最寄りの3人は小指の武器と拳でかわした。
どがっ。
後ろから鈍い音がして、サンジの脚と船の壁に意識のない男がはさまれていた。
「まだいけるな。」一息ついた横で、ニヤとルフィが笑っていた。男二人に微笑み返すと船の後方であがった喚声に意識がとられ、二人でそちらを見る。不審な音に気付きサンジが見たのは違う光景だった。

恐怖心に駆られたものは時に予想も付かない行為をとる。
狂乱した男が一人マストに斬りつけていた。普通の人間が多少の斧を使ったところで折れるはずがないもの。しかし男の目は既に現実から逃避し、常軌を失った後の行為だった。
振り上げた剣はマストではなく一番下に結ばれていた船内でも最も太いロープに食い込み斧の役割をした。後ろの三角帆とつながったそれは強い張力がかかっていて、太いロープの一部だけでも斬られたが最後、残りも徐々にちぎれていく。
あっという間に完全に切れた。
いきなりロープが飛び跳ねる。マストにまいてあった部分が、うねる蛇となってルフィ達に襲いかかった。
「ルフィ!!ビビちゃ…!!」
声に振り向いたルフィはビビの腕を掴んだ。
サンジは飛びついて二人を庇い、重なって床に伏せた。身体で押さえ込んでそのまま低い高さでうねるロープをやり過ごすはずだった。

「ぐはっっ!!」
うねったロープの先端の動きまでは読めない。張力の強さも手伝って先端は太くて鋭利な刃物と化した。先端は甲板に一度叩きつけられてもそのまま勢いを殺さずサンジの右手から身体を巻き込みサンジごと跳ね飛ばす。
二人を巻き込むまいとした意識が一瞬の間隙でビビをルフィの方に押しやっていた。

「サンジーーーーーーー!!!」
「サンジさん!」
「……!」
そのまま海中に放り投げられる。直接海に落ちれば良かったものを、接近していた大型船の船体に背中から激しくぶつけられる。声にならない呻きと力を失う身体。
身体から放物線を描いて飛んでいく鮮血。
彼がコックの命だと言って何より大切にしていた右手からのものだと気がついて、ビビは脚が震えていた。


「〜〜〜・・!!!」
端に駆け寄り手すりを壊れんばかりに握りしめ、歯を食いしばって見ているルフィの背中から全身が細かく痙攣している。憤怒の相が背中から痛いくらいにわかる。
「サァンジィ〜〜〜!!!!」
叫んで船縁を飛び越えようとするルフィをビビが慌てて全力で引き留めた。
「駄目! それくらいなら私が行く!」

「あの量じゃ動脈が切れてるかもしれない!オレが行く!」遠くでトナカイが叫んだ。
「馬鹿言え!お前も同じだろうが!俺に任せろ!」
それを聞いたウソップが慌てて馴鹿を制し、走り寄って最短の距離で飛び込んだ。
あの様子ではそのまま海中に没したら出血多量は免れなくなる。
巨大化した体型で、走り出したチョッパーも悔しげに海を睨んでは蹄に力を込める。
そのまま怒りにまかせてマストの側で船内の一変した空気にすくんだ敵の眉間に桜(ロゼオ)の刻印を押しそうになり、最期の一瞬で寸止めして、鳩尾に一発ぶち込みそのまま船外に放り出した。

歯ぎしりするルフィは青筋を立てて敵船を睨んだ。
「うおおおおーーーーーーーー!!!!」
伸びた両腕が敵を根こそぎなぎ倒す。
近くのものも。遠方のものも。
全く容赦はしない。
「許さねぇ!!」



船の操縦を握り脱出しようとしていたナミは落ちていくサンジを見た。
「サンジ君!」
船の後方に一時にまとまり乗り込んで襲ってきた連中を一人で相手にしていたゾロはその声に反応して、海中に目をやる。
ウソップがぐったりしたサンジを右手で掴み脇から抱えて泳いでいる。その必死な表情は事態を物語っていた。
「遊んでるわけに行かなくなった。お引き取り願うぜ。」
黒い手ぬぐいを頭に縛り、三本目の刀をくわえた。


船の上から投げ飛ばされただけでもその衝撃は計り知れないのに。
以前ドラムで怪我をした背骨…。あれはきちんと治したとドクトリーヌ先生はおっしゃった。けど、トニー君に言わせると「酷使しすぎだ、疲労が溜まればそのうち使いものにならなくなるぞ。」そう聞いてサンジさんに言ったのに、取り合ってくれなかった。
今もこんな……。

ギリリっっと心の中で音がした。

駄目。貴方はルフィさんのものじゃない。
私のものでしょう。


ロープを投げ込んでウソップが引き上げられた。
サンジの意識はあるらしい。
「だって…俺決めちゃったから。……何…があっても…を守るって。」
こんな時にも自分勝手にナイト気取りで、自分が傷つけば全て守れるなんて思い上がりよ。
最後に私の元に返ってこないなら、騎士なんて名乗らないで!
「勝手に…!…こんな…」
無意識に咬んでいる下唇から血が滴り落ち、錆びた味が混ざってきていることにもビビは気がつかない。
「一人で勝手に決めて…勝手なことをするなんて。絶対に許してなんかあげない!泣いてもあげないし…勝手に死んだら絶対に承知しないんだから!!貴方は私のものだっていったその口で嘘をつくの?!私のものなんだから!絶対に勝手なことを・・・しないでちょうだい!!」










第二章                                   第四章   














































「闇の月」