蛙の歌


王宮の泉の側にサバクガエルが居る。
砂地では褐色に、水辺の草地では緑に。そして透明な水の中に消えゆくように姿色を変える。
アラバスタの水が奪われたときに褐色になった彼らが水辺に戻ってきて求婚の歌を繰り広げる。
求婚の色は水の色。水辺の恋の歌が柔らかく鳴っている。


夢を見た。

思わず仕舞い込んであった古ハープを持ち出してきた。

「姫様!仰れば準備いたしますのに!」
「良いの。自分でやりたいの。」

13の誕生日の時に祝いに貰った私のハープ。
彫りの細かい彫像の細工の見事さもあるがその響きが気に入ってる。
中庭の小さな池の畔にも水が溢れてる。
今年もまた水は増えている。うん。冷たい伏流水が気持ちいい。


「あら?」

ハープの弦を爪弾けばぼわんと気の抜けた音。
長の暇に弦は緩み、見事にずれてる。

苦笑しながら専属の調律器で弦を絞り始める。
ぎいぃ ぎぃ ぎいぃ。
一絞りする毎にはじいた弦の音が急に上がっていく。
音が馴染み始める。
ああ、この音は私の楽器だ。


ぽろん。
指が何故か知らない曲を奏で始めた。
ああこれは昨夜夢の中で教わった曲だ。
とても楽しくて解放されていて。心から笑いながら聴いた曲だ。

サバクガエルが唱和する。

唱和したサバクガエルの歌は雨を呼ぶ。
小さな歌が呼んだ小さな雨が虹を呼んだ
虹の五線譜の上にハープの音が更なる綾を描いてる。





「おや?姫様ですね。」
「調律がようやくあったみたいだな。」
「知らない・・旋律ですね。」
仕事合間の二人が手を休めた。窓の外から流れてくる旋律に瞳を閉じる。
「ほう、海賊の歌だな。」
部屋に入ってきたイガラムが聞き入りながら指を動かしている。管楽器の指使いは堂に入ったものだ。鼻歌交じりに小さく歌う。
「ご存じですか?」
「あの二年間の間にな。私は音楽家という触込みで入ったからな。しかし姫様もご存じとは知らなかったが。」
同じフレーズが今度は曲調を明るくして流れてくる。
城の庭にしつらえた大きな蓮の葉がステージに、ビビのシンプルな衣装が映える。

「なんという歌ですか?」
大臣はにやりと笑った。
「古歌だ『ビンクスの酒』」






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