肆『長煙管と刻蹄桜』








闇夜だ。月も末になり細く細くなっている。早春の夜半の空気はまだまだ透明で凍り付きそうになる。だがその向こうには遠くの人家の灯も薄く見えるようになる。
城の最上階天守閣から外を眺めていたルフィは振り向いた。
「俺行くぞ。一番早い奴出せ。」
「一人になんかあったからって一々お前が出て行って良いと思ってんのか?立場ってモンを考えろ!
・・いえ、お考え下さい。」
「うるせぇ!言い直すな。
お前が昔言ったんだ!『国中の民を自分の仲間と思え。その仲間を守る仕事。それなら納得いくだろう。』って!だからあいつも俺の仲間だろうが!その仲間が助けてくれって言ってきたんだ。人の出来る事がしれてるんならおれは目の前にいる仲間全部助けるぞ。仲間を助けに行って何処が悪い!」
ルフィはいつもの逃げ出す時以上に真っ直ぐな瞳で煙を見た。背負っている紋よりも血よりも家柄よりも全てを越えた上に立つ者の真摯な瞳。人を従える者の瞳。
「お前が邪魔したって俺は行く!」
「殿!!」
闇夜の中二人の均衡は崩れない。
一方は立って外を眺めている。もう一方は座り跪いている。・・だがその頭(こうべ)はそのままもう一方を睨んでいる。
共に強き思いは揺らがない。
それこそがこの男達を銘々の職に就けている矜持。
一人は主であるが故に。一人はその主を護る為に。
寒冷な気候は過ぎ、春祭りも既に終えた春雷の夜だと言うのに。
部屋の空気が静かに。ただ静かに凍っていく。


「ご多忙の所失礼致します!!」
駆け込んできた声がその均衡を破った。
身分の常、駆け込んできてもこの部屋への入室は認められていない。
「良い。緊急時故、許す。」
聞こえてきたのは煙の部下の声。だが声を潜めて襖越しに伝わる声にはただならぬ苦悩が浮かんでいた。

「・・只今緊急の報で先日出航した船が火付けに会い大破し沈んだと・・・・」
「なんだと!何処でだ?下手人は判っているのか?乗船していた人間の安否はっっ?」
衝撃を受けていてもその間断を許さず煙の厳しい誰何が飛ぶ。
「今朝の浪速の港での出来事だそうです!!下手人はそのまま失踪。乗員に関しては・・・」
最悪の報告だ。告げている配下のものも事が事だけに表立たせることが出来ない為選んだ感情をことさら殺した男。だと言うのにその表に苦渋が満ちている。
「将軍家の船と判っているはずだというのに・・・・。」
判っていてやったのだとしたら、その方がむしろ恐ろしい。将軍家への威信を賭けた大事となる芽を含んでいる可能性が高い。
煙は振り返り下知を放つ。
「即座に四の隊五人衆に探索をさせよ。下手人と乗員の安否の確保だ!特に女性の安全の確保を優先せよ!」
「はっっっっ」
即座の指示に襖の外の影は一気に表に向かった。


寒い。室内の空気が一気に温度を下げた。そして重い。凍りそうに。
「煙。」
「は。」
「俺は行く。“羊”を出せ。」
主の言葉が重く・・重く放たれる。その指示は逆らうものの存在を認めなかった。
「判りました。」










「みんな早く帰ってこないかなぁ?」
すぐ帰るからと一人で残された船の上。また見送るだけの身になってしまった。麗らかに長閑な日差しの下、揺れる船の上からゆらゆらした霞の中、遠くには先ほど猪把が興奮していた桜が並んで見える。
まだ出会って数日も経っていないと言うのに・・あの風変わりな姿にもう慣れてしまって違和感は感じない。それどころか心配性で口うるさくて、日に何度も腕の湿布を変えてくれる優しい男の子だ。苦手だった薬の匂いも同じように慣れてしまった。その彼が浪速の港入りに興奮していた姿を思い出した。

「お、お〜〜〜〜う!!おっきい港だ!桜だ!!」
「うるっせぇ!興奮して走り回ってると海に落っこちるぞ!?」
騒ぐ猪把にまんざら煩くも無さそうな顔をした参児が声を掛ける。
「え・・俺金槌なんだよ!!落ちたら絶対に浮かんでこれねぇ・・。」
丸く開いた口が今度は細く菱形になって鼻の頭に脂汗が浮かんでいる姿も可愛らしかった。
「馴鹿の塩漬け・・旨そうだな。」
「止めろ〜〜!」

この二人の言い合いは何故か微笑ましい。猪把君は可愛いからつい構ってしまう参児さんの気持ちも判る。そして口は悪いが瞳は優しい参児さんのせいかもしれない。そう・・彼の視線はとても柔らかくて優しい。国で待っている民の優しい視線を思い出させるのか・・見られていないと寂しい気分になるのはきっとそのせいだろう。
「美々ちゃんもそんな端に寄ってると危ないよ。」
「大丈夫ですよ。」
「馴鹿は落としても美々ちゃんは俺が先に助けるからね。」
にこやかに微笑む参児を見て猪把がトコトコ足下に寄ってきて視線を落として美々に聞いてきた。
「美々は泳げるのか?」
「ええ。水練は得意よ。」
にっこり微笑んだ美々に悔しげに口元がぎゅっと固まった猪把は大声で騒いだが参児はあっさりそれをいなした。
「だったら参児!俺を助けろ!」
「そいつは毬藻の仕事だろ。」

くすくすと笑いを堪えきれずにビビは二人の会話を眺めていた。
毬藻とは剣士さんの愛称らしい。猪把君の故郷に近い所にある可愛らしい植物の名前だと言うからその段差がまた愉しい。付けられた当の本人は余りお気に召していないようだけど。その毬藻さんはまた船室で寝ているらしい。
寝過ぎでは?と聞いたら参児さんとナミさんが声を合わせて否定した。
「普段は役に立たないから良いの。」
「必要がありゃ勝手に起きてきますよ。気にすること無いって。」
良いのかしら?


なぜだかこの船の誰に対しても無用な緊張感がでてこない。
まるでずっと一緒に旅をしていた仲間のような錯覚に落ちる時がある。私の勝手な騒動に巻き込んで良いのかという気持ちも余り湧いてこない。ただありがたく感謝する気持ちだけで一杯になる。勇気をくれる。
そして密かに緊急事態で急いでいるのに・・このままのんびり旅をしてみたいという気持ちが心の隅にいることに気が付いている。

桜の花吹雪がさっと船に舞い込んできた。空は蒼。すぐに故郷に付けるはず。
海路が取れて本当に良かった。陸路では必ず峠を越さなくて行けない。故郷の山は途中で見た富士の霊峰のような高い山ではないけれど斜面は急で森が深くて案外迷いやすい。山道は慣れた者しか行き着くことは難しい。関所の普及は治安上必要だけれどこう言う時に不便だ。ナミさんには最初に怒られたが、江戸を抜ける時にも行けば何とかなるように思ってはいたけれどそれは甘かったと今更ながら思う。江戸はともかくも鳥取の関は既にあの男によって買収済みかもしれないと言う意見も今はもっともだと思う。自国故の甘さは命取りとなる。
でも国に入りさえすれば信頼できる者達は沢山いる。その彼らとの連絡を取る間がないので迎えに来て貰うことも出来ない。だから結構八方ふさがりなのだ。この船があって本当に良かった・・・。


徒然に考えているとふと背後に人の気配がした。
人と言うよりはこれは邪心の気配。何となく背筋に悪寒が走る。
大体、皆先ほど出たばかりだ、まだ誰も帰ってきてはいないはず・・・・・・。






「お休みの所を申し訳ないガネ。お邪魔させて貰うガネ。」
誰もいないはずの甲板の真ん中に爬虫類系の声がした。ぴたりと頭部に張り付いた髪。回った髷。大きな陶製の壷らしき物をその細身の体躯にも拘わらず軽々と背負った男が立っていた。
「絵姿の通り。お前が美々姫だな。けっ、こんな小娘位俺一人で充分なのによ。」
その横にもう一人。髪型が縮緬のように雷状に四方に伸びたこれも細身の男が黒尽くめの服を着ている。武具のように脚絆を蒔いた足から身体にぴたりと張り付いた黒服。
「あ・・あなた達は??」

聞くまでもない。
その奇妙な出で立ちは通常の武家の物ではない。何処にも所属しないならず者とか婆娑羅者と言われる者の装いだ。
そして自分は陸側の船縁に立っていた。掛けてある梯子も目の端に入っていた。そこからは誰も上がってなど来なかった。人が見ていて、でもその隙に船に乗り込める能力の持ち主。そして指の先から匂い立ちそうな充満する敵意。

「・・・馬六枠巣・・・。」
「名前までご存じとは光栄だガネ、しかしそれを知っているとなると余計に困りもの。それだけでも死んで貰わねばいかんガネ。」

じりじりと男達が寄ってくる気配がする。しかし彼らの足は微動だに動いていない。
今は胸に自分用の脇差しを一本入れてあるだけの軽装だ。長刀も手元に無ければ使えない。気持ちが緩みすぎていたのだ。臍を噛んでも遅い。

「さて・・この船も美しい。流石御用達の船は違うものだね。美しい物を破壊する喜びはこれまたひとしおだと思わんカネ?」
「御用達?」
その単語は・・・?
「あんたの美学とやらに付き合う言われはねぇ。とっとと殺らせて貰うぜ。」
黒服の男が美々の方に向かって歩き出した。
「爆弾なら一瞬で吹き飛んで後も残らねぇ。なんとも優しい殺し方だぜ。」
片手に細かい黒い弾薬のような物を弄びながら歩いてくる。
「五番。そう急ぐことはないガネ。まずは私が舞台を作って差し上げよう。」
そう言うと爬虫類のような冷酷な瞳は口元にだけ笑みを浮かべて自分の荷物を傾けた。中から薄く伸びる油のような物が出てきてあっという間に甲板を覆っていく。その色使いは虹のように沢山の色の渦を巻いて広がっていく。この晴天下の海に映えて美しかった。それに目を奪われ恐怖感が緩慢に広がり気付けば逃げることが出来ない。
「我が輩の蝋もさることながら我が相棒の色使いはいつ見ても惚れ惚れするガネ。」
笑った口元が寒々しい。
あっという間に美々の足下にも色蝋は広がって渦を巻くぬるりとした液体と寒天状の間のような触感なのに足に着くと吸い付いて離れない。足下にばかり視線をやっていた美々はいきなり胸ぐらを捕まれ持ち上げられた。和服が食い込んで呼吸が苦しくなる。手を外させるよりも巻物が心配でぎゅっと袂をあわせる。よく見れば男は蝋の上に立っていた。
「汚い足跡を付けるのは止めてくれたまえ!」
「こんなもんすぐ燃えちまうのにご苦労なこった。」
足元を見ながら五番と呼ばれた黒服はもう一度反対の手を開いた。
「さて、一人とは好都合だな。あんたに恨みはないが任務上仕方ねぇ。このまま死んで貰うぜ。」
男の指先から小さな物が幾つか飛び出した。先ほど弄んでいた粒を指を弾いて飛ばしたのだ。その行き先・・帆に舳先に誰もいない所に火の手が上がる。


誰か・・・・力が入らず視界がぼうっと遠くなってくる。苦しくて思わず目をつぶった。
無意識のうちに胸元に手を持っていく。







遠くから騒ぎが聞こえる。皆の顔は港の方に向いた。
火事だという声に走って向かう好奇心の旺盛さは都と変わりもなく人の本質を表している。
「火事だ!船火事だぞ!!今日港に入った船だ。」
瓦版さながらに情報をふれこんでくる男が騒いでいる。
「個人の船らしいぞ。」
流れてくる情報に港に向かって走る二人の背筋がぞっとした。確信はどんどん深まっていく。
「ゾロっっ!」
「行くぞ!ナミ!ぼやぼやすんな!」
「こっちの台詞よ!」






足下に付いた蝋は持ち上げられた美々の脚に一緒に引っ張られて伸びている。
「さて、お姫さん。俺たちの正体は知ってても自己紹介がまだだったな。あいつの名前は三番で蝋使い。蝋でなら捕まえるのも燃やすのもお手の物だ。俺は爆弾が好きでね。
俺たちは専門職だ。火と人殺しのな。死に出の餞に最少の労力で最大の効果ってのを見せてやるよ。」
美々が反論しようにも締め上げられた袷が苦しくて呼吸もままならなくなってきた。それでもきつく相手を睨む目だけは力を失わない。視線で人が射殺せるならその視線でこの男達は既に死んでいるだろう。そして帯の上に右手が重なった。
「・・・・・・・」
「あばよ。亡骸は船と一緒に火葬にしてやるよ。」

不敵な笑みを浮かべ完全勝利の予感に酔ったその時、五番は腕の下に熱いような冷たいような衝撃を感じた。それを確かめようと目をやれば赤い液体が滴り落ちている。認識する間もなく横から脳天まで吹っ飛ぶ衝撃が爆弾男の五番を襲った。横っ面に一発そして美々を吊し上げた赤い物が流れてくる手元にも一発。思わず体勢が崩れ、そのまま衝撃に飛ばされる。
五番の手元から零れた美々はそのまま崩れ落ちることなく抱きかかえられた。
「誰が人んち汚して良いって言った?」
煙管から漂う煙。優しい目。まず美々の右手の液体が彼女の物ではないと判りほっとした顔をする。
彼女の短剣はその美しい刃紋を紅に染めていた。
「それに・・・汚い手を美々ちゃんに出してんじゃねぇ!!!」
参児は一瞬で面を上げて怒気を含んだ目に代わりそのまま覇気を飛ばす。

一気に訪れた安心感と脱力感で名前を呼ぼうとしたが咽せて声にならなかった。美々は激しく咳き込んでしまって抱えられた参児の手にしがみつく格好になった。
「参・・ごほっっ児・・・さん。」
咽せる美々に気を取られた瞬間の隙をもう一人の男、三番は見逃さなかった。
どういう秘法か持ってきた蝋を一気に固めて参児の背後から投げつけた。気配に気が付いた参児が美々をかばいながら避ける。そのま蝋が美々の脚には絡みついているのに、参児の足下には滑剤となって足に絡まって安定が取れず逃げるには不都合この上ない。
抱きかかえられ掛けていた美々もそれに気づき自分の足の回りの蝋を短剣で外しはじめた。

脚を押さえられれば攻めも逃げも後れを取る。
続いて投げられた玉は狙い過たず美々を逃そうと振り向いた参児の背中に直撃した。ばきっと骨がきしむ音がして参児の顔が歪む。その衝撃は身体を支えられていた美々にも伝わった。同寸の鉄球を投げつけられたかのような衝撃をそのまま参児の背中は受けて、呼吸が一瞬出来なかったようだ。
容赦も間断もなく三番はその細身から一気にでる力とは思えない怪力ぶりでいくつもいくつも作った巨大な球を投げつける。投げられた珠はその衝撃で甲板を、船縁を破壊していく。蝋をひも状にして更に大きな鉄球を振り回す。まだ逃げられない美々の足下を外しながら庇う参児の向かって何度も打ち据えようとした。狙いを外したこれはまた船室を、
「私のことより!あいつを!!」
逃げきれずかかすった衝撃は参児の身体に衝撃を与えていく。
「参児さん!逃げて!!」
「俺ぁ大丈夫。くっそう!この脚さえ何とかなれば・・・・。」
振り回した球の重さに三番が疲労の息継ぎをした隙に蝋が外れた。
参児は美々ごと転がって船縁に逃げ出した。



「参児!」
船縁から猪把の声がした。帰ってきて燃えている船とその騒ぎに慌てて飛び乗って覗いた馴鹿は参児に球が当たる瞬間を見てしまったのだ。その驚愕した表情は参児の状体を瞬時に把握した医者の冷静な目と仲間への思いが半分ずつ独立している。
仲間の声に参児の張りつめすぎていた力が抜ける。
「遅ぇぞ・・・。」
「おい、しっかりしろ!!」
「俺のこたぁかまわねぇから、お前は美々ちゃん守れ。」
今度こそこいつ等を逃す気はない。美々をぽんっと猪把の方に押しやると新たなる力を得て参児は立ち上がった。


帆に。櫓に。さっき五番が蒔いた火薬の種は燃え上がっていく。帆は芯となって巨大な蝋を吸い上げながら燃え上がる。炎の中倒れたままうめいている五番を背中から踏みつけて参児は前に進んだ。
いつもの余裕のあるゆらりとした構えではない。歩くたびに呼吸の度に胸がきりきり締め付けられるが今はそれも痛みとして感じない。それでも煙管をふかして体勢を作るのはいつもの彼のやり方だ。
「人の留守に勝手してくれたな。」
「・・そうか・・貴様だな?『動物を連れた黄髪の背の高い男が美々姫を助けた』ふふふ、貴様の捜索も任務の一つだ。これは好都合だガネ。」
「その情報は間違いだ。」
「なんだと?」
「俺は『金髪の、背の高い、色男』だ!」
そう言って踏み込む。開始の挨拶は終わった。

傷よりも何よりも足下の蝋に苦戦する。脚に加えた力は蝋の摩擦にさらりと逃げた。
「こんな下品な色男などおらんガネ。もしくは金も力もなかりけり・・といった所だガネ。」
「お前に言われたかねぇ。逃げ足ばっかはやい・・・」
「己は傷を受けずに相手に勝つ。当たり前のことだガネ。」
間合いは届いて蹴り上げても力が分散されてしまう。参児の蹴りがまるで赤子のそれのようにかわされる。

炎は勢いを増した。
思わず周囲を眺めれば、もうもうたる煙と壊された船。使い物にならないだろう。そして足場となる甲板には吸い上げられどんどん燃え上がる色蝋燭。

(そうか・・・。まぁ一か八か)
参児の脳内に計算が走った。
そのまま勢いを込めた直線に蹴りまくり、参次は三番を船縁に追いつめる。
かするばかりで有効打にはならず、一蹴りごとに自信の身体がバラバラになりそうなのは明白だ。
それでも。
「おめぇに勝機はねぇよ。」
「世迷い事を昼だというのに寝とるのかね?」


どぉん!
背中にまた別の衝撃が走った。
参児の後ろから小粒の爆弾がぶつけられた。五番がまだ息があったのだ。

それを見た美々は駆けだした。胸元から刃物を仕込んだ細い鉄鎖をしゅるしゅる伸ばすとその先の水滴型に削られた刃物で五番の両手を切り裂いた。そのままその鎖を首に巻いて締め上げる。人の急所の頚動脈を絞めて落とす。国で教わった最後の技だ。必要なのは速さと機。力無くとも殺さず瞬時に意識を奪うことが出来る。
「鹿野の鉄の最上級のお味はいかが?もっとも味わう間があればだけれど。」


多少の火はともかくこれだけの炎は半身動物の猪把には少し怖い。
参児の料理を見た時に震え上がっていたのでそれもまたからかいのネタだったのだが・・・・。
それまでじっと見ていた猪把は三番の壷に向かって獣の姿になり駆けだした。動物の速さと人の知恵。巨大な人型に変わった猪把は最後の鉄拳を壷に向かって振り下ろしそれを破壊した。
「なんと言うことを!!この壷の値打ちがお前のような動物に判るというのか!!」
三番が慌て、叫ぶ。
「そうさ。これさえ壊せば蝋は消える。お前の武器はなくなる。判ってるから壊したんだよ!!」
人獣型に戻り振り返った猪把は言い放った。体毛が少し焦げ臭いけどそれくらいの価値はあった。

「でかしたぞ。猪把。これで食料から格上げにしてやる。」
言うが早いか参児は高く、高く脚を振り上げた。
火の勢いが盛んになればなるほど蝋は吸われて消えていく。帆から遠い所は蝋は吸い上げられて甲板が見えていた。がっちりと足場は確保できた。

参児の脚が三番の脳天を直撃した。


「ざまぁみやがれ。」
「参児さん!参児さん!!」
意識を失ったのはどちらが先か判らない。
遠くに聞こえる美々の声に笑みを浮かべる参児は煙管をくわえなおす間もなく落ちた。







短期間で一気に勝負!
ありがとう紙一重さん企画
やっと前半終了・・かな?






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