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約束 |
甲板に出てきっと睨んだ闇夜の海の上。月明かりだけを頼りに進路を臨む。足下に連れてきたランプを置いてみた。甲板にゆるい影が出来る。今夜はまだ航路のズレはない。風も順調に吹いてくれている。チョッパーを得てからの船足はまずまずの状態といって申し分ない。 それならば最大速度で皆を確実に連れていくのは私の役目。 漫然とした緊張がナミを包んでいる。 食料は尽きてしまって、飢える羽目になるのはとんでもない船長以下クルーを抱えているからだ。もとよりこの辺りの理性が期待できる相手ではないのだから、ここはまあ仕方ない。それよりも夜間の航海などは普通の海でも危ない物を、このグランドラインで最高速度で臨む。その為にこまめな航路のチェックと海の確認が必要になる。 幸い、地図の解らない者達が辿り着いた島は目闇当たりだった割には元の航路とさほど離れておらず、巨大な桜に送られながら出発間際に地図の確認くらいは出来たことがずいぶん助かった。それを元に風を読み、舵を直す。エターナルポースがあって本当によかった。 『必ず送り届ける』と誓った約束。場の流れは悪いかも知れないけど、持ち札は最高だと信じられるこのゲーム。負けは許せない。 でも グランドラインのしかも始めての航路相手ではでは自分の持ちうる航海士の能力最大限を常に利用しなくては切り抜けられない。なんとなくイライラしているのは病み上がりのせい?病んでしまった事への自己反省のせいなのだろうか。 これ以上彼女に負担はかけられない。彼女はもう充分希望と絶望の淵を綱渡りをしているのだから。ましてやこの先に待っているのは彼女の戦いなのだから・・。 いまは己が出来ることと、やらなくては成らないことをするだけのこと。ただそれだけのこと。そう・・それだけの・・。 夜の甲板で、しゅっと音が聞こえて、踏み込みの足音が微かに響いた。 闇を透かせば甲板に剣を振る男の影があった。 最近は主に夜の見張りはゾロやっていた。放っておいても昼でも眠られるその神経の太さと所詮昼には使い物にならないこと、いざというときには一人でも敵への対処や、舵の操作が出来る体力と判断力があること。もちろんこれは単独では絶対不可能で、定期的に起きては航路を指示するナミの指示の下での話だ。 ナミ一人に負担させない!とサンジはやる気満々だったがどうしても昼の仕事があるためにルフィがブーイングを出した。当然そのルフィでは、幾ら本気であっても恐くて任せられないとナミが申し渡した。細かくは男達が段取りを決めていたが、自然と適任者にお鉢が廻る形になっていた。 ずっと続けているのかゾロの額に汗が浮かんでいる。静かで踊るような所作の練習。型なのだと本人は言っていたが、素人目にも年季の入った無駄のない動作にいつも目を奪われる。 足が止まり、ふうと一息つくとこちらを見た。 「問題ねぇか?」 「ん。いまは大丈夫。」 ゾロが汗を拭い、壁を背に座り込んだので、ナミは黙ってその横に腰を下ろした。帆に力を与えるやや強めの風は後ろの壁に遮断され、二人には柔らかく届いた。ゾロはその風で火照った身体を鎮めているのだろう。両目を閉じて面を上げて、じっとしている。ナミは膝を抱えた。 |
「間に合うのかしら。」 しばしの沈黙の後、ナミが独り言のように呟いた。 「ああ?間にあわすんだろ?その為にお前が嫌がる夜までこうして見張り立てて船進めてるんじゃねぇか。」 「なによ・・イヤなの?」 「誰が、んなこと言ってる?お前こそまだ本調子でもない癖に昼もそれ見てるだろ。とっとと下へ行け。寝られるときに寝ろ。」 いつもなら見つける正論に隠れたゾロの優しさが今夜は見つけづらい。 「今はなんだか眠れないのよ。良いじゃない此処にいたって。」 「てめぇがまた倒れて見ろ。幾ら医者が居たって洒落になんねぇだろうが。」 「……絶対にビビを連れていく。 約束したもんね。」 同意を求めるように顔を見つめた。約束・・という言葉にこの男が信義を置いている事は皆も承知のこと。そこを楯にすれば幾らでも使えるくらいの・・馬鹿。 「……約束したのはお前とルフィだ。俺はお前に弱み握られて働かされてんだろ。」 やや横睨みの視線で魔女を見返す。 「その割には予想以上に働いてくれるじゃない。……個人的にビビが気に入ったのかしら。」 言ってみて馬鹿な台詞に少し阿呆らしくなった。今夜は何でこんな言葉が口から滑っていくのか。気持ちの底に澱の様な物が浮かんでいる。いつもなら気が付かない程度の物が何故こんなに気になるのか。 ゾロは気付かないのか前を向いたまま、とがめもしない。 「ショットガンのおっさんとの約束はあいつを国まで連れていく事で、お前がそこまで請け負ったんだろ?」 「え、…ええ。」 「じゃあ其処までがこの間の約束だ。」 「・・約束・・は守るんだ。」 「ったりめぇだ。」 ゾロは変わらない。その澱みの無さが今はなんだか辛い。 「借金だって帳消しにしてあげても良いって言ったけど、するって言ってないわよ。」 「ああ??」 ゾロの瞳が私をじっと見つめてる。 怒ってる?何でこんな無意味に絡んでしまうのか。下を向いて唇を噛んでしまいそうになる。 こんな自分で泣くなんて絶対にイヤ。 |
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「後ろから・・でゾロナミ」 |