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空と海の狭間で-27


その時ロビンの胸ポケットに蛍光色の点滅が見えた。





「それは?」
ルフィに指さされてロビンは慌てて自分のポケットを見た。
「え?もしかして!貴方!貴方の服をナミさんに貸したりなんか・・した?」
「ええ?ああ。うん私のパーカーを。それがどうしたの?」
呼吸は落ち着いてきた。これなら答えられる。
「それなのよ!ほら、見て!」
興奮したロビンの手には皆のよりも大型のコンパスと点滅する信号を移す機械が付いていた。黄色い光が微かに点滅している。
「その・・言いにくいんだけど、貴方のお父さまは心配性でね。子供にGPSを隠して付けてたりするの。その・・・貴方にも黙って」
「ええ?!」
「今回も」
「今回も?」
ビビが真剣に突っ込むとロビンが困ったような笑顔を浮かべてる
「しかも高性能。小型なのにサーモ機能が付いてるの。消えるまでは人間の体温。その後の点滅は心拍の感知機能の簡易版。最新の機能が付いた誘拐対策のグッズらしいんだけどね。ほら、スパイ映画で見るでしょ?」

呼吸が落ち着いたはずのビビは口をぱくぱくさせた。話がいきなりスパイ映画になっちゃって驚くばかりで、パパに怒るとかそう言う次元じゃない。
ロビンの手の中の機械には蛍光色で点滅する光がある。
「今頃消えていた反応が出たって事は海に落ちて冷えてしまった人間の拍動を感じて居るんじゃないかしら?」
「じゃぁナミさん!!」
「無事かも知れないわ」
口の中に何かが溢れてきて声が出なかった。
もしかすると!いいえ多分!ナミさんだ!生きていてくれてる!!
感動がきわまって声が出ない。



が、一つ現実が目の前に降ってきた。

「・・・って事は私がここに来てるってパパは・・・」
「全部ご存じよ。『よろしく』って連絡貰ってるし」

ビビは開いた口がふさがらなかった。
じゃあ何のために偽造書類にサインしてるのよ!!
ビビは真っ青になってからこんどは真っ赤になった。髪の毛の一本一本が総毛立ってる。ロビンは気の毒そうに、それでも笑いをこらえられない顔をしてる。
「けど今回はそれが役に立ってるわ。きっとこれ、生きているナミちゃんよ。だから怒らないであげましょうよ」
「もうパパったら信じらんない・・・・」



フランキーはロビンの報告に大きな眼を更にぎょろりと見据えた。近くならもしかしたら拾いに行けるかもしれない。少なくともセンサーとして使えばオールジャクソンでフランキーが一人で迎えに行っても良い。
「で?ニコ・ロビン?あいつらの信号は何処だ?どっちに向かってる?」
「南よ・・これは・・」
機械を携帯用のフランキーのパソコンに繋いで地図と点滅が重ねられた。
そこは・・・。


「ラフテル」
「見事だな。流されて海流に乗ってここまで行きやがった。良いのは運か、それともあの嬢ちゃんのことだ知ってたか?最悪お嬢ちゃんだけとか服だけかもしれねぇが。」








嵐は収まりつつある。
船内はにわかに活気づいた。
ナミが生きているかもしれない。ならばゾロだって。しかも先にラフテルにたどり着いてるかもしれないなんて。

「駄目だ。おめぇらはこのまま帰るんだ」
浮かれた4人の背後からフランキーが冷静に言い放った。
「ええ?!」
「なんでだ!このまますぐに行こうぜ!」
サンジが叫んでもフランキーがこのまま二人を探しに行くことを拒んだ。
「お前らの集団脱走の後、二次災害は許されない。このまま一旦帰るべきだ。それが大人の常識ってもんだ」
太い腕っ節は揺るがない。

「そんな大人のへ理屈なんてクソっくらえ!」
「もしナミさん達に今から何かあったらどうするの!?」
「サンジ!ビビ!判れ!」
「そんな!勝手よ!」
「お前らの無事はさっきの時点で当局も確認済みだ。そう言う奴らが結果的になにかに巻き込まれたらかえって事件が増える。そいつを二次災害って言うんだ。朝までここにいれるんならこのままいて、そこから帰るのが一番良い。今オールジャクソンにいる奴らと俺が交代して迎えに行ってくるから待ってろ」
オールジャクソン号は小さい。機能は高いが外海の乗用には向かない。5人乗りくらいのボートに近い。
サニーとのリンクは一番確実だったからもう一人運転手としてザンバイを連れては来たがこちらには全員は乗れない。
帰りが二人増える予定ならなおさらのこと。

ルフィは船の舳先をじっと見ていた。
静かに振り向くと騒いでいる彼らに向かって断固とした声で告げる。

「フランキー。俺は帰らねぇ」
「おい?お前船長っつったよな?その船長のお前が不味い判断してどうする?」
サンジとビビを軽く流していたフランキーはいきなり声を低くした。ルフィの声が何故か重い。その重さを感じてフランキーは真正面を向いた。ルフィの言い分は非常時には通らない。大人として通さない。通すわけに行かない。

「俺は何があってもラフテルに行く。お前がこのまま帰るんなら俺はここから飛び込んででも行くぞ」
「やかましい。おめぇみてぇなカナヅチが何を言ってんだ」
フランキーはこの船唯一の成人と言っていい。責任も全てを背負う覚悟でここにいる。
だから譲れない。

けどルフィもその心を賭けてる。譲る気はない。

「・・・・フランキー。連絡、本部につなげ」
「どうする気だ?」
繋げと言うからには連絡だ。本部といってもいったい誰を?小学生が知ってる人間などいるはずがない。
「俺が、じかに俺は帰らねぇって言う。本部を、理事長を捜してくれ」
「なんでだ?!なんでお前が秘密とされてる理事長を知ってる!?」
これにはフランキーの方が驚いた。まさか出るとは思っていなかった名前だ。

「その秘密にされてるはずの理事長が俺の保護者で責任者だ、今はどこにいるかしらねぇけど世界中を探せ」
ルフィがすでに命令口調な事を誰も違和感を感じていなかった。
どこから来るのか、命令する者の強さをルフィはその身におっていた。


「理事長って?」
ロビンが口にした。今、この時点で何故その名前が?それもいったいどういう知り合い?疑問は溢れて一番単純な言葉になった。フランキーを見上げると厭々ながら説明してくれる。

「ああ、ロジャーの後の理事長の代替わりは色々な失敗を重ねた。このグランドラインが成功例としてあがってながらもトラブルの塊だって事は・・あまり知られちゃいねぇんだ」
指でお金のサインを示しながらフランキーは続ける。
「金の問題があってな。金の絡んだ企業が手を出してきてこの企画がつぶれかけたことがある。だから今の理事は正体不明と言うことで副理事のおつるさんが仕切って、それで妙な均衡を保ってる。この辺りは裏話でよ。企画が毎回もめて綱渡りになってんのもこのせいなのよ。お前らの毎日が観察もされてる。それが来年の企画に、予算に、計画に反映されてる。だから子供の安全は最重要課題の一つなんだよ」

なんでこんなガキが・・とぼやきながらも説得に困ったフランキーはルフィの言うとおりに本部に伝えた。そこから果てしない連絡待ちの時間が過ぎる。


長い、とても長い時間。情報は人と人を介して錯綜しながらも光速で動いているだろう。時間も空間も違うのに世界は繋がり、人も同じように繋がっている。今、ここが静かなだけで世界中は脈々と動いてる。
総責任を背負う管理者は今、日本には居ないという。今はその人が捕まるまでうごけない。
「お願いだから待ってて」
通信機の向こうでオペレーターが囁いた。


ぴかっと通信機のライトが点滅したのをウソップは見逃さなかった。
「き、来たぞ!」


「allo・・おい、ルフィ?出ろよ。聞いたぞ。そこに居るんだろう?それとも時差のせいか?今そっちは何時だ?」


通信機のマイクは既にスピーカーにつながれていた。想像していたよりも若い声が流れてくる。フランキーとロビンが驚いた声を殺す中ルフィはそのマイクに近寄った。
キャンプ管理者の、このキャンプの全責任者の名をルフィは口にした。

「俺だ。シャンクス。今は夜。えっと夜中の3時だ」
「おいおい、ガキは寝てる時間だぞ」
「今から仲間を見つけたら寝る。だから行かせろ」
「お前なぁ・・聞いたぞ。けどそんな時間じゃ無理だと言ったら?」
「お前が俺をここに送ったんだ。ラフテルに行かずには俺は帰らねぇ」
「それとは別だろ?」
「仲間は大事にしろっていったのもお前だ。ゾロもナミも俺の仲間だ。絶対に見つけてくる。んでラフテルに行く!」
電話の向こうでため息が聞こえた。ただ・・それは満足そうなため息のようにも思えた。

「ロビン・・・いるか?」
囁くような声だった。ロビンは深く息を吸い込んだ。
一歩、静かに前に歩み出る。
「・・・・ええ。けどここで貴方と会うとは思わなかったわ」
少しの沈黙が二人の間を流れる。時間が重みを増す。
「そちら・・雨が降ってるの?」
声の背後に幽かに、雨の音がする。
「あ?・・ああこっちのこの季節は案外良く降るな・・・判るか?」
「そうね。懐かしい音だわ」
懐かしい。ふるさとの雨の音が聞こえる。今のシャンクスの在所が初めて判った。
何故黙って行ったのかも判った気がする。
「ずいぶん遠くまで探しに行ってるのね。貴方の捜し物」
当時二人の間の見なかった逼塞感。ロビンは家庭の愛に飢え、シャンクスは新しい世界を欲していた。
互いを埋めるパーツを相手には見出せなかった。だが辛くてそれを口に出せなかった。
「ああ。で、お前は?少し・・見つかったのか?」
「・・・そうね、ほんの少しだけど。貴方は?」
「まだ・・もう少しかかる」
シャンクスは決して待っていろとは言わない。ロビンも言わない。今なら少し・・判る。あの時の二人のままでは共にいることができなかった。
「私にも時間が必要だわ」
「だろうな」
そう・・
「この子が・・置いていった貴方の宝物ね?」
ロビンはルフィを見た。マイクの向こうでシャンクスはしばし返事をしなかった。ロビンにはそれだけで充分だった。
「ついてやってくれるか?」
「都合よすぎるわ。貴方って・・黙って行ったこと、誤りもしないでひどい男ね」
きつい言葉と裏腹にロビンの表情はとても優しい。声もとても甘い。
「俺の代わりに・・頼む」
「いいわ。私も興味あるし」
ロビンは自分の言葉で会話を打ち切った、そのまま受話器をフランキーに渡す。

「ああフランキーか?船は大丈夫なんだな?視界は?夜明けまで無理か。なら夜明けを待って晴れたらと言う条件付きで許可しよう。それは譲れんぞ。そこまできちんとガキ共に仮眠取らせとけ。それから!」
「なんだよ久しぶりに会っても言いたい放題なのは全然かわんねぇな」
旧知の仲らしい気安さが二人の間にある。
「頼む。全部 全部を見てきてやってくれ」
シャンクスの依頼はフランキーにとっても意外だったらしい。
「俺で良いのか?」
「頼めるのはお前だけだろう」
フランキーは珍しく黙った。ルフィを、サンジを、ウソップをビビをそれぞれじっと見つめる。最後にロビンの方をじっと見た。
「わぁった。全部だな」


「ありがとよ!シャンクス!フランキー!」
ルフィはそのまま受信器を奪って礼を言って、いきなり切った。





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