陸『長煙管と刻蹄桜』






「三と五は任務失敗・・と。」
蝋燭灯りの下で砥石の擦れる音が響いている。
「不甲斐ねぇもんだな。」
「親分からは浪速で片を付けろこっちに持ち込むなとの仰せだ。」
「ふん・・心配はいらねぇ。・・だがその情報は確かなんだろうな。美々姫は江戸との交代には智頭街道しか知らないんじゃなかったのか?」
「さあな・・港の顛末を知っている情報屋の十三番が昨夜の朝早くに直接見たそうだ。黄色い頭の男と一緒に若桜方面に山越えの準備をした姫が向かったと。奴の鳥連絡は間違ったことがない。」
「ふん。世間知らずなりに考えた訳か。」
「とはいっても念には念を入れてそちらにも人は廻してある。ただ・・あんたは手助けなど要らないと言うが・・信用して良いのか?」
呟きながら座って砥石に水を漲らせる男の回りにいくつもの刃物が光っている。蝋燭の明かりの下でもその刃の鋭さと重厚さを隠さない。男はこれらを全て己の得物として使う。剣と言うよりは刃物の達人と評するのがよいだろう。
「俺の腕が心配か?そう言えばさっき親分からの指令があったな。」
一番と呼ばれた男はくっくっと含んだ笑いをしたかと思うと目の前でおびえた目をした男に向かって腕を一度振り上げた。
耳の横をごうっと言う音がして何が起きたのか判らないまま・・・・目の前に差し出された刃物の上に血の付いた耳介が乗っている。

「・・ぎゃぁ〜〜〜〜!!」
「“失敗したら耳だけではすまさん”だそうだ。」
一番は嬉しそうに蝋燭灯りで瞳を輝かせ血糊の付いた刃物を眺め、血を舐め取った。
「巧い医者なら付けられるそうだ。・・この界隈に医師がいるとは思えんがな。持って帰れ。」
流れて手から溢れる真っ赤な血を見てはじめてがんがんと脈打つ己の血管と痛みを感じながら無くした左耳を押さえて男は部屋から転げ出た。
「手伝いなど邪魔だ。潰しても良い奴を囮に何人か寄こせ。それで充分だ。他は智頭の方にでもまわしておけ。・・・・・・・鉄の産地にこそ武器は存在するのだ。体術しか知らぬ若造に侮られるか。」
独り言のように呟き、男はまたまた刃物を研ぎ始めた。







まだ溶け切らぬ雪が石や山の北側に泥を被って汚く残っている。道の土はやや黄色を含んでいるから一見石のようにも見えるが中身はざらざらした氷が隠れている。峠の側から右手に見える高い山頂はまだしっかり冠雪が美しい。それでもおそらく側に行けばここと光景は変わるまい。でも春は来ている。その汚れた雪の合間に顔を覗かせる黄や赤の花がある。緑がある。名も知られぬ雑草と言うだけで一つ一つの命はそこに確かにある。泥を被った雪に汚れを見いだし顔を背ける者も、花の美しさに心和ませる者も、どちらにも気も付かずに旅路を急ぐ者も、皆同じくこの街道を行く。あらゆる物は側にある。見る者の視点が異なるのは人の性による物でそこにある者の責ではない。幸せも美しい物も汚い物も、いくらでも回りに転がっている。


身の側にも楽しいことはいくらでも転がっている。

「ね!参児・・さん!私と二人っきりの旅って嬉しい?」
「・・・・・・・・・・」
「いつものように言って下さらないの?『愛してます』とか『貴方の為ならたとえ火の中・・』とか。だって私を護って下さるんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・。」
「ね、黙っていないで。何はお話ししましょうよ。」
「・・・・・・・・・・・。黙ってろ。」
「口元の煙管がお似合いよ。でもそれじゃ軽すぎるかしら?そのぶん口が重くなる?」
男と女の二人連れなど珍しくはない。ただ・・女性の華やかな装いに比べると男は見窄らしいと言うべきか。この春先の山道は冷えるというのに黒の単衣に脚絆を巻いているだけである。晒しは巻いているようだが首に巻いてある襟巻きも薄物で防寒用といえるのか多少汚れが見え、女とは不釣り合いである。女主人と従者と呼ぶのが相応しい。
女性の声は先ほどからずっと堪えたような含み笑いが取れない。
頭巾を深く被り表情は見えない・・・が、頭巾から零れて跳ねる水色の髪からも足取りも軽やかでかなりご機嫌な様子が伺える。
その女性から身体一つ分しっかり離れて声を掛けられた横を歩く黒い着物の男が一人いる。その長い手ならばすぐにでも女性を護ることは可能だろう。摺り足だが大股で歩く様は浮かれ歩きの女性と対をなしたようにかなり不快感を拭いきれないようだ。
真っ直ぐの黄色い髪に背が高い。口には煙管がくわえられて荷物は背中に長い大包みを一つ。そして前に小さな小荷物を。互いに結んで左の肩に掛けている。その肩が震えている。敵地に入ったせいなのか?かなり緊張しているのか?二人の他は誰も姿が見えない。






若桜の村に入った所で気配が変わった。旅人は余りこの街道を来ることはない。それ以上に今日は人の行き交う姿は見られずこれでは峠の茶店の商売もあがったりだったろう。それとも日常なのか、店先を人が通っても声を掛けるそぶりすらなくただ、黙って視線だけを向けている。
峠の店だけではなかった。
街道沿いの村も待ちかまえる殺気が村の子供にまで伝わっているのか物音一つしない静けさで、昼になっても誰も街道を往来しようとしない。人っ子一人どころか犬猫もその気配に恐れをなして息を潜めているようだ。野良仕事はおろか外回りは今日は手を入れられた気配がない。ビリ・・ビリと来る気配が誰の肌にも痛い。
それもそのはず。昨日村長がなぶり殺しにあいその躯が晒されたまま葬儀すら出させて貰えない。一時屍を野鳥が突きに来たが、それも同じように躯を晒す羽目に陥り、本当に誰も手を出さなくなったまま放置されている。
昨日から村を占拠している者達がいる。
人とは言えない気配を放って。

二人の行く道に在る狭い間道によりその気配は強い。



男が二、三人。音もなく現れた。
「・・・・・・姫。あなた様にはこの先お城にお入りいただく訳には参りません。」
低く響く声で武士の正装をした三人が往来を歩く二人の前に跪いた。これは武家の作法。付け焼き刃で出来る物ではない。この静寂の中、男達の通常の姿が一種異様だ。
女性は深く被った頭巾をちらと持ち上げて目だけで男達を見た。
「・・・・私が誰だか判って言っているの?」
「御意。姫。しらばっくれても困ります。その中に着ているお着物でも簡単に判る・・。あなた様はそのまま江戸の下らない将軍家に貢がれてお出でならそれで宜しいのです。今頃何用ですか?
今藩はあなた様よりも仰ぐべき血筋を見いだしてしまいました。」
跪きながらも上げた面はぎらぎらした目を失わず口元が歪んでいる。もう隠す物はないとばかりに腰に手を添える。
「お命頂戴致します。」
その掛け声とともに彼らの背後からまた幾人かが現れた。
男達の眼は己の優位を信じて疑わない。目的の相手は育ちが良いだけの女。その供はたった一人。多少腕が立つと聞いても怪我も負っているとの話でこちらは十人。峠向こうに現れたという情報が入ったのは昨夜。彼ら二人は峠までは間道を抜けてきている辺りからも待ち伏せの存在は予想していたのだろうが、所詮多勢に無勢。多少の知恵などで逃れうるものか。


その不利な状況に臆するかと思えばふん。と姫と呼ばれる女性がらしくない作法で鼻白んだ。
「あんたたち馬脚を現したわね。しかも穴だらけ。」
唄うような侮蔑を込めた響き。非常に嬉しそうだ。先ほどまでの浮かれ具合はないが一種の緊張の漲った、顔など見えずともこれはこれでまた美しい。

「一つ。知らなかった?鳥取藩の上下関係は今代ではかなり緩いのよ。そんなにかたっくるしいのは偽物、おそらくは他藩からの流れ者。しかも貴方・・最近流行の浪人成り立てね?さては黒鰐の召し抱えを約束を餌に飛びついたの?いくら姫の顔を知らないからってそれじゃバレバレ。」

先ほどから黙っていた男も並んで溜息と共に口を開く。姫を守るわけでなく横に堂々と立つ姿。これが噂の三番と五番を殺った男なら情報からその中身は瀕死のはず。そしてこちらには・・がいる。その計算も男達の胸の内にある。

「そして二つ。てめぇ・・姫の顔もしらねぇのか?それで良く藩士を名乗ろうなんて考えたな。こんな柄の悪ぃ姫が何処にいる。」

それを聞いてむっとした顔の女性の横で男がふぅと溜息を吐いた。先ほどからずっと震える肩。いや、溜息ではないし怯えていた訳でもない。歓喜に震えるその肩は男はこれを待っていたのだ。
「それでもよ。遅ぇ。待ちくたびれたぞ!!」

「そして三つ。あんた達の相手は待っていた姫じゃなくてあたし達って事。特にこの獣はもう欲求不満が溜まってるからvv」
「おい、それはてめぇのおかげだぞ。」
「知りません〜だってあたしまだ姫のままだし。従者の世話なんてしないもの。」
「なんだと!」
「何をごちゃごちゃ言っている。勝ち目など無いぞ!」
男達の一人が戦慄いた。
「待たせすぎた?じゃ、正体見せてあげましょ。」


黄色い髪と思われたのは作り物の鬘で絹糸を染めた物だった。それをかなぐり捨てた下から現れた濃い緑の髪。背の長荷の封を切れば現れた三本の大刀。黒の着流しの上からでも判る隆起した肩の筋肉とそこから繋がる太い腕。大刀をすっと腰になおしてそのうちの二本に手を掛けた。
「ようやく暴れさせて貰えそうだな。」
女も頭巾を脱ぐと一緒に水色の鬘も脱ぎ去った。橙の髪の女性は上に着ていた美々姫の服も脱ぎ捨て軽装になる。髪も解いた状態の町娘の旅装が現れた。
「ハズレ。あんた達残念でした。姫なんていないわよ。まぁ、この着物は姫の物だけどね。」
女は舌を出してにやりと笑っている。


ナミは供にしてきた男を制して跪く男に声を掛けた。
「やっぱり情報は流れてたわね。怪しい影を見たから放置して置いたのがこうも嵌ってくれると快感だわ!作戦成功!・・・・。さて、やっておしまい。」
身軽になった女性は口元に笑みを浮かべて脇の男を見上げる。
「今更てめぇに指図される必要があんのか!」
「あら、愛があれば構わないはずよvvねぇ、参児君v」
「煩せぇ!その名前で呼ぶな!」
「下手な変装だったわよね。」
「お前も同じだろうが!」
「ここで姫と呼ばれたのは誰でしょう?ま、本来の藩士が沢山来るとは思ってなかったわ。そこまで裏切れるような藩なら藩主も何ももうおしまいだもの。」



目算が外れると言うことは戦闘時かなりの危険を伴う。男達はおのが秘密を全て晒されて逆上しているようだ。呼吸は乱れ刀を持つ手が力みすぎてやや危ない。その姿を見ているだけでも戦闘は人数ではないことを肌で感じていた。この程度ならばゾロの敵ではない。ナミは男の腕に信頼は置いている。
男達がじりじりと寄ってくる。危険な動物のゾロの怖さは伝わっていないかのような危ない者もいる。

ところがゾロは右手を向いたまま彼らに一瞥もくれなかった。


「おい、出てこいよ。」
構える・・と言うほどの緊張感はない。まだ腰の物を抜く気配もない。鬘が重苦しかったのを脱げてさっぱりしたとばかりに肩をまわして改めて腕を組んだ。刀がいつもの位置にあるのなら全く問題にならないとばかりに気配が軽い。荷の中の愛刀に落ち着かない心地がしていたものだが、いつもと同じ重みがある。
ゾロがいきなり抜刀するとナミを背に庇い刀を二本抜いた。同時に固い物がゾロの視線の方向からいくつも飛んできた。
「ぐおっっ」
「あうっっ」
「な・・・ぜ。一番さ・・ま・・。」
右手から飛んできた刃物はゾロを襲ったが、同時にその方向に背を向け全く注意を払っていない敵の剣士達も同様に襲った。ゾロは気配の変わった瞬間に抜刀しナミを庇って飛んできた飛来物を刀で弾いたが、対応できずにその刃物の餌食になる者が殆どだ。
ゾロの視線の方向は変わらず身体もそちらに向けて睨め付ける。
「誰・・なの?」
「良く解ったな。」
ゾロの視線の先の間道から影が立ち上がった。
「当たり前だ。殺気をぷんぷんさせやがって。」
ゾロもそ普段とはうってかわった凶悪そうな表情に暴れ出しそうな殺気と呼ばれる物を纏って立っている。

藪から現れた男は僧形だった。荒縄を腰ひもにして黒の僧衣を身にまとう。頭部だけは綺麗に剃られているのがなにやら不似合いだ。
「お前がここの見張り番って事か?鰐野郎の飼い犬が。」
「偽物とは一杯食わされたな。お前等が身代わりにここで死んでくれるという訳か。構わん。お前等を殺ってから智頭街道への合流すれば良いだけのことだ。
 だが姫の味方って事はお前も公儀の飼い犬だろう?しかも刀使いなら丁度良い。その方が殺り甲斐がある。」
にやりと笑う二人は互いに相手への視線を逸らさない。
既に勝負は始まっている。二人の間の空気の密度が一気に濃くなった。
呼吸する事すら苦痛なほど濃厚な気と誰も入り込めない緊張感が二人の間に高まってきた。先に口火を切ったのは僧形の方だった。
「自己紹介と行こう。俺は『一番』先に黄髪の男にやられた奴らとは格が違う。」
「俺はゾロ(雑朗)。こっちも先に戦った奴とは格が違うぜ。」

ゆっくりとした動きが始まる。早く動く事が出来ないかのように互いに制しながらの行動開始で、焦りは死を意味した。二人ともそれを判っている。男は右手を背中に左手を懐に差し込んだ。ゾロは両刀を構えて口に最後の一刀をくわえた。
「殺(つぶ)してやる。」
「上等。かかってきな。」
二人は笑みを浮かべたまま相手と向き合う事になった。



「な、自分の・・仲間まで・・・。」
酷い光景だ。男達は横からの攻撃など予測していなかった。それどころか味方と信じていただろうに。赤い血が流れてうめく男達。
その光景に唾棄しながら目の前の最上の獲物に興奮が抑えられないらしいゾロに半ばあきれながらもナミは背後から離れていく。ゆっくり見物という訳にはいかない。目の前にのたうつ男達の中には傷の浅い者もいる。これを巧くあしらわないと。
「下がってろ。」
剣客の気はナミの行動にも反応しているのだろう、声だけ掛けてゾロは構え、腰の重心を落とした。
そのナミの一言が戒めを解く鍵になったのか一人の気配が動き始めた。
「偽物相手にこれとは・・不甲斐なき・・・。」
どうやら男達の首領格のようだ。
「必要とあらば大人数の智頭の組に回る予定であったが・・・せめて・・。」
「なんですって!あっちには美々が・・・。」
ナミの悲痛な声にその首領格がナミの方を改めて凝視した。ナミは慌てているのか手を擦り併せている。
男は呼吸を改めてゆっくり起きあがる。ナミを睨みながら大腿と背中に大きな傷を負っている
「早く治療した方が良いわ。」
「ここまで関わればおぬしも同罪。姫より先にあの世に行って道案内をしてやれ。」
気力を持ち直したのか男はゆっくりと構える。大刀を青眼に。
「人の言う事は聞いた方が為よ。でも道案内は得意技だけどそんな所はごめんだわ。」
ナミは腰の棒を併せて擦っていた。彼女の得意は棒術だ。三本を組み合わせて相手を封じる事で世を渡ってきている。隙をつき、逃げる為の技で専門の刃物使い相手では心許ない。
相手もそう思っているのだろう。傷を負いながらもいたぶるような視線で睨み、するすると間合いを詰めてきた。かなりな距離まで近づいてもナミは動こうとせずにずっとその手を擦り併せている。後一歩の所で呼吸を溜め一気に斬りかかると斬った先からナミの姿は陽炎のように消え去った。
「なんだと??妖術か??」
後ろから声が掛けられる。
「失礼ね。科学というのよ。蜃気楼も自由自在。」
にっこり笑いそのまま男の後ろからナミは間合いに踏み込みいきなりその二本の先に付けた細い金属をを交差させ相手の首に押しつけた。
目の前で火花が散る。
「ぐぅおっっっっっっっ!!」
悲鳴とも付かぬ咆吼が上がって男はそのまま身体を沈めた。

「ふう。一丁上がり。ウソップの作るモンってハズレだらけだけどこれは使えたわね。あのゾロが一晩動かなくなったもんねぇ。それに猪把が教えてくれた人の弱点って・・・本当だったのね。」
江戸にいる頃エレキテルの話を聞いて手先の器用なウソップに作ってもらったこの仕掛け。棒を擦って電気を溜めるのだと言われて遊びで試していたら「俺のも擦ってくれ」とあまりに馬鹿な事を言ってきたのでふざけてその先端をゾロに向けた。ゾロが触った途端に意識を無くし倒れてしまい慌ててお医者を呼んできたが意識を戻しても体は動かず一晩起きてこなかった。
他にも霧を造り出すその力に天気の神の力みたいだとウソップに言ったら「天候棒」と名前を付けてくれた。本当は玩具のつもりだったらしいのに。使い方を間違えたのか作り方を間違えたのか?


「後はお仲間か・・・ごめんね。向こうの街道にも美々はいないの。これもハズレ。残念だったわね。
 さって道の交点はかなり城下に近いしそこから帰ってくるまでに一日の猶予が使えるかどうかだわね。まずはそいつ等がいなくなってるうちに城下に入らないとね。」
ナミの掛けた声は足下で意識を失った男には聞こえていなかった。

「せめてもの情けよ村の人に後はお願いしてくるから。」
ナミは倒れたままの首領格の懐から財布を抜いてその中身を数え始めた。
「これだけあったら村の人も何とかしてくれるでしょ。」





剣の交わされる音が響いている。口を開きながらもその摺り足の移動の速さは互いに劣らず見事な者だ。
「三刀流とは珍しい・・が刀が多くとも俺のように使いこなせなければ無意味だ。」
男達の刃物の切っ先は二人以外は見えていなかった。
僧衣の胸から腰から取り出す刃物の多彩さ、それら変わった得物を巧みに使い分ける腕の良さ。一番を名乗るのは伊達ではないらしい。
変則的に打ち込んでくる刃物を両手の二刀で受ける。受けながら踏み込まれてゾロの足はじりじりと後退していた。
「どうした。力も技も押されてるようだが?」
男の揶揄にむっとなったゾロの呼吸が乱れ、頬と腿に多少深い傷が付けられる。そこからさっと赤い血が飛び出しては服を地を赤の花模様で染めていく。
一番の長い右手の太刀を避けると左手の湾曲した輪状の刃物がゾロの身体の側を飛びやり過ごしたと思えば帰ってきてそれに背中と背側の腿を切られた。
致命傷ではないがいくつも付けられた傷は動き回れば失血を招き動きを鈍らせる。相手によっては薬などを塗り込む輩もいる。痛みよりも厄介なのはそれだ。
「刀の数に物言わせた破戒僧をいたぶる趣味はねぇよ。」
「刃物の価値は数ではない。だが僧形だと遠慮してしまって斬れないか??この姿は仮初めの物。この格好ならば宿も困らぬし、道に立てば勝手に寄進していく者もいるからありがたい。」
ゾロは一瞬無防備に得心した。ゾロのあまりに急な変化に一番は罠かと動けなかった。それを見てにっこり笑うゾロの笑顔はこの凄惨な光景とは不似合いこの上ないが、それはあくまで自然な彼だ。
「なんだ。
 なら安心した。ありがとうよ。昔育ったのが寺だったんでな、どうも嫌な気がしていたんだが、偽モンなら問題ねぇ。殺らせて貰うぜ。」
ゾロは改めて刀を腰に納めて街道の真ん中で仁王立ちに構える。


「良いだろう。お前が負けても言い訳されたくなかったんでな。刃物は・・切れ味が命だ。」
間合いは変わらないがまた重力が大きくなって二人にのしかかる。
「・・・・・・・同感だ。けど俺とお前は同じじゃねぇ。」
二人の口元には笑みが。
「何をいう。・・なんでも斬るのが剣士の仕事だ。何でも切れる刃物。それが出来るから剣士なんだ。」
だが求める道は違う。
「斬れるのは剣士だ。だが斬る相手を選ぶのが剣士だ。おめぇは俺の獲物だ。逃がさねぇ。」

しゃーーんしゃーーんと刃の合する音が谷間の村に響き渡る。一番の得物の数のぶん刃の会う音は多くなり不響を重ね、ナミの耳にも不快に響いた。そして数合打ち合った二人が離れるとゾロの身体まただ傷が増えている。着物も裂かれてその合間に見える肌の赤が肉の中まで見せる間もなく血を流す。
「見えぬのか?間合いも見切れぬ剣士の何処が強いのだ?俺の多数の刃物の間合いはそれぞれ違いがある。わからんか。」
にやりと氷の山から斬りだしたような寒風がゾロとナミを襲った。

間合いは読みにくいだろう。刃物の数が多すぎて次に何を出すかも読めない一番の技。
その余裕に一番が大きく打ち込んできた。

「いや。間合いは見えてるがな。」
その間にいきなりゾロの踏み込みは一番の懐深く入った。
一気に上から下まで振り下ろされて帰りざまに下から切り上げ、腹の奥に食い込ませる。
驚き逃げる間もなく一番はゾロの愛刀和道一文字と三代鬼徹の餌食となった。

「それが・・目的か・・。こんな・・踏み込んで・・自分が斬られて。それでも恐れねぇのか?」
「大事なのは“お前”の間合いじゃねぇ、“俺の”間合いだ。」
「けっっ。・・・・もう少しで千人切りが出来たって・・。」
最後まで語る事を許されぬまま一番はどうっと倒れた。

「刃物も獲物も数じゃねぇ。っってお前が言ったんだっけな。大事なモンは俺が決める。」
一番は無言のまま最後に視線だけを固めて意識を失った。

そしてゾロも。





ゾロが目を開ける前に何か冷たい物が顔にかかった。
「馬鹿、ちょっとやられ過ぎよ。」
少し潤んだナミの声。先ほどまででは聞かれない甘さを含んでいる。
その甘さはまたゾロの別の回路を開いた。
「でも終わったぞ。ッてことで今夜から解禁な!もう姫と従者じゃねぇし。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そんなこと考えてたの?この助平!!!倒れてる場合じゃないわ!とっとと行くわよ!」
横たわっていた姿が俄然起きあがってきたので特大の拳骨をくれてやると、がくっとゾロの頭は落ちた。その首根っこを捕まえてナミはぷりぷりと怒った足取りでその場を後にした。

後にはナミから頼まれ金子を受け取った村人が散々と縄を持ち出し男達を縛り上げている。その顔に糞尿を掛けたりかなりな嫌がらせをして関の役人を待つ事になるだろう。








そして美々姫とその問題な従者達は従者の持ち船の羊号に乗って海上にいた。







ここまでパクって良いのか???
良いんです。所詮三次小説だし。
軽やかに楽しく・・・・軽すぎて中身が浮いてるわっっっ

このシーンって無くても誰も困らないのに
時間を食ってしまいました。
才はなくとも愛故にっっ!
次回はもう一人敵キャラとサンジとチョパがでます





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