「Toy」2/3 (ナミとロビンと)

「勝負の前に一服しない?」
もう一勝負といった声はロビンの指さす方向に上がってきた二人の姿に頓挫した。
指定した大きめの酒樽ではなく酒飲み二人が隠しておいたとっておきの方をゾロが抱えてきたのが見えたからだ。

「あいつめ・・けどロビンも飲む?あれは良い酒よ。」
「私はコーヒーが良いけど、よく探し当てたわね。」
「迷子だけど一番大事なもんだけは嗅ぎつけるのよ。」
「例えば貴方とか?」
「ええ。それは当然。あと、ルフィとか揉め事の中心とかね。」

七武海のくまに『出来た子分』と褒められた時には照れるも、ナミはその辺りには全く照れはないらしい。
ロビンは声を潜めて聞いた。

「そんな男で良いの?」
「アラ、そんな男が良いのよ。」
「ごちそうさま。」


近くの芝生の草の音がざわざわとして、樽をこの男にしてはそっとナミの前に置いた。
「おい、持ってきたぞ。」
「うむ、ご苦労!」
「そう思うなら少しは俺の借金減らしやがれ。」

にやりと小振りな樽を間にナミと額を突きあわせる距離でゾロは唸ってみせた。
言っても無駄とは知りながらも口元は笑ってみせるが目は笑っていない。

海王類さえ射殺すような視線に睨まれていてもナミはにっこり微笑み返す。
そのまますいっと唇を左の頬に寄せてゾロの耳元の側に軽いキスをした。
「はい、運び賃。」
「!」

不意を突かれて何者にも動じない男が怯んで身を引いた。顔中真っ赤になってる。
ちょっと言葉も継げなくなった。

「・・・・こりゃ手付けだな。残りの支払いは夜に、だな!」
「さぁね。これでも充分だと思うけど?ま、あんた次第だし〜。」
「おい!」
また始まりそうな痴話喧嘩の阿呆らしさにロビンが肩をすくめるとフランキーと目があった。
男同士、向こうで何か聞いたみたいで口元がニヤニヤしてる。

「おいロロノアーーグラス忘れたろ。」
「また俺かよ!」
「アニキの言うこと聞きやがれ」
「けっっ!アニキはやめろ!」

むくれながらもまたキッチンの方に駆けだしていく。存外気のいい男だ。

「これからだったのに。」
ナミはフランキーに少し頬を膨らませてる。
「もっと遊びたかったのかしら?」
「よせやい。見せられるこっちの身にもなりやがれ。」
その答えににこっとナミは笑う。食料庫のあるキッチンの方を見る彼女の横顔は柔らかい。

「チョッパーにはわかんないのかしらね?晴れて自由になって。居たいところに居たい男と一緒に居られるって言う現実があれば大抵の事って乗り越えられるって。」
「最高の玩具だものね。」
「おいおい、あいつが可愛そうになってきたぞ。」
フランキーは肩をすくめてコーラの樽を抱えた。


共にいられるのは恋だけじゃないからだ。
絶対の信頼を得られる相手だからこそ過去にとはいえ傷ついた心と身体に染みこんで既に分かち難い。
得られて満足できて、だからこそまた一人で立つことも出来るのだろう。
独りで立ちながら甘えるときには無意識で玩具にするナミの横顔に沢山のものが浮かんで、日差しの中に溶けてゆく。





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