今日の日差しと風は柔らかく爽やか。この海域の海路は安定している。 珍しく静かな午後。 ならばのんびりと。 からんと気持ちの良い音が青い空に響いた。 サンジ君が焼いてくれた焼き菓子がビーチチェアの脇のテーブルに、氷を浮かべたアイスティーと一緒に並んでる。 香りはやや抑えめでかりっと焼かれた香ばしい焦げ茶の表面に中はしっとり柔らかく甘さが広がる。 普通の物より小振りなのを私が気に入ったらいつもこのサイズ。ウズラの卵くらい。 普通のより小さくて、そこがこれの美味しい所。 ビビがいた頃のおやつは華やかで色とりどりで大仰で、ロビンが乗ったらシックでシンプルで奥が深い物が多い。 私にはどっちでも。 美味しければそれでいいわ。 船も平和なら申し分ない。 「んまーーい♪」 「おれにもよこせ。」 脇の甲板でぐーすか寝ていたはずのゾロが声を掛けてきた。鼻が利くのね? 「腹減った。」 「寝てるだけのくせに。で、いくらで?」 「・・守銭奴。」 向こうを向いた小さい声でも充分聞こえたわよ。あら、そのつもり? 「いいわよ、またあんたの借金ね。ツケにしとくから。」 「いちいちうるせぇ奴だ。」 言いながら、あーーっと大口を開けられると小振りなお菓子は大海に飲み込まれる魚のようだ。 絵面が面白くなってそこに投げ込もうとしたら何も入れてないのにゾロは目は閉じたまま脹れていても口も閉じた。 「要らないの?」 「食い物を投げるな。」 「へーへー。」 妙なところで礼儀に律儀。けどサンジ君の食教育も追加されてる? くるりと身体を回してゾロに向かう。 風がゾロの額の髪を緩くそよがせる。 尖った短髪が日差しで柔らかく見える。 指三本でつまみなおした小さな一片の菓子を、腕をすっと伸ばして閉じた口の側まで持って行く。 そのお菓子で唇をつんとつつけばゆっくり開帳。ほんの少し。 「口、開けなきゃ入れらんないわ。」 反対の手でおでこをつつくか鼻をつまんでやろうかとしたら察知されたらしくゆっくりと口が開き始めた。 ちょうどの大きさまで開いたら舌が出てきた。そっとその上にのせる。 乗せた瞬間私の指に舌の弾力が伝わる。 そこで手を離せばこぼれてもゾロのせいだし。 舌に乗せた瞬間に手を離そうとした。 ぱくっっっっ 「きゃぁ!!あたしの指まで食べないでよ!」 人の指を巻き込んだ肉厚な舌は薄い癖に力のある唇と共謀して、菓子よりもあたしを咥えて離さない。 軽く歯を立てて、舌でなめ回されて、つつかれた指先が微妙にこそばゆい。 手を引っ込められなかった。 「ごっそさん。」 指を離したかと思うと残された菓子を咀嚼してゆっくりと大きな顎が回されてる。同時に立ち上がって日を背にした野獣が唇まで舐めてる。 不敵で傲岸な笑顔に向かっ腹が立つ。 「代金は払ったろ。」 「・・・・・・・足りないわ。」 アイツと同じラインを私の舌が這う。 さあ一本勝負の始まり? 【カヌレ】 |
<独言> 前の住居に移ってすぐに我が家のお気に入りに追加した御菓子です。 多分その頃のネタ。 近所のは幾つかあったけど小さめなのが美味しかった。今でもファンです。 |