帽子




「失礼!」げふっ「失礼!」ぶっ
サンジのクルクルしっぽが回った眉の間に皺が寄った。
「てめぇにマナーってもんを叩き込んでやりてぇ・・」

その言葉を聞いた皆笑うに笑えず、一気にこみ上げた物を喉の奥の辺りでこらえた。

「サンジ君、マナーにもうるさいからねぇ」
ナミなどはニヤニヤ笑っている。
ルフィですら肩を振るわせる姿にロビンとフランキーと、そしてチョッパーは不思議そうだ。



突かれたウソップは思い出す。
「あれは・・」


空を覆わんばかりに広がり夜空に輝く巨大な桜に見送られたその次の日だ。

「おーい、飯だぞーー」
昨夜の泥酔にもめげずサンジは朝から皆の朝ご飯を用意する。
流石にその日は朝方に仕込んだ粥が炊けるまで待った頃に皆が起き出すくらいに遅い朝食だった。
作っていたサンジも火加減の間にもう一寝入りとしたらしい。


さっさと着席したルフィとウソップがチョッパーを手で招いた。
「え・・え・っと・・・」
「別にうちは指定席って訳じゃないから座んなさい」
ナミが大きめのボウルをとってきてサンジに渡して言った。

「えっえっえっえっ・・・」
嬉しそうにチョッパーが座って遅めのゾロが席に着いた。

「いただきまーーーす!!」
一斉に熱い粥をすすり始めたその時サンジは言った。


「おいチョッパー?飯時くらい帽子は脱げよ」
「え?」
サンジは、ルフィにはしつけを失敗した事がどうしても業腹だったらしい。さりげなく言ったつもりだろうがチョッパーくらいはと言う意気込みがウソップとナミにはありありと感じられた。

「脱ぐもんなの?」
素直な瞳で聞かれたゾロはその視線をナミに振った。振られたナミはウソップに・・と探したがウソップは粥のボウルから顔を上げない。舌打ちしたナミは心の中で(覚えときなさいよ)と唱えてチョッパーに笑顔で振り返った。
「え、ええ・・普通はそう言うけど・・・ね。」
ルフィの方は見ないように頑張っているとこわばってしまう。
チョッパーはナミの言葉を受けてふうんと素直に帽子に手をかけた。
「良いよ。ごめん。ドクトリーヌは言わなかったから。逆に言われてたんだ、『絶対に脱ぐんじゃないよ!』って」
「なんで?」
「しらねぇ。ドクトリーヌの言いつけは絶対だから」


ひょいっと帽子を取る。


皆の目が飛び出た。
顎も落ちている。




帽子に付いてるの・・・・・・・角????






サンジが脱ぐなと言ったのはその衝撃から回復してから3分後だった。
それからこの船では帽子はマナーに含まれなくなった。

このガイコツが仲間になるとしたら・・今度はどのマナーが倒されるのか。
ナミとウソップの間にその意味を含むやりとりが交わされた、その直後。
「ウソップ!思い出したわ!アンタへ借金追加よ!」
「まて!とんだとばっちりだぁ!!」


チョッパーはまだニコニコと新しい仲間を見ている。
帽子をかぶって食卓に着きながら。




end