こちらのチョパ並びはrokiさんの許可を得て並べました

 





タヌキ







「おい、狸。」
「タヌキじゃない!トナカイだ!」

船の改造は一段落ついて、後はルフィを待つだけ。
大きく廃材を燃やす焚き火の火が赤々と皆を照らしている。
その風下でサンジは奴らから果物や芋類などの食料の補助を貰う代わりに今はまたサンマを薫製にする付き合いをしている。乗せられて送迎用の食料の準備をさせられているけれど、あれはあれで楽しそうだ。
ウソップは最後までメリーの首の据え付けにつきあっている。それももうすぐ終わるだろう。多少姿を変えて空を行く鶏頭の姿を思う浮かべるとうっとり出来る。きっと帰ってきたルフィも大喜びするだろう。
彼らの造船技術はもの凄い。篝火の中の彼らの作業はぶったおされた三人の姿に意気消沈していたが、飛んでいったルフィの姿と硬木をあっさり斬り落としたゾロと材木を軽く蹴り倒すサンジに息を吹き返した。モンブランさんが請け負ったように彼らは腕利きの大工だ。あのメリー号を修復したその腕もさることながら耐圧構造に優れた代物をあっという間に組み代えるその精度の高さに感動した。その技術があるんなら・・とかわりにおやっさんの治療用のチャンバーの構造を教えてやった。海底でも耐える制度の船を造れる彼らには簡単だったらしい。そうしたら、反対に感激されてさっきのタヌキ呼ばわりの件は謝ってくれた。俺のことを猿の連中間違えていたけれど、それは悪気はなかったんだ!
だのに付き合いの長いゾロまがそんなことを言うなんて・・・。絶対に許してなんかやらないんだ。



「お前似合うじゃねぇか。なぁ、狸って呼んでも良いか?」
「うるっさい!二度と俺をタヌキと呼ぶな!」


三人用の包帯と薬の手はずを整えてから、チョッパーは立ち上がって思い切り息を吸い込んだ。さすがは鍛えた体だ。不意をつかれても受け身はしっかりしているから回復も順調だ。その仕上がりに満足して両拳を強く握るとそれをぶんぶん振り回しながらその場を離れた。

「ようチョッパー!どうしたぁ?」
船からウソップが意気揚々と下りてきた。
「見てくれよ!完成だぜ!!すっげぇのになったよなぁ。・・・んん?」
うっとり見上げるウソップだったが、いつもの陽気な返事がない事に不審を覚えて覗くと桜色の帽子の下からチョッパーの青い鼻がうっすら赤くなり併せて紫なのが見える。鼻の上に皺まで寄せて、眉間にまでつながっているのが毛皮の間からも見て取れる。
ウソップは前に回ってしゃがみこんで聞いた。チョッパーが勢い込んでさっきの件をまくし立てた。
少々吹き出したいのをこらえようとしているのか苦い顔をしてウソップは胸をたたいた。
「解った!この天才芸術家キャプテンウソップに任せろ!人獣型のお前をかっこいいトナカイにしてやるよ!」
「ほんとか?」
「お〜う、任せとけ!」
人獣型でかっこいい・・チョッパーは想像できないなりにワクワクしてきた。
「誰もが認めるトナカイは大きくなくっちゃな・・つまりは、このまま全部を大きく見せれば良いんだよな。」
「ん・・そうか?・・そうだな。」

「だから目をつむれ!それからこうやって目を大きくして・・・」
目の回りに何か塗られた。
「角は変身した時にでもこのままか・・。じゃぁしっぽだな!しっぽも大きくすればいいだろ!?」
「しっぽ?・・そうかなぁ?」
「ああ大きく見えるからこれをつける。」
しっぽに何かをかぶせられた。結構大きいみたい。動かすとゆっくりゆっくり揺れている。
「おお!かっこいいぞ!」
「ほんとか?!」

「よし!出来たぞ!目を開けてみろ!」

目の前に大きな鏡が置かれていた。そこに写っているいつものピンクの帽子の下に目の周りが隈取られた茶色の獣。座っているから丸いお腹の後ろに丸いしましましっぽが大ききな影で揺れている。
何とも可愛らしい茶色のタヌキがそこに座っていた。

「ぶっはっはっはっはっはっは!!

見ろ!最高傑作!!  豆タヌキ君  だぁ!」

いうなりウソップは腹を抱えてその周りで転がっていた。
それでもまだ足りないと見えて地面をどんどん叩いている。
それを見て遠目でも見えたらしい猿の奴らもまた笑い転げている。

「ひどいよウソップ!!」
「似合ってるぞーー。」


「出来たか?」
また後ろからゾロが声を掛けてきた。その声に親指を立てて見せてそれで笑い転げるウソップがようやく座った。
「大傑作!」
二人のその台詞は・・・・。つまり黒幕はゾロなのか??
何で俺をタヌキにしたいんだ!!馬鹿にしやがって・・。
悔し涙が浮かんでくる。
そこに大きなゾロの腕が伸びてきた。そのまま脇の下に両手が入り、抱え上げられてたかくに持ち上げられた。

「似合うだろ?だから狸って呼んでも良いか?」
しつこいぞ!!
「うるっさぁ〜〜い」
人獣型最大パワーでゾロの広いおでこにロゼオの跡をつけてやった。
「あつっ」
腕が弛んだ隙を見てそこから飛び降りた。
そのまま走って15歩して振り返って叫んだ。

「二度と!俺をタヌキと呼ぶな!わかったか!」

はぁはぁと肩で息をしながらもう一度振り返るとそこにナミがいた。

仕返しだ!

「ゾロの奴ひどいんだ!俺をタヌキ扱いして、あげくにこんな格好にされちまった。」
「チョッパー?・・・かっ・・・かわいい!!」
ナミはぎゅうっと抱きしめてきたから逃げられなくなった。
胸に押されて柔らかいんだけどとても苦しい。
けど・・ざまぁみろ!垣間見たゾロの額にロゼオと縦皺が並んでいた。

「ふう。ナミ、苦しいよ。」
「まぁ・・大目に見てやってよ。ゾロってば昔飼ってた狸ととても悲しい別れをしたらしいの。そのせいだと思うわ。」
「飼って・・一緒に暮らしてたのか?」
「似合わないわよねー。でもちびのうちに拾って、少し元気になってこれからって時に死んじゃったって。さっきのお猿さん達の話を聞いて思い出しちゃったんじゃない?

だからあたし達があいつの為に少しくらいタヌキって呼んでも良いかしら?」

そんな悲しい思い出が?
どんな命も別れは悲しい。
特に一緒に暮らしたものの命は。

俺はドクターをいつも思い出す。
そんな思い出があいつにも?



ナミの腕の中でちらとゾロを振り返ってみる。
あいつは黙って顎に手をやったまま何を考えているのか解らない顔のまま。
俺を見ている訳でもなけりゃ俺がナミに抱っこされた瞬間のむっとした顔も消えている。

らしい・・気もする。
何も説明しないで目的だけ言うから誤解されるんだ。
もっともあいつは誤解されたって全く意に介しないらしい・・そのせいで起こるナミとの喧嘩のとばっちりを受けるのは俺たちなのにな。


ナミが俺の返事を待っている気がしたけど、
そのまま肩の方に手を押してチョッパーは体を離した。
「チョッパー?」
ナミの膝からすとんと降りた。
そのままトコトコとゾロの足下に寄っていった。

上から覗くようにこちらを見たゾロの足を軽く蹴った。
「おい・・・。良いよ。・・この格好の時だけなら。」
「・・・・・・ほんとか?!やった!

ナミ!今回は俺の勝ちだぞ!」

は????

ガッツポーズのゾロは珍しい。
そのまま興奮してナミの方を向かって叫んだのもある種珍しい光景だ。
そのナミがゆっくり頭を振りながらあきれたような声を出した。
「待ちなさいよ。言わせたらって言ったでしょ、言わせたのはあたし。」
「チョッパーは俺に言ってきたじゃねぇか。さぁ!出して貰おうか。」
「駄目!」
「負けたときくらい素直に認めろ!」
「負けてませ〜ん。大体さっきからのあんたの口説き方ってただの繰り返しじゃないの!
ちゃんと言えない男が絶対にOK貰えるわけ無いじゃない!」
「んだとぉ!」


「何だ?」
サンジが手を拭きながら奴らの小屋から出てきた。とばっちりは喰うまいと離れた場所でがたがた震えるウソップに声を掛ける。よく見ると吹き出すのをこらえているだけだ。
「ゾロが木材探しに行きかけて迷子になったとかならなかったとか・・
 要はいつもの痴話げんかが賭けに発展したらしい。
“チョッパーにタヌキって呼んでも良いと言わせる”が今日の題らしいぞ。」
「んであのタヌキは?」
サンジの顎先には未だウソップの作ったままのタヌキがゾロとナミの足下から離れること少しの所でに肩をふるわせて下を向いている。
「俺が作った。猿たちの話を聞いて見たくなったんだと。」
「さ〜すがナミさん。可愛い女心じゃねぇかvv」
「“やらなかったら女風呂を覗いて鼻血を吹いて倒れたって故郷に連絡して欲しい?”っていう女心は可愛くなんかねぇよ。」
「・・・ぶっ・・。」
「お前も同罪じゃねぇか!」

「俺はいつでもナミさんの味方だ!
 ナ〜ミさ〜ん!タヌキ汁作りましょうか?」
けんけんがくがく珍しく食い下がるゾロの前でくるっとサンジの声に反応した。
「アラ!美味しそう!分からず屋の毬藻料理も付けてね!」
「ナミ!」
「俺はトナカイだぁ〜〜〜〜!!!!!」


喧噪を皆で取り巻いて一服するには良い見せ物だ。
それぞれの最年長が冷めぬうちにと持ってこられたコーヒーのカップを抱えていた。
「いつもこんなか?」
「みたいね。楽しそうでしょ。」
「ああ。タヌキが仲間にいるのも悪くない。」

丸いしっぽが叫んだ。
「お〜れ〜は〜!!トナカイだぁ〜〜〜〜!!!!!!!!」





終わり




目垢は付いていますが、それでも良ければカウント2000を踏んで下さったきりんさんへ