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空と海の狭間で-20



雨の気配??


「ナミ?」
「なんだろ?海の上は慣れない・・けど雨になりそうな感じはする」

操舵室の窓ガラスにはまだ気配はないけれどルフィの顔も映ってる位に暗い。窓の外は先も見えない広がる暗い海。
眺めていると陽が落ちて暗くなっただけの窓に何かがぽつぽつとぶつかりはじめた。最初はまばらに。そして徐々に足を速めて聞こえる。
「あーーあ、あたっちゃった」
「雨?また当り?」
ビビが聞いてきた。頷くとビビは皆に向かって得意げに言った。
「ナミさんは超人的な気象予報士なのよ」
「いっ?何だ?」
「天気は絶対当たるモンね!」
自慢げに男子に向かってビビは説明し始めた。遠足でしょ、運動会の時にもね・・ビビの笑顔は今までよりも明るい。
明るいんだけどちょっと気になる笑い方だ。激しすぎるような・・もっともこの旅では何となくおかしい感じが取れない。

「絶対じゃないよ、ほとんど。けどなんか・・今夜は雨だけかなぁ?」
「他に何か来るの?」
「そんなのわかんないよ」


気のせいだと思う。けど嫌な感じが消えない。
たぶん、きのせい。





「ようし!ルフィ。これでラフテルに設定完了だ!」
サンジがウソップの代わりに答えた。ウソップは仕上げとばかりに軽やかに入力画面を叩いた。
「本当に大丈夫?」
「ちゃんと俺もおっさんのを見てたからな。大丈夫だ。これでいけるっ!な、サンジ、ウソップ?」

画面が処理表示を続けてる。
強制航行は一度設定されると衛星で自身の位置を把握しながら行き先を決める。
だから開発当初から素人のヨットにあっという間に広まった。そして大型の船にも仕込まれて半世紀が過ぎている出来ると言われてる。現代ではほとんど絶対的に間違えないと思って良い。

画面の海図と島が映ってる。
小躍りしながら走り回るルフィに向かってウソップは嬉しそうに細かく首を縦に振った。指さした地図は読み取れる。航路とラフテルの文字が大きくうつっていた。画面に映るともの凄く安心できた。
「あ、でた」
「おめぇら、凄げぇ」
讃辞に喜び勇んだサンジは小馬鹿にしたようにゾロの方を見た。
「まぁ、まりもにゃ出来ねぇ技ってこった」
「んだと、こら」
「悔しかったら迷子の看板外してからきやがれってんだ」


「なんか・・サンジ君ってああだったっけ?」
「なんだかふっきれてない?」
女子二人がコソコソ話してはいるがサンジの笑顔には華やぎがある。パッと花開いたような楽しさがある。
ゾロとの言い合いも今までほどの険はない。ただのじゃれ合いにも見えるのどかさだ。

ま、いいか。

目的地ラフテルはちゃんと船が捕まえたし。自動航行は当たり前の技術だ。
それにこいつらも案外馬鹿じゃなかった。行くからにはそれなりに頑張って航行技術を学んでいたらしい。


「バカの喧嘩は放ってーー。ああ、これなら大丈夫そうね」
ナミが手を叩きながら機械の前に出て画面を確認した。
「じゃ、もう下に・・降りてもいいの?」
「いいんじゃない?けど外は暗くなってて危ないから甲板には出ない方が良いわっ・・てルフィ!キャプテン!あんた聞いてる?」
「ルフィ。騒いで計器壊すなよ。」
ラフテルだラフテルだと変な歌をはね回って騒ぐルフィは、サンジが落ち着いたからなんか菓子でも・・と声をかけた途端今度は飯〜飯〜とうるさくなった。小躍りしてるルフィはそのまま跳ねまくる。裸足に近いビーチサンダルで良くもまぁ滑らずはね回れるものだ。狭い船室でこれ以上騒がれるのは良くないだろうと思ったし、狭いから居にくいので皆それぞれが階下におりて座席シートに座った。ゾロはさっさと横になってる。本当に寝る手間を惜しまない男だ。


操縦室から最後にウソップが出ようとして足下のコードに足先をひっかけた。跳ねて踊ったルフィがさっきぶつかった一本のコードだ。
「?」
先を見るとコンセントが一つ抜けていた。
「?」
さっきは計器はちゃんと動いてた。今も船はゆるゆると進んでる。いきなりトラブルが起こった気はしない。
怪しいときにはあまりいじらない方が良い。何かあったら困るから。だからそっともう一度深く挿入するつもりでコンセントに手をかけた。何かぴりっとした気がしたのは一瞬だった。
「?」
画面は・・?普通。大丈夫だろう。
「ウソップーーサンジの弁当喰おうぜ〜〜!」
「早すぎだ!」
呼ばれる声の方が嬉しくてこのことはまた忘れてしまった。






お弁当が広げられた半階下はちょっとしたお祝いムードだった。時計を見ればもう11時過ぎてる。けど誰もが眠くない。そして代わりにおなかが少し空いていた。ルフィが騒ぎ、ウソップも騒いでる。

「弁当ってのは現地で喰うモンだろうよ。なんで俺の自信作がこんな所でご開帳なんだよ」
「いいじゃん!出航を祝って!」
お弁当とやらまで持ち込んで・・こいつらって、やっぱり馬鹿?
「船の行く先、何があるの?」
「行けば判る!船を信じろ!」
「お・・おうっ・・お。。おれ!・・・がんばったから!」
「判ったわ。ルフィは無理でもウソップ、アンタの頑張りなら信じるわ」
「なんでだよーー!」
ゾロまで黙ってるけど起きてきてる。

サンジの弁当はとても美味しかった。










「外にでよう!一番前まで行こうぜ!」
「お!・・・お!」
お腹が一段落付いたらルフィとウソップがムズムズし始めた。
「やめとけ。雨だし。だいたい外には出るなよ。暗いし滑ったらどうする?おめぇカナヅチだろ?それよりも!喰ったらちゃんと片付けろ!」
言いながらサンジは手際よく片付けている。
「浮き輪なら外にあったぞ?」
「それがあったところでお前が落ちたら絶対溺れるね。賭けてもいいぜ」
「サンジのケチーーーー!」
「ケ・・ケ・・ケチーーー!」
「んだと!コックに逆らうな!」
言いたい放題しながら笑って二人は戻ってきた。
「ありぃ?ゾロは?」
「ああ?トイレか?」
「あいつさっきからあんま元気なくて喋んねぇな。腹でも壊してんのか?」
ルフィはきょろきょろと見渡すがゾロの姿はない・
「喰うにはきっちり二人前は喰ってたぞ?」
ご飯はバロメーターだ。サンジの目は本能的に他人の摂取量を計算してる。
「ふーーん」
「そういやナミさんもたまになんだけどなんか微妙だったな?」
「あーあいつさっきまで保健室にいたらしいからな」
「え?俺に内緒でいつの間にそう言う話に??」
語調を荒げて言うサンジにウソップは首をかしげた。
サンジに内緒?なんで?







節水仕様の洗面器で手と少し顔も洗った。
小さな船だがきちんとトイレが男女に分かれていて良かった。流石に男子が一緒だけに恥ずかしい。
ビビは簡易キッチンの方で洗い物をしてる。早く手伝いに行かないと。

ナミは一人になると考え込む。気がかりは少しある。
ビビのことは一旦保留。船の行く先はなんとかなってるみたい。
残りは一つ。

ゾロに、話しかけにくいままだ。

さっきの・・キャンプファイヤーのお礼だって言わなきゃいけないのに・・あのときは色々ありすぎて皆が居るところでは言いにくい。そもそもどう言ったら良いんだろ?切りだし方が良く判らない。
普段通話せばいいと思うと余計に普通が判らなくなる。

反対にゾロはまだ怒ってるかもしれない。だったらいやだ。


狭いところであまり考え込みすぎたので打ち切って外に出た。ドアがギイギイと鳴る。その音が重なってた。
「あ」
「あ」
偶然ゾロも隣から出てきたところだったなんて。
ゾロも驚いたようだ。目をまん丸に開けてる。

あ、そうださっきのお詫びも言わなきゃ。それに・・。

バクバクッと心臓が動き始めた。
落ち着け!えっと・・
二人口を開きかけたのも同時だった。

「あのね・・・」
「あのよ・・・」

タイミングが合いすぎて言葉が打ち切られた。
思わず目も体もゾロと反対の方向に泳いでいる。
なんでだろ?言いにくい。

「あんた・・」
「お前・・」

言葉がまた重なってつながらない。
間の空気ばかりが重くなる。
ええっと。
ゾロが何か言ってくれるの?
アタシ待って良いのかな?

ゾロの方をそっと見た。
ゾロもそっとこちらに視線を寄越してた。
視線が絡もうとしたその時。

「ナ〜ミさ〜〜〜〜〜〜ん!さっきまで保健室って本当?体は大丈夫?!」
サンジが思いきり船室のドアを開けて飛び出してきた。
「え?・・え?え?・・ええ。」
「いやいやその話を聞いて俺の心臓が止まるかと思ったよ!」
「あ・・ありがと」
ああ。嘘な訳じゃない。けどこの言葉はゾロに最初に言うはずだったのに。


ギイと船室のドアがまた開いた。ゾロが何も言わずにすっと入ってゆく。またその背中しか見えない。ドアを支える後ろ手がポケットに戻った。

そしてゆっくりと扉は閉じた。



「あ、アタシ、ビビの手伝いしなきゃ」
「俺も手伝うよ。病み上がりでしょ?」
「ううん平気。サンジ君は良いから休んでて」
ナミもパタパタ小走りで駆け出した。





船室の皿を下げて来たウソップは台所の泡に驚いた。
台所といっても小さなシンクにポットが一つと電気式のコンロが一つ。食器もなければ鍋もない。ペーパーナプキンが高いところにぽつんとあるのが余計に目立つ。
狭いところが泡だらけ。
「や・・やりすぎ・・じゃ・・じゃないか?」
「ああ〜〜ウソップさん良いところへ!ちょっと手伝ってくださいな、ナミさんが戻るまで!」
「は・・はい」

床にこぼした洗剤と持ってきた洗い物の管理はあっという間にウソップの管轄にされた。
何より狭いこの一角で、水だって無限じゃない。とフランキーに厳しく仕込まれた。
ウソップの手は動く。
手だけは動いてペーパータオルを使ってあっという間に泡も皿も処理をする。

ウソップは何を言って良いかは判らない。だけれど沈黙が重くなってきた。
「あ・・ビ・・ビビ・・はゾロと同じ が、学校?」
「いいえ。駅からご一緒しただけよ。どうかした?」
ウソップの顔に一瞬驚きが見えたのをビビは見逃さなかった。ウソップは首をひねって少ししてから答えた。
「ゾ・・ゾロが・・ずっとナミを見てる」
「ナミさんを?どうして?」
サンジなら判る。元々目配りと気配りの塊のような人だから。おそらくはそう言う物とは一番遠いと思われた男の名前にビビの目は丸くなった。
「め・・目が離せないって」
それからこうも言っていた。
「な・・んか、みちまうって」
「それって・・・・恋?」
どんな窮地にいても女子に恋話は栄養源だ。ビビは目を輝かせた。
「ナミさんに目を付けるなんて!あの人見る目があるわ!」

凄く嬉しそうなビビのは大きな眼だなぁと思ったけど口には出せない。それでも自分が女の子と二人で何かやってるだなんて今までの自分からは想像も付かない。しかも会話してるだなんて。

「けどだめですーー出直してください。ナミさんはもの凄く素敵な人じゃないと差し上げられませ〜〜ん」
ビビの口調が面白くてちょっと吹きだしかかってこらえた。
「・・・?た・・たとえば?」
「うーーんわかんないけど。凄い人」
ウソップはビビの言葉もよくわかんないに入ると思った。
洗い物はもうすぐ消えて無くなる。



外ではナミが真っ赤になって壁にへばりついていた。
(そんなはずないんだけど。それとも本当に怒ってる?)
こんな話題の中に入れるほど、ナミの神経も太くない




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