線上関係
ばなな平井。さん
「ゾロは我慢強いよなー、、、、。」
「、、、、、、、、、。」
チョッパーの台詞に、なんと返すべきかゾロは戸惑う。
男部屋にチョッパーと二人。
ゾロは昼に街でやられた怪我の手当てを受けていた。
「こんな怪我して、、、痛くないのか?」
「痛ぇよ。それよりお前、随分と上手だな。」
包帯を巻くチョッパーを見て、ゾロは唐突にそんなことを言い出した。
今チョッパーは人獣型。
人型になれば作業能率が上がるのだろうか、と気になったのだ。
蹄では作業しづらいだろうと思うが、特に支障は無い様子。
慣れた動作で、器用に針も扱っていた。
「ここの船医なんだから当然だ。」
「、、、、、そうだな。」
会話の微妙な食い違いを正すのが面倒で、ゾロはそのまま流す。
会話するうちに、包帯が巻き終わった。
怪我は右の手首に程近い場所。せいぜい10センチ。
なのに包帯は肘辺りまで頑丈に巻かれている。
「こんなに巻く必要無ぇだろうが。勿体ね、」
「何言ってる!縫ったんだぞ!これぐらい当然だ!」
「これじゃ動きづら、」
「動くなっ!治るまでトレーニング禁止だっ!!」
「バカに何言っても無駄よ、チョッパー。」
突如、ナミが会話に割り込んできた。
片手に医療道具を持ち、もう片方でマストを器用に降りてくる。
「オイ、バカって何だよ。」
「事実でしょ。」
「?何怒ってんだよ。」
「うるさいわね。誰が怒ってるのよ。」
「お前、」
「はい。チョッパー。消毒終わったわよ。」
ナミはゾロの言葉を最後まで聞かず、道具をチョッパーへと差し出す。
「ありがとう、ナミ。」
「ゴミ、持っていってあげようか?」
「いや、今終わったから自分で出すよ。」
チョッパーは手早く辺りを片付け、ゴミ袋を担いでマストを登る。
部屋に、二人きりとなった。
「ナミ?」
「何よ。」
「何怒ってるんだ?」
「怒ってないってば。じゃあ、お大事に。」
部屋を出て行こうとするナミを、ゾロは引きとめようと手を伸ばす。
「ナ、、、っいて、、。」
けれども、とっさに出したのは右手。
一瞬僅かな痛みが走り、手は下ろされた。
ナミはちらりと一瞥し、
「、、、、大層な包帯ね。」
そう告げると部屋から出て行った。
「何だ、アイツ。」
台詞はどことなく聞き覚えのあるものだった。
けれども、何時の記憶か思い出せなかった。




昼間、ゾロとナミは街へ買い物に出た。
もっとも、ゾロはナミの荷物持ちだが。
2、3店回っただけで、ゾロの両手は一杯になった。
衣類、インク、その他消耗品。
こんなに買い込みやがって、とゾロがぼやくと、
荷物が多いほうが鍛錬になる、などと軽口を返された。
二人、笑いながら歩いた。
その後海軍に見つかった。
港まで直ぐだったので、走って切り抜けようとしたが、
先回りしていたのか、横手から急に海軍のサーベルが飛び出してきた。
運悪く、ゾロの両手は塞がったまま。
荷物を手放さなくては刀は抜けない。
ゾロは迷わずに荷を捨ててナミを突き飛ばした。

深く右手を傷つけられた。





「ふう、、、、、。」
夜、ゾロはいつものようにトレーニングをし、風呂に入った。
どちらもチョッパーから固く禁じられていたが守る男ではない。
何となくイライラし、タオルで頭を乱暴に拭う。
ナミのせいだ。

──大層な包帯ね

「何を怒ってるんだか、、、。」
タオルをそのまま首に引っさげて、酒を片手に甲板へと上がる。
秋島の影響で風は冷たいが、酒を飲めば気にならない程度だ。
「さて、、、、、どうしたもんかね。」
甲板で、思わず一人呟く。
特別約束などしてはいないが、最近はいつもナミと飲んでいた。
昼に買った酒を一人で飲み干すのはどうかと思う。
かといって、ナミの機嫌の悪い今、誘った所で無碍な扱いをされるだろう。
「どうしたもんかね、、、。」
誘うべきか、誘わないべきか。
気温が次第に下がっていくのがわかる。
早いところ飲み始めたい。
何の気なしに、ゾロはぐるりと空を仰いで、そのまま視線を船尾へと向ける。
「あ、、、、?」
月が見えた。
寝るには惜しいと思う程綺麗な月。冷たく遠い孤高の光。
その光の下、風に揺れる白い服。
こちらに背を見せるようにして手摺に立つ、ナミの姿が目に入った。
一瞬、見たことの無い光景に、ゾロの思考が中断される。
ナミは手摺に裸足で上り、ただ海を眺めているように見える。
時折吹く風はスカートとオレンジ色の髪を揺らした。
何してるんだ?
ようやく動き出した思考はそれだけだ。うまく頭が回らない。
だから、
「、、、!おいっ!!」
手摺に立つなどという行為がどれほど危険か、
ナミの体が海へ倒れ込むのを見るまでは気がつくことが出来なかった。
どぼんっ
その音で、ようやく思考は動き始める。
「あのバカ、、、、おい、ウソップ!!」
見張りのウソップに思いっきり叫びかけ、刀を床に投げ捨てた。
酔ってるのか?
思いながら走り、一気に手摺を乗り越えた。
「おい!!ナミ、、、、、、、、。」
声をかけながらゾロも海へと落ちる。
けれども、てっきり酔って溺れていると思われたナミが
顔を海から除かせていて、目がはっきりとかち合った。
「てめえぇぇェ!!酔っばぐごぶぼっ!!」
どぼん
海へ、落ちた。
言葉を言い終えぬうちの出来事で、ゾロは強かに水を飲む羽目になった。




あ、しまった。忘れてた。
海へ落ちる瞬間、
見張り台に居るウソップに一言告げるべきだったとナミは思った。
けれどもそれは今更で、海へと倒れ込んだ体を元には戻せない。
やっぱり昼にすべきだったな。
思うが、それも今更だ。
どぼんっ
水は思いのほか冷たい。そして暗い。
なのに、不安要素は不思議と気にならなかった。
冷えた水はナミの苛立ちを抑えてくれる。
月明かりの届かない闇は目を開けていても何も目に映すことは出来ない。
酷く、落ち着いた。

バカみたいだ。
海の中、ふいにナミは思った。
泳げば気が紛れるかもしれない。
苛立つ気持ちを抑えようと海に飛び込んだが、気分転換以外の何物でもない。
飛び込んだところでどうにもならないのだ。
苛立ちの原因。
夜の海に飛び込んだ原因。
どうにもならないものだとわかって、尚更腹が立った。
腹を立てても、伝わらない事が悔しかった。
結局、アイツはバカで、言わなければ何も伝わらないのだ。
わかりながらも、言えない自分。
苛立ちの方向すらわからなくなった。
「ぷはっ」
酸素を求め、一度海面へ顔を出す。
船が、少し離れた所で止まっていた。
おそらくは、見張りのウソップが音を聞きつけてあわてて船を止めたに違いない。
何て言おうかな。
「え?」
謝罪の言葉を考えていれば、
唐突に、意外な人物の顔が見えてナミは思い切り困惑する。
てっきり、ウソップが駆けつけてくると思っていたのだ。
けれども何故だかゾロが船から落ちて、
「おい!!ナミ、、、、、、、、てめえぇぇェ!!酔っばぐごぶぼっ!!」
なにやら言い終えぬうちに海に沈んでいった。
「ちょ、、ちょっとゾロ?」
後半、何を言っているのかさっぱりだったが、
明らかに自分を心配して来たに違いない。
そして、明らかに水を飲んだであろう。
「ちょっとあんた、、、、!!」
「、、、ぶはっ!おっ、、、ごはっ!!うぅがはっ!!!がはっ!!」
やはり水を飲んだようだ。
死にそうだ。
「な、何してんのよ、アンタは。」
本気で咽るゾロに、思わず間の抜けた問いをしてしまう。
海へ飛び込んできた理由など、わかりきっているのに。
「ハア、ハア、、、ゴホっ、、、そりゃあ、、、、俺が聞く、事だろうが、、、。」
必死で咳き込み、ゾロは口や鼻を腕で拭う。
その動作で、右腕の真新しい傷がはっきりとナミに見えた。
縫い後がまだ生々しい。
「ゾロ、あんた包帯、、、。」
外したのね。
咎めようと、その傷に手を伸ばすが軽い動作で払いのけられた。
「ハア、、、、ハア、、手前、、、何のつもりだ、、、?」
荒い息とその台詞。
海の中。
傷跡。
何て嫌な既視感。
「、、、、あんたこそ、、何のつもりよ、、、、。」
「ああ?手前が酔って海に落ちたと思ったんだよ!悪いか!」
「だからって、、、、、別に、あんたまで飛び込むことないじゃない。」
「お前が溺れるのを黙って見てれってか?」
「、、、、、。怪我してるのに、海に入るなって言ってるのよ!」
「もう治った。」
「、、、、、!!」
その台詞に、思わずナミは傷を殴りそうになる。
冷たい海の中、固く握られた拳。
それを振り上げる事が出来ない事に、ゾロは気がついただろうか。
「ナミ?」
「、、、、あんたは、いっつも、、、、。」
何時だって、傷を負っていて、
それでも自分を顧みずに動いてはまた傷を負う。
何時だって助けてくれるけれども、その度にナミが何を思うかなんて、
この男は知りもしないのだ。
「、、、人の気も知らないで、、、、。」
「何がだよ?」
そんな事を思うのは自分だけだ、とナミはわかっている。
苛立ちとか既視感とか。
そんな思いを持つのは自分だけだ。
先しか見ていないこの男は忘れてしまっているだろう。
ナミが今何を思い出したかなんて、わかる筈が無い。
「バカ、、、、。」
「、、、、、訳わかんねえ。」
「バカにはわからないわよ。」
「だからわかんねえよ。はっきり言えよ。」
「イヤよ。」
「、、、言えよ。」
真っ直ぐな、ゾロの言葉とその行動が、ナミを困らせる。
ゾロは何時だって気がつきはしないのだ。





「訳わかんねぇ。」
甲板で濡れた体を拭く。
ウソップが梯子を下ろし、タオルを持ってきてくれていた。
海にいる間に風呂にお湯まで張っていてくれたので、ナミは風呂。
「お前らなー。海の中でケンカすんなよ。」
「してねぇよ。」
「ナミは怒ってたろ?」
「だから、わかんねえんだよ。」
ナミは何を思っているか、何に対して怒っているのか、ゾロに結局伝えないまま。
何時だって言いたげに俯くけれども、
言わない言葉を読み取れるほど、ゾロの思考は上手に出来ていない。
「訳わかんねぇ。ナミは何怒ってんだ?」
「いや、俺に聞くなよ。」
「あいつに聞いても、、、、、まともに答えねえんだよ。」
「、、、まあ、触らぬ神に祟りなし、ってな。」
「、、、、、、、それじゃあ困るんだよ。」

わからない。
ナミが何を思っているのか。
言わない言葉を読み取れるほど、ゾロの思考は上手に出来ていない。
ゾロは何時だって気がつかない。
その直線的な言葉が、行動がナミを困らせている事に。
そして、
言わない言葉がゾロを困らせていることに、
ナミは何時だって気がつきはしないのだ。


平行線。
二人は何時だって交わることなどない。




 


<御礼>
ゾロ→
  ←ナミ
ばなな平井。さんの二人ののずれ具合は平行線と言うよりはもう少しずれてねじれの位置にあるように思います。    さらには温い水の中にいて身体の側を冷たい水の流れがすいっと通り過ぎていく快感とも不快感ともつかない不思議な快感を思いながら読ませていただいています。
ゾロがマイペースだから焦れるナミさんの怒りは判るし、それ故に困ってるゾロにはざまぁみろ!といってしまいそうに可愛いです。    
んで。実は一回のキリ番で二匹も大魚を戴いているのですよ!!
二匹目はこちら