プロポーズを召し上がれ
サン・・ナミ?
「年を取ってサンジ君と暮らしてる夢を見たわ。船を下りてて、海の見える崖の上に小さな白い家。そのテーブルにもやっぱり食後にはこんな風に紅茶を入れて貰って。」
外は冬島が近いらしい。外では作業中。
キッチンの後かたづけも終わってナミさんだけがキッチンで新聞を広げてる。目の前に俺が煎れたばかりの彼女の好みの紅茶が香りと湯気をゆっくり広げている。二人っきりの至福の空間と時間にそんな爆弾発言。
「優しい旦那さんで良いですねって通りすがりの人に言われてあたしはにっこり微笑むの。」
紅茶のカップをゆっくりすすり、まだ夢の世界にいるかのように君は遠い目をしてる。
唐突すぎるけど、それって期待してイインですか?遠回しのお誘いかと期待に胸が8割股間が2割脹らむ。
「ナミさん・・・・!それって予知夢じゃない?ナミさんなら素敵になるんだろうなぁ。俺いつまでも美味しいお茶を入れて差し上げるよ。」
外の寒さも何のその、ここには一面花が咲いていた。サンジの伸びた鼻の下にも。
「違うのにねーってサンジくんと言ってる所にあたしの子供が帰ってくるの。」
「子供???」
「ええ。あたしの息子。」
予想外のナミさんの答えに俺はごくっとつばを呑んだ。美味しい話じゃねぇのか?俺とナミさんの未来予想図じゃないのか??いや?俺の息子?え?違うって?
いきなり寒風が吹きこんで花を吹き飛ばした。
「おいエロコック!さみぃ!なんかあったけぇもんよこせ。」
本当にドアが開いた。
話の一番の核心で何で邪魔が入りやがる。しかもこいつだし・・・。間が良いんだか悪いんだか。
「おい!毬藻!!俺とナミさんの親密な語らいを邪魔するんじゃねぇ!!」
「ああ?俺は働いてんだぞ!外は寒い!早い所なんか出せ!」
「ゾロ?雪かきはちゃんと出来たの?」
「ああ、大方海に放り込んだ。後はルフィとウソップとチョッパーの奴が好きに遊んでる。」
「じゃ、次は蜜柑の木に覆いを掛けてきてよね。」
「おいナミ、人使いが荒ぇぞ。少しくらい休ませろ!外はマヂで寒いんだぞ。」
「蜜柑はもっと寒いのに弱いのよ。あんたと一緒にしないで。」
毬藻のにらみは天女には効くはずがねぇ。
「ああ、ナミさんの仰せに従っとけ、その間になんか出してやるから。」
「ですって。」
ぶつくさ言いながらも毬藻は手袋を締め直して外に向かった。
ドアがばたんと閉まってナミさんはくすくす笑い始めた。
「そう。あたしだけの息子。台詞までそっくり一緒だったわ。」
外を見るナミさんの三番目くらいに綺麗な横顔。
その父親って・・。
「それからルフィもその後ろを走ってくるの。」
「え?ルフィまで一緒かい?」
「うん、だってさ。ルフィがサンジ君手放すわけ無いのよねぇ。死んでも飯を作れって言いそうじゃない。」
・・・俺もそう思う。
「とにかくサンジ君、あたしにもずっと美味しいご飯作ってよね。」
ああナミさん。
涙が頬を滝のように流れるよ。
けどこれってナミさんからのプロポーズだよな。言葉以上の意味はないのが泣けるけど。
判ってる。ナミさんはあいつがいる限り決して船を下りる事はないだろう。あいつのために航海術を駆使してあいつを導くだろう。
俺はずっとその横で君のために紅茶を入れよう。君が望むまま。ずっと。ずっと。
けどよ。その夢に本人が出てこない癖にクソ煩ェ毬藻だ、腹の立つ。
しゃくだから寒がるあいつにはしこたま唐辛子を仕込んだ生姜湯でも。
>> DATE :: 2005/05/16 Mon