eat!eat!!eat!!! |
それはちょっとした騒動だった。 海賊船の旗を見て絡んで来た小物がいただけだ。 その時船にいたのは三人だけだった。 数を頼みとして来た小物達の処理にルフィの腕は伸びまくり、チョッパーは人型と人獣型の間の変身の数を余儀なくさせられた。 行きがけの駄賃で船を壊す敵にキレたウソップのパチンコはいつもよりも精度の高い命中率を誇った。 つまるところ本人達には楽しい日常に過ぎなかった。 ただそれだけの話だ。 終わった途端に船の傷を治すウソップを尻目に二人は甲板に転がっていた。 「腹減ったなぁ〜。」 「おれも。」 船は港を出て次の航海に向かうべく準備中だった。 食糧の問題は常に付きまとう。 専任で任されているサンジの頭は倉庫の大きさと食料の保存状態とにフル回転している。 どうしても乾物や燻製品、発酵食品などもちの良い物が増えるが、新鮮な野菜やキャプテンの望む肉の保存とのバランスが難しい。冷蔵庫の発明は野菜のためだったと言うのも頷ける。それが使えるだけ昔よりは海上の食糧事情が良くなったとは言え、この船の場合頭の黒い鼠が横行するから気は抜けない。できるだけ素で食えない物を載せておかないとかって気ままに荒らされては困る。しかもその鼠ときたら限りなく食う生き物なのだ。 「今から買って来たもん片付けるから邪魔すんなよ。 とくにルフィ!これで腹ごしらえしとけ!海上でその食欲を発揮されたらかなわねぇ。」 サンジは街で調達して来た背中の大袋を転がったままのルフィに向かって投げた。 「おう!」 「俺も食っていいかーー?」 横にいるチョッパーも同じく声を掛ける。 「食ったら手伝ってやるから。」 「良いぞぉ!けどあっという間にルフィに食われ無いように気をつけろよ!」 二人は頷くだけで返事もそこそこに袋を開け、食べると言うよりは口の中に放りこんだ。 動物には餌を与えておいてその間に必要な食料を積みこむ。鍵付きの冷蔵庫はまだだが、とりあえずの鍵は手に入れた。後できちんと付けよう。そして鍵は自分の腰の鎖に結わえておく。鼠対策がやっと出来る。 ウソップは船の修理に余念がない。こまめな修理こそが船を長持ちさせるコツだ。とくに今はこっちの手伝いをしろとは言いにくい雰囲気だ。 そう考えながら甲板と陸を往復していたサンジはふとさっきの二人に目をやった。 予定以上に袋の減りが早い。 ルフィの奴又胃袋をでかくしたのか??と思うが、ちらりと見てもその速度は変わらない様だ。 ・・・? と言う事は? 見ている間に袋が空になった。 「チョッパー!?お前もなんやかんや言って喰ってないか??」 「うん!おふぁふぁり(おかわり)!」 「ああ!まだあそこに食いもんがァ!」 二人が陸の食料を見つけて叫ぶ。 飛び降りて口にしそうな気配だ。 バシィッ!!! サンジの回し蹴りが炸裂した。 チョッパーもルフィも前倒しの姿勢で叩き出された。 「アレにまで手を出すんじゃねぇ。このクソ野郎どもが。」 しゅうしゅうと二人の後頭部から煙が上がっている。 樽や木箱などそのままでは食えない物を中心にルフィとチョッパーに積みこみを手伝わせる。 美味そうなハム等を見せたら最後船に上がる前に消えかねない。 粗方積みこみも終わり後は他の船員を待つだけになった。 酒の買出しに行かされたゾロと案内役のナミはまだ帰らない。 甲板で一仕事後の一服しながらサンジは陸のほうを眺めながらぼんやりとチョッパーに聞いた。 「お前良く食うよな。育ち盛りか?」 成長期にはどうしても食うものだ。自分にも覚えが有るし、目の前にいるルフィなど正にその途中なんだろう。迷惑な話だが仕方ない。 「うーーんそれも有るかもしれないけど・・・。 俺が思うにな、変化系の悪魔の実の能力者は絶対喰わないと体が持たないんだ。 だって身体を一気に変化させて又それを再生するんだよ。 どうしても材料がないと作りきらない。己を提供した以上後で補給しないと持たないんだ。」 「ルフィは変化系じゃないだろ??」 「でも伸びるだろ?伸ばしてるときと縮んでいるときの形の差があるならその分体が一度壊れてより強い体を再生しようとする力が激しいってことだ。それを作る材料は自分の中に有るだけじゃもたなくって外から補給して食べないと駄目なんだよ。それもうーーんといっぱい。肉ばかり欲しがるのもそのせいじゃないかな。 だから俺も喰う。そうしないと身がもたない・・本能的なもんだよ。」 「海賊弁当ってのはそういうわけか・・・。」 高蛋白食の最たるもの。己の身に一番しやすい組成。肉。 「もちろん、それのみを取らせれば強い肉体が得られるわけじゃない。野菜だけに含まれる必須栄養素とかのバランスが大事だよ・・・あ・・これは釈迦に説法か。」 「ってことはお前も変形したら・・。」 「うん。物凄く腹が減るんだ。変形しないですむ時と比べたらその後は格段に食う。」 「ルフィはいつでも食ってるぞ。」 「より大きな物はより大きなエネルギーを必要とする。 あいつは小型の太陽みたいもんだよ。」 「太陽か。」 「自分で燃えてるもんね。まぶしいくらいにさ! だからルフィが食ってる限り俺達は奴を信じていられるし、一緒に航海(旅)が出来る。」 チビの癖に良く見てんな。 ぼそりっと呟いてサンジは立ち上がった。短くなった煙草を持ち直し、キッチンに入ると大きめの麻袋を持って出てきた。 「こいつでも食ってしのいどけ。今なんか別に作ってやる。」 中には甘い風味のラスクが入っていた。 「ほんとぉ?やったぁ!」 パリパリさくさく。軽い音を立てて一つずつチョッパーの口に消えて行く甘い塊。 そのリズムと表情はサンジが時間をかけて非常食として貯めてきたその時間を食べる音のようだ。 「美味ェなこれ!俺初めて食った!ルフィも食うか?・・・あれ・・・・?ルフィは??」 倉庫の扉が風に揺れていた。 「・・・ルフィ!!中のもんに勝手に手ぇ出したら飯抜き三日にするぞ!」 サンジは慌てて倉庫の方に駆け込んだ。 時既に遅し。 「なぁサンジ?あんまり食えそうなもんてねえなぁ。」 ルフィの足もとに散らばる包装紙と口には滓がつきまくっている。 先ほど積んだ荷の幾らかが既に消えている。 怒りに震えて言葉も出ないサンジの後ろからとことこ駆け寄ってきたチョッパーがサンジのジャケットの裾をつんつんと引いた。 「なぁサンジィ。・・・もうない。なくなった。」 空になった袋を逆さまにして見せる。 人獣型のチョッパーくらいの大きさの麻袋を渡したのに・・。 改めてサンジはルフィの首根っこを掴みがしがし揺すった。 「ルフィこれだけは言っとく。 次の仲間は絶対能力者は止めとけ! これ以上大胃袋が増えた日にゃァ食料がもたねぇ。毎回飢えるのなんざごめんだぞ!」 サンジが縄で二人を縛り上げてから再び買出しに行ったのは言うまでもない。 |