科学者チョッパー


快晴
いい天気だったので、甲板でナミの手伝いをしていたら
やりたかった実験が出来た。
少し騒ぎになったのでナミに後で怒られた。
でもこれからも実験していいって言ってくれた。さぁ計画練らなきゃ!

本日の実験:ルフィ・・ゴム人間の神経伝達について
                   ゾロ・・空間認識力について





≪実験A≫
ナミが蜜柑の収穫をした。
サンジとビビとウソップと一緒に手伝ったら一人に付き3つ貰えた。
後はサンジがお菓子や保存用のマーマレードを作ると言った。
その他にも秘密のご馳走にしてくれるらしい。それはそれで楽しみなのだが…。


いい匂いの蜜柑。
大きくて、甘そうで、ホンの少し苦みがある・・。
船に乗って直に仲間の印とナミから一つ食べさせて貰ったのはとっても旨かった。
植物も持ち主の影響を受けるんだろうか?

船首にはいつもの人影が見える。そしてこの騒ぎで日常の日課を変えない奴もいる。
・・・・・・。
人獣型のチョッパーの目がキラリと輝いた。


サンジは預かった蜜柑を籠に乗せ、運んでいく。
キッチンにビビも付いていった。

「私も持ちますってば。」
「いいからいいから・・じゃあ俺が貰ったこの蜜柑持っててくれるかい?」
「えっ?」

そういうとサンジは差し出した形のビビの腕に自分用にもらった蜜柑を乗せていく。
ビビは吃驚しながら両腕を受けやすいように直す。
併せて6個の蜜柑はビビの腕に抱えられた。
ビビのつんとした胸の前で盛られた蜜柑は今にもこぼれそうだ。
ビビは仕方がないと言った笑顔を浮かべて階段を駆け下りて付いていく。

不安定に積まれた蜜柑はその軽やかな衝撃に躍動を始め・・。


1個が飛び出した。


「あっっ!」

「もーーらいっっ!」

ひゅんっっという音がして船のヘッドから鍛えたゴムの手が伸びてくる。
また鍛えたと言っていたが、最近伸びる速度がどんどん速くなっているようだ。
そのままこぼれる蜜柑を空中で捕まえた。
取って返した手はそのままルフィの口に蜜柑を運んだ。


「うめぇなぁ〜〜!!おい!ビビ。も一個くれよ!」

「ああ!ルフィさん!非道いっ!!」
「てめぇ!よくも俺とビビちゃんとナミさんの愛の蜜柑を!」


サンジは籠を横に置いて飛び出した。
そのまま神速の蹴りがかなり遠いところからルフィの頬をかすめた。


(サンジのアシはゴム製じゃないんだよなぁ)

と見ていたチョッパーはふと気が付いて
籠から蜜柑を2個取ると階段と反対の方に駆け出した。

「っっぶねぇ〜〜!」

蹴りがかすって髪の焦げる匂いがする。
しかしルフィには牽制にもならなかった。


「ああ〜〜あんな所にいっぱいの蜜柑発見!」

ビビの横にサンジが置いた籠がある。
目を輝かせてそちらに照準を構えた。


「ゴムゴムのぉ〜〜。」
「駄目ぇ〜〜!!!」

ビビが身を挺して籠の前にしゃがみこんだ。

「おいルフィ!これならやるぞ!」

甲板の反対側にチョッパーが立って蜜柑を右手に振っている。

「いいのか?」
「そこから動かないで取ってくれよ。」

二人の間は約15ゴムゴム。
チョッパーは頭の中で計算を始め右手を口前に、左手に力を込めた。


しゅるるる・・ぱしっっ!がぶっっ!

ルフィが取りに来て蜜柑を掴んだ瞬間,
その手にチョッパーは噛みついた。


同時に左手の秒針時計のスイッチを入れる。

(0.03・・0.06・・・)


すぐに口を離したチョッパーは耳を澄ませ、時計を睨んだ。

「…痛ってぇ〜〜〜!!!何すんだチョッパー!!」
「…0.06秒……普通と変わらないんだな。」

ズボンのポケットの中からメモ帳と書く物を取り出して、
何か書き付けている。
ヒモも取り出して今いたところからルフィまでの距離を測りはじめた。


「痛てぇぞ、こら!」

ルフィが歯形の痕をふぅふぅと冷ます。
その声も姿もチョッパーの目に入っていないように
一心不乱に紙を見て何か書き付けて計算いる。


そしてダッシュしてルフィの側にくるとさっき噛んだのと反対の腕を持ち上げた。

そして再び・・・


"がぶっ!!"



(・・・0.02・・0.03)

「痛てぇぞ!」

手はそのままチョッパーの額にめり込む。

殴られてもチョッパーの左手だけはきちんと動く。そして呟いた。

「あ・・・伸びても痛いのが伝わる速度に差がないんだな。
それじゃこの神経の伝達速度は距離じゃなくって神経鞘の数に従うってことだな。
やっぱり伸びは過形成じゃなくって・・・・」

既に人の言うことなど聞いていない。


「でかしたチョッパー!」

横のサンジも呆気にとられていたが、両手を腫らしたルフィを見て吹き出した。

両手を眺め、チョッパーを眺め・・・
食べ物には諦めの悪いルフィがただで済むはずがなく
サンジが構えを緩めた瞬間、
それぞれに歯形の付いた両手を籠に向かって伸ばした。


が、

「うるっさいのよ!」

身の軽いナミが籠の上からふわっと降りてきたかと思うと
棍棒を構え、まず一発伸びた腕に、もう一発がルフィの頭上に一気に落ちた。


「――――――――――。」

「さて、っと害虫退治は済んだからその籠とっとと安全なところに持っていって!」

ナミはそのまま横のサンジを見やりもせずに声を掛けキッチンに向かい、
行きがけの駄賃にこの騒ぎでも起きないゾロの腹にヒールのつま先で蹴りをぶち込む。

「いつまでも寝てんじゃないわよ!」

「うおっっ。…ぐぎぎぎぎぎ…。」






≪実験B≫


ゾロが起きたことを知って再びチョッパーの目が輝いた。


チョッパーは嬉しそうに側にあった箒を掴んでゾロに躍りかかった。
少し見当違いの所に打ち込んでも反応すらしないゾロだったが
箒が自分にかすりそうになった瞬間微妙に身体をずらした。

ぱしっ。ぴゅん・・どぉん。


「ん???」

ちらりと見ただけで振り下ろされた長い柄の箒を無意識に易々と掴んだゾロは
そのままチョッパーごと遠くに放り投げた。

「なんだ?またお前か。何同じ事やってんだ?」



「昨日の棚の件といい距離とか空間がちゃんと判る癖に、なんでお前が迷子なんだよ!」

投げ飛ばされて勢い余ってぶつけた鼻が赤くなっている。
元からの色と混ざって紫に見えるあたりが慣れた目には可愛らしい。

迷子と何の関係があるんだ?」



昨日・・。

キッチンの空いたところに置く棚をウソップが頼まれて甲板で作っていた。

風もなく凪に近い状態では船の足も止まりがちで
皆の気分転換にリクエストを受けながらの作業となった。


完成品はなかなかの仕上がりで得意満面のウソップに起き抜けのゾロが見て言った。

「それじゃ・・あそこからは入んねぇぞ。」

とキッチンの入り口を示す。

予言のようにそれはあたり、小さくすると言うウソップの涙の中、
チョッパーは不思議そうにゾロに聞いていた。

「なぁ。なんで判ったんだ?」

「見りゃわかるだろ?普通。」
「…………じゃぁ剣の間合いとかも目で見るのか?」
「感だけで勝負すんのはゴムくらいの化け物だけだ。
そういうもんは見りゃわかんだよ。」


大きな眼をしっかり開けてぎょろりと睨むチョッパーを改めてゾロは不思議そうに覗き込んだ。
案の定と言うべきか、その夜、チョッパーはゾロを転ばせようと足下に棒を絡ませたり
いきなり物を投げてきたりかと思えばゾロにギリギリ当たらないような鉄拳を力一杯出したり
と挙動不審を繰り返した。


「なんだぁ?チョッパーの奴?昨日からゾロにケンカ売ってんのか?」
「ナミの取り合いでもしてんじゃねえか?」
「なんだ。そうか。」
「いや、そうかでいいのか?」
「んん?いいんじゃねぇ?」

いつの間に起きたのかルフィとウソップは騒ぎを眺めていた。

ビビも何が起きているのかと、怪しげなチョッパーに不安と心配を覚えて
キッチンの入り口から中に入れない。

サンジの誘いにも乗らず、焦れたサンジが同じく入り口に運んでいた籠を置いた。



転がったチョッパーが鼻と腰をさすりながら呟いた。

「・・・・・・おっかしいなぁ??そういうのが解る能力があれば
 『迷子』
なんかにはなるはずがないのに・・・・・。」

ゾロの肩がぴくりと動いた。

「だって、迷子は空間認識能の産物のはずなんだ!
立体でものどうしの位置関係が解ればそれは自分の居場所も行き先も解るって事だ。

自分の場所と行く先の関係が解るんだから迷子になるはずがないんだよ!。」

その禁句の連発にウソップは身体を凍らせた。

禁句まみれのチョッパーをそのままゾロがにらみつける・・
と思いきやゾロはあっさり視線を外し・・
そのまま横に手を伸ばしてチョッパーの紫の鼻を人差し指ではじいた。


「俺が道わかんなくても今は問題ねぇだろ?俺のナビはいるし。」

「?」

「そこまでならまぁ行けるからな。」



「ほほぅ。遂に認めやがったか。"大迷子"

蜜柑の籠の横で不満げにサンジが煙草をふかす。

「・・・・・・てめぇが横から口を出すんじゃねぇ。」

チョッパーの言葉はあっさり流したゾロだったが、
サンジの口からの禁句に額に青筋が立つ。

「・・しかも何だその台詞!てめぇナミさん独り占めする気か?!」
「るせぇ。自分のモンをどう使おうと俺の勝手だ。」

ニヤリとした目でサンジを一瞥してからべっと舌を出しそっぽ向きながら言い放つ。

「んだと・・・てめぇ!」
「やんのか?」

刀と構えが揃った。まぁ、二人のいがみ合いならいつものことだ。

だというのにそこに横に座っていただけのはずのチョッパーが人型になって絡む。
どうやらさっきの続きのつもりらしいキラキラした目で、
今度はゾロに向かって手許の蜜柑を投げつけた。



「チョッパー!まだなんかあんのか!?」
「気にしないでサンジとやってくれ!これも実験だから。」

怒鳴りながらもサンジの蹴りと共に飛来物を避けたゾロだが、
偶然蜜柑の軌道はサンジの方に向かった。

「チョッパー!!喰いモンを粗末にする奴は非常食にするぞ!」

怒ったサンジが掴む前に蜜柑を横取りする手が伸びてきた。

「ああっ!蜜柑が飛んでるぅ〜」

食欲大王の乱入である。



大混乱となった。



基本的に連係プレーなど向いていない此処のクルーは
手当たり次第に相手を選ばず、果てには破壊行為が始まった。

「ああ!おめぇ等船になにすんだ!!」

ウソップの壊れっぷりも笑い事では済まない。


破壊行為を伴う騒ぎにようやくキッチンからナミがでてきて。


大雷が落ちた。


あとには大きなたんこぶが5つ。

「何で俺まで・・・。」
というウソップの呟きは飲まれて消えていった。



≪まとめそして結論≫


「そういうのは人体実験って言うのよ!
一つ間違えばどんなことになるかわかってんの?
何されるかわかんないんじゃ、恐くておちおち寝てもいられないわ!」

ナミの顔はなかなか厳しい。

多分ゾロは寝るぞぉと言うルフィの混ぜっ返しは拳骨一発で沈んだ。

「まぁ・・あんたの気持ちも解るから出来るだけ協力するから。
今後そういう実験がしたかったら必ず皆に了解を取って頂戴。」

チョッパーは目を上げた。


厳しい叱責と説教の後の慈母の微笑み。
これを意図せず使い分けているのだからさすがはナミと言ったところか。
キッチンの隅で転がりながらゾロは酒瓶片手に咥えながら見て思った。

「わかったの?」
「う・・うん。じゃ早速・・」

前から考えていたのだろう。チョッパーの口から最初はしおしおと、
徐々に熱を帯びて色々な実験計画のアイデアが次々と迸る。

同じ悪魔の実を食べたルフィはともかくも、よくもまあそれだけ
クルーを代表とする人間に対する興味が尽きないものだ。
それは研究者の性なのか。


話の途中でそれぞれ自分の名前が出てこればそれだけで他の連中が一悶着になる。
このままだと何時までも話が終わりそうにないので、ナミが途中で制した。

「…んじゃ計画書出して、そして一つ一つに、対象の同意を得ること。いい?」

さすがのチョッパーも周囲の騒ぎの大きさに事態を把握したらしい。

「解った。…じゃぁナミからでいいか??」
「あたし??高く付くわよ。」

脅しをかけた微笑みが怖い。
それすら気にならないんだろうチョッパーは誰もが思いもしなかった言葉を出した。


「えっと・・子供作ってくれ。


(どがっっっっ!!)


ナミの鉄拳がチョッパーの額に炸裂し、
うつぶせに床に叩き出された後で、ナミの質問の一言が形になった。

「……………?????はぁ??なんですって???」

痛みに潤んだ目で、頭をさすりながらチョッパーは起きあがり、
でも吹っ飛ばされた所からダッシュで近寄ってきて唾がかかるような距離で
ナミに向かって熱弁を振るう。


「だって俺、妊娠から出産、子供の成長の基礎を間近で診たことないんだ!」

「………」


熱く語るチョッパーには真っ赤になったナミの顔も見えていないようだ。

「本は読んださ、でも、ちゃんとみたいんだよ!

ナミとゾロなんてしょっちゅう交尾してるじゃないか!じゃぁ早く産んで………」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(ばきっっばきばきばきっどげしっっ!!!)



………死して屍拾う者無し。

合掌。


船内最強には誰も逆らわない。
それがこの船の鉄則だ。



・・・・・・・・深夜の大剣豪以外は。




深夜、砲台の倉庫にて。
「主治医のお墨付きが出たんだろ?中でもいいじゃねぇか。」
「駄目!何考えてんのよ!!!」
「じゃあ遠慮なく。」
「遠慮しろって・・・んん!」



構成協力:与作様 special Thanx!!

この後の深夜の倉庫編が読みたい人手を挙げて!?
いない?
それは良かった。
一部からそう言う意見を聞いたので・・・。