千年桜の宵  (ゾロナミ)


テレビアニメワンピースではよくこの和物パロディを企画してくれます。ビビちゃんがグランドジパングのお姫様でルフィが岡っ引きで。城下ではおナミさんのお店【風車】の料理人がサンジ君。青鼻先生や同じく同心のウソップに隠密のロビンはビビの守り役のようです。これは2007年の春作品。【千年桜】といわれる見事な桜の下で花見の宴が予定されていたというのにその桜が盗まれてしまいました。犯人はルフィ親分?と噂が立つ中、タマネギとピーマンが絡んでみごと犯人が船で持ち去った千年桜を持ち帰ったのです。ルフィとサンジと出現率のレアな破戒僧のゾロが助太刀に入っての凱旋で話は終わります。


そのエンディングに鳥さん物申したくてねつ造!
サンジ君が店ほっといて花見はしないでしょ!(笑)







『グランドジパング千年桜奪還のその夜』






巨大な千年桜を乗せても揺らがないその大きな船はゆっくりと港を滑り来る。
港の家々どころかほとんどの家からその船の姿は見えた。
「親分〜〜!」
「あんたならやってくれると思ってたぜ!」
お江戸の人の歓声に手を振るルフィ親分とそれ以上に得意げな岡っ引きのウソップが答えている脇で船の中から見つけた酒とつまみで妙に意気投合している二人が居る。先日おナミの店で一時一緒しただけの筈だがサンジは相手の喰いッぷりを、ゾロは相手の料理の腕を認めたんだろう。妙に違和感がない。にこにこと酒を酌み交わし桜見物を船の上から良い雰囲気だ。


ところがその一行を見て大声を発したのは一人の美女。
今はてんてこ舞いに愛想笑いを顔に張り付かせっぱなしにして接客していた風車の女将。
完璧な接客スマイルがいつもの睨みに変化するのに数秒かからない。
「こら〜〜サンジくんっ!!」
その声の通りも客引きで鍛えた見事さで、この賑わいつつある街中でしっかりとサンジの耳に届いた。
「はいっおナミさんっ!」
「お客様は今来てンのよっ!料理人のあんたがそんなトコにいて良いと思ってンの!?いきなりのお客様で何人居てもまわんないのよっっ!」
ほんのちょっと前まで桜泥棒の騒ぎのせいで客は散々。目の前の弁当を前にしておナミはもう諦めていた。山ほど残ったサンジの力作を前に出した材料費がちらついてもう立つことも出来ないくらいだったのが嘘のよう。千年桜戻るの声にわっと客が押し寄せてそれまでナミは本当に三面六臂の商いをしていた。
(サンジ君ってばとっとと帰ってきなさいよっ!それから親分も手伝わせ・・・る訳にいかないか、逆に食べられたら危ない。せめてウソップとか・・・んもう!どうしてこんな時に人手が足りないのよっ!!)
弁当の売買だけではなく、大口の客は配達も要求していする。それを断るのがこれ又儲けに反するから断るのも勿体ない。猫の手も借りたいという状況の怒りはここにいない料理人に向く。
ナミは烈火のごとく怒ってみせていた。だがそればかりではない。それももちろんあるが、本当は知っていることがある。この料理人、女にばかり甘いと評判でその評判を裏切るつもりは微塵もないことを知ってはいるが、それ以上に誰でも、自分の料理を美味しく食べてくれる人間には極甘に甘い。その笑顔を見たさに店頭の接客業もするというのが本人は認めたがらない趣味だと知っている。だからこんないい顔して買いに来る客を見せてやりたかった。
(見なさいよ!あんたの弁当がこんなに売れてんのよ!)

そうとは口に出さないナミの優しさをサンジも判っている。
「それから!その船の食料腐りそうならうちの店が引き受けるから持ってきて!お代は後で払うわ!」
「はいーーー」
押収船の食料が腐るのを防いであげるんだから感謝して貰わないとね。負けに負けて9割引でしか受けてあげないわ。と女将が心の中で呟いたことは誰も知るよしもないがサンジはさっき目星を付けた食料庫を反芻した。今持ち帰らないと没収されたりしかねない。期待してすでに計算しているおナミの期待もさることながらこれだけの食材を使い切らないことの方がもったいない気もする。この点ではこの二人ぴったり悋気の方向が一致する。店を旨く切り盛りする二人の良いところである。だが持ち帰るにしても自分一人じゃ少々量が多い。残していくのももったいない。

「すみませんっおナミさん!今いきますっ!」
そう言い放った矢先に気がついた。人手は必要なのだ。
親分はやばいし、今は桜を戻す方に連れて行かれるだろう。ウソップもだ。
おお!ここに暇そうなのがいるじゃねぇか。


サンジはすくっと膝を立てた。

「声のでけぇ女だな。で?てめぇは呼ばれて行くのか?」

のんびりと久しぶりの大好物に出会った破戒僧はぺろりと大きめの杯を一口で空ける。
次から次へと杯を傾け空腹のはずが顔色一つ変えないどころか見事な笑顔でこれなら旨い物を喰わせてやったらさぞ爽快だろうと思わずにはいられない。先ほど刀を振り回していたときとはまるで別人だ。

「おめぇ。その酒のお代を払って貰うぞ」
「ああ?」
「この一流の料理人の俺が用意したこの酒!まさかただとは思っちゃいめぇ?仏に仕えるもんが無銭飲食って訳にいかないよなぁ?」
「ああ???俺ァ坊主だ。布施なら受けるぞ?」
「あいにく布施じゃねぇよ。お寺からだって貰うモンはきっちりもらうのがこっちの料理人としての誇りなんでな。さて、きっちり払ってもらおうか」

出したのは料理人でも出所は余所ンちの物だって事はこの際棚に上げるのはおナミさん流の真似。
「金はねぇ。」
見るからにそうだろう。
「と言うことで身体で払ってもらうぜ。運ぶくらい手伝いやがれ。」






「お坊様ありがとっっ!この功徳は一生もんよっ!」
猫の手を数百本でも借りたい女将の答えは明快だった。山ほどの食料を抱えた良い働き手を疑うことなく受け入れる。この間親分の連れで店に来た顔だと客商売ならなんでもござれ、おナミも覚えていた。
「待て!俺はここにこれを運んできただけ・・」
「ありがとっ!じゃぁこのお弁当二十個!そこの丁稚さんに付いてって運んでちょうだい!!この通りの真っ直ぐ先だから見えるでしょ!そこっから直ぐに帰ってきてね!」
「なんで俺が・・」
本来商業なる俗世に関わってはいけないはず。だがこの破戒僧微妙に教義とずれた生活を送っているようではある。
「お坊さんッ!このサンジ君のお弁当が余ったらそれでお布施にさせて貰うわっ!!よろしくっ!」
異議を唱えた破壊剣士も口を挟ませない女将の勢いにあっという間に負けた。
それからあのサンジの作った弁当という点にも負けた。
どのみちこれはお布施に当たるだろう。
得心がいった。
「わかった。俺は困った奴を助けりゃいいってわけだな?」
「そうそう!わかってんじゃないっ!いらっしゃいませ〜〜!」







「いやーーーお見事!ほんの一時の間に見事完売したわ!これもみんなのお陰よっ!!」
おナミが歓声を上げた。
見事に弁当は最後の一つまで売り切れた。
最後の一つを買いに来たたまねぎとピーマンがにんじんとおリカと俺たち四人で分けるんだ。と言ったからサンジは鍋の底に残った煮物全部を詰め込んで渡した。彼らに手を振りながらこの五日間徹夜して仕込んだ料理人はここで一気に潰れた。嬉しそうにおナミは足下に倒れ込んだサンジの肩をペシペシ叩く。
「サンジ君ご苦労さまっ!完売御礼出せましたっ!」

そのサンジを放ったままもう一度売り上げの計算に余念がないおナミは神経を張り詰め通しだったがそれも終了した。気が一気に緩む。
売り上げは上々!やた!かるく上がりを計算しても大黒字だ。

「いやーーーーやったわ!私ッ!」

「めでたくねぇ。」
その大喜びの中、一人苦虫をかみつぶしている男が居た。
「おめぇが作ったんじゃねーだろ!?・・・大体約束した俺の分がねぇぞ?」
最後頃に報告を終えて帰ってきたイガラムが国王命令とやらで最後の一山のほとんどを一気にさらっていったのが敗因だろう。これは配達も要らずおナミはまとめて値引くどころかまとめた上に色まで付けた。

「あらーーーそうねぇ。お坊様、本当にありがとうございましたっと。」
深々と頭を下げてみせながら頭の挙げ際にちょっと顔を覗くと眉間の辺りの皺だとか歪んじゃった口元とかに不機嫌が見える。彼の言い分は判る。貰うはずの報酬が無くなったわけだ。
「おい!」
「だから・・・・余ったらっていったでしょう?」
「んだとこら!じゃぁ俺はただ働きかよ!」
「お坊さんが金を取る気?」
「んだとぅ・・。」
睨み付けようにも今まで我慢していたゾロの腹の虫が盛大に鳴りだした。
「・・・・頼む・・。とりあえずなんか喰わせろよ・・・・」

この坊主、計算だの接客だのはやらせて三分と保たなかったが、荷運びにもの凄く重宝した。届け物を配達に行っては帰ってきてまた届けに行く。一回目に迷子になりかけたからおナミは跳ねていたタマネギとピーマンに案内を頼んだのだ。彼らのお弁当はその報酬というわけだ。破戒僧はかなり力持ちで重いとは一言も言わずまた次の配達に出かけた。正に数人分の働きをしてくれたことは疑いようもなかった。

「ま、そういきり立たないでよ。だからって払わないとは誰もそんなこと言ってないわよ。お店の中ももう空っぽなのよね。新しくなんかつくら・・せようにもサンジ君は五日間寝ないでこの弁当にかかり切ってたから・・この調子だと起きるの無理だしね。」
サンジは今も店の前で伸びている。この顔はもはや少々突いた程度では起きまい。五日間の徹夜とはその根性はまぁまあみあげた物がある。それはゾロも認めるところだ。ただ・・腹の虫も限界だ。腹が減るだけなら我慢もできるが期待もあったし匂いだけなど余計に切ない。

そのゾロの前でおナミはくるりと振り返った。売り上げを懐にきちっとしまうとその白さが眩しい細い手が風車の暖簾をすいっと別ける。
「はいんなさいよ。まかないで良かったらあたしが作ったげる。御飯くらいなら残ってるから」
「ああ?てめぇの?食えるのかよ?」
この間の店内でもゾロは守銭奴女将の姿しか知らない。だがそのおナミの思いも寄らない言葉にちょっととまどい軽口を返す。
「あら。」
暖簾に手をかけたまま振り返ったおナミの予想外の柔らかい微笑みにゾロの心臓がどきっと鳴った。
「あたしの御飯は美味しいわよ。でもとっても高いから滅多に披露しないけどね。サンジ君がいるからあたしが食べるのには苦労してないし」
さらりと暖簾がおナミの肩に落ちた。
「あんたをとって喰いやしないから、いらっしゃいよ。」
からんころんと下駄の音が土間に柔らかく響く。
後ろに見せた白いうなじにふっと気が取られた。
「あ・・ああ。じゃ、頼む」





フォクシーの船からの押収材料を指示通りに取り、倒れたサンジを店内の座敷に寝かせているとゾロの前にはたっぷりお出しの浸みた深川鍋にづけの鉄火丼。さっと塩を振っただけの幾種かの一夜漬けに大きく焼いた卵焼きと暖かい食事がどんと乗せられた。酒の当てにもなりそうな飯のおかずなら片手を超える小皿が重ねられている。酒もどんと軽くお燗された二合徳利が二本ほど。その脇には一升瓶が置いてある。杯は二つある。女将も飲むつもりらしくすでに自分用に注いでる。ということは商売っ気抜きなのだろう。
「さ、召し上がれ。今軽く煮物にも火をかけてるから」
にっこり微笑みながらおナミの手には真っ直ぐの自然薯とすり鉢がのっている。
「いーもんがあったわ!”自然薯擦るなら女子供”ってね。今日は麦飯がないけど良いでしょ。」
優しく回しながら脇に用意したお出しをそっと合わせている。
「お。おう。」
おひつごと目の前に置かれたゾロは合掌してから
「頂きます」
「召し上がれ」








次の朝サンジが起きたときには機嫌のすこぶる良いおナミが味噌汁の匂いの向こうで片付けた洗い物なんかをやっていて、奥の部屋では破戒僧が前が緩く解けた衣で迎え酒をやってた事に気がついた。
「おはよっ!サンジ君!起きて早々悪いけど親分が飛び込んでくる前に朝餉の支度してくれる?あたし昨日結構酔っちゃったからさぁ。」
「あ、はーーい!ッナミさん!」
そういえば自分は腹が減っている。飯は炊いてくれていたみたいだが賄いようの味噌汁はもう空のようだ。
軽く腕をまくって襷を掛ける。その横からこれも空の味噌汁の椀を目の間に置いた坊主が座っていた。
「よお」
片手の杯を離さずゾロは箸を置いた手を挙げた。
「ああ?てめぇ?俺の寝てる間におナミさんの手料理馳走になったってか!?俺でも滅多に喰えねぇのに!」
「ああ、旨かったな。全部。」
坊主は朝から酔っているのか軽く頬が朱に染まっている。饒舌な方ではないだろうが何となく言葉の歯切れが悪い気がする。

?

ちょっと引っかかっている間に坊主は立ち上がり少し離しておいてあった腰の刀を脇に差した。
「そろそろ行くぜ。」
サンジからは視線をそらしたままゆるりと店の戸を開ける。その声におナミがさっと水仕事の手を拭い暖簾をさらりとあけて客を送り出すように寄り添った。
「おう。」
「いつでもお代付きなら歓迎するわよ。」
「判った。」

聞こえた会話は色気もないのに何故だか見送る雰囲気は後朝・・といった風情もある。ちょっとおナミの襟足が何カ所か虫に刺されたように赤いのが白い肌に浮かんでる。ちょっと何か言わないといけない気がしたサンジだが、なんと声をかけて良い物やら?

朝日の中をゆるゆる進むその背中をおナミは少し見送って一呼吸。くるっと振り向いて戸を閉めた。きらきらした眩しい笑顔だ。いつもよりも数倍綺麗。
「さてっ!昨日以上に今日も稼ぐわよ!!」
「はぁいっンナミさんっっっ!!」



終了
お坊様は残さずみんな召し上がって行かれたようで。