「唄」原題-flowersong−「星花の唄」 あんな言葉だけを置いて行ってしまったロビンを追いかけて飛んでいったルフィを俺たちは追いかける。 それぞれに思いは、深い。 ゾロは構えながらルフィを追っている。 「余計な手間かけさせやがって・・。」 言ってるほど悪くは思ってないのは知ってる。 ナミは疾走するゾロに遅れも取らずに駆け抜ける。 「何よりもまず、会わなくちゃ。」 誰の返事も欲しがってない呟きが聞こえた。 そして俺は・・・? がしゃん! 前からも追いかけてくる大工集団をやり過ごそうとゾロが角を曲がった。指示しながら続くナミに後れを取るまいと俺は大回りしながら速度を弛めずついて行ったら獣型の脚が何かを引っかけた。 走り去りながら視界の端にとらえた、それは子供くらいの大きさのツリーのオブジェ。 アクアラグナに備えて片付けられなかった物が倒れていた。 きらきら光るコードが木に絡み、頭頂に残された金の星は折れた木の上できらりと光を弾いた。 途端。俺の心に歌が響いた。 *** 「あれ?歌が聞こえる。」 「え?」 ログポースの示さない途中の島に食料のために接岸した。俺の鼻とルフィの視力が発見したその島の岸には色とりどりの果樹が生えていた。サンジの指示の元収穫された島のフルーツを使ったサンドイッチはクセの強い酸味が旨く処理されて甘みが強い酸っぱいだの臭いだの言いながらけど旨くて後に引くとルフィがいくらつまみ食いしてもまだ余力を残すほどの豊饒の島。今度はそのフルーツをついばむフルーツバットがこれまた旨いというサンジの一言でそいつらの捕獲にサンジとルフィを中心に躍起になっていた。 騒ぎの中、俺の一言に皆は怪訝そうな顔で耳を峙てて、首を振る。 何も・・特別なものは何も聞こえないと言う。 細い音。ドラムの冬の日に高い山で聞こえるダイヤモンドダストの音に似た微かで優しい旋律。 どうしてだ?俺の耳にはこんなにはっきり聞こえているのに。 「みてきて良いかな?」 「ええ。でも無理しないのよ。直に出るから。」 頷きながらもすでに心は島の奥に引き寄せられてる。ナミの声を背中で聞いて島の奥へ。俺一人で森の中へ。 それは鈴の音? それは旋律? かすかな音で、音符が跳ねているようにも言葉のようにも聞こえるからより敏感なトナカイの耳になって音源を探った。自分でも獣型の時の方がよりほんの少し感覚が鋭敏になる気がする。 そして音はゆっくり、ゆっくりと俺に近寄ってきた。5分も歩いた崖の裏を覗き込んだ。狭い空間に上から光だけが真っ直ぐ差し込んだその空間で出会えた、たった一輪で咲く星の形の光る花。砂地の中にただ一つの花だけが咲いて・・・・うたっていた。 あ・・・。 唄ってる。 歌ってる。 唱ってる。 ものすごく細くて高い音。 優しくて、心の奥に響くような細い細い透明な音。 「お前が歌ってるんだな?」 落ちてくる雨だれの音に唱和するように歌が空間を支配し、合わせて揺れる星の形の花びらが震えてる。 天井の星のような音があるかと思えば晴天の下をゆっくり降りてくるダイヤモンドダストの様な音。 その変化の妙があまりに心地よくてうっとりと一人、いつまでもいつまでも聞いていた。 「チョッパー?何してる?」 「あ!ルフィ!ナミ!これだよ!さっき言ってたヤツ!いい音だろ?」 背後から聞こえた皆の足音に嬉しくなった俺は花を指さした。 皆の登場に答えるかのように花は又一つ高らかに響きを上げる。 皆も聞こえたんだろう。先に見つけた宝物の得意な気持ちで余計に嬉しくなる。 皆と一緒に旅をして、同じものを見て、共感してもらえてそれが何より嬉しくて仕方ない。 今度は俺が教えてあげられた。 けど。 「うんにゃ。聞こえねぇぞ。」 「お前の足跡があったからここにいるって判ったんだ。」 え? 「それ、星の形の・・花?たった一輪で咲いてるのね。」 「・・見たこと無い珍しい花よね。けど・・私にも音は聞こえないわ。」 ルフィもウソップもナミもロビンも口々に言う。サンジもゾロも首を横に振った。 そんな。 こんなに綺麗なのに。 今も胸を張ってこの花はうたっているのに。 唯一人で、誰にも見て貰えなくてもここで堂々とうたっているのに。 やはり皆の顔は寂しそうに傾いでいる。 多分俺がトナカイだから聞こえているんだろう。 多分俺は人間じゃないから、俺の聴脳は人と共有できないんだろう。 寂寥が心を支配した。 「日が傾く前に距離を稼ぎたいわ。そろそろ行きましょ。」 下を向いたチョッパーの帽子をぽんとサンジがはじいた。 ウソップも黙って俺の肩を叩き歩き始める。 ナミの一声で皆が船に帰っていく。 少し皆の後ろを行くチョッパーの足取りは重くなった。 「船医さん。」 チョッパーは下を向いてばかりでロビンが後ろにいることには気がつかなかった。 「寂しい?でも私たちの誰一人として同じ冒険をしても出会うものは同じじゃないわ。見る目も見え方も違う。 貴方だけでも気付いてあげられることもまた貴方の出会いの宝よ。 だから貴方だけは覚えておくと良いわ。だって他の誰一人その歌は覚えられないのだから。」 ロビンはそれだけ言うとすっと歩き始めた。 もう一度崖へ振り向くと花が俺の髭の動きに会わせて唱ってくれる。 手を振るように。 感謝するように。 俺も思いきり手を振った。 「ありがと〜〜!」 「チョッパーずりぃーよなぁ。俺も聞きてぇ。」 頭の後ろで腕を組んだルフィがにやりと笑った。 拍動が一つ、どきっと言った。 「羨ましいぜ。お前一人で冒険しやがって。」 ウソップが俺の背中を叩く。 縮みかけた心臓がどきっどきっと言った。 「それがあんたの能力でしょ。だってトナカイなんだもん。」 髭がぴくぴくとそよいだ。 俺はロビンの顔をそっと覗いてみた。 彼女はにっこり頷いた。 なんだそれで良いんだ。 *** 星は只輝く。 誰に望まれなくても。 星花は只歌う。 誰が気付いてくれなくても。 俺の心にあの花の歌が響く。 高く、遠く。響いて、唱って。 何処に行っても応援してくれていることを感じる事が出来る。 今ロビンが感じているものは彼女の何なのだろう。 ただ厳しく辛い嵐や木枯らしでないことを祈りたい。 そして俺を励ますこの音に俺は答えたい。 だから俺はロビンに会いに行く。 『俺はまだ納得していないんだ。』 彼女の心にそう伝えるためだけに。 この四つの脚で。全速力で。 end |