約束2




何も言わずにじっと見ていたゾロは横に置いた刀に手を伸ばした。
白柄の一振りを掴んで、黙って抜く。
白刃に煌めく月光がその刀の波紋を浮かび上がらせる。

太刀を抜く静かな音にナミは面を上げてじっと目を奪われた。
刀の価値はよく解らないけれど、宝としてみればかなりな物と評価できる。
あくまで清冽な印象の刃紋に、その上に乗っているという約束がまざまざと浮かんでくる。
自分で見たわけではない。しかしゾロを一番縛り、ゾロを形作る根幹を形成する。

『約束』。


「綺麗な刃ね。最初っからあんたが持ってたものよね。」
「ガキん時からの付き合いだ。約束付で譲り受けた。それに他の二本はあんとき折られちまったからな。」
月明かりを受けて益々刃の静かな印象が滴る。
「ずっとあんたに付いていくのね。その誓いが果たされるまで。ううん。剣士としてのあんたにずっと寄り添う・・。何よりも大切な人との約束の証ね。」


「何とんがって絡んでんだ?」
滑らせて刀を鞘に戻していく。ぱちん、という音がして、ゾロがナミの方に身を乗り出す。


「約束ってのはコイツがもし折れたりして俺の手から離れてもそれ自体が命を持って生きてるモンだ。
確かにこの刀でくいなとルフィに約束した。けどそれは刀自身の意味じゃねぇ。あくまで約束がそれ自身で全部だ。
大体約束って言うなら・・。」

いきなりゾロが立ち上がりざっと上半身の自分のシャツを脱ぎはじめた。頭を出して両腕を外し、脱いだシャツは足下のナミの膝に投げられる。
月明かりの中で陰影にくっきりと浮かぶ筋肉の印象よりももっとはっきりと見える胸の傷と、まだ暖かい膝上のシャツからゾロの匂いが身体に絡んでくる。
「なにっっ・・いきなり・・。」
「この傷だが……。」

いつも見ている傷跡。
これがなかった頃もこの胸を知っている。小さな傷はいくつも見えたけれど、手に残る感触はもっと滑らかだった。
それはまだ信じたかったのに誰も信じることが出来ずにいた頃の事。そのくせ魚人との約束だけは信じてすがっていた。
そして、この傷から血が流れるのを凍り付きそうになりながら見た。

「全治二年って脅されたか・・。どのみち傷跡は一生残るよな。」
くくくと軽く笑いながら言うその由来がまた身体を凍らせる。手が少し震えながら傷に向かって伸びたが届かずナミは腰を浮かせた。
ゾロは軽く口元だけ微笑んでその右手を掴み、そのまま引きよせ、立たせたと思うと身体ごと後ろ向きに抱え込んだ。
「きゃ・・。」

 

薄い服の上からでもいいからナミを感じたいとこの傷が言う。ナミの匂いを感じたいと鼻孔が言う。一瞬で赤く染まる耳朶に噛みつきたくて唇と舌と歯が耳に近付いていく。

「コイツがお前への約束を知ってる。あんとき俺が勝手に誓った約束を。そして俺が死ぬときまで俺に付いてきて、死んだら俺と一緒に消える。」
耳元で告げられた声にぞくりと来るのに、言葉は謎だらけだ。
「あたしと?・・ビビとの約束のこと?・・?」
「違う。」
「じゃあ」
抱えた俺の腕に絡んでくるナミの柔らかい両腕は暖かく、絡んでくる言葉よりも熱を持っている。
「るせぇ。俺だけが判ってりゃいいんだよ。」




魔女が・・始めて見せたぼろぼろの涙とぐしゃぐしゃに崩れた顔で、言った「助けて」の一言。
お前はルフィに言ったつもりでしかなくても、俺達4人に確実に染み込んだんだ。
その為に傷はもう一度開いたとしても、全治期間が伸びたとしても。それは死に近いことを意味するはずでも。
不思議と体は軽く全く負ける気がしなかった。鷹の目との誓いのおかげだけじゃないことだけは判っていた。
自分以外の物・・いやコイツを守ることは世界一への一番近い道だったんだ。


抱えたナミの身体から妙な力が抜けて、柔らかくおとなしい生き物になっていく。

「約束が欲しいのか?約束の物が欲しいのか?受け取れよ。全部ここにある。」
そのまま抱え込む手に力を込め、その柔らかさもとがった姿も自分の胸の傷が受ける。
今度会ったときには世界一だと鷹の目に誓った。俺にはそれと同じくらいに大事で、それよりもずっと先まで続いていく約束がここにある。


ナミは動かなくなった。
腕の中が急に重くなる。

腕の中の寝顔は静かで、微動だにしない。
ビビが寝ている部屋に持って行くわけにも行かず、甲板に放り出すのもはばかられてしばし迷い抱いたまま姿勢を変えてそこで座り直した。




「何を色々拘ってんのかって思えば・・。」
ビビの辛さを自分の昔と重ねてんのか、病み上がりの身体で何処までも無理していやがるんだろう。
やめろと言って聞く奴でもなければ、止められる状況でもねぇ。
航海中はコイツに頼るしかねぇから。


だから助ける。お前を助ける。
この胸の約束に誓って。







某茶で「次にはこんなリクで描いて〜」と言った『ゾロナミで後ろから』に
まさか自分がカウンターリクを喰らうとは思っていませんでした。(墓穴堀)
でも楽しかったです。ありがとうあおっち!!
そしてイラストをGET!しかも3枚も!!!嬉しすぎて全部貼ったら・・重すぎ??
開けなくってごめんなさい。



   BACK            NEXT