Fly high 第3章




見上げれば、まばゆいほどに星々達が宝石を散りばめたように
チカチカと光り瞬いている
グラスを傾けながらたわいない会話を楽しみ豪華な食事に舌包みをした後
2人は係留してある港へと続く月明かりが街路灯のように灯されている
道のりを歩いていた。


「風が気持ちいいね」
「そうですね」

抜けるような青空に焼け付くような太陽が降り注ぐ日中の風はじっとりと汗ばむ

初夏の夜風はそんな火照った体にひんやりとした心地よい風が肌を撫でる。

すらっと伸びた細い足でうさぎのようにぴょんぴょんと飛び跳ね
今日がよっぽど楽しかったのかコロコロと表情変え微笑む女
そんな姿をタバコをくゆらせながら飽きもせずに
愛おしそうに眺め続ける一人の男

「ナミさんと歩くと俺は鼻が高いですよ 知っていますか?
 ヤロゥ共はみんなあなたを振り返ってた事」
「なに言ってるのよサンジ君は ホント女を喜ばせるのが上手なんだから」

黒いワンピースを身にまとい薄化粧を施した彼女が振り返り
ほんのりと赤く染めあげているサンジがナミの為にプレゼントをした口紅が
乗る唇がはにかんだように上がる
そんな、かわいらしい表情をした女ならば男は誰だって抱きしめたくなる
自分が惚れている女ならばなお更
その笑顔を自分だけに向けて欲しいと願うのは何もサンジだけではない
全ての男に共通する切望


「男が洋服や口紅を女性にプレゼントする意味って 分かります?」
「洋服は脱がせるため 口紅は取る為 なーんてありふれた事言わないでよね?」
「いつもの元気なナミさんも好きですけど 大人のナミさんも好きなんですよ」
「サンジ君て ホントに女性の気持ちが分かる人よね ルフィやゾロなんかとは大違い」


からからと笑う彼女に
甘い想いは渇望へとすり変わり
数歩前を歩くナミのしなやかな背中に現れる
現実の影と──


「それじゃあ 何故?俺を選んでくれないのですか・・・」
「・・・・え?」
「オレの目は、節穴ではありませんよ・・・ナミさん」
「・・・・」

狂おしいほどの
 ─── 嫉妬 


驚愕の茶褐色の瞳を向けれれば
 『チッ』
胸の中の舌打ちが口火を切る
バキッとナミに歩み寄るサンジの足元にあった小枝の折れる音が
始まりの鐘のように


「―――!!」

彼女の瞳を真っ直ぐに見つめれば刹那に彼女の腰を引き寄せ
その腕に力を込め自分の胸に押し当てる
そして、彼女の柔らかい髪に顔を埋め
耳元で囁けば

「俺はあなたを苦しくさせるような真似はしないあいつより・・・」

ぴくりと小さな肩が震える



「クソ剣士より」



止まらない激情
モノにしたい欲情


「どうして・・・知ってるの・・・」
穏やかで決して女性を傷つける事などしない
柔らかな物腰の彼の姿は彼女の前では、今、微塵も感じることが出来ない
あるのは、瞳だけが妙にぎらつき、
その奥に秘める暗く鈍い光を解き放つその姿だけ

ナミは、みるみると青ざめていく自分の肢体に
冷たいモノが伝ったわっていくのを感じた

この姿を決して私に見せる人ではなかったと
 男そのものの姿を───

「惚れた女の視線ぐらい見ていれば分かる」

そう冷たい言葉が彼女に降りかかる
身体にまとわりつくむせ返るような熱
逃げたくとも背後にある木に押さえつけられて

「なっ!?・・・んっっ」

触れるだけのキスから
ゆっくりと、本当にゆっくりと
舌が分け入る
いたわりのあるキス

 『─――上手い・・・』


貪りつきたい衝動に駆られることもない
醒めた思考



目を見開いたまま胸をドンドンと叩いてサンジに抗議行動を起こした
が、サンジはお構いなくナミの細い手首を掴み身体でナミを木に押し付けた。
片手でゆっくりと身体のラインを柔らかくなぞり
服の上からナミの胸の膨らみに手をかけ優しく丁寧に揉み解していく。
顎から手が離れた隙にナミは顔を背け引き剥がすよう唇を離した。

「何すんのよ!」

せめて視線だけでも優位に立とうと彼女は睨みつけるが、
彼の中にあるあの暗い鈍い光を消せる事は出来きずにいて

『この瞳だ あいつにだけに向けている』

猫のような人を惑わすその視線を投げかけた事に
この行為が仇になってしまったことなど
彼女には一切知る由もなかった

彼女の首筋から鎖骨にかけてのぞくりとする線の妖艶さ
本能に突き動かされるままに首筋を甘く吸い上げる

「やっ!」

ナミの頬に手を当て顔を向かせると再び口内を侵していく
ずるずると崩れ落ちるかのようにナミを草の香りが漂う芝生に
押し倒すとスカートへと手を忍ばせた。
ばたつかせているナミの太腿をなどると下着の上から割れ目を
繊細なまでにその手で這わす
どんなに、敏感な女の部分を触られていても

『やっぱり・・・感じない』

妙に冷静な身体と思考
彼女は、もがくのを辞めると、ふっと瞳を閉じた
「・・ゾ・・ロ・・」
そう呟きながら

唇の隙間から涙声でかすかに呟かれた男の名前
湧き上がるその男への嫉妬
ナミをモノにしたいと思う欲望
加速度的にサンジに押し寄せているのも知らずに

瞳を閉じ、ただただ暗闇に身を任せている彼女の下着が
ゆるゆると降ろされてゆく
ひやりとした外気が彼女の肌に浸透してゆくと
彼女は瞳を開け覇気の無い声を発した

『何故、私は男としてのサンジに何も感じないのか』

その明確な答えを確かめる為に

「サンジ君。あなたらしくない事しないで」
「この後に及んでもいい男を演じろとでも?」
唸るその声、更に強く放たれたよどみを帯びた鋭光
安堵にも似たため息を1つつくと
眠らせていたモノがナミの中で自然と覚醒する

『やっぱりね・・・私の答えは間違ってはいなかった』

そう、この男。サンジだからこそ出るもう一人の私



「いいわよサンジ君、そんなに抱きたかったら抱いても。私、一切抵抗しないから。」
「!?」
サンジと言う男が目の前にいるのにも関らず
彼女のその瞳には何も映し出されてはいなかった
あるのは凍てつくビー玉色を宿した瞳
そして、氷のような微笑

それは、心を閉ざし決して自分という者を見せない欲望を処理する為に金で買った
女の姿に酷似していた



「ナミ・さ・・ん・・なんで・・そんな顔・・」
口に手を当て信じられないという顔をしているサンジにナミは身を起こし
向き合い見つめそして抑揚の無い言葉を紡ぎ始める

「私もサンジ君の前ではいい女を演じてるからよ。」
「!?」
「昔、私がしていた事知ってるよね・・・その時にね・・・いろんな女を演じる事が自然と身に付いちゃったの・・・
 そうしなければ・・・自分が潰れちゃうから だからね?サンジ君が言った言葉でやっぱりなって思ったの
 私は、サンジ君といると女を感じさせてくれる。それと同じように、あなたも私といると男を感じる
 サンジ君が私にそうさせているように、私も、サンジ君をそうさせている。
 お互い無意識のうちに出てしまうのよ。私達は・・・」



 ―――自分に優しく女心を理解し包み込んでくれる 
         守ってくれる人を傷つけたくない
    ここまで自分を思ってくれるサンジにウソも付きたくない
    どうして、こんなやり方しか出来なかったのだろう・・・

サンジは、ナミの身体から離れるとうなだれるように座り込んでしまった。



 ――――ナミさんとの心地よい時間
        嘘か本当か冗談ともつかない
        うわべだけの言葉羅列
        女といると男を感じる
        決して、本当の自分を見せる事はない
        俺の姿


「本当の自分を見せてしまったら,私はまた今みたくサンジ君に心を閉ざしてしまう。
 すれ違うだけの悲しい関係・・・傷つけ合って互いの傷を舐めあうだけの・・・
 私には、そんな関係は・・・」
「あいつは、違うんですか・・」
「うん・・・あいつに女を演じるのは無意味なことだから・・・あいつが傍にいるだけで
 勝手に私という私を全部出されちゃうから・・・それが、どんなに辛いことでも
 傷つけられることでも・・・」


ナミがサンジを受け入れないことの理由



一際大きな風が大地を撫でる
月明かりに照らされ風になびくサンジの金色の髪が彼女にはとても綺麗に思えた

「あいつじゃなきゃ、私は何も感じない・・・
 あいつじやなきゃ、私は私じゃなくなっちゃう」
 サンジ君・・・女ってね・・・守られてるだけじゃダメになっちゃうの」

言葉の暴力で、伝えなくてもいい事をサンジに伝えてしまったことに
彼女は罪悪感を覚える
月が雲に隠れそして、また何事もなかったように顔を出して
スダスダに壊れあったこの心も、この自然と同じように何事もなかったかのように
消し去ってくれればいいとすら思う
しかし、無常にもそんな彼女の思いは自然には伝わらず
穏やかに現実の時が流れてゆく

「身勝手だね・・・私って・・・」
涙まじりのか細い声で呟くナミにサンジはハッと面を上げた
空を見つめる彼女の頬に眩しいまでの雫がきらきらと伝うその姿が
彼の目の前を覆い尽くす

「ナミさん・・・」

サンジは、ナミの手をギュッと握りしめ

「泣かないで下さい・・・俺が悪いんだから。
 裏の無い馬鹿なヤロゥだから・・・
 だから・・・あいつの前では、ナミさんはナミさんらしく出来るんですね。」

そっとナミの頬を伝う雫を料理人の証が付く繊細な手で拭った。

「サンジ君・・・」

そのとても穏やかな口調
彼女の肌に優しいまでにも染み込むサンジの手の温もり
痛くて、切なくて、そして・・・申し訳なくて
とめどなく頬を伝う涙を彼女は止めることは出来なかった

そして、サンジの手が尚も強く握り返され瞬間に彼の瞳に殺気が宿ったのを
彼女は見逃さなかった


「・・・サンジ君?どうしたの?」

涙で霞む瞳をサンジへと結べば
返される彼の瞳からは一転の曇りももう垣間見れない



「ナミさん。俺は、もうあなたを傷つけるような真似はしたくない。
 でも、俺は・・・」
次の言葉を飲み込んだサンジは、ただ"すいません"と謝ると
徐々にナミの存在を消してゆきその殺気を迫り来ているモノへと向けていった

「てめぇに・・・ナミさんを渡すわけにはいかねぇな。」
「え・・・!?」
誰もいるはずもない森深くにある暗闇に唸るようにそう言い放つサンジに
ナミはその方角へと目を向けてみけば

「どうして・・・ここに・・・」

相手を傷つけてまでも守りたかった
彼女の偽りのない大切な想いを抱いている

「ゾロ・・・」

人物の存在がそこにはあった


to be continue・・・




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