空と海の狭間で-9 ★ 「おう、来たか。」 猿顔のおっさんは笑ってなかった、けど、歓迎してくれた気がした。 「おう!来たぞ!」 「友達も一緒か。」 「ああ!友達だ!」 ルフィはオレの肩をばんばん叩く。クリケットさんの前で嬉しそうなルフィの声に俺まで胸を反らしたくなった。 俺のこと友達だって。 「ダチは帽子は被ってねぇんだな」 「ああ、そうみてぇだな」 「おいおい見せてやっても良いがガキに仕組みが覚えられるのか?」 もう一人大きな体の男が居た。 「こいつは器用なんだ!だから作る方だってできるぞ!」 ルフィが俺の身体をどんと押す。 「ほほう」 大男のフランキーは大工さんらしい。毎年この時期はここのアルバイトに船員をやってると言った。 「まぁ、約束したからな、見せてやるよ。名前はゴーイングメリー号。そう大きい船じゃねぇ。大きさは3154t けど動力はタービン二連のおかげで排気量が・・言ってもお前等には解らんな。これでもちっさいなりに今時の船だからな。動力はガソリンだし規定の1.5倍も積ませてくれてるから推進は安定してる。舵は……ここがミソだ。中枢のコントロールがあってこの地図に行き先を設定すれば自動でそこまで連れていってくれることになってる。今回の行き先も入れてあるしな、設定さえちゃんとしたらお前らでも動かせるってのが売りだ。」 「俺らでも?」 ルフィが目を輝かせた。 「まぁ、宣伝上はな。 けどまぁまだまだおめぇらチンコの毛も生えてねぇガキには無理だ。がっはっはっはっは。」 クリケットさんの手元にあるのは小さなパソコン程度の大きさの機械だった。脇にいた水色の髪の大男が大きな指でその画面にタッチすると地図が出てきて設定画面が現れる。 俺はカーナビに似てるなと思った。 クリケットさんがオレに向かってにやりと笑った。 「おめぇ、今カーナビに似てるって思ったろう。」 「!」 !!何で判ったんだ!!?? 簡単と思ったとかもばれた? 「バーカ。誰でもそう思うんだよ。」 そっか。 「俺は思わなかったぞ。」 ルフィが俺の横で威張る。 「そーかよ。」 「だってカーナビしらねぇもん。」 これには吃驚した。オレもクリケットさんも同じ顔だったろう。今の車にはほとんど付いてるのに。 「そりゃ悪かったな!しかし今時えらい旧式の車に乗ってんだな。」 「いや!車のって行くのは病院しかなかったから!」 「そうか!わはははは」 「おめーらもう良いよ」 フランキーがぼやくくらいに二人は妙に波長が合っているようだ。ルフィは興味津々の顔をしていたしクリケットさんも怒ってる感じはしない。それよりもその間に俺は画面をじっと見ていた。平らな画面の中に行き先の登録ボタンもある。さっきの港とか、今回の目的地なんかはもう入力されてるんだろうか? クリケットさんが画面に手を触れ始めた。 「こうやって目的地を設定する。 行き先が決まる。と衛星と船が勝手にそっちへ運ぶ。けどな。」 綺麗な手の動きだ。 これが出て、これが出て、スイッチと順番とが綺麗だから映画のように自分の記憶に残る。 次に真似しろって言われたら、俺にはきっとできる。 そこからはぎょろ目のように顔を近くに寄せてきた。結構口が臭い。怖い雰囲気と合わせてちょっと逃げ腰になる。 「当然機械は海や天候の微妙な変化には対応出来ねぇ。人の勘ってぇ奴がやっぱり一番大事なんだ。いくら作っても万能の機械なんてねぇなぁ。だからいくら機械が発達しててもな。そん為に、俺らがいる。俺らが何とかする。だから安心しろ。 けどおめぇらは触るな。良いか?判ったか?」 恐い顔つきを作って言うクリケットさんの言葉は『触ったら命はないぞ』といっているに等しかった。 なのにルフィには何処吹く風のようだ。怒られてびびったのは俺一人。触ろうと思った訳じゃないんだけど。 「この船でずっと行くんだな?」 爛々と船の先端の先広がる海とを見るルフィが低い声で確かめる。 ああ、あのパンフレット写真のあの島まで俺たちはゆくんだ。何もいわなっくてもこいつも俺も同じ気持ちを持っていることが判る。 先への期待を。未来への期待を。 ところが彼の口から出た言葉は俺の知らない単語だった。 「おっさん!ラフテルはどこだ?」 ほう?と口をすぼめたがその視線はルフィと言うより彼の身体にむいている気がした。 クリケットさんと水色の髪のフランキーがルフィをじっと見た。 「最南端のあれか。コゾウ、お前よく知ってるな。」 「ああ、今回は行くんだよな!」 「けどよーいつもと同じで予定には、なってるけどな。天気次第で行きにくいんだぞ。あそこまで行くには一日がかりだ。」 フランキーの答えの間にクリケットさんはスイッチをいじり始めた。オレの目のまで画面に入力済みの文字が浮かぶ。さっきと同じ手順で画面に出てきたのは行く予定の島から更に南へ30km。周囲には海しかない島だ。 「これが『ラフテル』だ。」 見るとルフィは真剣そのものの顔をして画面に食いついてる。 「ああ。ここだな。オレ、ここに行くんだ。」 「判らんぞ。小僧。お前が決めるんじゃねぇ。そんなもんいろんなもんがきめる。おめぇじゃねぇよ」 「行くったら行く!!俺が決めた!!!絶対だ!」 気づけば二人はにらみ合っていた。 ちっこいルフィがものすごく大きく見えた。まるで大人と同じくらいに。いやそれよりもっと大きな男に見える。クリケットさんは先ににらめっこから降りた。 「それだけの気持ちがあったら・・あとはガンフォールさんに祈ってろ。」 「誰だ?それ?」 「天気の神さんだ。しょぼい髭の槍みたいのを持った神さんだ。しらねぇか?」 「しらねぇ。」 俺も首を横に振った。 **** 快晴の海の上を船は滑っていく。 船長はクリケットさん。恐そうな顔だけど笑うと恐くないおじさんだった。 行きは私たちを乗せて、帰りは先に島に入ってる組をのせて帰るそうだ。 そして四日後に迎えに来る。 ナミは潮の流れがみたいと船首に行ってる。一緒に行ってみたものの下を見たら目が回りそうで帰ってきた。 お日様がちりちり痛い。日焼け止めはいつものより強いのをしてても効かないのかもしれない。デッキの影に置かれた椅子にビビは座り込んだ。 そのまま椅子の手すりに肘をおき、その上に顎をのせる。テラコッタさんがいたら怒るだろう姿勢だけどここでは誰も何も言わない。 ビビは一通り全員の顔を見たとおもう。船内見学会に参加したのもあの女を捜すためだった。この船には乗っていなかったと言うことはもしかしたら今回のキャンプにあの女はいないのかもしれない。 だとしたらがっかりだけどこのキャンプを何とか楽しまないと・・・けどそれも気力が入らない。 いきなり顔が目の前にあった。 「きゃぁ!?!」 さっきの、ルフィだ。 もの凄く大きな丸い目が私を目の前で見てる。 真っ黒の瞳。奥底まで覗かれそうなそのまっすぐさ。恐い。まるで自分の中まで透かし見られそう。 ビビは思わず顔を退いた。 「なんで んな顔してんだ?また最初っみてぇなブスだぞ?」 何で貴方って人はいつでももの凄くいやみなタイミングで出てくるの!? しかも! 私が変なこと考えてる時にばっかり! 「私の顔なんだから放っておいてちょうだい」 「そんな面じゃつまんねぇぞ。だって・・・いまから冒険なんだぜ?」 冒険?ただの子供みたい。 馬鹿じゃないのかしら? そんなお子様は私の事なんて放って置いて頂戴。これだから子供は嫌なのよ。 そう嘯こうとしたがこのルフィは身体が柔らかい。回り込んでまだ顔を覗き込みに来る。 「おめぇ、変なこと考えてねぇか?それともほんとに馬鹿か?」 「なっ!」 うるさい!なんてことばかり言うのよ! 貴方に嫌なことばかり言われてもう、吐きそう。 なんだか本当に気持ちがわる・・・・。 胃から酸っぱい物がこみ上げた。 「やべ!だいじょ−ぶか?おいウソップ!」 誰か他の子が袋をくれたみたい。けど顔は良く判らない。目の前も暗い感じ。 「船酔いか?」 「違っ・・・・・」 ・・・私はあんたもこのキャンプに参加する誰とも違うのよ! |