another dicade  〜十年〜


また鋭く吹く風に乗って雪が降ってきた。
気温は冷え込み防寒具に覆われた手足の先をつんと痛むような感覚が支配する。
だが懐かしい感覚だ。
そして必ず伴う空腹感と絶望感には思い出したくもない10代の頃にすでに慣れっこになっていた。そして最初、ただメリーに乗っていた頃の自分にとっては思い出すのも怖かった感覚だ。



「同士ドラゴンから、貴方を保護するようにとの仰せです」
20年前、革命軍は10歳に満たなかった私を捜していたと口にした。
「それではバーソロミュー・くまがここに私を飛ばしたのは半ば所か非常に意図的だったという訳ね」

なるほどここで彼の素性も判ったが飛ばされる直前のあの恐怖を思い出すとお腹の底から皮肉を含んだため息がでた。
だが子供の頃からあんな強大な力に守られていたらこんな荒んだ女にならなくてもよかったのかも知れないとやや自嘲した笑みもこぼれる。
「これからは全力を挙げて保護させていただきますので!」
彼らのきまじめな敬礼が自分には似つかわない。私は、表も本質ももっと闇に潜んだ女だ。対外的にが年季の入った高額手配書付きのお尋ね者。
そしてただの海賊。

「要らないわ」
その彼らの膨大な情報力を持ってしても探し得なかった私が最後の最後にたどり着いたのが彼らだった。


ああ。
眼の裏に揺れるように微笑みかけるシルエットが浮かんでは流れてゆく。朗らかに私を呼ぶ声が聞こえる。小さな影、素早く走り回る影、船内に響く愚痴や説教の声も今の耳には甘く聞こえる。そして一番大きな優しい影は私の横でただ黙って笑うばかり。


「今の私はただの海賊。麦藁の一味の一人にすぎないわ」
これを、これこそが私の運命と思いたい。私が彼らと行動をともにするためにこの巨大な組織に出会わなかったのだと。そして二十年というあの辛い歳月がこのためにあったのだと。 
今の私はそう思えるくらいには強くなっている。冬の風の冷たさなど全く怖くもない。ああなんという軽やかさ、自然にくくくっと笑いがこぼれる。

「・・だってお父様よりも息子の方が大物ですもの」
だからこの重い定めを背負った私が引き寄せられて、惹かれて居を決めたのかもしれない。
軽く口にした発言の内容の重さに目の前の戦士達が戦慄し驚きを越えて唖然とした顔が心地よい。

風はさらに勢いを増して冷感を引き連れ僅かに外に向いた私の肌に突き刺さる。それでも手すりに寄りかかりながら風に向かった顔には笑みが乗る。
「もうルフィったら。いやねぇ。2年も待ったら私30の大台に成っちゃうわ」
笑いながら軽口がこぼれる。
誰かさんにとってはおそらく気付きもしない年月なのだろうけど。


誰かのために強くなる。

そんな次の10年の幕開けに身体が震えたのは決して寒さからじゃない。

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