「あーーーお前コックだよな。」
「この海の一流コック様に向かってんなこと聞く口はどの口だ!?オロすぞてめぇ!」
「あれーー作れるか?」
サンジの怒りは届かなかったかのようにゾロがぼりぼりと自分の後頭部を掻いた。指さす先に先ほど倒した大王烏賊。
腸を抜いて、ルフィの生食を阻止して。
「あれ?」
「あれだ。」


水色の髪の美女は乗り合わせたばかりのこの船の情報収集に余念がなかった。
肩の荷を下ろせと言われても何をしたらいい物か落ち着かない。
そして彼女は甲板で白い物を干すサンジを見つけた。彼なら最初から優しかったし。
「サンジさん?なにしていらっしゃるの?お手伝いしましょうか?」
ビビはにこっと微笑むとその白い物を手に取った。
「きゃぁ〜〜〜!!」
触るとぐにゃっと柔らかくて、その予想外の触感に思わず手を放して飛び退いた。
「あー臭いが付くからお姫様はやめた方が良いよ。」
サンジはくすくす笑いながらその白い物を干し終えた。
「これ、何ですか?」
気持ち悪がりながらもいままでよりずっと面白そうな瞳がクルクルしてる。
もう一度だけそっと指先でつついてみたり、後ろに回ってみたり。

「馬鹿が欺されて、ガキの頃に顎を鍛えるのに最適って教わったそうなんだ。」

遠くでねらいを定めたルフィの追撃の手を寝ながら鞘で止めている音が聞こえる。
あっという間に海王類を倒しておいてもう日常ののんびり加減。
マストに結ばれた縄にはためく白い烏賊。

あれは日常の光景。 
日常の思い出。





ビビが居なくなったキッチンの棚に、たった一枚の鯣の入った保存瓶がある。
どんなに腹が減っても、それだけは残された。











【鯣−するめ】





<独言>
2年くらい前。小顎症と虫歯についてやった頃のネタ。
大きな烏賊の柔らかめの味も好きだしがっちり堅くて旨味の強い奴も好き。
日本酒との取り合わせは……(涎)