【 初 戀 】 10 |
「オジーーありがとう。手術も、その後の看病も。そしてなによりあの言葉嬉しかった。」 アビーは立ち上がってオズワルドの前で彼の手を取って、頬を染めた。 ええ・・? 「逃げないでね。貴方ってこんなに大きくなったのに、言うことを言ったら走って逃げてくのは子供のときと変わらないわね。」 アビーはフフフと嬉しそうに笑って更に頬を染める。 「アビゲイル・・」 オズワルドは顔を隠したまま背を向けた。 「顔なんて隠したって私にはわかるわ。」 困惑した彼がドクトリーヌの方に助けを求めようと視線をさまよわせたが彼女はすっと視線を外した。 更に困ったようにオレをの方を見た。いや、見ようとしたけれどこっちを見た途端赤面して、更に困ったように視線をそらした。 オレの考えはバラバラになって何も浮かばなかった。 えーーーっと? アビーの目を治したのはドクトリーヌで、ロシュを取りに行ったのはあいつとオレで、アビーと居たのはあいつとオレで、アビーにコクハクしたのは・・だれ? 何人かが駆け込んでくる音と同時に外が急に騒がしくなった。 ばたんと戸が開いた。急に光が差し込む。 「ドクターくれは!!!」 「五月蠅いよっ!!お前達ここには絶対来るなって言ってあるだろ!!」 中から外から大声が響いた。緊急時の声だ。ドクトリーヌは叫びながらも警戒を始めてる。オズワルドは彼女を庇うように光と声から庇って身を固くした。オレもよくわかんないけど獣のまま警戒態勢に入った。 大声の主は村で薬を渡しにきていた若者達だ。数人いる。ヤクーを駆りながらも相当焦って走ってきたらしく顔は紅潮し吐く息が真っ白に。全員はぁはぁ言っている。 「緊急事態です!そんなわけに行かないんです!オズワルドは?おいオジー!お前がここに出入りしてるのワポルにバレちまったぞ!!!」 「なんだって!?」 彼らは代わる代わるドクトリーヌとオズワルドの二人の顔を見て矢継ぎ早に答える。 「チェスの部下が街を探りにきていたらしい。お前がドクターくれはと先日の村に出入りする姿を見られたんだ!」 「けど詳細やここの場所まではばれてません。それを聞いたワポルが要らないことを考え出す前に!」 「すぐに島を出ろ!手配書が出回るのも時間の問題だ!」 「くそう・・まだ学び始めたばかりで、opeなんてようやく一例しか見せてもらえてないんだぞ!」 今までのオズワルドの落ち着いた声が嘘のように幾分うわずって高くなっている。 「もっと・・もっと俺は修行をしたい!たった一人の患者にいくら高くても21人の研鑽よりももっと違う広い世界も見たいんだ!ドクターくれはの弟子としてもっと違う治療も・・・!」 「あたしゃお前なんか弟子にした覚えはないよ。」 彼の背後で今まで動かなかったくれはが口を開いた。その素っ気ない言葉に皆の浮き足だった気持ちに冷水をかけられたように冷え込んだ。 「あーーあ。っていってももう通用しないか。『お前なんて弟子にしたわけでもない。勝手にあたしんちに忍び込んで人んちの書庫を荒らしてたこそ泥じゃないのかい?』そうしとけばワポルの目も騙せるって思ったんだけどね。もう事態はとんでもない所にきちまってるようだね。」 オズワルドはぽかんとした顔でドクトリーヌを見ていた。今の言葉に若者達ははっとした。ただ一人だけがうんうんと頷いている。 「Dr.くれは・・」 オズワルドは次の言葉が出なかった。 「おい!時間がないんだ。もう城に帰ることも危険だ。」 「船なら・・薬の納入に来た船が今日なら待っててくれるそうだ!」 友の、信頼してきた仲間の声にオズワルドの顔には逡巡が浮かんでいる。これをこそ見たかった会心のopeを見たばかりだ。あれはもの凄い手術だった。 その日も次の日も、ずっと頭の中から映像が消えてくれなかった。 それなのに自分の手で再現しようとすれば手の中でははかなく消えてゆく。 もっと見たい。もっと見なくては自分の力にならない。 「急げよ!」 「すぐに支度を!!」 太い腕に友人が手をかける。身体ごとを仲間達が引いてゆく。オズワルドは身を翻そうとした。 「こら。アビゲイルはどうするんだい?」 くれはの言葉にオズワルドははっと身体を固めた。目を閉じるとくれはの方を向きぺこりと頭を下げた。 「すみません、治療半ばで抜けるのは申し訳ないのですが・・」 「馬鹿。」 腕を組んだくれはのだみ声にため息が混じる。 「この馬鹿チビ。まだ判ってないのかい?この子も一緒に連れていけって言ってるんだよ!」 この言葉にはさすがに皆が驚いた。 「彼女もですか!?まだ術後ですよ!?」 「おや、なめられたもんだね。大丈夫だよ。それともなんだい?あたしの腕を信用しないってぇのかい?」 口もきけないオズワルドだったがくれはと、そしてチョッパーを見てから一度だけ瞳を閉じて、ゆっくりと鋭い瞳を開いた。 「海を越えるのは健常でも大変なことです。」 くれはは何も言わず立っている。腕を組んで、彼の答えを待っている。絞り出すように彼は告げた。 「それにあちらに行けば研究一筋になる。女連れでどうこうできる物ではありません。それに・・」 「ほう」 言葉を重ねてもくれはの顔色は変わらない。ただじっと彼を見ている。 「それに・・私は裏切り者です。師を裏切ってワポルの旗の下に逃げ込んだ裏切り者です。彼女と共にいる資格などありません。」 「ふん。そうとは思っていない一番がアビゲイルだけどね。」 すいっとくれはは横にいた彼女を見た。彼女は今まで黙って成り行きを見ていた。両手を胸の前に組んで毅然と、だが彼の決定を見守る目を潤ませながら立っていた。 「馬鹿だねぇ。今度もまたあの時みたいに勝手に一人で決めるんじゃないよ。」 「ドクターくれはっ!」 あの時とは彼がワポルの元にゆくことを決めた時のことと察したオズワルドの焦った声は響く。その後には静かな彼女が立っていた。 彼はようやく、彼女と真正面に向いあった。 「私も一緒に行くわ。連れてって。」 静かに通る声だった。今まで静かだったアビーのきっぱりした一言だった。 「馬鹿な!アビーこれはオレの問題だ!君には関係ない!俺の目のことをいつまでもいつまでも背負い続けて今更贖罪するなんて馬鹿げてる!」 「目のことなら私が治してもらったわ!これでおあいこでしょ!それにそんなつもりないわ!」 「嘘だ!俺はもうちゃんと見えてるのに!君ばかりが罪を背負うのはもう嫌なんだ!」 「貴方の方がずっと贖罪の気分から抜けられてない!お父様の言葉に縛られないで!」 「縛られてなんか無い!これは俺と先生の間のことだ!」 アビーは瞬きをした。目は触らないように言われているからこみ上げる涙を拭くことも出来ない。白い頬の上にすっと涙が幾筋をも描く。 「もう、いやよ。お父様も帰ってこなかったのに貴方も帰ってこなかった。お母様も後を追うように倒れて・・あれからずっと一人だったわ。もう、一人は嫌なのよ!」 二人のやりとりを皆何も言わずに聞いていた。皆知っていた。誰も何も言えなかった。静かに何年もこらえた想いが噴き出して二人の世界には互いしかいない。口など挟めない。 トナカイ姿のチョッパーもただ見ていることしかできなかった。涙だけはチョッパーの言葉にならない想いを受けて眼に浮かんで頬に流れ続けている。涙は人であることの証。チョッパーの人になった部分の心が動き涙をこぼす。何度も泣いては来た。泣き虫とも揶揄された。けれどこれは今までとは違う味の涙だった。 くれはのため息が再び漏れた。 「このイッシーの馬鹿チビが。お前は全然成長してない。」 二人の言葉が切れたその間にくれはが低く呟く。 「あのろくでなしの国王がこの状態でこの子を見逃すと思ってでもいるのかい?」 オズワルドの顔色が変わった。 想像は容易い。ワポルはおそらくは全ての罪を彼女に着せるだろう。彼女の状況の何も聞き入れずに。 オズワルドの拳がぎゅっと握られた。 くれはは背後の小さな机の上の紙入れから何かを取り出した。 「これは・・紹介状とエターナルポースだ。船が丁度あって良かったな。けどこの冬の海を行き着けるかはお前次第。」 分厚い書類が入ったちいさな封筒がどんと目の前のテーブルに投げ出される。 「こいつはあたしが知ってる中でちったぁまともな腕の外科医だ。細かいところも得意でね。人間としても面白い奴だよ。ただかなり厳しくて弟子が長く居着かないとぼやいてた。」 宛名には最近数々の名著を書いている世界的に有名な医師の名があった。かつてくれはが面倒を見てやった一人でもある。 「・・・ド・・」 「それにお前の仲間達のおかげでこの冬に循環器の患者に福音が降りた。この時期にはありがたいねぇ。ヒッヒッヒッ旨くやったじゃないか、人体実験って嘘は。おかげであたしも楽できる。」 「ドクター・・」 「イッシーの苦悩をわかってる人もいる。裏で感謝もしてる。だからこれからの島ことは今のまだちっこいガキなお前が考えなくても良い。」 「ドクターくれは・・」 「そうだよ、お前はあいつら、イッシーの仲間だ。21人目だ。あんたの師匠はあたしじゃない。あたしは教えてない。だからお前さんには呼ばせなかった。」 ドクトリーヌとは。 この名前を呼ぶのは彼女の弟子の証。 今その名を呼ぶのはただ一人。 「長い滞在になっちまうだろうよ。お前みたいなガキは一人じゃくじけるから、ドラムの花も連れていきな。そして必ず持って帰ってくるんだね。」 「・・俺は・・私は帰ってきても良いのですか?」 「当たり前だろ。お前はここの医者なんだから」 ヒッヒッヒと笑うくれはは彼よりも背は低い。だというのに、彼女の姿がとても大きく見えるのは何故だろう? 「今は確かに医者が居ない。今、この国の連中を護るものこそが必要に思えるかもしれない。だけど、今、お前達が育たなければこの国の未来には医者が絶えてしまう。」 くれはは腕を組んで窓の外を見た。 外はまだまだ吹雪。重い空の色すら雪で見えない。 「一昔前には医師を続けることに命を賭けた馬鹿もいた。医師として病んだこの国を助けようとして死んだ馬鹿も居た。けどこんな時代が長く続くはずがない。だからアンタが修行を積み終えた頃にはこの長すぎる冬も開けているだろう。春が来る頃にはまた新しい医者も芽吹くかもしれない。その頃にはちったぁマシになって帰ってきな。」 ああ、今は長すぎる冬の時代だ。 医師不在の冬。 国民が医療を受けられない冬。 だが、巡らない季節はない。季節はいつか必ず春を迎える。皆が待ちこがれた季節が必ずやってくる。 自分はここから逃げ出す訳じゃない。春を迎える準備をするだけなのだ。 くれはの言葉は冬の嵐にも負けない力でオズワルドを貫いた。 彼の大きな顔の上にある小さな両の瞳から涙が溢れて溢れて目の前のくれはの顔がぼやけていく。 涙は熱い。熱い物がどんどん溢れてくる。ドクターくれはの熱い思いも、自分の中の情熱も皆溢れてくる。 「何かといっちゃ泣くんじゃないよ馬鹿が。ほれ、とっとといっといで」 くれははオズワルドに向けてアビーの背をぽんと押した。オズワルドは彼女をその太い腕で受け止める。 「はいっっ!」 **** 外は雪がしんしんと降っている。夜中になって冷え込みはまたきつくなるばかり。暖炉では薪が燃えていて輻射熱で部屋はゆっくりと暖められている。その前にチョッパーはくれはと座っていた。黙ったチョッパーの手はクルクルと動いている。オズワルドに教わった糸巻きをしながらチョッパーはその横の椅子で雑誌を読んでいるくれはの方を向いた。 「ドクトリーヌは・・知ってたの?ううん知ってたんだね。」 「何がだい?」 二人の過去を。思いを。彼らを縛っていた心の枷を。 チョッパーなんて入ることも出来ない位に結びついていた二人の絆を。 二人の間は暖かいものばかりではなかったと思う。それでも互いを縛り思い合っていた何か、それをきっと人の絆と呼ぶんだ。 そうは思っても言葉に出来ずにチョッパーが下を向いている間にくれはは手の中の小瓶をぐいとあおった。あおってすぐに空になった酒瓶を逆さにふりながらくれはは微笑んだ。 「さぁてね。」 その答えの暖かさにチョッパーの目から鼻に流れ込んでいたしょっぱい物は少しだけほろ苦い、それでも不快じゃない何かに変わっていた。 「けど不思議だ。どうしてアビーはオレとあいつが判らなかったんだろう?」 手の糸はどんどん細くてなかなか自信の作品ができあがってきてる。あいつが作ったのに近いくらいに細くて均一だ。 おや?と言いたげな顔でくれはは微笑んだ。 「やっぱり当事者は気付かないのかね?お前とあいつの声はそっくり、うり二つだよ。」 くれはの講義が甦る。自声は他人が耳で聞く声と違って聞こえる。 自分が思う自分が他人がみる自分と違うように、声に関しては自分一人が違う世界にいて、違う音を聞いている。 「体型も似てたしね。そして、どちらも、あの娘に名乗れなかった。」 くれはは横に持ってきていた大きな梅酒の瓶をきゅっと開けた。それをぐいっと持ち上げる。 「患者に名乗れない時点で医者は・・主治医は失格なのさ。お前はただのトナカイの助手で、あいつはただの居候さね。どっちもただの半端モンさ。半分を二人で足してようやく一人分の・・ただの助手だ。」 名乗れない以上何をする資格もない。彼女に想いを伝えることも本当は出来ない。 医師としても自分としても、彼女の前に立てなかったチョッパーには想いを告げる資格もなかった。 まして自分の思いを語れるはずもない。 資格のなかったオレ。患者に語る自信のなかったオレ。オレは医者になるはずなのに。 語って良かったのは、アビー一人だけだ。彼女はあいつを選んでいた。ただそれだけなんだ。 「けど、お前はあいつらとは口をきけただろう?」 「あ・・そうだね・・。」 「次は・・次に会ったときには医者として話しかけてみるんだね。」 彼はこの青鼻にもおびえなかった。 石も投げなかった。 彼は差別どころか色々教えてくれた。 アビーは、青鼻のトナカイの自分にも優しかった。人間の優しい笑顔を初めて教えてくれた。 思えば、ひさしぶりにドクトリーヌ以外と自分の言葉で話したことになる。 オレの方が垣根を崩せなかっただけで、あいつはいつでも何処でも俺の前で人として立っていた。 「オレ、もっと一緒にいたかった」 アビーは彼を選んだ。最初からチョッパーのことなど眼中にもなかったのだ。彼女の思いは彼に向いていて、入院期間のこともチョッパーに微笑んだことも彼女にとっては彼と二人の日々にしか見えなかったんだ。 寂しいキモチ。苦いキモチもアビーがあいつに持っていたきらきらした笑顔を見た瞬間飲み込んでしまえた。 けどあいつなら仕方ないと思える。 「馬鹿だねぇ。初恋ってっもんは実らないのが相場だよ。一丁前にトナカイが恋をしたか」 くっくっくっとドクトリーヌは笑った。 ハツコイ?恋? 「ドクトリーヌ?恋ってメスに欲情する気持ちだろ?俺のは・・それとはちょっと違うよ」 「そうかい?」 「うん。俺は彼女に欲情はしなかった。ただ・・」 オレにはハツコイって言葉が良く判らなかった。 なんだか重くて、我慢が辛くて、それなのになんだかこそばゆい。 ドクトリーヌが横でニヤニヤと笑ってる。ドクトリーヌは滅多に誤診しない。いつもならあっさりと聞くはずもない言葉が耳の中にすぅっと落ち着いた。だからドクトリーヌの診断を、否定しないで素直に考えてみれた。 良くは判らなかった。けれどこの胸の奥に飲み込みきらないで残る想いと彼女と居て幸せで一杯だった気持ちとが今も暖かく残ってる。 そしてあいつと一緒にいたときのワクワクする気持ちも。 「ドクトリーヌ、オレ会えて本当に良かったと今も思うんだ。それからアビーがあいつといってくれて本当に嬉しいんだよ?」 「ああ。」 「本当だよ。」 必死に訴えるチョッパーの後頭部をくれははそっと撫でてやる。 「わかってるよ。」 チョッパーは口をきゅっと結んだ。こぶしもぎゅっと握る。 子供にされて居るみたいな仕草だけど今はドクトリーヌの気持ちが優しく伝わってくる。 くれはは撫でながら、その姿を静かに微笑んでみていた。 「見な、空には良い月だ。」 チョッパーは小さくくりぬかれた窓の外をゆっくりと見上げた。冷えた夜空の雪は細かくさらさらと降っている、なのに空から一筋月の光がある。チョッパーが目をとめた瞬間、一瞬光った月の光をまた強く降り始めた雪が飲み込んでいく。深くしんしんと。 ああ。まだこの森は冬のままなのだ。 次に会った人間と、今度は話すことなら出来るのかもしれない。少なくとも・・努力は出来るはずだ。自分がここで患者を診る・・それがいつになるのかはまだまだ判らないが、その時にはオレが話しかけてみよう。 患者の前に、オレが医師として立つ日がきっと来る。 そういつかきっと。 オレが諦めないから必ずその日はやってくる。 こんな深い冬の土地にも、春は必ず巡り来るのだから。 ***** 薬船は二人を出来るだけ案内してくれた。最寄りの港でおろしてもらいそこから定期航路が出ているのを利用する。 乗り換えた船は安定した気候の海域に入った。柔らかい風が頬を撫でる。そこは春島だという。 「気候が変わって風邪でも引いた?少し不思議。今の声はちょっと低く聞こえるわ。目が見えなかった時の方が貴方の声、少し高くて子供のときの声と変わってないと思った。」 「そう?」 オズワルドは口の端にそっと微笑みをのせた。そのトリックは口に出来ない。あれは・・ドクターくれはと自分と・・そして彼、チョッパーとの秘密だ。最初にドクターくれはが面白がった理由が今は分かる。声が似ているなどとは自分が気がつかなかった。 こうやって後で解ける謎もまた趣がある。目の裏では彼の太い指が器用に動くのを思い出す。うち解けない頑なさの中にみえた素直な姿。ドラムに春が訪れれば又会えるだろう。今度は医者として、Dr.くれはの弟子として名をきちんと教えてくれるだろうか。自分の目の前で変身できるその悪魔の実の力を見せてくれるだろうか。 「同輩に・・なりたかったな。けど彼ならきっと良い医者になるだろう。」 「彼?」 「チョッパー。フルネームは教えてもらえなかったけどね。」 「チョッパー?」 彼女は狐に摘まれた顔で彼を見上げる。答えを待ったが彼は心から嬉しそうに眼前に広がる遠い春の訪れを待つ水平線を臨んでいた。海は広く世界は広い。狭い視野でも見える物がたくさんある。自分の視線の先には春の島がある。アビーはその心底すがすがしそうな顔になぜだか納得してそっとその横に寄り添って同じ光景をいつまでも見ていた。 春の海を。 イッシーは、以後改めて精鋭のみの集団として20名の医師団でイッシー20を名乗ることとなる。 fin ←back back to home |