『煙の行方ビビ編8』
がっっっっっしゃん!!! 「「「え”??」」」 いきなりまだ無事だった部屋を飾るもう一つの目立って大きな花瓶に大きな穴が開いている。空の花瓶からは茶煙がもうもう上がっていた。 「ルフィの馬鹿。また壊して・・・・」 「ありゃ?」 顔を覆うナミのいらえを横に気の抜けた返答がルフィの口から漏れた。 「それは・・・!時価一億すると言われるカシュールのツボ!」 海兵の一人が思わず大声を上げた。どうやら彼が管理を負かされていたのだろうその表情も真っ青になっている。一億とはまた豪快な話だ。 「貴・・貴様・・・・!」 今まで気迫が行き渡りゆっくりと巡り紅潮しかけたフェルトの顔が真っ青になり、そして今度は朱に染まった。 「りゃ?割っちまったな。えっとごめんなさい。悪ぃ悪ぃ。」 「・・・・・先ほどのチェンの皿と言いキトンの壺と言い・・!貴様が誰でもこれを許すわけには!!」 フェルトが真っ赤になっていきりたった。 「嘘。」 その横でナミが叫んだ。 「億?そんなはず無いわよ。これならせいぜい10万ベリーが良いとこよ。」 「なんだと!小娘が嘘を言うな!」 ナミはむくれて足をのばし踏まないようにそのツボだったものの破片を取り上げて示した。 「ほら、このカシュールの白もどきは表面だけで中は茶。これは酷いな。焼きの締めも甘くて素焼きっぽいし。音も変。」 ナミは破片を指で弾いたが、鈍い音が引っかかるだけだった。 「良い磁器は破片でも澄んだ音がする・・・これは家庭用のものと変わりがない。絵柄こそは古代柄だけど出来は最近の、しかも思い切り偽モノよ。こっちも。それからさっきの皿も。カシュールもキトンもサウスの焼き物よね。一度だけ手に取ったことあるけどこんな安物ではないと思うわ。」 ナミはいくつかの破片を注意深く拾い目の前にかざした。次々拾った破片は予想と違わぬらしい後ろに投げ捨てている。その堂々たる物の言いに少し気圧されたフェルトはそれらをナミの手から奪ったが彼には見分けはつかない。ただ・・ナミの指摘と同じものは見える。締めの甘い焼き物の中に重金属がはめ込まれその重量を造っている。 「う・・そんな嘘を付いて仲間をかばう気か?!」 「失礼ね。あたしの目は確かよ!」 「ナミは泥棒な海賊だからな!」 しししと笑ったルフィが解説を付け加える。 「いらん事言うな!けど、この部屋のモノ全部・・・じゃないな一つ以外はみんな偽物よ。」 「一つ?」 「そう、それだけ。」 ナミが指さしたのはフェルトの足・・の先の派手に光る机の上から落ちたそぐわぬ古ぼけた小箱があった。先ほどこぼれた中の使い込まれた万年筆が入っているだけの箱。二十年前、今は亡き妻が贈ってくれたものでずっと大切に手入れして使ってきた。 それだけが昔からの宝だった。後はモンキー・D ・ルフィーの仲間と称する男によって揃えられた物ばかり。。 「元々の物の良さもさることながら手入れの見事さは一品の名を与えられてしかるべきよ。」 はっきりと言い切られてそれを覆すような文句が立ちすくんだフェルトには浮かばない。 「では・・・これもこれも皆・・・・偽物なのか??」 これもこれもこれもと壁の絵、人形、タペストリー、机の上の皿を指し示し、並べる。 縋るような問いにナミはやりにくそうに首を縦に振った。 「多分。」 フェルトは手元にあった絵皿を見つめた。 「これも・・・・」 「うん20000ベリーくらいじゃないかな。」 相手の気配の変化に波は気の毒そうに続けた。フェルトはもはやぐうの音も出なかった。 敵のの逡巡の隙をナミは見逃さなかった。 原因はどうでも。これを見過ごすようなら泥棒の前歴が泣く。 「ルフィ!」 「おおっっ???」 ルフィの首根っこを掴んで後ろのドアにルフィをぶち込んで自分も一緒に飛び込む。逃げ足は考えていたが、近い方の入り口が無人で良かった。全く無防備な背中をナミに襲われたルフィは廊下の床に頭をしたたか打ち付け、起きあがって文句を言った。 「ナミ!何すんだ!」 「こんな所用はないでしょ!知らないおじさんに構ってないで逃げるわよ!!大体それが目的じゃないでしょ!!」 「けど!決闘だぞ!」 「けどもクソもない!あんたいくらサンジ君が付いててもビビを放っといても大丈夫だとでも思ってんの?」 ルフィはコキッコキッと首をひねった。柔らかい風が耳元で囁く。 『ナミさんつれて早く戻ってきてね。』 ルフィは窓の外の空を見た。同じ水色。風の柔らかさはその甘さを伝える。 「ああそっか。早く帰らねぇとな。けど俺、逃げるの嫌だぞ。」 「うるっさい!今回ばかりはあたしは退かないわよ!こんなところでまた捕まってたまるもんですか!」 ナミの迫力は戦闘意欲満々だったルフィをも圧倒した。 「あたしはまだやってないことがあるの!もうあのおっさんに用はないのよ!」 こうなったナミに誰もかなうはずはない。 二人そのまま駆けだして廊下から下る階段を探して左に駆けていった。ルフィが走る先を追いかけるナミが事実に気づいたのは行き止まりに会ってからだ。 どう上がってきたのか覚えていないルフィは帰り道には全く役に立たない。走り込んだその廊下からたどり着けたのは上り階段に繋がる塔の最上階。上がった先にあった外をうかがう大きな窓はバルコニーになって向かいにある塔の最上階だけが見える。海に向かったその塔は素朴な作りで全周性のバルコニーがあった。基地の秘密性よりは外に向かって開いたオープンな作りといえる。 今度は視線を移して窓の下をのぞいたナミはくらくらして思わず一歩引いた。高いところが苦手というほどではないが・・はっきり言って気が遠くなりそうな高さだ。 「すんげ〜〜よっく見えるなぁ!」 「上ってこれたんなら降りる道くらい覚えといてよ!少なくとも道が分かんないならそう言いなさいよ!!」 ルフィの脳天にこぶが三つばかり増えた。 この塔にはもう他に将校の部屋の気配はなかった。ということはこの乱立する塔のいずれかを見いだして下に降りてからそちらを探らなくてはいけない。外形からは判断しにくい塔を睨みながらナミは唸っていた。 「何を探してんだ?けど早く帰ろうぜ。俺、ビビにお前つれてすぐ帰るって約束したんだ。サンジも飯並べて待ってるって言ってた。」 ナミの鉄拳が一発落ちた。こういうナミは止められない。ナミに限らずこの船のクルーは己の信念に掛けてはこの上なく頑固だ。それを守る為には命もプライドも賭ける。それが彼の船団だ。それが彼には嬉しい。 だから。 その心はナミにそのまま伝わる。 「簡単に言うわ。今あたしは『海兵のおばさん』を捜してるの。それが終わったらこんな所に用はないわ。とっとと帰るわよ。」 「ほぉーー。」 うんうんとしっかり頷いてルフィは笑った。 「まいっか。どうせどっかにいるゾロも探さないとなんねぇからな。どっかで会えるだろ。」 「ゾロが??何でよりによって賞金首の迷子を連れてくるのよ!あああ・・面倒だからあんたアイツを持って帰って、いやそれってもっと事態が不味くなりそう・・・・・」 しゃがみ込んで脳内で逡巡するナミはその時急に目の端に気になる影を捕まえた。 隣の塔の最上階の一つ下。その窓に見えたのは緑頭と・・・白髪の軍服・・! ゾロと女が見えたその窓が外向きに開いた。中佐が両手で窓の向こうでにやりと笑うと、ナミの方を指さした。ゾロに何事か声を掛けているのが見える。大きな窓は壁の上から下まで。窓と言うよりも開けっ放しのような作りだ。その脇に外に向かって小さいバルコニーの様な広さがある。 ナミは叫んだ。 「ゾロ!!ぼさっとしてないで!その女逃がすんじゃないわよ!!」 その声が聞こえたのかゾロが振り向いた。 「ああ?!?!?ナミィ?」 その返事も待たずにいきなりナミはルフィを窓から突き落とした。 「ルフィ!手伝ってちょうだい!!」 「おろ?」 首をかしげながらも言われたままに落ちていくルフィにナミは声を掛ける。 「ルフィ!下で風船になって待ってて!!」 「ああ?・・!・・判ったぞ!!『ゴ〜ムゴムの〜〜風船!』」 ルフィは嬉しそうに吸える限りの空気を吸って膨らみ地面にぶつかり一度跳ねて落ち着くとそこでもう一度身を固くした。声を出すと空気が漏れるから目で手で『来い!』と合図する。 それを見たナミは会心の笑みと握り拳をヨシッと固めて今度は向かいの塔を見て声を掛ける。 「ゾロ!どいて!!」 「ああ?!?!?!?!?」 返事を待たずにナミもルフィめがけて飛び降りた。ぼよんとした感触に押し上げられるタイミングを外さすに思い切り体を縮めて飛び上がった。そのまま膝を抱えて空中に放り出される。狙いはほぼ過たずにナミの体は宙を軽く舞い、ゾロの居る窓に近づいていった。 白いワンピース姿のナミは軽やかな鳥のように宙を真っ直ぐ駆け抜けた。 だが・・・・ほんのあと腕一つ分届かない。 「!」 「!」 ナミの手が体が虚空を切りそのまま放物線を落下に向かって下降を始めるかと思われたその時、太い腕が伸びてきてその腕をしっかり捕まえた。 一旦その腕は体ごとたわみ堪えた後に、そのまま持ち上げようとする反動を付けて宙を一閃、ナミは軽くバルコニーに飛び込んだ。 ため息をつく間もなく気がゆるんだ怒声が飛んできた。 「下手くそ。目測を間違えたろ。」 「馬鹿ね、あんたがそこにいる事くらい計算のうちよ!」 ゾロの横に着地して揶揄する声には感謝より先にとりあえずの負け惜しみを返す。そうしながらも視線は奥の中佐を逃さない。 「見つけたわ!観念なさい!!」 「素敵な曲芸ね。」 中佐はサングラスをかけ直すと唇に笑みを残してゆっくりと手袋のまま拍手を始めた。 「ナミ、さぁいらっしゃい、こちらに貴方が海賊の仲間を裏切った証の報酬を用意しておいたわよ。欲しかったんでしょう?この書類が。そのために裏切ったのよね、大切な仲間を。」 |
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Photo by Sirius