動物達


チョッパーの日記より抜粋


ドラムを出発して4日目。天候晴れ
今日は船長の指揮でつまみ食いをした。ウソップとカルーと一緒にやった。
怒るビビにカルーと謝りに行ってまたサンジに食料にされかかった。
サンジは覗いてはいけないらしい。ゾロなら大丈夫だったのに。




船先で海を見ながらため息をついている鳥が居た。
ビビの騎獣のカルーというやつだ。

「どうしたんだ?」

オレが訊ねるとよけいに肩を落としながら答えが返ってきた。

「くえー(姫様に怒られました。さっきの件で。)」

さっきの件とは船長ルフィとウソップの提案で行われた、
例のつまみ食いのことである。

甲板でゆったり転がっていたときにルフィが誘いに来たのだ。

「お前達、腹へらねえか?」

結局はルフィだけがコックのサンジにしっかりばれて怒られた。
オレ達共犯者1人と2匹は釣りのふりをして誤魔化したはずだった。
そりゃナミにはしっかりシバかれたけど。


オレはトナカイの群の生活も知らないが、
複数の人間を生活まで一緒にして観察するのは初めてのことだった。

人間には色々なやつが居る。
ドクターやドクトリーヌとも違っていた。

例えば海賊の船長というのはもっと偉いものかと思っていたが
この船ではずいぶん違うようだ。
怒られ、殴られても笑っていたりする。
もちろんワポルを倒したルフィは強い。
ボスの匂いをさせている。

でも……人間の強弱関係はオレにはまだ難しい。


「貴方まで一緒につまみ食いをしていたなんて!
いつもサンジさんによくしてもらっているのを忘れたの!?
恥を知りなさい!
そんなことをするなんて…もう顔も見たくありません!」

と、ビビの剣幕はかなりのものだったらしい。

(あそこまで怒られる姿は見たことがないです)

(今回は凍っていたことでずいぶんご心配も懸けたのに)

(ワタシのような鳥には謝罪の方法も考えつかなくて…)


雌(オレのよく知ってる人間の雌はドクトリーヌだけだが)が怒ると怖い。

「オレが通訳するから謝りに行ってみないか?もし良かったらなんだが。」

カルーの考えもあるだろう。おそるおそる言ってみる。

とにかく謝るしかない、とオレは思っていた。
ドクトリーヌに怒られると山の上から釣られて、一晩中忘れられたこともよくあった。

顔を上げたカルーの瞳は輝いていた。
(ワタシの言うことをしっかり伝えていただけるんですね!
今まででは考えられなかった!)




「ナミ?ビビ知らないか?」

女部屋を訪ねると机に向かって本を広げるナミしか居なかった。

今日も彼女の匂いは昨日と一緒。
そして一寸怖い笑顔を見せて答えてくれた。

「・・さっきのつまみ食いの件で、
ビビはサンジに申し訳ないから謝って来るって出ていったわ。」

「!」

(…!)

正直、今冷蔵庫とコックの側には行きたくない・・。

「コイツがビビに謝りたいって言うから探しに来たんだ。」

ナミは一寸瞳を大きくさせた後で、視線が宙をさまよう。

「うーーん今行かない方がいいかも。
タイミング悪いとあんた達が冷蔵庫の中で吊されちゃうかもしれない。」

「!」

(…!)



それでも意を決してキッチン入り口の前にたどり着いた。

さっきのナミの言葉からドアをすぐ叩くのが躊躇われたので、
カルーの背中に乗って窓からちらりと中を覗いてみた。

中には優しく笑っているサンジと繰り返し頭を下げているビビが居た。
二人とも笑顔が見える。

コレなら、非常食料の刑は免れるかもしれない。

少しほっとする。


もっと優しい顔になったサンジが、
くわえた煙草を左手で外して王女の頬に口を寄せて、

……舐めた。   



(ワタシ達の代わりに姫様を食べる気なんでしょうか…???)

カルーが心配そうに聞き返す。

王女は真っ赤になり、抗議しているように見えた。
が、今度は口を舐められている。

コレは……。


「アレは交尾用の求愛行動だ。」

ヒソヒソ声でカルーの耳元でささやく。

(求愛??姫様は今発情期なのでしょうか?)

「人間は年中発情しているらしいから。」

(年中?ずっと一緒の姫様ですが今までそんな様子はなかったですが…)


人間の習性は我々動物と違う。
トナカイのオレでも不思議に思うのだから、
鳥には理解不能だろう。

(……やはり医トナカイは人に詳しいですね)

照れるようなことを言われ嬉しくなる。

「でも俺だってこの船に乗ってから知ったんだ。」

(姫様ですか?)

「いやナミが。」

(ナミさんが…?)

「絶対安静を解除した次の日からずっとナミの身体からゾロの匂いがしてるんだ。
交尾してマーキング(匂い付け)するのはボスだと思ってたけど。
ここの船長はルフィだし、ゾロはナミに殴られてたし。
人の力の関係が解らなくて不思議だったから観てたんだ。」

(ワタシ達鳥には匂いはよくわかりませんから気がつきませんでした。
トナカイの鼻は優秀ですね。
では姫様も交尾されるんでしょうか?

どれくらいの時間がかかるんでしょう…
声を掛けるわけにも行きませんよね…)

「さあ…」

カルーは困っているようだが
オレは色々見ることができるのがとても満足だった。

キッチンへ来た目的は忘れていた。

『人間は面白いなあ』




「……てめえらそこで何してやがる……」

蹴飛ばされちぎれたドアの後ろから新しい煙草を口に出てきた
その姿は絶対零度の冷蔵庫を思い出させた。
手には自慢の業物コックの命が光を放っていた。

眼の端にキッチンの奥で、顔に当てた手の先まで真っ赤なビビも見える。

ナミの言っていたタイミングを外したのだと二匹が気づくのに一瞬もかからなかった。

「窓にてめえらのクソ影が映ったんだよ!」

「………!!!」

(ク…クエーーー!)



その日カルーは更に謝らせてもらえなくなり、もっと落ち込んだ。



夜半倉庫にて

「あのトナカイも懲りねえな。」
「誰だって見られたら怒るわよ。」
「そうか?オレは全然気にならねえ……からもう一回やろうぜ。」
「…なによその『から』ってのは。」




<後書き>
書いたのはゾロ誕生日よりも先。
カルーが隊長だなんて知らなかったから・・(笑)
普通じゃない麦藁団を更に普通じゃない視点で見たらどうなるかな?
と思ったのが始まりです。
絶対に価値基準が違う相手から見た世界。
それがチョパ日記のテーマです。
(そんなもんあったのかい??!)
ああ!くれは先生!包丁は投げないで下さいねーー。