優しい歌 (ロビン)



この船で耳にすることはいつも暖かい。
癖でつい敵がいなくても色々なところに耳を飛ばしてしまうのだけれどいつも得られる情報には優しさが溢れてる。



ナミはご機嫌にお宝に触れた後からはずっと黙ってる。
この部屋で、一人起きない男をじっと観てる。
ただ黙って側に付いている。
チョッパーが側を離れて帰ってきてからも。

フランキーの手伝いをしたり食事の準備を手伝う間に何度か見なおしても、溜息さえつかないその背中に想いの深さを感じた。
表に出さないけど、辛いのだろうと思う。その辛さを助けてあげたかった。

「起きないわね」
ゆっくりと近付いて静かに声をかける。
「うん。全然ねぇ。」
「何があったのか、起きたら話してくれるかしら?」
この辺りが精一杯。私が聞いたから教えてあげましょうかなんて言えるはずもなく。


「ああ、それは必要ないのよ。なんならロビンだけ知ってればいいわ。」



ナミは視線をゾロから外さずにさらっと言ってのけた。
明快で晴れやかな声だった。

「大体説明だなんて。この男にそんな芸当出来るわけ無いしね。」
さっきとは少し違う柔らかさで、ナミは手を口元に添えてくっくっくと軽く笑ってる。
ああ、彼女は自然体だ。さっきのルフィと変わりない。
先程までの怒りを含んだ気配は去って穏やかに微笑みさえ浮かべている。
なにがあったのやら。でもこれは私が聞くべき事でもないように思った。


言い訳も何も聞かないでいられるそんな強い信頼がある。
少し憧れの気持ちような、妬ましさの一歩前の確かな信頼を私はしばし目の前で見ていた。





チョッパーが肉を頬張りながら座るその横にルフィも酒樽を抱えてきた。私はそっとその場を離れた。

この船では私の耳には優しい歌ばかりが届く。心の耳にも染みこんでくる。
だから私は何も言わない。それは言う必要がないから。
自分に少しだけ誇りを感じながら貰ったグラスの液体が喉に心地よく染みこんでいく。
ビンクスの酒もかくやの甘さだった。


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