空と海の狭間で-11 ★ バンガローはさすがに男女に分かれていたのでほっとした。部屋は四人ずつで他の班の女の子が二人いた。先に部屋に入っていた彼女たちは頬を染めながら手を振った。自己紹介によるとそれぞれ四年生と五年生らしい。一人は腎臓が少し悪いのだと言っていた。もう一人は病気については何も言わなかったし、自分たちのことも話しにくいので学校名と名前と学年だけ話しておいた。それくらいしか話している間がなかったのだ。 壁に備え付けの二段ベッドの毛布と枕をそれぞれ配られた。たたみ方の説明を聞いて、自分の荷物を片付けた。ベッドはじゃんけんで。ビビが下。ナミは上。 一度ベッドに転がって起き上がった。上から覗けばビビはさっき配られたしおりに目を通している。 「さて、今からはどっちに行こうか。」 大ホールで虫の観察と虫かご作りと帽子作り、もしくは浜で海の生き物の観察。 日焼けは嫌だが屋内の日陰よりはやはりこればビーチだろう! 「やっぱり虫より海だよね。」 帰ってきたのは質問の答えじゃなかった。 「どっちだと思う?!!」 「うわっ。何?ビビってば耳元で大きい声出さないでよ。」 「どっちでも良いなら浜に行こうよ。あー班行動かなぁ?あいつらどうするだろ?」 「ちがーーう!あの女よ!」 2人に聞かれても違和感の無いように小声で、でも爆発してる。 「えっと・・ロビン先生は担当は磯って書いてある。」 「じゃ、きまりね」 「うん」 泳がない程度の海は楽しみ。なら短パンで行こう!長袖の上着は日焼け対策。 ********* 「すっげーーーーーー!真っ青だぁ!!」 ビーチの脇に入り江があった。岩がちなそこから降りていくと右手には真っ白な砂浜。こんなに白い浜なんて見たこと無い。砂としては足の裏にちょっとちくちくして痛い。そして白い浜はエメラルドに近い色の海に続いてる。 海の青。いいや碧。写真でしか見たことのない海がそこに広がっている。そして空も同じ青水平線でつながった世界は広く広く。ここの空気を吸うだけで別世界に来ているトコを感じる。 「ここの砂は珊瑚礁だからね。ただの砂じゃないよ」 みんなで言葉もなく息をのんでいたらスタッフが説明してくれる。聞いては居たけどこんなに綺麗だなんて。 「いやっっほう!!!!」 「脱ぐなよーー!焼けるぞーーー!」 「泳ぐなーーここは泳げないぞ!」 どう見ても上にシャツを着ただけで下は水着になっていそうな男子が我先に飛び込もうと走り出した。割合元気なのはナミ達の班だけではないらしい。 数人が駆け込んだ後には色の白い連中がゆっくりと歩いていたり、椅子ごと運んで貰っている子もいる。 雰囲気がのんびりしていて学校のキャンプとはちょっと違う。 「あまり陽に当たりたくない子はこっちの岩陰にお出で。カニとかいろんな魚が居るぞーー。」 「やった!」 「つれてって!」 走れない子供達の方からわっと声が上がった。 「どっちにしよう?」 「両方!!まずビーチ!それから岩場!」 みんなの声が南国の色に染まる。 「運んで欲しい子は言いなさい!椅子は後で洗うから海にも入れるわ!」 「濡れたからって泣かないでよ。」 「綺麗!」 「あ!魚だ!!」 「どこに?」 「いた!」 そこかしこで嬌声があがる。 ビビとナミも最初はおそるおそるビーチサンダルを履いたまま磯に足を踏み入れた。濡れても良いように足は短パン。日焼けの予防もかねて上のシャツを脱ぐ気はない。けど予想よりも遙かに温く暖かい海に改めて南国だと意識が強くなる。 足の上に真っ白な砂。足にまとわりつくのも少し尖った白い砂。 膝の上まで水に浸かっても足がはっきりと見えている。もの凄く透明度が高い。 「くすぐったいね!」 「みて!魚が来てるわ!」 ビビはつばの広い帽子をかぶっている。裾の広めな白いパーカーはこの世界に溶けそうだ。 人の少なめの真っ白な砂浜は見晴らしも良くてとても良い気分。 ところが。 「それ!」 いきなり後ろから海藻付きの水が降ってきて、そのまま足下がよろけた。 尻餅をついてしまい、帽子も服も一気にずぶ濡れになる。髪もみんな。 「きゃあっ!」 なんにせよいきなりはきつい。 「ルフィ?何やってんのよ!!ちょっと!待ちなさい!!」 「待ってナミさん!」 「許さないッ!」 砂浜のおいかけっこではどちらも条件が悪いはずなのにルフィは結構速い。身の軽さに自信のあったナミは少しショックだった。 「おっと」 「ぐえっ」 追い掛けざまに砂浜で何かを踏んだ。 ゾロの手だった。躓いたその間にルフィは距離を離して逃げてゆく。 「何でこんなところで寝てるのよ!ルフィのお守りは!?」 「ちょっと転がってただけだろ!」 「何でまた寝てるのよ!砂浜見たら遊ぶとかが普通でしょ!かといって濡らされたあいつは許す気はないけど!」 「なるほど、トレーニング向きの砂浜だよな、けど」 ゾロがぐるんと起き上がった。体から白い砂がこぼれ落ちる。 「いや、俺らは今からやることあるからな。そうだ、先生に見つかったら面倒だからナミ、お前あの女と誤魔化しとけよ」 「ええ?」 「同じ班だろ。怒られたくなかったらだが」 「何するの?」 「ちょっとな」 それ以上話さないゾロに埒もあかず放って戻ることにした。 濡れて浜に上がったはずのビビを探すと岸に近い所の岩に座り込んで下を向いている。 「ビビ?」 「ごめんなさい・・ちょっとナミさんの後に続こうとしたときに何か踏んじゃったらしくて・・」 足から滴る真っ赤な血が海水に混ざり海と白い浜を染めていた。 「ビビ!?」 「多分貝。大丈夫、そんなに痛くないから」 「そんな所我慢する所じゃないわ!待ってて!誰か呼んでくる!!」 ナミはくるっと振り返った。ルフィなんか追いかけてる場合じゃなかった!駆け出すと見えた人影。 「すみません!!・・・・・・あ。」 よりによってロビン先生? どうしよ・・ビビが・・ 「どうしたの?」 ままよっ女は度胸、あたしもビビも! 「ビビがケガを・・」 「ええ!!!!」 駆けだした先生は速かった。クラスでも速いあたしが敵わないなんてと思うくらい。 先生の後ろから走っていくと彼女を見たビビが凄い顔をしているのが目に入った。けど仕方ないじゃない。 「大丈夫?!ミスウェンズデー!?」 駆け寄って流れ出ている血の量に先生は蒼くなった。 「・・大丈夫です」 冷たい声で言うビビの顔も真っ白で能面のよう。 「すぐに処置しないと」 「大丈夫ですから構わないでください。きゃ。」 ロビン先生はビビをじっと観た。問答無用で切った方の足を高く上げ、持っていたハンカチが小さすぎることに舌打ちをして当て布にしてそれを自分の白い長袖の上着で捲いた。そこからでも血が滲んで白い上着が赤く染まる。 「さあ」 そのままいきなり背中を見せた。 おんぶ? 「必要ありません、歩いていけますから」 「無理よ砂地を舐めないで。問答無用のお姫様抱っことどちらが良いの?」 ビビの白い顔が少し赤く染まった。唇を噛みしめている。 「けど歩きます!ナミさん肩貸して」 「そうするとまた転ぶの。出血も止まっていないから貴方の意見はとおらない。なら抱えていくわ」 「やめて!」 ビビは渋々ロビン先生に背負われた。 もの凄い顔で。 「良かったわね、大きい血管切れてなくて」 外科の医師と名乗った女性は腰までのストレートなピンクの髪をサラリと流して微笑んだ。 感染の危険性もあるから縫わずにテープで留めるだけと言ったのにその前の洗浄で使われたブラシにビビは悲鳴を上げた。 「切れたところも少ないしちゃんと歩けるし動けるでしょう。濡らすくらいならその時に被覆用のテープをあげるわ。けど派手に踊ったり飛び跳ねたりは止めてね」 カルテ代わりの報告書にサラリと病状をしたためる。薬も分包された物を机の上の薬の引き出しから取り出してビビにくれた。 彼女は薄い唇をつやつやに輝かせて笑いながらビビの背後に話しかける 「ロビン先生。幾ら外科系じゃなくてもその蒼い顔はないわよ。一体どんな重病かと思ったじゃない」 「すみませんヒナ先生。私、焦ってしまって・・。ありがとうございました」 「はいこっちよ。持ってってね」 軽く言って先生はバイバイと手を振ってくれた。ナミだけが手を振り返し。 海辺の簡易診療所の部屋を出てもビビは俯いたままだった。 横を歩くナミがビビの肘を突いたが反応はない 「えっと・・先生ありがとうございました」 あたしが代わりに言うのも変な感じなんだけどビビは口を開く気配がない。 「いえいえ大事に至らなくて本当にホッとしたわ。ごめんなさいね。私も出血には弱いので」 切ったところが足の裏の内側に当たるところなので歩けない訳じゃない。ビビはびっこを引きながら付いてくる。 「所であなたたちは班行動ではないのかしら?彼らはどうしたの?」 彼ら? 「あ!!!」 ほったらかしのまんまだわ。あいつら何やってるんだろう? ************* 「浜遊びと?」 「室内工作」 男部屋は畳の部屋。広いからもうルフィが走り回ってる。 「な、後で枕投げしようぜ!」 「それはあいつらが不味いだろう」 2人が頷いてほっとした顔をした。喘息持ちには埃の乱舞するようなことは厳禁だ。チョッパーがそうだけにゾロは知っていた。同室には斑4人と後2人の他の斑のヤツ。この部屋に泊まる連中は手足は問題がないから特殊なベッドは要らないが、その分問題は体内にある。 「君達はどっちに行く?」 彼らが聞いてくる。 「・・・・浜に決まりだな。ナミちゃんとビビちゃんも先生達も水着かなぁ?」 「俺はどっちでも良い。どっちにしてもだりぃ」 サンジとゾロが意見をまとめたところでルフィが腕組みをして頬を膨らませていた。眉根が怒り顔だ。 小さいのが怒ってても問題にはならないが気にはなる。 「どうした?キャプテン?」 不満をあらわにした声でルフィが受けた。 「何でお前らが行き先決めるんだ?」 「はあ?」 彼の主張が判らない。 「決めるのは船長だぞ!」 「だったら行きたい所あるんなら『船長の』お前が言えばいいだろ?」 ルフィはふくれた。 「だから俺は浜に行きたいんだ!」 その答えにもっとゾロとサンジは混乱した。 「お前『も』行きたいなら全然問題ないだろ?」 「いーーやーーだ!『俺』が行きたいところを決めるんだ!」 だだっ子の意見にはつきあってられない。 「・・・・つきあってらんねぇ」 「言ってろ、馬鹿」 「浜に来るのだって俺が決めるんだ!俺は船長なんだ! もう、おめぇら勝負だ!ゾロ!サンジ!俺と船長の椅子をかけて勝負しろ!」 「あ?ガキがうるせぇぞ。」 「やりたいんならお前が班長で船長でやればいいだろ?」 「いちいちつきあってられるか。」 チョッパーは穏和な奴だから家ではこういう喧嘩は無い。こういうガキの反応は道場のガキ相手みたいなモンだ。関わることはない。ゾロはそう決め込んで無視していた。サンジも更に同様らしい。相手にしてない。 「じゃ!これでお前らの負けだな!」 ルフィは高らかに宣言する。 「なんだと?」 ゾロが先に反応した。 「待ちやがれ勝手なこと言うな!」 「勝負から逃げれば負けだろ?違うのか?」 ちょっと待て、それは認められない。 「ガキの理屈だ。のれるかよ。キャプテンやりたきゃ勝手にしろ」 サンジは向こうを向いたままあしらう。 「おう!だからお前は俺の部下だな!ちゃんと飯作れよ!」 「・・・・まて。誰が部下だ?」 「お前はそれで良いんだろ?」 「おーーし。一学年の違いってヤツを教えてやる」 ゾロもサンジも結局負けることは嫌だ。 「よーーーし何でも持ってこい!俺の実力を見せてやるよ!」 「俺が負けるかよ。」 ゾロが叫べばサンジも静かに睨み付ける。 「おし!どっちが長く潜っていられるかだ!」 確かに。今から浜へ行く。浜の先には海がある。透明度の高い海がある。 男同士の決闘場が。 ******* ナミに軽く告げておいたゾロを含めて四人一緒にビーチからこっそり岬の方に回った。 こっちは泳ぐ用で深いから今は入るなとさっき釘をさされたところだ。 ほとぼりが冷めるまではおとなしくしていて、そのままそっと皆の集団から外れた。 「ウソップが判定係だぞ!」 ルフィの声に嫌そうに、でも頷いている。こいつはルフィとは仲良くなったようだが巻き込まれたという方が正解かもしれない。そもそも俺たちだって巻き込まれた感が強い。 泳ぐことも潜ることも得意でもないが不得意でもない。 自分の場合手術は胸だったが呼吸も心臓もいじった訳じゃないから傷跡の割には自信はそこそこにある。 サンジはゆるめのシャツを脱がない。着衣で入るつもりらしい。部屋でも一気に素っ裸になったルフィとは対照的に大きなタオルで隠しながら隅で着替えていた。男同士で脱ぐのが嫌もクソもあるもんかとおもうが関係ない。 「ルフィ。お前、俺に勝てると思ってんのかぁ?」 「オレが勝つ」 「・・・」 三人の間の睨み合いも続いている。 「せーの!」 水中眼鏡はサンジのゆるめのシャツのポケットに入れて持ってきた。 三人一斉に潜り込んで水中で沈んでみる。そんな沖に行ったわけではない。深度をゾロの腰の辺りで用意したのはルフィとの身長差の分だ。潜るだけなら頭を出さなきゃ良い。 心配したウソップのゆっくりと言葉を選んだ提案は最もだった。ゾロもサンジも異存がない。自分の意見を受け入れられたウソップはもの凄く嬉しそうな顔をした。 潜水時間を競うなら動かない方が保ちが良い。ゾロは尻から沈んで腕組みをしながら目を開けた。そのままルフィの方をレンズ越しに見て驚いた。驚いて目をこすりそうになった。 そしてサンジはと見ればこれもまじまじとルフィを見ている。驚いて体内の空気毎吐き出してしまいそうになって呼吸が零れていかないよう口を押さえた。 (おい!?ルフィ?) 水中は浮力があって浮いてしまうからそれを必死に押さえている……身体を一回転ぐるんと海の底で回ってみる。手で口を押さえて。なのに足と身体の動きがバラバラ。 なんだか動きが変だ。おぼれているといった方が近い。 (まさか?こいつカナヅチなのか?) サンジとゾロは互いの目で確認をした。これはやばい。 二人慌ててルフィの身体をつかむ。そのまま引っ張り上げようとするとルフィは首を振って抵抗した。抵抗ついでにもう白目をむいてる。なんだかおかしい。これはやばい。 有無を言わせず砂に両足を踏ん張ってサンジは肩を、ゾロは腰の辺りをつかんで暴れるルフィを引き上げた。 「馬鹿か!」 「何考えてるんだ!」 「「カナヅチがこんな勝負で勝てるわけねぇだろ!」」 水面で怒鳴るゾロとサンジの大声に慌てて先生達が走ってきた。 皆で引き上げたルフィの身体を確認する。呼吸は大丈夫、水もあまり飲んでないみたいだ。 肩で息をしながら横たわったルフィがゾロとサンジを見上げてにやりと笑った。 「・・・・けど俺の勝ちだ。オレの方が潜ってる時間が一番長かった。・・俺が船長だ。」 「この大馬鹿野郎!」 馬鹿に付ける薬なんてない。 それよりこいつはチョッパーよりも目が離せない予感がする。なんて手間のかかる奴! 「あんた達!よりによって勝手なことしてんじゃないわよっ!!!!」 遠くから先生達がすっ飛んできた。走ってくるナミの怒号も一緒に聞こえた。 ロビン先生は怒らない。困った顔で笑うだけだ。 問答無用で連れて帰られて男の先生達の説教は長かった。 もの凄く長かった。 同じ班と言うことでつきあわされたウソップには悪いことをしたと思った。 けどそのウソップも止めなかったんだから同罪だと先生達は言う。 先生の怒号は半分だけ聞いて、正座は慣れてるから気にならないゾロは足がしびれて動けないサンジを見てにやりと笑った。 俺が勝ったね。 「お前ら、説教はここまでじゃ。今の説教の間に皆にはこれが配られとる」 コピー用紙に日付と枠。 「毎日、寝る前に提出。普通は楽しかったことを書けと言うところじゃが、お前らのは今日の反省文をかけじゃな!一応ワシらへの恨み言を書いても構わん、別に採点というわけではないので好きに書け」 「ええーーーーーーー!!」 「本人とワシら以外は見せん。そこは秘密を守る。困ったことが言えなんだらここに書け」 カク先生はパウリー先生の話ばかりが続きそうな所を打ち切ってくれた。 長い説教が終わり部屋に帰る前にロビン先生が声を掛けてきた。 「サンジ君もゾロ君も良いお兄さんみたい。ルフィ君のことよろしくお願いね。」 思わずむせた。 あれだけのトラブルメーカーのこれでも俺たちに面倒をみろというのか? 普通はありえねぇだろ? 問題児は引き離されるぜ? ロビン先生は大胆なのか無謀なのか? 「あ、は〜〜〜い!わかりました!」 横でサンジが軽やかに返事をしていた。何でこいつは先生の前での方がいわゆる良い子なんだろう?部屋で俺たちばかりの時には普通のちんぴらみたいなのに。 先生が廊下を向こうに行って姿が見えなくなった。 「ということでおい、よろしく頼まれろ」 サンジが俺を指さす。お前が受けた一件を何で俺が面倒見るんだ? 「お前の方がお兄さん適役だろ。面倒見の良いお兄さん。」 「俺は一人っ子だ、それにお前が子守係を当てたろ。」 「何でここまで来て子守しなくちゃいけねぇんだよ」 「ゾロ〜〜!サァンジィ〜〜風呂行こうぜ〜〜!!」 ウソップと並んで遠くからのんきに手を振るルフィの声を聞きながら、がっくり来た。 なんだか自分は負けないはずなのに、なんだかもう勝てない気がしてる。 「なぁ、貧乏くじって信じるか?」 「信じたくねぇ」 施設の風呂はそんなに大きくはなかった。7〜8人くらいで一杯になるから順番に。班毎で入るように指示された。 ルフィが脱衣もそこそこに走っていく。 「おい片付けろよ!」 その答えもないままどぼん!と大きな水音がした。 「掛け湯してから入れっ!!!」 サンジが怒ってももはや聞かないらしい。そのサンジは脱いだ途端から腰にタオルを巻いている。 入り口のかけ湯もきちんと体を流したし、静かに入湯を楽しむ。 「極楽極楽」 普通はただ洗って浸かって上がって洗う。 野郎同士の入浴ではやることはシンプルだ。 隣に並んだシャワーでちらりと競争が始まる。 「クソが」 ロロノアの野郎。もう生えてる。 ちょっとというかかなりむかつく。 「ん?」 「なんでもねぇ。」 「悪かったなでかくて」 ・・・・今のはなんだ!!鼻で笑ったな!?もの凄くむかついたぞ!!だいたい大きさとか言ってもそんなに・・。 もう一つ横では静かに湯をかぶってる奴がいた。 長鼻のはだれよりも長かった。 「・・・・・・・・」 長げぇと思って威張るなよ! なんのことかとウソップは首を傾けた。 「俺も洗うぞーーー!」 真ん中に座ったルフィに、(でかい・・)サンジは声が出なくなった。 男の子達は適当だ。ごしごしと泡が立たなくてもいいし湯も適当に流す。泡が残ってても気にしない。 ルフィがゾロの身体を覗き込んで口をきいた。 「いーなぁ。ゾロのって大っきいよなぁ。そっちの方がかっこいい」 ゾロは見返した。 「そうか?お前の方がすげぇ。」 ゴシゴシと泡が体を覆ってゆく。 横でサンジが切れた。 「そんなもん自慢しあうなよ!」 「そうか?」 「まぁ自慢してもつまらんだろ」 「だってゾロのは服着てたらわかんねぇし」 「しかし縦横に走ってるな。何度やったんだ?」 え? 「三回!お前のは?」 「胸に腫瘍が一個。ちっこいガキの時の写真にその標本と写ってるのが残ってる。・・趣味悪ぃばーちゃんでな」 え?? 「何の話だ?」 アレじゃねぇのか? ゾロの胸に大きい手術跡。 ルフィのは顔とむき出しの頚がへこんでいた。 「俺の手術記録だ!顔と首で合わせて四回!」 Vサインが二つ分。 案外夜は早く床についた。 てっきりルフィが騒ぐと思ったが既に高鼾だ。 ゾロもサンジも案外静かにねている。 ウソップはルフィに聞いてみたい事があったが、諦めた。今夜は口に出す練習をしておこうか。 「な・・るふ・・ラ、ラフテルって?」 「世界一の宝があるところだっ!」 どきっとした 起きてるのかと思った。 だが直後からまた高鼾が響いてホッとした。 寝ているときもルフィはラフテルのことを夢に見ているのかもしれない。 (おやすみなさい) 心の声は詰まることがない。 『最高!で、ラフテルにはいつ行くんだ?』 『特になし』 『今日の夕飯のマリネの酢が合ってない。甘味で誤魔化しても食べにくいので変えてくれ。それと米の炊き方が柔らかすぎる。見たところあごの悪い奴はいないと思う』 『朝には船の操縦法を教えてくれたクリケットさんとフランキーがいい人でした。あんなに大きな船も簡単だと笑う二人はすごいと思います。それから昼からの、もぐりっこは、どうしても必要だったんです。許してください』 『島は最高、班は馬鹿ばっかり。班は今から変えられないんですか?』 『文句はありますが言いたくありません』 「で?今日は海に入ったのが3人、怪我人軽症一人と。元気で良いじゃないか」 「他には野外活動で軽い熱中症気味が2名こちらは明日昼からは屋内組に誘致します」 「企業からはいつもの通りトラブルは困ると釘が入ってます」 「さて、ラフテル指名か。予定通りに船を出せるかね?」 「本人次第でしょう」 |