Fly high 第2章




「それじゃあ ナミさん行って来ますね」
「なんだナミは行かねぇのか?冒険が待ってるぞ!」
サンジからそう声がかかると接岸を終えその他の雑務に追われてる彼女は微笑みとともに頷きを返した
そのサンジの横で爛々と目を輝かせ冒険に心躍らせているルフィに

『こんな大きな街に冒険なんかあるのかよ・・・』

などと呆れながらも
「迷子にだけは、ならないでね」
そう言い聞かせ男共を送り出した



船に一人残った彼女は航海士としての一通りの作業を終えると
部屋へと戻り海図の整理をし始める
机いっぱいに広がる煤けた紙
定規やジャイロコンパスの睨めっこしながら
港に逃避しても嵐で揺れ続ける船内で
おだやかで、月明かりがひどく眩しく思える甲板で
こうして、一つの航海が終わりを告げるとともに
書き終える海の地図

彼女の夢

一枚そしてまた一枚とめくってゆく
ふと視線を逸らせば
白い肌に染み付く黒いインクの跡
柔らかい指に硬くなったペンを握り続けている為の痕
目の前にかざして見れば
細長い指に刻まれている夢へと導き続ける証が生まれてゆく時が
静かに流れてゆく

「わたし、まだ若いのに・・なんか、随分と苦労してる人の手みたい」

そう可笑しそうに笑い
机に置かれてある鏡を覗きこめば
そこに映し出される自分の姿に苦笑した
無造作に床に置かれてある雑誌に目がゆくと
思わずポロリと口から出てくる女の本音

「肌のハリ艶は、10代そのものね
 でも・・・たまにはおしゃれして男達の視線を釘付けにしたいものよね」


 例えどんなに愛する男が傍にいても
 例えありのままの自分を愛してくれる男が傍にいても


女の欲望はとめどなく溢れ出てくる
女なら誰しも一度は持つ
自身に注がれる賛美なまでの眼差し


「そりゃあね、好きな男からの言葉が1番嬉しいけど・・あいつはそんな事言うやつじゃないし
 着飾った自分を好きでいてくれるよりも本当の自分を好きでいてくれた方がいいわよねぇ
 でも たまに表面的な女を感じたいと思う時もあるのよねぇ」

手にしたファンション雑誌を眺めながらぼんやりと彼女は呟いた

 

 


「ナミさん いますか?」
扉越しから聞えるサンジのくぐもる声が部屋に響き渡ると
彼女はハッと面を上げ時計に目を向けた
どうやら、そのまま眠ってしまっていたのであろう
時はすでに夕刻を指し示していた

「サンジ君 帰ってたんだ」
「俺はつい、さっき帰ってきたんですけど他の連中はまだみたいですねぇ
 それよりちょっといいですか?」

顔だけを覗かしていた彼女の目の前へと差し伸べられた手
そっと手を添えればサンジに引っ張られるようにしてキッチンへと連れて行かれる


「どうぞ」
言われるがまま、彼女は引かれたイスへと
腰を降ろした
そして、不思議そうな顔をしている彼女の瞳に映し出される
はにかみながらタバコの煙をくゆらせている男の姿と


「開けてみてください」
「え・・?いいの?開けてみて」

置かれている長方形の箱
それは
幼き頃に大事な物だけを集めた宝箱のようで
母から貰った玉手箱みたいなプレゼントみたいで
わくわくして開けてみたら

「ウソ・・・これって・・・」

やっぱり魔法がかかって



驚きを隠せない彼女を満足そうに眺めると

「前にナミさん こんなの欲しいって雑誌見ながら言ってたじゃないですか?
 街のブテックに同じのがあったのを見つけて」


彼女の白い肌を引き立たせるような黒色をした
ミニのノースリーブワンピース


「私に・・・?」
「ナミさん以外に似合う人はいませんよ。プレゼントです 気に入りましたか?
 ナミさん・・・?気に入りませんでしたか・・?」

呆然とワンピースを見つめている彼女に
妙な不安が過ぎる
やっぱり、余計なことをするのでは無かったと

「ううん ありがとう サンジ君っっ!!言葉にならないくらい すっごく うれしいっっ!!」


 サンジ君は私を女だと再確認させてくれるのよねぇ


喜びに満ち溢れる弾んだ声で似合うかな?とワンピースを体にあてがいながら
彼女にとっては本当に心地よい時間が流れてゆく


「ところで、ナミさん この国でゼフのオヤジの親友って人が レストランをやっているんですけど
 これを着て一緒に行きませんか?」

強制的な言葉尻でも無くて
強引に誘う口調でも無くて
穏やかに微笑む彼

「もちろんサンジ君のおごりでしょ?着替えるくるから待ってて」

部屋に戻ろうとサンジの真横を通り過ぎる刹那
彼女の手首に重々しい影が落ちる

「なに?サンジ君」

瞳をサンジへと向ければ
いつもの紳士的な彼とは違う
深く淀む鈍い瞳を持った
サンジの姿

「ちょっとサンジ君 どうしたの?離してくれるかな?」

そんなサンジの姿にナミは焦り腕を解こうとするが
掴まれている手首は益々力が込められていて
決して解くことなど出来やしなかった


「サンジ君・・・」


不意に覚えるこの違和感はなんというのだろう
こんなにも、自分を心地よい気分にさせてくれているのにも関らず
過ぎる黒ずんだ重い液体のような重苦しさ

 ───やだ

つき動かれるように彼女の足が自然と上へとあがる
真横から蹴りを入れようとした瞬間
音もなく手首の締め付けが霧散してゆく

「ナミさんの蹴りは俺のより数倍痛いんですよ 細いからヒットするんですよ」

睨みつける視線の先に佇む柔らかいまでものの眼差し
彼女の唇から一驚の吐息が漏れる

「サンジ君が変な事するからよっっ」
「それじゃあ 手出してください」

ポケットをまさぐりながら言うサンジに
彼女は躊躇ながらオズオズと手を少しだけ差し出した

「開けてみてください」

手のひらに置かれた細長い箱を
言われるがまま箱を開け中身を取り出せば
ステックを捻り覗いたその色に


 男の人からプレゼントされた事ない・・・


形のよい薄い唇にのせれば
溶かしていってしまうほどに
艶やかに彩っている深紅の
 ───ルージュ


 こんな色をした口紅なんかつけたこともない・・・
 

「外で待ってますから」

耳元でそう囁き出てゆくサンジの声が
彼女の鼓膜へと響き渡っていった



to be continue・・・





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