『今日は晴れ後曇り。

欲望・・・。
正直に生きたいと誰もが願うもの。
そう出来る者は稀有な幸福な者である。・・・そう思ってたんだ今までは。
でもこの船では少し様子が違うみたい。

今日の俺ってなんだか哲学者みたいだ。


でもってやはりゾロは勢力盛んだ。
サンジにはしっかりと御返しが出来たからきっと楽しい結果になるだろう。』


ばたんと日記を閉じたチョッパーは灯りを消した。
鼻がひくひくして、尻尾がズボンの中でぴくぴく揺れていた。



<an toadstool "magic mushroom">




お客さん、此処での約束はね、『正体がばれてはいけない』なんだ。
だからあんたが誰でも構いやしない。
このフードをかぶって、売人の言うことには”肯定”か”否定”しか伝えちゃいけない。
守れなかったらとっととほっぽりだすからね。そこん所で文句は受け付けないよ。


入口守はそう言った。
まっ黒に塗られた仕切り戸に檻のついた小窓が一つ。
薄ぐらい部屋でフードを被れば声も姿も一切区別がつかない。
そのままキツイ臭いの中で目的の僅かな匂いを探し出す。
その店の前に立った。立派に陳列されている黄金茎では無くそこから数段上に置かれたものをすっと指し示した。これなら指もフードの中で俺の正体も見分けられない。かつて皮膚の色から何人かの判定をする事を止めさせるためだったらしいその習慣は今日も続けられている。有り難い事に。



おや・・お客さん。鼻が利くねぇ。
そうだよ。これがあの・・・・・・・さ。
本当に刺激が強いよ。年寄りや子供ならいちころさ。
中でもこれは極上の一品だよ。
これはあたしのポリシーでね。いくら金を積まれたって売らない。
その価値が解る人にだけ売ってあげるのさ。

おや・・・・?
ああ・・それもかい?
まぁ・・あたしだって商売だから金になるモンも仕入れとくさ。
・・・何だい?そんなモンに興味があるのかい??

いいよ。悪くないよ。
それを口に含めば心のタガがみんなはずれて
欲望に忠実になるよ。
思い通りにならない奴はいないさ。
あんたが何を考えてたってあんたをとがめる奴はいない・・。

さぁ見識の高い御客様。もうよろしいんで?
毎度ありがとうございます。
ヒッヒッヒッヒッヒ・・・・・。




俺みたいな半獣にはありがたい店だった
確かに天然の良い薬草は胡散臭い連中が扱っていることが多い。
そういう連中との交渉事は自分の責任で。
足りない薬草は自給自足。
これはドクトリーヌとの約束だったから
今でも変わらず自分の足で手に入れに行く。採りに行くのも、買いに行くのも。
交換できるのは自分で採った珍しい薬草だったりドクトリーヌの名前を借りたりもした。
ドクトリーヌは手段にはあまり拘泥する方ではなく、でも、手助けは一切しない流儀だったから、
俺自身が頭をひねって自分の実験に使う為の薬を手に入れてた。
(お使い馴鹿の振りはちょっと癪に障ったけど一番楽な方法だった)

思えばこれもドクトリーヌが仕込んでくれていたんだ。
俺がいつか一人で立つ為に・・・。
それを思うと改めてドクトリーヌへの恩義が判る。



今はナミが金を貸してくれる。
ありがたい話なのだがゾロに耳打ちされた。
「魔女の貸しには懲りてんだろ?同じだぞ。」
少し(いや、かなり)背筋がぞっとしたのは内緒の話だ。
あれ?でも俺・・どうやって金を返すんだろう?



手に入った薬草は主に外傷向け。
止血と抗菌作用が物凄く強い。子供や年寄りには強すぎて危ない薬でさえある。
でもあいつらなら三度くらい殺しても死なないから大丈夫。
若い血の気の多すぎて、怪我をしないと収まらない連中ばかりの、この船には必需品だ。


それともう一つ・・・
これはどうしても効果を見ないと俺が収まらない。
噂には聞いていたのだが現物にお目にかかれるとは思っていなかった。
・・・・・。誰に試そうか・・・・。


全員だ。



チョッパーを邪なオーラが包んでいることに誰も気が付かなかった。







猛暑にうだるような甲板掃除の終盤に涼しげな氷の音が響いた。
「おい!みんなお疲れさま。冷たいお茶持ってきたぞ。」
甲板の気温は既に35度を超えている。直射日光を一番吸収しそうなルフィとウソップが飛びついてきた。
「変な匂いのお茶だな。」
「・・・うん。薬草茶だよ。ほら・・ナミはこの間美容に良い薬ないかって言ってたじゃないか。」
「ああ!あったの?」
「うん。体力増強、地味滋養、気分も良くなるし美肌に良いようにブレンドしたぞ。どうだ?飲んでみるか?」
「へぇ〜。」
「臭いが気になるかと思って冷たくしといた。どうだ?いっぱいあるぞ。」
「ん・・まぁ・・旨いかな?ってもう飲んだのかルフィ!?はえぇぞ!」
「おーーいサンジも飲んで見ろよ!うめぇぞ〜〜。」
「あ、飲みやすい。薬って言うからちょっと怖かったけど・・。」
「あ、ビビってば子供の頃から苦い薬が嫌いで逃げ回った口ね。」
「そ・・そんなこと。・・・ホンの少し・・ね。」
「お代わり」
「おいゾロ!黙ってりゃわかんねぇと思って飲み過ぎじゃねぇのか?」


チョッパーはにこにこ笑っている。
頭の後ろに体毛がなかったならかいている冷や汗が一目瞭然だったろうに。




最後に寄ってきてコップを貰ったサンジはじっと手に持ったカップを見つめ、声をかけた。
「おいチョッパー。ちーっと来いや。」
サンジの一つしか見えない目がいつもになく優しく微笑んで手招きしていた。
あのキレやすいこいつがこんな顔を見せるなんてさすがは・・。
うまく使えばとんだ妙薬になりそうだ。
皆の変わらない様子に安心し始めたチョッパーの全身の毛の逆立ちは収まっていた。

「お前・・凄いな。」
にこにこ微笑んだ表情は結構いい男でこれならビビが惚れてるのも無理ないか・・
などと普段にないことをかんがえていると・・・胸ぐらを一気に捕まれて一気に持ち上げられた。
「で・・・何処で手に入れやがった?このきのこ。」
チョッパーの口が縦長の菱形になった。

ふわふわの馴鹿の頭を殴るためならその手は使われるらしい。
大きなたんこぶでチョッパーの身長は少し大きくなった。
「マジックマッシュルームだじゃねぇか・・。こんな危ないもん俺が知らねぇと思ったか?一流料理人を舐めんなよ。匂いですぐ解らぁ・・・。だいたい俺が気づいたから良いような物を・・・これをこいつらになんかやったらどうなるか解ってんのか?知ってるだろうが。こいつは食ってじきに人間の欲を解放するんだぞ。こんな奴らにやったら・・・」

目を伏せたままのチョッパーは身体を震わせた。興奮のあまり絞め過ぎたかとサンジは少し慌てて顔を覗きこんだ。
「・・・・・・・・。」
「何だ?はっきり言いやがれ。」
「だって・・・一度で良いから効果が見たかったんだ!船の上でなら他に迷惑かからないじゃないか!量だって俺が加減出来る!それさえ覚えとけばどう言う風にも使えるんだ!」
「そいつは医者の思いあがりってもんだ!んな危ない薬をいくら治療にだって使うんならみんなの了解を受けてからじゃないと認められるか!行きすぎって言葉があるだろ!」
「前にちゃんと聞いた!気持ちの良くなる御茶を作っても良いか?って。皆良いって言った!」
「都合良すぎる解釈で人を実験台にしていいと思ってるのか?」
「だってドクターは・・・」
「少し考えろ!」

今日のチョッパーの目付きはいつもに無く反抗的だ。
だがいくら怪しいタフな連中とは言えちょっと人体実験を勝手にさせておくわけにはいかないだろう。
ただの好奇心で下手をすれば船員が船を壊しかねないこの船の状況の危険を身体でおしえとかなきゃな。
サンジはチョッパーをつまみ上げてお仕置きを考えていた。

「まずはブツを全部だしな。没収だ。」
「・・・・・。捨てるのか?高いんだゾ。滅多に手に入らないんだゾ。」
「どうするかな?」
船底の部屋のチョッパーの荷物の中に匂いの元は有った。
ホンの僅かな・・この少量で何人を狂わせる事が出来るのか。

習慣性は無いらしいが、極量を超えたら誰彼構わずあっけなく命取りになる代物だ。
使って見たいが我慢だな。
きちっと封をして・・・。海に投げておく方が間違いが無いだろう。

袋ごとポケットに入れたサンジはチョッパーの後ろ首を掴みながら甲板に戻っていった。
サンジに後ろ首を摘まれながら船底から上がったチョッパーの目は不満げだったが、甲板の光景に大きな目が丸くなった。


「なぁ、サンジィ・・。時間的にはもう・・遅い・・・はずなんだよな?皆に薬が効いて・・・。」

・・・・・・・・・・。

「排泄する間も無く吸収されて。」

・・・・・・・・・・。

「欲望が捲き散らされる。」

・・・・・・・・・・。

「だよな?」

・・・・・・・・・・。


「「普段と全然かわらねぇじゃねぇか!!!」」

二人の雄たけびは夕空に広がって行ったのです。


ゴムゴム技を空に向かって放つルフィ。
ナミを片手に捕まえながらもう一つの腕で300kgの錘を降っているゾロ。
マストに登って歌いまくってがなっているウソップ。
ゾロの腕の中できゃぁきゃぁ騒いで居るかと思えばその頭をボカボカ拳骨で殴りながら説教しているナミ。

そして・・。少し離れた所にビビがいた。
チョッパーを脅しているサンジに向かって三白眼で睨んでいるかと思えばうるうると泣き出した。

「そんなに抱っこしたいなんて・・・。サンジさんは私よりトニー君の方が好きなんだぁ!!」
泣きながらビビはサンジにしがみついてきた。
「・・・ビビちゃァ〜〜ん。そんなことないよ〜〜。」

チョッパーを放り投げてビビを腕に抱きあやすサンジの鼻の下がびろ〜〜んと伸びていた。

匂いだけでも効果有りなのか、こいつが相手ならわかんないなーーと下に降ろされ開放されたチョッパーは観察を続けていた。
だが迂闊にもその匂いの影響を一番受けやすいのが自分だと言うことを失念していた。
研究の為には何をも辞さないと言う闇の馴鹿格を引きずり出されていた事に。






 翌朝

「あ・・ビビちゃん。特製の御茶を淹れたからどうぞ。」
「あ・・えっと・・すみません。今ちょっと急に用を思い出したから。」
(?)

「ナミさ〜ん。ナミさん専用のデザート作りましたよ〜。」
「あ・・・あ・・ううんとね。いま少しダイエット中なの。ごめんなさいね。」
(?)

なんだか二人とも余所余所しいなぁ。・・食べてもらえないなんて・・・。
台所に一人取り残されたサンジの後ろ姿に北風が良く似合った。




 夜半倉庫にて

「チョッパーが昨日試したスケベになる薬を今サンジが持ってるって?」
「そう!今朝チョッパーがビビとあたしに懺悔しててきたの。」
「それって・・・いつ飯に入れられるかわかんねぇってことか・・?」
「そうなのよ。」
「・・あいつなら男には使わねぇだろうから奴のターゲットは・・。まぁ頑張れよ。」
「他人事だと思って!!」
「お前が淫乱になってもあまりかわんねぇだろうが。」

バゴンッ!!

「昨日やりたい放題してたのは一体誰よ!」





 昨夜半倉庫にて 

「ねぇ、なんだかだるくない?
チョッパーのお茶・・体に合わなかったのかな?
まるで悪酔いしたみたい・・・。
アンタのほうが効果でてるでしょ?喉乾いてたから美味いって人の三倍も飲んでたし。どう?
・・・・・・・・
って人が聞いてんのに、どこ触ってんのよ。」
「・・・」
「ちょっと・・何とか言いなさいよ。黙って・・んっ・・人の身体をいじってないで・・・やん・・・・・あ・・・。」


<後書き>
チョパ誕の十二月です。
暖かく可愛らしく良い子のチョッパーは一杯一杯溢れています。
そうなると書きたい悪チョパ。(一つ作品見ましたが)
かるらの書く馴鹿などこれ程度です。
バランス上コックが善人。

紙一重様お宿賃作品