チョコレートはよく効く薬

ありがたくもrokiさんのイラストが!

ーチョッパーの日記より抜粋ー

2月11日
冬型の気候らしい。
昨夜はナミとビビに頼まれて一緒に寝た。
お昼の後ゾロとサンジが意地悪するから復讐を誓った。
2月12日
たくらみ失敗。コブを作られる。
二人が怒ってないからまあいいだろう。
後はサンジが片付けてくれると言っていたし。
2月13日
ルフィがまたつまみ食いをしてナミにつるし上げられていた。
明日は大きな街に着くらしい。
2月14日
結構大きな街らしい。
皆降りていったので留守番して本を読んでいた。
帰ってきたウソップが新刊の医学雑誌を買ってきてくれたのでとても嬉しかった。
明日からゆっくり読める。
2月17日
4人がようやく帰ってきて、いきなり蹴られたり鞘で殴られかけたが、
2人の力がいつもよりもでない。簡単に逃げ切った。体調が悪そうだった。




11日

「だって寒いんだもん!気持ちよかったわよ、ふかふかして。」

昨夜の感想を楽しげに話しているナミと頷きながら手元の湯気の上がるココアを
飲んでいるビビがにこにこ笑っているキッチン。
昼御飯の後、作業もなくて皆でくつろいでいた。

「いいよなー今度俺と寝ようぜ!」

喜ぶルフィにびびった声のウソップが続く。

「巨大化して潰すの無しな。」

「最初から大きくなって貰ってればいいじゃん。んで、その上に乗って寝るんだ。」

にやっと笑ってルフィがチョッパーの頭をぐりぐりなぜまわす。

「煩せぇ!人を湯湯婆代わりにしやがって。」

言葉と裏腹にチョッパーの顔はにこにこ身体はすすいっと泳いでいる。
相変わらず人慣れしないトナカイだが仲間にからかわれるのも本人にとっては楽しいらしい。

しかし皆が揃ったキッチンの片隅で、年長組二人は異なった気配を放っている。



その日の午後甲板でひなたぼっこをしていると、

どしん!

と角の周りが重くなった。重いなんてものじゃない。首がもげそうだ。
いったい何を一体乗せているんだ??!

「置物でよく見たが…案外具合がわりいな。」

声と共に頭が軽くなる。
ゾロが自分の刀を角の上に載せて呟いた一言だと気が付いた。
不機嫌そうに見回してから、鞘ごと取り上げてまた腰に差しなおす。
馴鹿がきっと睨んでも目つきでかなうわけがない。

「殺んのか?」

言われた言葉に睨んでも続く言葉も掛けられず、兎のように逃げ出した。


落ち着こう。

キッチンで本を読むことにした。

今日は煙草の匂いがやけに鼻につく。
いつもなら外に吸いに行ってくれるか、換気扇を使ってくれるサンジが、
キッチンの真ん中で堂々と吸っている。
あろう事か、そのまま煙をこちらに向けて吹き出す。

鼻に直撃した。

煙草の刺激臭をもろに吸い込んでげほげほと咽せる。

たまらず

「煙草は外でって約束だろ!?」

「あぁ〜文句あんのか?」

と睨まれた。
傍らの研いだばかりの包丁を握りなおしたサンジはいつもより怖かった。


(なんだよあいつら……)

冬型の気候は体に合うので、屋外の作業も気にならない。
船の扱いもだいぶ教えて貰った。
海賊生活は気は抜けないが、楽しい仲間と楽しい航海で仕方がないのに、

あのゾロとサンジはなんなんだ!

昨日塗ってやった傷薬がしみたことを怒っているのか?
でもゾロは痛いことにはあまり文句を言わない奴なのに。

昨日の夕飯の付け合わせのピクルスを食べられなかったことを怒っているのか?
だってオレの鼻にはあの香りはきつすぎる。
生で良いからって言ってあるのに間違えてオレの皿に載せるから。
代わりにルフィに食べて貰ったじゃないか。

「はあ〜〜。」

デッキでロープの整備をしながら鼻の頭に降ってきた雪を眺める。

(嫌われてんのかな?オレ・・。)

「よお〜〜さんきゅー。助かったぜ、
こんな細かいことを任せられる奴は他にいなかったからな。」

ウソップが厚手のコートを羽織り白い息を吐きながら甲板に出てきた。

「どうした?寒すぎて目が潤んだか?
それとも雪見てホームシックにでもなったか?」

少し涙の浮かんだ俺の目を見つけて聞いてくれた。

たまらずオレは今の気持ちを相談していた。


「……チョッパー。お前は一つも悪くねぇ。
まあ…気にすんなよ。あいつら年は上だが、大人気ねぇ時があるからよ。
(焼き餅だって説明すんのもなあ…)」

「オレが悪くないんなら…悪いのはあいつらか?」

とたんに怒りがこみ上げてくる。

「そういう訳でもないんだが…おい…チョッパー?・・聞いてるか?」

(仕返ししてやる!)

日頃温厚で、滅多に怒らない馴鹿だが、
思い込むとまず突き進んでしまう性格は
チビの頃アミウダケを探しに行った時のまま変わりない。

目つきの変わったチョッパーの後ろ姿にウソップはかける言葉を知らなかった。


(ゾロなんて冷たい水を掛けても困らないだろうし・・
 サンジにばれたら食料の刑は免れないし………)

基本的に人の良いチョッパーに悪巧みなど浮かぶはずもなく、
溜息をつきながら手持ち無沙汰に荷物を出したりしてみた。

「あ。」

くくく……。
部屋の隅でこっそり肩を振るわせる馴鹿医一匹。


夜の闇に紛れてキッチンにこっそり入り込んだ影は
つまみ食いが目的ではなく逆に何かを置いて出てきた。




12日。

先刻よりずっとキッチンから甘い匂いが漂ってくる。

「なんの匂いだ?これカカオだろ?」
「嗚呼、お前の鼻にはわかるんだな。
ナミとビビがサンジにチョコレートの作り方を教わってるらしいぞ。
女の子の遊び見てえなもんだがこの時期はしょうがねえな。」

郵便を待っている風なウソップが教えてやっている。

「なんだ?」
「まあ女の祭りだ。チョコレートを男にやって、騒ぐ年に一回の大騒ぎの一つだ。」

「チョコレートって非常食じゃないのか?訳の解らない習慣だな?」
「俺達もあほらしいと思いながら振り回されてるよ。
 って非常食??」
「ああ、冬島のドラムじゃ貴重な携帯食で研究されてたぞ。」

苦笑して、遠い空を見上げながらウソップは答えていた。
こういう心理状況で単純な馴鹿につく嘘は持ち合わせていないらしい。

「栄養価も高いし、色々と効果が使えて…。」


はっと顔色が変わった馴鹿は、キッチンに向かって走っていった。

ドアをばたんと開ければ、中にはテンパリングも無事終わって、
完成品に喜ぶ女性が二人と、コーチが満足気に煙草をふかしている。
今日は機嫌も上々だ。

「あらチョッパー。見て!良い出来でしょ。」
「駄目ですよナミさん。
もう少し寝かせておかないとせっかくここまで上手くいったのに。」
「ハイハイ。鬼コーチは厳しいわよね。」

舌を出しながらビビに向かって笑い掛ける。
始めての自作品の出来にビビも満足気だ。

「後は俺が管理しておきますから、大丈夫ですよ。
本番もこの調子で二人だけで上手くやって下さいね。」

「ナミさん。頑張りましょうね。」
「うん。ってもうこんな時間??指針は大丈夫かしら。ちょっと見てくるから…。」

ナミはそう言うとログポース片手に出ていった。
外にいるはずのルフィやゾロを使う気らしい。

「ビビちゃん今のうちにシャワー使えば?後片付けももういいから。」

確かにキッチンはもう片付いている。

「いいですか。じゃあお願いしますね。つまみ食いは駄目ですよ。」
「クソゴムからもきちんと守ります。」

恭しく礼をしてサンジはチョコレートの乗った天板を上の棚の中にしまった。
笑いながらビビもキッチンを出ていった。


三人の会話には目も向けず、棚の中を覗いたチョッパーが
言葉もなく怯えている姿を見つけてサンジは怪しんで声を掛けた。

「おい・・捜し物か?」


「ここの!!ここにあった小さい銀色の包み・・どうした??」

「ん??ああそこにあったチョコの包みなら見つけたから練習用に使っちまったぞ。」
「!!!!!」

驚きまくったあげくにこっそり部屋から出ようとする馴鹿の不審さに、
サンジはにっこり笑って脅しの包丁を首筋に当てた。
丁度ドアからも眠たげに頭を掻いたゾロが入ってきてチョッパーには万事休すとなった。


チョッパーはえぐえぐ泣きながら話し始めた。

「あれはカカオンの実の生成物で、単独なら腹痛を起こさせる薬なんだ。」

「何に使うつもりだったんだ?」

「昨日お前達二人に腹がたったから仕返ししようと思って…」

頭に一発ケリが降ってきた。

サンジはそのままたんこぶが真ん中に膨れたチョッパーに話を続けさせる。

「でもそれをカカオに混ぜるとなんでか雌の体力増強剤に使えるんだ。
冬山で重宝するから研究してたんだけど、それを普段に摂取させると……」

「どうなるんだ?」

催淫剤になっちゃうんだよ。

カカオの実にはPEAと言ってもとから雌に効く性的興奮剤が入ってるんだけど
・・カカオンと混ぜるとカカオの効果が異常に高まって、そうなっちゃうんだ。」


「女にだけ効くのか?」

「脳の作りからいって雌に効果が顕著なんだ。」



男二人は顔を見合わせて黙視のうちに互いの意思を確認した。



「昨日は済まなかったな。まあ俺達も大人気なかったからな。」

「と言うことで、その・・薬の話はここだけの秘密にしておこうぜ。
お前も人に言われて嬉しい話しでもないだろ?」

てっきり今から折檻が始まると怯えていたチョッパーは
二人の妙に優しいその言葉に吃驚して交互に二人の顔を見比べた。


「怒ってないのか?」
「ま・・まあ過ぎたことだ。この際互いに水に流そうぜ。」
「な。これも俺がちゃんと始末付けといてやるよ。任せとけ。」

サンジがにこやかに棚のチョコを指すので、これなら安心して任せる事が出来そうだ。

何ださっぱりした良い奴らじゃないか。

ニヤニヤした微笑み二つに送られ、
一応謝罪の言葉も貰いチョッパーは「狐に摘まれた」
気持ち半分ほっとしてキッチンを後にした。



13日

「何で本番用の材料チョコレート、ルフィがみんな食べちゃうのよ!」
「済みません。俺の管理が甘かったんです。」

しおらしく頭を下げるサンジが居る。

「練習用の出来も悪くないから・・サンジさんに取って置いて貰ってよかったですね。」
「あんたの方が怒るべきよ。中身がばれてるのってつまらないじゃない。」
「ラッピングで勝負します。」
「俺はビビちゃんがくれるんなら何でも全部いいですから。」
「はいはい。確かにゾロにあげてもどうせあたしが食べる羽目になるんだけどね。」

ぶつぶつ言いながらナミも箱に詰めている。

「明日にはかなり大きいって噂の港町に着きそうだけどそれじゃ間に合わないしなあ。」
「せっかくの上陸だったんですけどね。」
「いいじゃないか。ビビちゃんそのままそれ持ってデートしよう。」

黒服オオカミはしっぽを振っていた。



14日当日

昼頃船は港に入った。

めかし込んで降りていくサンジとビビを溜息をついて送り出したナミは
どう切り出そうか考えていると…

「おい、行くぞ。」
「……うっそ…。」

有るはずがないだろう。ゾロから一緒に行こうと言うなんて。

「待ってよ準備するから…。」
「いつもと一緒でいい、まあくれるもんなら貰うが。」

難敵の攻略を色々計画してよい頭を回転させても解決できなかった大問題が
予想もできない形で氷解した事態に浮かれたナミは言われたそのまま
敵の機嫌の変わる前にさっと準備して、プレゼントを持って出ていった。






17日朝

いつもになく静かな甲板から釣り糸を垂れるルフィとカルーがいた。

「あいつら帰ってこないなーー。」

「くえーー(遅いですねえ。少しお腹もすきましたよ。)」

「サンジがくれたチョコレートがまだ有るんだけど、喰うか?」

「くえーー(ああ、13日に貰ったと言っていたものですね。まだ残ってたんですか?)」

「珍しいことにありったけくれたらしくってさ、すっごくいっぱいもらったんだ。」

なぜだか通訳無しで会話になっているらしい。
それを聞きながら甲板で文献の雑誌に目を通すチョッパーがいた。

「あ!」

珍しく『カカオンの実』についての記載があった。

“この実とカカオの特筆すべき効果、つまり女性における体力増強と催淫効果について最長では3日の報告が認められる。またこの混合比は従量制ではない事がわかっており、その比率に対しては今後の研究が待たれる…”

(まさか今回のチョコ3日間効いていて…それで帰ってこないとか……
 まさかね。サンジがきちんと処理するって言ってたし)




3日間彼らは帰ってこなかった。

帰ってきたときには二人とも目のしたにクマを作り、歩き方も怪しげになっていた。

「「太陽が…黄色い。」」




16日。街のとある宿で。
「おい、そろそろ帰らねぇとまずいんじゃねぇか・・?」
「ん〜〜。だ〜め。・・もっとぉ〜。」
「頼む!少し休ませろ。」
「…うふふふ…い・や。」
「くそう!効きすぎだぞ!あの馴鹿!」

同日。別の宿で。
「ね…お願いですから…そろそろ…。」
「いやあ〜ん。もっとぉ。わたしのことぉ・・キライになっちゃったんですかぁ??」
「そんな訳じゃ・・でも皆心配してると思うし…ね?」
「い・い・の・・。」
「いつまで効くんだよ・・それくらい教えとけクソ馴鹿!」


The end


効果的な薬を試したい気持ちは解るけど・・
楽したい気持と好奇心も判るけど・・
自分達で墓穴を掘りましたね。
太陽が黄色い年長組に幸アレ。
ちなみに女性陣はお肌つやつやだったとか