質『長煙管と刻蹄桜』 |
ルフィの持ち船の羊号は船の中でも快速を誇る。大きさこそ小さくやや優美。大洋を越えるには不向きだが瀬戸内では敵はいないだろう。そのまま日本海に出れば後は一気に北へ向かう潮流に乗ることが出来る。陸路組よりも早くに付ける可能性が高い。 「ルフィさん。貴方って何者なの?」 「馬鹿。」 「胃袋。」 聞いた本人の脇にいた双方から真顔で答えが返ってくる。お腹も膨れた三人は甲板で日の下輪になって座り、談笑している。 「そうじゃなくって!!私真剣なのに参児さんも猪把君も酷いわっっ!こんな良い船を!ぽんっと出すなんて!」 ビビが真剣に怒っても男達にはその理由がわからず首をかしげている。 「酷いっていわれても・・・・。」 「なぁ?美々ちゃん。俺たち本当のことしか言ってないよ。」 三人は互いの頭を傾けた。隣り合うルフィと猪把の頭が逆さまの方向に傾いたからごっつんといい音をしてぶつかってそれがまた可笑しかったらしい。三人で転げながら甲板を叩いて笑ってる。 「俺から見たらお前等って“料理人”と“飯”の二人に見える」 「だろ?良い出汁が出るぞ。」 「お・・お前等冗談はよせよぅ。」 顔は引きつらせながら微笑んで猪把の腰が後ろにそろりそろりと下がり始める。 「逃がすかよ。」 「俺の手は伸びるぞ。」 「うわぁ〜〜やめろってばぁ・・。」 目だけ笑った悪人面が二人で襲いかかるふりをしてじゃれている。 ・・・駄目ね。はぐらかされちゃった。おそらくは無意識に・・・。 美々が拗ねてくるりと後ろを向いた。 本当に拗ねた訳ではない。そう言う三人組なのも判っているから。 ルフィさんを見ても怪我やら擦り傷やらも多いし、もの凄く普通の男の人に見える。けど参児さんのような仕事を持っている人には見えない。江戸で船出の時の騒ぎは何か判らなかったけどアレは船の上までおうちから迎えが来たと後で参児さんに聞いたから結構良い家の人じゃないかとは思う。公儀の重鎮の跡取りさんとか・・ね。そんな人がこんな所まで出てきて良いのかって思うけど・・。でも、だから私のことを良く解ってくれたのかもしれない。 参児さんが起きてからは始終二人が一緒だ。もの凄く食べる人と料理人の組み合わせだから仲良しは解るけど、最初の頃よりも少しだけ退屈だわ。・・・こんな事考えている暇はないのよ!!なんでこんなに緊張感がないのかしら私!!反省しなきゃ!!ほら!もうすぐ着くはずなのよ! 「あ・・・・・・・・・。」 そのまま遠くに見える陸地の変化に目をこらす。 緑の山が消えて薄黄土色の山が見えてきた。 砂の丘、砂の国! 私の砂の国。 「見えたわ!」 その声を聞いた三人がビビの回りに集まってきた。 港から歩けば一里半。歩くよりは川沿いを上る小舟に載せてもらい、珍しさに興奮して騒ごうとするルフィと猪把を抑えてサンジは睨み付けた。美々は顔を見られぬように頭巾の下にまだ顔を隠す薄布を巻いている。 美々は本来ここにいてはならない人間だ。江戸詰を逃れようとすれば重い刑が待っている。いくら最近の顔は知られていなくてもこの地ではその顔を知らぬ物がない。 川を登って城が見えてきた。美々は一瞬嬉しそうにふるさとの空気を飲み込んだ、がすぐに身を堅くする。後ろからルフィがぽんと美々の頭に手を置いた。そして参児の手が右肩に。左の腰には猪把が鼻をこすりつけている。肩を緩ませて美々は唇の両端を上げた。 河は城下町の側まで繋がっていた。岸に上がり人心地付く。人の往来も多い。交わされる言葉は懐かしき国のなまり。涙が出ると言うほどではないが、心が温かい。 「聞いたかい?姫様がお戻りだそうだよ。」 !!ええっ? 艀にいる飯盛り女達の噂話が耳に入った。 頭巾を深く被ったままの美々は声を上げそうになった。が何とか堪えて息を呑んだ。思わず話し声集団を凝視する。 一緒の参児と猪把も美々の顔をちらりと見てから声高に話している町民達の会話に耳を峙(そばだ)てる。ルフィが彼らに向かい口を開きそうになったから参次が思わず足で転ばせた。素知らぬ顔で艀に来た物売りの品を選ぶような仕草で参児が立ち、猪把はルフィを引っ張って不自然に見えないように少し離れた。 美々のお国入りはお忍びだ。知られて良いことではない。情報を流した者がいるという事になる。それは間違いなく黒鰐の手先だ。 「ええ?だって江戸詰の最中だろ?そんなの無理じゃ・・。」 「何でも将軍様のお墨付きで領民に重大な報告があるからってお許しを戴いたんだと。」 「姫様が帰ってお出でならこの不幸続きの藩も少しはましになるかね?せっかく農作物が取れても山賊海賊の横行で売れやしないまま腐っていく、海賊がいるから漁師は海に出られずあがったり。」 「余所からはいる物と言えば高値ばかりで。」 「領主様は賊の対策の山狩りをやっても見つけるのはこっそり他領に売りに行く関抜けの領民の逮捕ばかりでなんの対策もしてくれん。」 「湖部羅様は法の守護者だからね。御自身が死んでも法を守るという堅物だから融通がきかねぇ。」 「その点黒鰐様は粋だよね!「見過ごしておけん」とおっしゃって海賊を打ち払っても荷を届けさせてくれるし!」 「かなり値は高くても物が余っているのに売れない買えないよりはましだろうて。」 「なんでこんな事になってんのかねぇ?」 「神の怒り・・だと言う噂だが。」 「ああ・・あるべきではない血筋が継いでるからって言う話だろ?」 「ああ。」「らしいね。」「本当だそうだ。」 そこにいる皆が頭を縦に振った。 「といっても私らにとったら王家と言えば美々様だし。」 「帰ってお出でなら嬉しいねぇ。」 「あの方が悪いことみんな吹き飛ばしてくれんかね。」 「可愛らしいけど凛々しい御子だったからねぇ。今は亡き奥方様に似てさぞお綺麗になられた事だろうよ。」 声高に話ながら町民は城の方へ歩いていく。 「いったい何の話しだ?いつ美々が来てるってばれたんだ?」 「待て、ここまで敵はいなかったぞ。黒鰐は美々ちゃんに来られちゃ困るんだろ?」 「結構・・思ったよりも国も荒れてんな。」 「黒鰐は好かれてるぞ。」 町民が散ってからひそひそ声で皆の葛藤と疑問が吐き出される。 「可笑しいわ。何か・・変。」 美々は頭巾を固く絞めて更に顔を隠した。 町の向こうから街道沿いに町人姿の男が走ってきた。手元に持っている紙の束からこれは瓦版屋と見える。それは町の情報を仕切る者。 「何でも今から 樗谿(おおちだに)の寺で美々様が皆の前でお話しなさるってさ!」 「そりゃ凄い!皆で行かないと!!」 皆一斉にその男が着た方向に走り出した。仕事も置いて子供を抱えて同じ方向に向かっていく。それまで暗い顔をしていた男も泣いていた女も一斉に動き始める。皆の顔には希望を捕まえようとする必死さが共通していた。 そして動かない美々達だけが川の浮島のように取り残された。 そんな・・ 「って?美々はここにいるよな?」 ルフィが首を傾けた。 「うん。俺たちと一緒に」 猪把が同じ姿勢で答えた。 「じゃぁその寺にいる美々ちゃんって?」 参児も並んでいる。 「「「偽物?」」」 三人の首が真っ直ぐになる。縮んでいた美々がすっくと立ったかと思うと瞳がらんと輝いた。 「見に行きましょう。」 「おう!」 美々が思った以上の人数が集まっていた。境内から人は溢れて木に登ったり塀に登ったりとかなり行儀は悪い。 それだけ彼らの生活は深刻なのか? 「美々ちゃんの人気だよ。」 険しい顔をしていたのだろうか?聞こえたかのように参児がにっこり微笑んで見せたので美々は思わず赤くなる。 動きがあって周囲が騒がしくなった。人影がしずしずと壇上に進んでいく。 「皆さんに聞いて欲しくて私はここに今日帰ってきました。」 水色の髪の乙女が広い境内に続く寺の壇の上に立っている。 きちっと結った髪。瓜実顔の輪郭。白い肌。凛とした瞳。綺麗な姫としての着物には白地に家を表す獣、隼とジャッカルが縫い取られている。声も美々と全く同じ。本物と並べられたらどちらがどちらか判らなくなってしまうだろう。 間違いようはない。 正装の美々 がそこにいた。 彼女の前には後から後から集まる人がどんどん増えてくる。ここは演説の場としては上々だ。集まった人は境内から溢れていく。その周囲が更に広い庫裏などの在る公園であることが幸いした。人々は彼女の演説を前にして水を打ったように聞き入った。 美々も頭巾を被り顔は隠したまま一番後ろで皆に囲まれて聞き入っている。参児は猪把に耳打ちした。猪把はこくりとだけ頷いた。 「我が家は王家を名乗って12代。その始まりは本来の王家が途絶えたと思われたからです。一番その血に近いのは我が先祖でした。 でも、いま、私は知ってしまいました。本来の血筋の方がお一人残ってお出でだったのです。」 想像もしない内容を聞いて皆がザワザワ騒ぎ出す。その情報が行き渡り皆が少し落ち着くのを待って彼女は続けた。 「ここに先の王家に続く我が家の系譜を持ってきました。でもこれを私たちは捨てるべきなのです。そしてこの藩の頭という地位を本来の方にお返しします。それを皆さんに聞いて欲しくて私は帰ってきました。」 彼女の手の中には巻物が見える。 それを高く掲げたかと思うと足下にぽいと捨てる。 捨てた拍子に巻物が解かれて門外不出の家宝が衆目に晒される。 「今、ここに宣言します。 私、鳥取の姫、美々はその方の妻となることで己が継ぐべきとされていた権利を本来の主『黒鰐』様を夫としそのお方に返します!」 「なんですって!!!!!」 境内に入る前から口も聞かず緊張と驚愕の嵐に翻弄された美々は、わなわなと唇と両手を震えさせていたが、我慢の限界を越えてしまった。それもいきなり。 怒りからほとばしる声と共に立ち上がる。 「良くも・・・良くも偽物がそんな嘘を・・・・・。恥を知りなさい!!!」 彼女の澄んだ声は人々のざわめきを越えて奥まではっきりと通る。人々の視線は一気に立ち上がった彼女に集まった。 大舞台の上で演目はもはや最高潮(クライマックス)。そこにいきなりの客席からの乱入に舞台の上の偽美々は言葉もなかったが、すぐに体勢を立て直した。 「お・・お前こそ何者!その顔を隠すなんて卑怯よ!」 正装の美々は顔をわななかせながら美々を睨め付けている。 「姫として命じます。誰かその無法者を追い出しなさい。」 待ちかまえたように周囲に座していた幾人かの正装の武士が現れた。腰の刀を構えたり抜いていたり。 立ち上がった美々よりもその周囲に控える戦闘態勢を敷いた猪把とルフィへの牽制も忘れない。 「姫に仇なす者はゆるさん。」 「お前の顔も城で見た事ないわ!藩士も真っ赤な偽物じゃないの!!」 怒りに紅潮した頬の美々が叫ぶ。目には悔し涙がうっすら浮かんでいるがその睨みは力を失わず、舞台の上の女をしっかり指さした。 「誰が美々姫ですって?」 美々はいきなり指さし立てを頭にまわし頭巾を取り始めた。しゅるりしゅるりと衣は解け、顔の覆いを外すと化粧っけの無い水色の髪が町娘の装いで立っていた。 「美々は私よ。」 「「「姫が・・二人?」」」 「こっちも美々様だ!!」 人々は衝撃を受けながらも一斉にどよめいた。 装いの他はそっくりでおそらくは見分けが付かない。一人は怒り、一人は呆然とした後に傲慢な表情を作った。 「一体どっちが本物だ?」 騒然としながらも人々の真ん中で烈火の如き激しい美々の気配に押され、聴衆は二人の美々の間に通り道を開ける。美々はその中を真っ直ぐ恐れることもなく前にぐいぐい進んでいく。 「誰が、偽物ですって?」 壇上の姫はにっこり微笑んだ。己の姿のよほどの自身があるのだろう。 その時壇に向かって壇の下手から一つの影が飛び込んだ。 「ふんっっっっ。」 女性相手に気を落とさせようとそのお腹に拳を入れようとする参児の攻撃を偽美々は見切ったかのように腹筋を絞めて、抵抗した。どころか反射的にその腕を高くまわした足で裁いて返す蹴りを参児の胸に見事にブチ込んだ。 女性相手の反撃を予想もしていなかった参児は避ける事も出来ずにあっさりその蹴りを身体で受けてしまった。 「うごっっ」 丁度猪把にされていた肋骨骨折治療の板も破られてもんどり打ったが何とか一回転して立ち上がった。 参児の呼吸は俄然荒くなった。 「参児さん!」 「美々ちゃん。下がって。」 駆け寄って壇に登った美々を参児が横から背中に庇って立つ。 「俺のお姫様に手出しはさせねぇぜ。」 寄ってくる男は十数人。 構える参児は煙管を誂えなおした。呼吸は不思議と落ち着いてゆるりと煙が登って不敵な笑みが浮かぶ。軽く肩だけをまわして微妙なしなりを作って構える。構えた指の関節がぽきっと鳴った。 続いてルフィも壇上までひとっ飛びで跳躍してその隣に並ぶ。壇の下から偽呼ばわりされた武家姿の男達の数がまた増えた。猪把も続いて壇の下に駆け寄ってその男達を一人一人睨み付ける。 「美々に手を出すな。」 ルフィの一言と同時に参児がもう一度飛び込もうとした瞬間。 「あっらぁ〜〜〜〜!」 誰もが緊張感を抱いていたその場でいきなり素っ頓狂な声が挙がった。男の声と言っても良い声だ。それが壇の上に一人で立つ姫装束の美々から聞こえてきたと皆が理解するのに少し時間が必要だった。 「あ〜ぁんたってバvvvいつかのあちしの好みの美形君じゃないのよぉぅvvv」 手を振りながら身体をくねらせて、変なしゃべり方は完璧にドスのきいた男の声だ。 ざわざわと言葉にならない動揺が広がる。 「「あちし?・・・・・・ああ〜〜〜〜!!」」 そのものの言い方に猪把とルフィが一気に声を上げた。 「あの時の!」 「盆ちゃんじゃねぇか!?」 「「え?」」 二人は顔を見合わせる。互いに おまえ、何を言ってるんだ?と言いたいらしい。 「あの時?」ルフィが聞いた。 「盆ちゃん?」猪把が聞いた。 眉間に皺を寄せ偽美々をみながら猪把が答えた。 「・・・・・・・敵の変装の名人だろ?」 「おう!あれは俺の友達の変装名人盆ちゃんだ!だろ!盆ちゃん!・・・って敵ぃ?」 その単語を再確認してルフィは相手を見た。 壇上の姫の化粧が吹き出した汗で半分から崩れていく。顔も・・髪も・・身体に着込んだ体型矯正下着も。顔を崩しながらも江戸帰りの路上で会った化け物が化粧の下から現れた。 「やっぱり!」 「あら、いやぁん。あんたってバ麦ちゃんじゃないのよぅ!こんな所でどうし・・・・しまった!」 「どした?」 旧友の再会ににっこり笑ったルフィの声に覆い被さるように人々が騒ぎ始めた。 「こ・・こいつが偽物だぁ!!ってことはさっきのは偽物の演説だったぞ!!」 「美々様の偽物だ!!」 「なんだとう!!」 「許すな!」 「・・・ということはこちらが本物の美々様?」 「まさかどっちも偽物か?」 「ああ!そんなぁ。」 騒ぎが大きくなってきた。 要らぬ憶測と喧噪が走る中で男達はいきなり刃物を抜いて構えた。それを見とがめ、叫び声を上げた女が斬りつけられていきなり血しぶきを上げる。その赤が皆の網膜に焼き付くまで数瞬も必要なかった。 「殺されるぞ!!」 「助けて!!!!」 悲鳴を上げながら我先にと登ってきた一本道を人は固まり落ちてゆく。 姫の偽物・・・いや馬六枠巣の変装名人「盆暮」とは彼のことである。いや・・彼と言うよりは・・。 「盆ちゃんいつ敵になったんだ?」 「あんたの敵に回る気なんてないわよぅ!でも・・・その・・オカマにも心意気と成り行きってモンがあんのよぅ。」 久しぶりにあった友達への挨拶がこれほど似合わない場所でのんきに訊ねるルフィの側に来た盆暮は手を組み、両の人差し指を突くように併せて口を尖らせる。 「ははは・・・どさくさに紛れんじゃねぇ。美々には手出しさせねぇぞ。」 ルフィは友人と笑いながら会話していたその表情のまま、拳を固めて飛び込んできた男を二人一気に殴り倒す。騒ぎの中美々に後ろから近寄る敵の影をルフィは見落とさなかった。 「猪把、下から美々ちゃんに近づく奴を見つけたらとりあえず殴れ。」 声を掛けながらその後ろで参児が向かってくる太刀をやり過ごして強烈な蹴りをお見舞いしている。 「いいのか?そんな!乱暴なことして!」 「いいから。しっかり頼む。」 「わかった!」 人型に変身したままの猪把の体がまた大きくなったように見えた。長く伸びた両腕で交互に作られる桜の刻印は一斉に美々を狙ってかかってきた敵の体中に痣を作り意識を喪失させる。 「刻蹄桜吹雪!!ふぅ。こうやったら桜(ロゼオ)を連発できるんだ。新作だぞ。」 「猪把君!凄いわ!!」 ふんと鼻を鳴らして得意そうな猪把の周囲に花びらが散ったように男達が散っていく。狙った急所にあたれば一瞬で意識を失うがなまじずれると苦しいらしい。二人ばかり足下で苦しそうなので素に戻って思わずちょぱは呼吸を確かめた。 人の波はほとんどが引き、男達は累々と沈んでいく。 逃げ出した敵の姿を見て一呼吸付くと猪把が気付いた。 「これってもう情報ながれてるよな?美々・・・。お前お忍びじゃなかったのか?」 猪把が人獣型になり見上げて聞いてくる。 正直美々がここまでキレ安いとは思っていなかった。もはや黒鰐に美々の到着が知られたと思って間違いないだろう。それどころか藩からも人が出てこられたら問題になる。藩に設置されている公儀番にばれてしまえば藩も危うい。 「わ・・わかってるつもりなんだけど。つい・・だっていきなり結婚とか言い出すから・・。」 妙齢の女の子にその話題は酷だったかもしれない。判ってはいるんだけど・・と美々も猪把の指摘にしどろもどろと答えている。 「よし!宣戦布告もすんだし行くぞ!美々!」 「行くって・・何処へ?」 「鰐んとこ!」 「ええ?」 美々は言い出したルフィの顔をじっと見た。 確かに妙案だ。黒鰐さえいなかったら全ては水泡と化す。根元はあの男一人なのだから。 「でも・・何処にいるのかしら?」 「あいつなら知ってるさ。」 壇上に戦闘意欲を失い足を開いた正座で座った盆ちゃんがいた。その側に参児も腰を下ろしている。 「ああ!そうだ参児お前怪我の上をもう一度蹴られたろ!気を付けろって言っといたのに!!」 医師に戻った猪把がいきなり理性を取り戻して騒いだ。騒ぎながらも傷口を点検して治療を始める。 「参児は無謀だよ!自分が女に手を出せないって知ってる癖になんで裏回りをして抑えようなんてするんだ!!ルフィや俺がいなかったら終わりじゃないか!」 「あんときゃそれっきゃねぇって思ったからな・・・おい、痛えぞ。」 「当たり前だ!船の上でようやく安静が取れたと思ったのに無理するからまた肋骨が折れちゃったんだよ!」 「あばらの二三本くれぇなんだよ。おい・・泣くなって。」 「泣いてなんかない!怒ってるんだ俺は!」 「二人ともありがとう・・。でも参児さん、無事で良かったけど無理しないでね?」 「はいはい。お姫様。」 「今日のあちしの任務は姫に化けること。それを途中で失敗したわ!!どうしようかしら?でもこんな好みの男が二人も揃うなんてしかも好みの美女の本物にも会えたしぃ・・・・ああんv今日は天国なのにぃ。黒鰐ちゃんったら心狭いから許してくれないでしょうしねぃ。あちしどうしようかしら・・・。」 組織の怖さは裏切り者に対する制裁の厳しさがある。今までは他人事だったが。 悩んでいるようには見えないが、それなりに悩む盆暮れの前にルフィが立った。 「盆ちゃん。頼みがある。」 「なぁによぉ。あんたみたいな男前からの質問になら難でも答えちゃう。」 「黒鰐は何処だ?」 「!・・・・・・・!!!い・・言えないわ!言ったことが解ったらあちし殺されちゃうわ!」 「おれが、守ってやるから。」 「うっっっっあちしは今敵なのに・・・。あんたってば・・粋・・。ううううう・・・。」 盆暮れは感涙を垂れ流し、心臓が踊るくらいの興奮状態だ。怪しい薬でもやっているのかとそれをみた猪把は驚いてドキドキする。 「判ったわ。黒鰐なら にいるわよ。すっかり周囲の人間も洗脳が済んでるからそこまでの道も危ないわよ。」 「判った。ありがとう!盆ちゃん!!」 「ありがとう!」 「ありがとよ!」 美々が、参児が、猪把が走り出す。 「一気にいくぜ!!」 寺の門前道を降りると街道に交差する。山手の街道から人影が走り出して声を掛けてきた。 「あ!美々〜〜〜〜!」 「ナミさん!無事でしたか!!」 数刻前に城下に入って姫の名を聞いたのでここに来たという。もう一つの影もゆっくり合流した。 「あったり前よ!」 ゾロの着物はかなり裂けている。そこから見える傷口に猪把は青くなってゾロの着物の襟に手を入れた。 「ゾロ。身体が傷だらけ・・切り傷だけじゃなくてぶつけたのか?首とか胸に真っ赤な血管腫みたいのも幾つかあるしそれに・・・・お前!背中にまで切り傷が!」 「ああ?面白れぇ敵だった。・・なんで往来でお前に脱がされなきゃなんないんだ?」 「俺は医者だ!お前は怪我人だ!俺は参児もみたぞ!あれ?参児!」 猪把とゾロの漫才の横を通り過ぎゆく参児がいた。 「一々煩ぇぞクソ馴鹿。こんな雑魚相手に・・まぁまた肋骨が逝ったみてぇだけどよ。」 そうかと思うともう一人の傷も確認に猪把は走った。 「アレ?ナミ?また虫に噛まれたのか?首ん所に赤い痕があるぞ。前も虫媒感染で死にかけたんだから気を付けろって言ったろ?」 「う・・うん。大きな虫だったけど・・そ・・その、毒はないみたいから心配要らないわ。」 上擦って笑うナミの後ろでゾロがにやりと笑う。参児は半泣きになった。 「ナミさん・・・・俺が今度その虫退治しますっから!!」 「あ・・えっと要り用になったらお願いね、参児君。」 「着実に息の根止めますから!!」 勢いの付いた参児と変に笑うゾロとナミの間になにやら空気に秘密が籠もっているがとりあえず美々は二人の無事な姿に安堵した。 「敵に待ち伏せされてました?」 「少しはね。向こうの兵隊は足止めしてきたわ。カタを付けるんなら今よ!」 ナミの足取りは既に城下に向いている。 急ぎ足で走りながら。何故か人数は七人に増えていた。 「なんで盆ちゃん彼奴等の仲間になったんだ?」 「だぁって、黒鰐って本来ならここの殿様でしょ?この国は今酷いのよ。山賊と海賊が横行して物資のやりとりが出来ないの。ってあんた達に意味判る?」 男達は首を横に振る。それをみたナミが解説を始めた。 「つまり、いくら食料を作ってもお金に変えられないから貧しくなる。国中が良く似たものを作っているからあるものは邪魔なくらいにあって値段が下がる。高く売れないって事よ。余所からの物は入らないから値段が高騰する。 米で支給される武士も米を持っている百姓もどちらもお金を手に出来なくて国中が貧しくなる。」 走りながら。 「他領とさえ売り買いできればなんの問題にもならないのに。」 「あぁんたよぉく判ってるわねぇ!そのとおりなのよぉぅん。で、ここの領主様が退治できない賊を黒鰐ちゃんなら退治して国に荷を出し届けしてんのよ!粋でしょ?」 得意げに言うオカマにナミの視線がしらけた。 「あんたねぇ・・・その海賊と山賊の元締めが黒鰐なのよ。」 「あらそう・・・?なぁんですって!」 「自分で出し入れしてるんだから黒鰐の荷だけは大丈夫なはずよね。」 盆暮れは足を止めた。後ろを走っていた猪把とルフィがぶつかって転んだ。 まさか・・・まさか・・・・・まさかぁ! 「もしかしてあちしって悪の手先だったの????」 「「「その通り。」」」 きっちりと皆に突っ込まれては大粒の涙は溢れてくる。 「ああ・・・ああ・・・・ああ・・・・・・。」 鼻からも大粒の涙を流しながら盆暮れはその場で回転を始めた。 「おい、そこに止まるつもりならそこを退け。俺たちゃ先を急いでるんだ。」 ゾロの一言に少し道の端に寄った盆ちゃんは急に顔を上げた。 「待って麦ちゃん!ここまで来たらあちしは裏切り者、もう組織には戻れないわ。だからあんたのダチに戻って忠告してあげる。なんだかあいつ麦ちゃんに恨みがあるみたい。『この藩を手に入れたら次は国だ、待っていやがれ』・・って言ってたわ。」 「?俺鰐なんか知らねぇぞ?」 「情報屋からの情報にも絵姿だけはないのよ。まさに謎の組織よね。」 思い出せないルフィの横でナミも呟いた。 「あちしだって知ーーらないわよぅ!でもだから気を付けてね!!」 |
続 |
男も女も大好きな盆ちゃん・・二番さん再登場です。
さて次回は黒鰐登場です。
明日か明後日最終話大公開!乞う、ご期待!!