『正しい恋の迷いカタ?』



さて、突然ですがここで質問です。

もしも「チョットいいかなぁ〜」なぁんて、
ほのかな想いを寄せてる人と
突然二人っきりになっちゃったら、
貴方はどうしますか??

 1.取り合えず思い切って告白してみる。
 2.喜びを噛み締めながら幸せの一時を堪能する。
 3.有無を言わさずに押し倒す。





因みに彼女――――――ナミがとった行動は、
ただひたすらにこの運命を呪うだけであった。

 あーーあ、参ったなぁ………
 こんな事ならさっきサンジ君のご飯キチンと食べとくんだったわ。

もう何度目になるか数えるのも馬鹿らしいほどの深い溜め息が、
ナミの口から洩れた。

 溜め息を吐くと幸せが逃げるなんて言われるけど、
 今のこの現状以上の不幸が この世の中の一体何処にあるのか、
 詳しく説明して欲しいモンよね!!全く!!!

普段から頭脳明晰、冷静沈着、眉目秀麗。
美人の例えとしてよく用いられる
立てば芍薬、座れば牡丹歩く姿は百合の花
などという用語が、これ以上は無いほどに
ぴったりの女性と謳われているナミが
少々八つ当たり気味に一人でブチブチと
木に向かって文句をたれる。

何も知らない人間が見たら「大丈夫か??」と
一瞬引いてしまうかもしれないが
彼女の置かれている立場を考えたら
そうも言ってはいられないだろう。

右も左もさっぱり見当の付かない、
うっそうとした森の中で、先程から鳴り止みそうも無い
お腹を抱え、ひもじい思いをしながら
夜になるのを待つしかないのだから。

でも、何故一流の航海士として名高い彼女が
こんな状況になってしまったかと言うと―――――――



「オイ――何時までも黄昏てたって、しょうがネェだろ。
 それよりもチョットは落ち着いたらどうだ??」

 は??落ち着けですって??
 この状況で一体どうやったらアンタみたいに
 馬鹿みたく落ちついてられるってのよ!!!
 大体、ダレの所為でこんな事態に陥ったと思ってんのッッ!!!

言葉にしない代わりにナミは無責任な台詞を吐き、
のんびりとあぐらをかいたまま
あくびを噛み殺している男をギロリと睨んだ。

そう、全てはもう一人の登場人物、ゾロの所為なのである。
ログを溜めるために何時ものように寄った街で、
久しぶりのショッピングにしけ込もうとしたらゾロが珍しく
「街までの近道を知っている」
と言うので、サンジの作ってくれた昼食もそこそこに
「そんな情報をいったい何処で入手してきたんだろう??」
と半信半疑ながらも淀みなく進んで行く彼に着いて来たら
見事に道に迷ってしまい、その上でたらめに歩きすぎてしまったからか
最悪な事に、帰る方向すら分からなくなってしまったのだ。


「だいたいネェ…アンタが『道なら俺が知ってる、グダグダ言わずに着いて来い!!』
 って言ったのが原因でしょ!!オカシイと思ったのよ、家にさえ帰れない迷子の癖に!!!」

「なッ!!!!!俺は迷子じゃねぇ!!!」

「ナニよ!!口答えする気?じゃあ何?今私達が置かれている今のコノ現状は
 迷子という言葉以外に当てはまる単語があるって言うの??」

「仕方ネェだろ!!こぅなっちまったモンを今更グチグチ言っても!!!」

「今度は開き直る気???大体まりもヘッドのくせに生意気なのよ!!」

「――ンだとぉっ!!!」

ナミの反撃にゾロ改めまりもヘッドが反応する。
どうせ口喧嘩で敵うわけも無いのに、
面白いほどにナミの台詞に響いてくる。

「とにかく!!方角すら分からない今は
 闇雲に動いてもイイ事は全く無いだろうから
 星が見えるまでは取り合えずココでじっとしてるのよ!!」

一体何歳を相手にこんな常識的なことを言ってるんだろう??
ナミは少々痛くなる頭を再度押さえながらも、
諭すように溜め息と共に言葉として口から吐き出す。


「そうか?じゃ、オレ一寝入りさせてもらうわ。
 どうせする事ネェし……」

「何よ!!じゃあ私だけ一人ボケッとしとけって言うの??」

「んじゃぁお前も寝ろよ」

「…………………」

天使が通ったかのような一瞬の間の後、
見事に顔中真っ赤になったナミが慌てて

「!!!や、やぁよ!!!こんなトコで寝て、
 アンタに何かされたら堪ったもんじゃ無いわ!!」

と言ったが、今度はゾロのほうが一拍おいた後、突然腹を抱えて笑い出した。

「プッ……面白ェ冗談だなぁ、オイ。誰が誰にナニするだって??
 心配すんな、たとえ頼まれたってもそんなマチガイしねぇから
 ――――あ〜ハラいてぇ……」

まだしつこく笑っているゾロを睨みながら、
著しく上昇する血圧を抑え必死で自分自身と闘っていた。

 たとえ頼まれたっても!!ですって!!!!
 ムカツクわ〜〜こいつ!!!!
 あ〜〜あ、コイツと話してたらだんだんと
 心がササクレて来るわ〜〜
 精神的なストレスって美容にも悪いのに〜〜
 恋する女の子は綺麗になるなんて言うけど、
  私の場合は絶対に当てはまらないわわね!!


                   ***


失礼なほどひとしきり笑った後、さっそく向かいで気持ち良さそうに
寝息なんかを立てている鈍感な想い人をナミは冷ややかな視線で
見つめることしか出来なかった。

 どうしてかしら??どうして何時も何時もいっつもっっ!!こうなんだろう??
 ゾロが好きなの――――
 このたった7文字の言葉がどうにもこうにも私の口からは零れてくれない。
 こんなにも絶好のシチュエーションなのに………

今日だって本当はゾロと二人になれた事をナミは何気に嬉しく思っていたのだ。
それなのに、何故だか最後には結局こんな調子になってしまう。

 本当に上手くいかないもんだわ。
 ある意味グランドラインの航海よりもやっかいよね。

航海術なら頭で考えるよりも先に肌でどうすれば良いかが判断できる。
なのに、いざゾロの事となるとどうにも、こうも思うようには物事が運んではくれない。

本当はナミ自身でも気が付いてはいるのだ。
実際に厄介なのは鈍感な剣術馬鹿の所為ではなく、
素直になれない意地っ張りな自分だという事は。

ナミはそっと指先でゾロの指をなぞると、
起こさないよう慎重に指先を絡めてゆく。
見た目よりもずっと角張ってて骨っぽい男を感じさせる手。
触れあった部分に心臓が移動してしまったみたいに
うるさく鼓動が鳴り響きまるで呼吸の仕方を忘れたかのような
息苦しさと眩暈を覚える。

 まいったなぁ………
 私ってば自分で想っている以上にコイツのこと好きなのね。

確認しなくても分かるほどに自分の頬が赤くなっているのを、
夕日で染まる空のせいにして
ナミは絡めた手の平をゆっくりと唇に近付けていった。

手の平に触れるだけの軽いキス。

ドキドキが最高潮に達したその時―――――
ほんの一瞬だけ、
微かにゾロが自分の手を握り返したような感覚を覚え驚いて慌てて手をほどいたが、
バタンと力なく降り落ちた腕は暫らくたっても何の反応も見せず相変わらず規則正しく息を立てるゾロが、気のせいだった事を雄弁に物語っていた。



 ッッバカ!!鈍感!!飲んだくれっっ!!!



どうしようも無い切なさをどうにかなだめようと、
仕方なく大きく一つ深呼吸してみると
余分な力が抜けて、ホッとした気分が
新鮮な空気と一緒に肺一杯に満ち溢れてくる。

 そうね、私も知ってたはずよ―――――――――ゾロってこういう奴。

 本能の赴くままに生きてるっていうか生存してる。
 そう、いうなれば動物よね。
 あぁ……そう言えば野獣とか魔獣とかって言われてたぐらいだものね。
 うん、それ当ってる、間違ってないわ。
 ベスト・オブ・アニマルの称号を勝手に奉げてやる!!

 まぁ…こんな野生児ゾロに恋愛を期待しても仕方が無いって事かぁ………


つぶらで大きな瞳をちょっとほそめ、諦めたように溜め息を吐くナミを見て
「いやぁ…そんな切なげなナミさんも素敵だぁvv」
なぁんてサンジ化しちゃったソコの貴方!!
確かに溜め息を吐いてアンニュイなナミもいじらしくって愛らしいのですが
知ってるでしょ??
ナミはそんな殊勝な女じゃあ有りません!!



だってナミのこの呟きには勿論続きがあったんですもの。
―――――もちろん思惑とも言える呟きが……ね。

 でも、ま、コイツが本能剥き出しの動物なら話は早いわ。
 要するに上手に飼いならしちゃえば良いのよね………
 変に計算が無い分、単純で扱いやすいでしょ。
 たま〜に突飛も無い事しでかしたりもするけど、
 ソレもま、馬鹿で可愛いってトコロかしら??

 ははは…可愛いなんて単語が出てくる辺り、
 私ってばやっぱ相当重症かもねぇ。

 取り敢えずは、何処に行っても、誰と居ても
 絶対に最後は私のトコに帰ってくるように
 キチンと今から教え込んでおかなきゃvv
 いわゆる帰巣本能ってヤツ??

 ふっふっふ……楽しみ〜〜まぁ、精々期待しててよ。

「ねッ!!ゾ〜ロvv」

まさか自分が幸せ一杯の一時、お昼寝タイムを過ごしている間に
ナミによって己の将来がほぼ確実に決定していよう事など露ほどにも考えていないゾロが
返事の変わりに一つ大きくイビキをかいたとか、かかなかったとか。

二人を包む静寂の空間に少しずつ夜の帳が下りてくる。
港へ帰るため必要だった目印の一番星がキラキラと頭上に輝きを湛え始めている。
だが、自分の中でやっと満足する結論が出せたナミが、その星よりも遥かに眩しい魔女スマイルで
幸せそうに眠るゾロを、何時までも何時までも眺め続けていた。



〜 END 〜



なんだか爽やかで甘いふたりです。
確信魔女スマイルのナミさんの溜息っぷりもいいんですが、
天然呆け迷子剣豪がとっても愛しい文です。

サイトを見に来てくれた後に
こんなに素敵な物までお祝いに頂いてしまいました。

ありがとうめぐちゃん!
大事に飾らせて貰うね!



treasureへ戻る