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空と海の狭間で-21



外はナミの予想に違わす強い雨の様相を示し始めた。
窓を打ち付ける風が唸り続ける中サニー号は懸命に進む。
操舵室でも船は少しずつ揺れ始める。
小さな波も大きな波も飲み込んで最新開発のバランサーが持ちこたえてはいるので皆の体感はあまり変わっていない。
「バランサーってフランキーがもっの凄く自慢してたけどよぉ、これって揺れてない方なんだよな?」

そう言えば車に乗ってるみたいに安定してる。来るときのメリーの方が船も大きいし、天気も良かったのにこれよりも揺れてる感じがした。だがこの船にはそれも少ない。前には船酔いしたビビも今は知らん顔だ。

「なんか暇だなーー」
「暇な方が良いんだぞ。船に任せときゃいいんだからな」
「けどさーーこうこいつをまわして「面舵一杯ーー!」とかやってみてぇじゃん」
「触るな!」
ルフィが操舵輪を回したので慌ててサンジは戻した。
これは本物だから回せば船は回る。
回ったところでサニーの方が衛星との位置確認をして修正してくれる、はずだ。

「迷子なんて、俺は嫌だぞ」
ゾロじゃあるまいし。
「お前危ないから下に降りとけ」
「ちぇーー」







ざぁーーーーっと窓に雨が響いた。
雨はますます勢いを増し、肉眼では外を見るのも困難になってきた。
その間にどんと響く音と同時に稲妻が走る。何度も何度も海の上をうねる蛇のように光の矢が走ってる。

「うわっ!」
「雷か?」
起き上がったゾロの横でルフィが跳ねている。
「逃げろ!」
「何処に?」
「へ・・へそ・・!」
皆の、そしてウソップの反応も見てナミは頭が痛くなる。
「慌てないで!多分避雷針付いてるわ」
「ホントか?」
「わかんないけど・・少なくても金属の船の中の方が多分安全だから」

落雷音とあまり変わらないタイミングでバリバリッと光が横に走った。

「おわっ!」
「きゃーーー!」
「もう!船の真ん中でしゃがんでて!」
「ナミさんはなんて物知りなんだ!」
サンジの声を余所に微妙に構えながら答えたナミは外を見続けている。
「けど・・近いよね?」
音と光の間隔はどんどん近づいてる。ビビが頭を隠しながらも問うた。
「うん」
「落ちたら?」
「あたし達は大丈夫かもしれないけどサニーが」


解説中の揺れる船の中。目の前で光より先に音が走った。





立っていられた人は居なかった。
「大丈夫?」
「身体はな、なんともねぇ。けど明かりが消えたな」
身体を動かしたのはゾロが最初だった。手を振り首を振り、身体を確かめてる。
衝撃からの立ち直りはさすがに早い。
「直撃?それかもの凄く近くに落ちたんだわ。」
ナミも頭を振った。

部屋の灯りが消えてる。慣れない目には真っ暗に見える。

もそもそした影が部屋の真ん中に集まってみんなしゃがんでいた。

「サニーは?!」
ルフィが尋ねるとそのままの姿勢でウソップが耳を床に当てていた。
「う・・うごいてる。だ・大丈夫だ」
サムズアップしてにやりと笑った。
「よかったぁ!」
「そうか?安心は上を見てからだぜ?」
「だな」
落雷の影響があるかもしれない。
サンジとゾロの声にビビもナミも頷いた。

非常用電源が働いているらしく非常灯だけは付いた。部屋も廊下も目が慣れたら歩けないわけではないがうっそりと暗い。
船が今までになく少し、揺れている。







雷は遠ざかり音も小さくなった。
だが窓の外は雨。雨が、今までになく激しくサニーを打ってくる。


操舵室の大きく開いた前方の窓の視界は今では利かないままだ。
手前でカラカラと操舵輪は揺れている。船内は暗い。まるで別の部屋に来たみたいにも見える。ぼうっと画面の電源だけは入ってて浮かんで見える。こちらにも非常用の電源は回るらしい。
「サニーは生きてるな」
操舵室の一番大きいモニターが動いていてくれていた。船の位置は点滅して光り航路を示す矢印は太く予定航路の上を突き進む。
まず皆がほっと胸をなで下ろした。

エンジンも動いてる。海の上で判らないけれど船を指すモニターは進んでる。行く先のラフテルへの航路も消えてない。
かなりほっとした。
もし、何か起きていたら、と言う想像はしたくなかったし。


「おい、大人用みたいだけど」
ゾロがついでに下から救命用のライフジャケットを見つけてきた。
少しだけど余裕が出来た子供達は歓声を上げた。

「うわっ!なんかかっこいい!」
「えーー?邪魔じゃねぇ?」
「あ、ここで少し絞められると緩いのマシになるぞ」
男子にとっては変身用グッズに見えるらしい。
「ルフィ・・・・楽しいかもしんないけどでかすぎ・・お子様用探しとこうぜ」
細身で小柄のルフィにはブカブカすぎる。


「くしゅっ」
ナミがいきなりくしゃみをした。
「ナミさん?寒い?」
「そうでもないんだけど・・」
「ナミさん!くしゃみまでなんて可愛いんだ!」
ビビがするっと自分の白いパーカーを脱いだ。
「このパーカーあげるわ。着てて。そうよ!さっきまで保健室にいたんだし・・大丈夫?」
「あ、風邪とかじゃないからね、ビビ着てなよ」
「良いの、私は大丈夫。こっちのライフジャケットも面白いし。こんな時じゃないと着ないよね」

すぐに飽きて階下に放り出したのもルフィだった。

「これだけの雨と雷だったらだれもおっかけてこねぇな」
「だからって縁起でもない」
ルフィがにこにこ言うとナミがいつもの通り拳骨を頭に落とした。


「でも・・・揺れは、前より酷いみたい」
操舵輪がカラカラと一方にばかり回ってる。












「ばかな!?」
「サンジ?どうしたっ!」
「ナミさん、これ判るか!?」
サンジの指さす画面にナミは飛び込んだ。
「まさかっ・・・」
「俺が見てる前でいきなり船の指標がこっちからこっちに飛んだ」
「どうしたんだっ!?」
サンジは目を大きく見開いたルフィを見た。おそるおそるの顔をしたビビを、眉根の曇ったウソップを見て口ごもった。

「航路がずれてる・・・かもしれねぇ」
「え?」

確証はないが・・と切り出した。
「今の・・船の位置はここ。」とサンジ
「そして島と航路はこっち」とビビ
「さっきはこっちにいたと思ったんだが」
今の位置は航路を少し右にそれている。今も少しでも進んでいく。微妙にだがずれてゆく一方だ。

「これが正しかったら、の問題だがな」
「どうしよう?」

カラカラカラ・・・操舵輪の動く音がした。船の操舵輪はゆっくり右にばかり傾いて曲がってゆく。
「行き先は船が判ってんだろ?何もしなかったらそのうちいけるんじゃねぇか?」
「馬鹿!」
「船が方向を修正しない以上何処か他の所に行っちゃうわ!」
サンジとナミの答えが重なった。


いきなりゾロが操舵輪をがしっと握ってみた。思ったよりも強い力が舵輪を押しとどめる。
「動かねぇ。無理だ」
「駄目かも・・コンピューターからの命令の方が強いんだわ」
「どうなった?どうすんだ?」
ルフィが聞いてきてもナミにも判らない。サンジが吠えた。
「ウソップ!入力し直せるか??」
サンジの声にウソップははっと画面にかじり付いた。
解除しないと行く先は間違ったところからずれない。
頼みの綱だ。

「!!む・・むり・・」

ウソップは必死に最初と同じ手順を踏む。ところが画面は一切の操縦を受け付けない。
何度も何度もやり直す。いろんな方法を試してみる。スイッチを叩く音だけが船に響いた。
ウソップは首を横に振る。振った先で先ほど自分とルフィが引っかかったコードを見た。

ここは操船室だ
壁には海図。目の前のモニター。
ラフテルは地図の真っ直ぐ目的の先にいるのに船がどんどん方向を変えている。
なにもできない。


ルフィが船に向かってがばっと吠えた。
「サニー!頼むよ!俺はこの島に行きてぇんだよ!」




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