「地の蠍」−プロローグ−
宿屋の形態をとった店の雑誌置き場にその日の新聞は乱雑に放り込まれている。
オフィサーエージェントを名乗れば当然の権利として優先的に見ることができる。自腹を切るつもりなら個人購入も可能だ。この町には自分より上のエージェントが一対いるだけだ。ともなれば全てを優先させてもらっていてもまず文句の出ようがない。だが所詮ならず者の集合。上にいるというだけで気を抜けるはずも無い。全てに関わらない。隙を見せない。それだけは毎日変わりのない鉄則なのだ。
水色の髪をした細身の新入りmissウェンズデーはその日の新聞を手に取り眺めていたかと思うとつまらなそうな顔をしてぱたりと閉じた。そのまま立ち上がり新聞を抱えて立ち上がる。脇に置いてあった冷めたコーヒーを深呼吸の後に手に取り直して部屋へと向かった。カウンターの中の店主役はちらり一瞥をくれたから横目でその視線をすっと返した。いつもの冷酷そうな瞳に店主は慌てて視線をそらす。
幹部の部屋といえど、プライバシーが保たれているかは定かではない。薄い壁越しに、もしくは部屋の置物に視線があるかもしれないことは判っているので、独り言すら言う習慣は持たなかったが、さすがに今日ばかりは動揺を隠せなかった。もう一度手に中の新聞を小さく開く。記載された記事に変わりは無い。
聞き取れない様な囁き声で呟いた。
「・・・どうして・・待ってくれなかったの・・・。」
そんなに広くない石つくりの部屋の中には古い小さな机と椅子がニ脚。机の上の錆びた銅のカップは中ににごった液体を少し残したままずっと捨て置かれて乾いた跡が見苦しい。
机の上に詰まれた書簡は新聞の切抜きと他の町の被害の様子を伝える手紙たちだ。蜂起を促す手紙が主で、国のどこでもが同じ様な惨状である事を伝えている。雑多な書類の山の横に月日の変化を物語るように茶褐色に変色したものが束になって置かれている。何度も開かれて持ち歩き全てを暗誦できるまでになったいたそれらをコーザは手にとった。
窓の外で砂塵がぶつかる音がまた大きくなっていった。再び砂嵐がくるのだろうか。もう・・生まれたときから耳から離れたことの無い音だ。それでもまた深まる被害を思えば歯噛みする思いは変わらない。
乾ききった気候。人が生きていくには辛過ぎる気温。太陽にさらされれば焼け付く皮膚。砂は町を埋め、井戸を埋め。昨日栄えた町も今日は砂塵の坩堝と化す。人の営みのためにあるのではないこの砂漠。
それでもこの国が好きだったのは俺だけだったのか。
手の中の古くなった手紙の束をそっと取り上げ、凝視の後に左手で握りつぶした。
「決めたんだな。」
「ああ。俺達は王を撃つ。」
「わかった!皆待ってたんだ!早く来てくれ。お前の声を聞きたがってる。」
「・・判った。」
「早くしろよ。」
紅潮した顔の友は入ってきたときとはうって変わった軽い足音で部屋を走り出ていった。
反乱軍を名乗ること、それが喜びをもたらすという不幸への自嘲が口に残る苦味のように消えない。
窓の外は既に視界が利かないままでチャコールグレーの色に変わり、道路向こうの家の壁すら見えなくなっていく。
外を睨んでコーザは口の中のタバコ草をギリギリ噛んだ。
テーブルの灰皿の上の炎は一時大きくなって、つぶされた古い手紙をあっという間に消し炭にした。
「・・・・・・・・・お前が・・・・・・決めさせたんだ。」
To be continue
自分の周囲に喧嘩を売っているのか!?
と言うカプ話しをスタートさせました。
うーーん四面楚歌かも。
(石を投げられたりして・・。)
一応足だけ再登場に合わせ急発進しました。
但し。今後の本誌展開によってはここですら
書換えするかもしれません。
連載などできないので次回には全編出したい・・。