お元気ですか |
鳥郵便が上空で旋回しているなぁと思っていたら、一声高く鳴いてから、緩くカーヴを描いて甲板へ降りてきた。 おれは新作ハジケ星の製作中で、これは火薬星の中に小さいガラス片を大量に加えたものなんだが、ちょっと殺傷力が強くなり過ぎたかと思っているところだ。まず誰かで試し撃ちしてみないと、いきなり実戦投入するのは危険だな。死なれたりしたら気分悪いしなぁ。 後ろのデッキにいたチョッパーがとてとてと走ってきて、鳥に話しかけて手紙を受け取ったようだった。 「サンジー!手紙が来てるぞー!」 なんだ、サンジ宛てかよ。 まあ、おれには手紙なんて来るはずもないし…いや、移動中の船に手紙を出すやり方を教えさえすれば、ウソップ海賊団のやつらだってカヤだって手紙をくれるのは間違いないんだが! 「お、なんだ?なんか入ってるな」 ラウンジから出てきたサンジが手紙を受け取って、開ける前に耳の横で何度か振ってみたりしている。 爆弾とかだったら面白いよなぁ。ぐるぐる眉毛がちりちりになったりしてな!わははは! まてよ、前髪が焦げたら、隠してるあの目の秘密が分かるかもしれないな。 でもあのサイズ、封筒の膨らみから見て… 「おー!俺のお気に入り!!なんだよアイツラ気がきくじゃねェか。1箱だけってのがショボイけど」 煙草だ。やっぱりな、おれの言う通りだっただろ? しかしサンジのやつ、この航路の鳥郵便の料金を知らねぇのか?小包なんか送ったら、おれらの食料1週間分くらいの値段になるんだぞ。 「なあサンジ、誰から?」 「ああ、前に俺がいたレストランのやつらからだ。んー…『クリスマスと年始と誕生日を兼ねて』って…ふざけんな!」 見あげるチョッパーの前で手紙を開いたサンジは、煙草だけは大事にポケットに入れて、その他のものはたしーん!とデッキに叩き付けた。 あああ、なんてことをするんだ!お前とんでもねぇぞそれは!! 「何ヵ月分兼ねてんだよあのケチ野郎共!!」 ケチとかいう問題じゃねェだろうが! お前がこないだの町で店に電伝虫かけて、好みの煙草が見つかんねェってぼやいたから、わざわざ送ってくれたんだろ?煙草の重さがかかるから、手紙は一言だけになったんだろ?きっとたくさん書きたいことはあったはずなのに、お前が喜ぶと思って煙草を入れてくれたんじゃねェか。 そっれをおまえ‥‥ 「サーンジくんってさー」 ナミ。いつもはおれが実験していると臭いだの危ないだの言って寄って来ないくせに、今日はなぜだかおれの側に…ああ、風上に陣取っている。てことは、今日は落ち着いた天気になりそうだな。じつに論理的だ、さすがおれ様。 「甘やかされてるわよねー」 「そだなー、しかもそれが当然だと思ってるよなー」 「なんなのよあの態度、ムッカツク。平気でほいほい電伝虫かけたりしてさ」 「あいつんとこのヒゲのおっさん、元海賊だって話だからなー。だからって…」 ちらりとナミを見ると、向こうも丁度新聞から目を上げたとこだった。 「‥‥‥‥‥なぁ」 「‥‥‥‥‥ねぇ」 やっぱりなぁ。 もちろんおれだって、手紙を書こうとは何度も思ったさ。 ずっとシロップ村で暮らしていたら絶対に巡り合えなかった、信じられない冒険の数々。 とりあえず元気でやってるってことだけでも伝わったら、それはきっとアイツラの励みにもなるはずなんだ。 向こうから返事を出すのは大変だし(鳥郵便ってのは、船が掲げてる旗を目印に配達してんだよ。場所が特定出来ないから、料金が馬鹿高くなるんだ。おれらがどこかの町を拠点にしてるんだったら話は簡単なんだ)一方的にこっちの状況を知らせてやるだけでもいいかなってさ。 けど、そうやって手紙を出し続けて…いつか出せなくなったらと思うと、ちょっとな。 もちろん、おれはそう簡単にくたばったりはしねぇ、けどほらそのなんだ、万一ってことがあるだろ。 突然現れた巨大なミミズに飲み込まれて、地底世界で大冒険することになったりだな。 「手紙なんて、簡単に出せないわよねー。あたしの村に電伝虫なんてないし」 「え、マジか?村中で1匹もいねぇのか?」 「総出で倹約生活してたのよ?電伝虫って、買うと結構高いじゃない」 「文明に見放された土地だな」 「失礼ね!」 おれは、おれが心配すべき家族を残してきたわけじゃない。 でもナミは、姉ちゃんを置いてきたんだもんなぁ。ホントは誰より、故郷と連絡を取りたいはずなんだ。 いきなり連絡を断つなんてことも、誰よりもしたくないんだろうな。 「まぁ、なんかあったからって、明日帰れるわけでもないしね」 「賞金首になるのが、一番手っ取り早いよな」 「ちょっと、やめてよね!DEAD or ALIVEなんて冗談じゃないわよ。ALIVE ONLYで頼みたいわ」 「そりゃ海軍に言えよ」 手紙、欲しいし出したいけどな。 海賊なんだから海賊らしく、おれは元気だ!って伝わるのが何よりだよな。 親愛なる、で始まって、お元気ですか、おれも仲間も元気です…なんてのはやっぱやめとこう。 「ナミ、手紙が欲しいんだったらおれ様が書いてやってもいいぞ」 「へェ、なんて?」 「『親愛なるナミ、お元気ですか。死刑は勘弁して下さい。せめて半殺しに』」 ほんのちょっとブルーになっていたナミは、読んでいた新聞を丸めて、おれの頭をぼかぼか殴って笑った。 「減刑なんてありえないわ、絶対に死刑よ!今は執行猶予期間中!」 「勘弁しろよー!説明書読んでおけって言ったじゃねェか!」 いつもどおり、風は穏やかで航海は順調だ。 ウソップ海賊団。カヤ。おれは元気だぞ!殺されそうだが!! 後で、サンジがこっそり手紙を拾ってスーツの中ポケットに入れるのを見た。 馬鹿なやつ。 |
END お年玉を戴きました。 欲しくて何度も籤を回していたのは私ですが。 ウソップと仲良しのナミ! 構われ馴れてる甘え惨事! とても生活感に富んだ二人の柔らかい喧嘩もどきのじゃれあいが日常で良いです! こういう日常のらしい彼らをさらりと書いて見せてくれたみつるさんに 何故だか嘘繋がり(嘘申告とか新春お御籤とか)なみつるさんに 感謝vv |