心の歌



意地を通しきった男が寝てる。


さっきから腹がたって仕方無かった。
静かに寝てる姿にもの凄く腹が立って緑の頭を一発グーで殴ったところでチョッパーに怒られて我に返ったくらいに腹を立ててた。
何があったかなんてきっと何も語らない。判ってる、そんなことだけじゃない。
そんなのどうでも良いのよ。

ただ、アタシはもの凄く腹が立ってた。




今、目の前で男が寝てる。
ルフィがアラバスタで寝ていたときにはただ嬉しかったのに。

目の前の男はじっと動かない。
いつも横に寝てても一晩でも動かない男だけど動かない。

寝ているだけなのに眉間に皺が寄ってる。
ああ、やっぱりまだ腹が立つわ。
寝るならちゃんと寝なさいよ。
そうじゃなかったら起きてみせて、それから寝なさいよ。




今も。目の前の男は寝てる。
馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿な男が寝てる。


でも生きてる。
生きてる限り、この男は自分も夢も何も捨てない。
狡いわ。
あたしが勝手に怒ってるだけなんて。




固く寄せられてぴたっと閉じていた睫毛が微かに動いた。
滑らかな瞼がその天蓋をゆっくり、ゆっくりと開けていく。
まだうつろに外の画像を結ばない瞳がゆっくりと現れる。
「あ。」
焦点が合わないのに曇っていた瞳が一瞬のうちに一点に収束する。
漏れた声がゾロに届かないようにと口を押さえたけど間に合わなかった。

その瞳はアタシをみた。
ぼんやりなのに真っ直ぐに。
まるで底のないルフィよりもっと澄んで真っ直ぐな瞳。

アタシの喉に堪えた続く言葉は声にもならなかった。
なのに。


「・・・・居たか」


たった一言。
それだけ言ってまた目を閉じた。
すうすうといつもの陽に静かな寝息だけが聞こえてくる。


まってよ。
ってゆーか待ちなさいよ。
なんで?
なんでなの?
頬が熱くなる。動悸がして、目も耳も熱くなる。呼吸が止まる。



いきなり。そして一瞬のうちに。
心の中で何かが崩れて、一番大切な物が戻ってくる。












「飯だぞーー」
時間がどれだけ経ったのか、自分の中に時の感覚がなくなってた。
サンジ君の声をきっかけにようやく外の音が聞こえてきた。
そう言えばさっきからチョッパーはいなかった。遠くで騒いでる声が帰ってきてる。

アタシの中の怒りは消えてた。

もう。ただただしょーがない。

「起きねぇな」
「いつもは誰よりタフな男なのにね。」
あたし達の周りが何だか賑やかになっていく。
陽の中で昼を過ごした連中がサンジ君の指示に従って運んでる。
チョッパーは自分の皿を貰ってきたみたい。あたしにも勧めてくれたけど微笑みながら首を横に振った。
何だか胸がいっぱいな気分なのよ。今はね。

目の前で大きな口を開けながらオレもそうだぞと答えてくれた笑顔が嬉しかった。
ルフィが酒を持ってきたくらいだからもう大丈夫。
ルフィも何が起きたかなんて考えもしないけど誰より判ってる奴だから。
アタシだってわかってる訳じゃない。
なんで怒ってたのなんかもわかんない。
けど、もうどうでもいいのよそんなこと。



流れてきたピアノの音に合わせるようにゾロの眉間の皺が緩んできてる。
ほら、もう起きて笑いそう。
でもこのままただ起してやるのも癪だわね。

アタシは拳の代わりに覆い被さって唇に一瞬だけ軽く触れるキスをした。
おおっと歓声が周囲で上がってるけど関係ないわ。

目の前でチョッパーが驚いてるから言った。
おまじないよ。早く起きなさいって。
うん、アタシの顔も緩んでほぐれてる。

そうだ、効くよな。
もいちどゾロをみたチョッパーも笑ったから二人で席を立って宴席に向かった。
起きたら覚悟なさい。ローラの話とかアタシの武勇伝とか。あんたが話さない分聞いて貰うんだから。



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