視−ビビ−





     なんなのこれは?と初めに思った。
     私の廻りにまとわりつく。
     なんだかとても落ち着かない。
     ぎゅっと縛られてしまうような・・


「イヤだなぁビビちゃん。そんなに大きな目で見られたらオレ照れちゃうよ。俺、そんなにいい男?」
昼食の準備中のサンジさんの手先から出てくる綺麗な飾り細工と彩りの鮮やかな一人一人のお皿とに感動していた。
「どうして普通のお野菜からこんなに綺麗なものが創られるのかしら。」
「それはビビちゃんへの愛がこもってますから。」
サンジは愛という言葉にぐっと力を込めてにっこり微笑む。
「・・でもさ。そこまでじっと見つめられたら手が滑っちまうよ。怪我しそうだ。」
「ごめんなさい。見つめちゃ駄目なんですよね。」



     それは新聞の中を捜しても母国の知らせがなくて、少し安心したときだったり。
     シャワーを使った後の、リラックスできるはずの夕暮れだったり。
     思わぬ時に襲ってくる。



「イヤだー。」
完全に逃げ腰になって、チョッパーは落ち着かな気に甲板を動き回る。頭を抱えたり、後ろを向いたりまた正座に戻ったり。きっと顔を整えてみたり、またにやけたり。
絵描きになったウソップは、ことモデルのことになると譲ってくれない頑固さを持つ。真剣な瞳でじっと構えて鉛筆を握っている。
「おーい、じっとしてろっつってんだろ!たく…。」
「だからそのぐりぐりの目でじっと見られたら逃げ出したくなるんだってば。俺は人に見られるのって慣れないんだ。もう少し普通に見てくれよ。」
「しっかり見ないと描けねぇだろ。・・おう!ビビか、昨日のお前の絵、出来てるぞ。」
スケッチの中には素描に色鉛筆で薄く色付けされたビビが笑っている。王女でも、ミスウェンズデーでもない只のネフェルタリ=ビビがそこにいた。
「うわぁ。上手。ウソップさんて凄いですね。」
「凄いのはお前だと思うぞ。昨日コイツに睨まれながら3時間も涼しい顔してそのまま動かなかったじゃないか。」
チョッパーはその3時間ずっとその光景を見ていた。終わってからウソップに自分も描いて欲しいと小声で頼んでみたものの、いざモデルになるとウソップの真剣さが、何よりモデルを観察する真剣な眼光がチョッパーには怖い様な照れくささがあってじっとは出来なかった。
「え・・だってちゃんと見て貰わないときちんと描いてもらえないじゃない。」
ビビはにっこりと微笑みながら腰をかがめてまたチョッパーを見つめる。
「お前まで見るなよ。…この目に負けないんだから、お前強いんだな。」



     昼夜かまわないで。
     私が遠ざかっても、近くに寄っていっても。
     勝手に近寄ったり居なくなったりおよそ勝手なペースで現れる。

     気付いちゃ駄目。
     絶対に駄目。



見られるのは慣れてるらしいの。
チョッパーにそう言いかけて思い出したのはコンビを組んですぐの頃のMr9だった。

「いかんよミス・ウェンズデー。尾行というのは相手に気付かれては元も子もない。視線はあくまで相手の足下あたりにしなくてはな。相手に自分の視線を感じられるようでは一流のエージェントとは言えないぞ。」
小指を立ててみながら頷いては見たものの、たかが一人分の視線が気になるって意味が判らなかった。


だって産まれたときから他人は私を見る存在(もの)だったんだもの。
護衛のもの。城内の見張り番。女官達の視線。城の外でも誰彼かまわず向けられた国民の熱い視線。
副リーダーとして砂砂団にいても誰かが側に付いていた。
(まぁ、それがお父様だったときにはさすがに困ったけれど。)
子供の頃には今よりもっと判っていなくて団の皆が嫌そうにしているのは大人が混ざることで、自分たちの世界を壊しかねないからだと思っていた。
私が襲われてからはそれを問題にするものはいなかったけれど。

人は私を見ている。それぞれが持つある意味利己的な期待と、不安と、愛情を持って。
一つ一つの目に込められているその煌めきを守ることこそ私の役目だから。
その為に一刻も早くアラバスタに着かなくては!


     なによりも何よりも母国が大事。
     他のものなど入る隙などないはずなのに。



     なぜ?

     ほらまた。

     何処から来るかなんてすぐに判るから。
     それは甲板のいつもの指定席から。
     きゅっと目を瞑ってやり過ごそうとするのに。

     見られることなど当たり前じゃない。
     私は元敵で、新参の異分子なのだから。
     BWに潜入したときと同じはずなのに。
     なのに何故この視線だけは無視できないの?!



「・・っもう!」
振り向いてしまった。

振り向き様に一気に間合いを詰めこちらを見ていた男の前に立った。
一気に両手で顔をがしっと掴む。
こちらを見て居るんだからすぐに捕まえられるわ。
腕に思い切り力を込めて逃がさない。もちろん逃げるような人ではないし。
掴んだ皮膚は少し伸びるけど。

海上の陽光も彼の瞳の色を換えはしない。
深い色に・・・・・・。




     やっぱり見ちゃいけなかった。
     掴まってしまうことは判っていたのに。
     私はアラバスタの物なのに。
     でももう後には引けない。


「何をみてるの?」

「おまえ。」
にししと笑う口。





某所(○つるさんとか○okiさんとか)でルビビ色に染められたので
初挑戦・・&自爆(したんです)
ルフィサイドを書いてようやく落ち着きました。






    視−ルフィ−