鳥達の楽園

うちの王国には強い奴がいる。
半分俺たちに近い奴もとっても強い。
けど世界は広かった。
もっと強い奴がいたんだ。




二年ぶりに帰ってきた隊長に我々も一気に勢いを取り戻した。
それまで副長として代行を務めていたバーボンJr(ウソップ)などは感激のあまり言葉が出なかったし、いつものことだがカウボーイ(サンジ)などは「ケッもうすぐ俺の天下と思ったのによ。」などと最初は背を向けて言って喜んだ顔を見せまいとしていた。
そして彼等についての話を皆で取り囲んで一通り聞いた。
時間もないので寝物語のように枕を並べて。

隊長を予備食料や枕にする胡散臭いやつらではないかと思ったが姫様も嬉しそうだったらしい事が話から伺えたから良しとした。
何より話している隊長が嬉しそうだった。

だがゆっくり話す間もなく久しぶりの隊長指揮下でバーボンJrはアラバスタ鳥ネットワークを駆使して姫様を捜した。
北の鳥、南の鳥、渡りの鳥の情報は一番正確だ。
数多の鳥たちも隊長の帰還を喜んでくれた。



そして姫様はいた。
こちらに向かっている!クロコダイルの基地レインベースからこっちに!

到着地点の情報は随時伝えられた。
飛行能力に優れた情報部隊でも急いだ挙句に我々に伝えるときには声も出せないほどで到着位置を嘴をめぐらせ示した。
『あっちだ・・。』と。

そして我らの俊足で漸くサンドラ河のほとりで、川を渡った彼らに追いついた。

久々の姫様はとても綺麗になっていた。きっと苦労されたのだろう。俺達の到着をあんなに喜んでくれてそれだけで命をかけてもいいと思えた。

そして若い海賊達。
どんな奴らかと怖々思えば第一印象はそこいらにいる若者と変わりないように思えた。
だが・・・。それは甘かったのだ。
そして・・一番多く話に出たゴム人間は居なかったので皆少しだけがっかりしていた。

『おいカルー!』
目つきの悪い大男が隊長に近寄ってきた。
緑の頭。腰に三本の剣。これだけでもかなり重いだろうものを持って、砂の上でも足取り一つ崩れない。
長袖の上着の袖口からは鍛え上げられた太い腕が見える。
国でもここまでは見た事がない。こいつは・・かなり強そうだ。

『重いのを乗せても大丈夫な奴はどいつだ?』

隊長は順に、イワンX、ストンプと指し示した。三番目をしばし迷っているようだったが、ケンタロウスが胸を張って挙手した。
男はそのケンタロウスにつかつかと近寄ると

『じゃぁ、お前俺を乗せろ。よろしくな。』

言葉だけなら至極普通の挨拶だったと言うのに。
立っている我々を下から見上げているくせに。

皆に共通したこいつの印象は”怖い”だった。

恐さを通り越して皆全身が震えて使い物にならない。

その男とケンタロウスはじっとにらみ合っていた。気の強さは隊内一か二を争うケンタロウスでも足が少し震え気味だったが、それでもケンタロウスは隊内で一番“弱い人間を乗せるのが嫌い”な超カルガモで、彼はその強さを隠さない男が気に入った様子だった。

視線の挨拶が済むと男は横に回りいきなりがしがしとケンタロウスの背中から羽をかき回した。

『うはぁ!相変わらずや−らけェなー。』

と言っている表情は一見少年のように見えなくもなかったが、その恐ろしい顔に手を伸ばされたことだけでさしものケンタロウスもどう行動すべきか判らず一瞬息を止めていた。

男は触り終わると後ろを向いた。

『で、重い順に駱駝、チョッパーを乗せてくれ。他は誰が乗っても・・まぁ大差ねぇ。
・・けど・・おい!
一番おとなしいのはどいつだ?安全に乗れる奴。』

仲間内で一番乗り手を選ばないのはヒコイチだろう。ヒコイチは一見茫洋とした表情をしているが目端が利くので乗り手にあわせるのが巧い。

全員の視線が奴に集まり、頷きあった。
隊長が代表しておもむろにヒコイチを示す。

『ふぅん。』

男・・剣士はヒコイチに近づき前に立つと、まずじっとヒコイチを見つめた。

じっと見られている間、その眼光の鋭さが端から見ている我々にも背筋を寒くさせた。
更には何も語らない事で空気の重量が二次関数的に増大して行く。
真正面で凄まれているヒコイチは如何程の重責だったか。
奴はおっとりと物事に動じず何事も巧く流せるほうだ。奴以外がそれだけ睨まれたなら失禁もしくは意識を失っていただろう。
王宮仕えの身としての誇りもあったが、冗談ではなくそう思うくらい真剣な眼差しで男は上から下までヒコイチを見据えていた。

時間にすれば直ぐだったのだろうが緊張した我々にはとてつもない時間に感じられた。
男はおもむろに話しかけようと口をあけた。

われわれ超カルガモは陸上仕様で、視力、聴力が非常に良い。話は筒抜けだ。
男の目が更に鋭くなり、ヒコイチもその迫力に身体が完全に固まっている。

『おまえはあの女を乗せろ。軽いぞ。ろくな女じゃねぇけどな。多分巧く乗るだろう。

ただし、
病み上がりだ。あんまり体力もねぇ。おまえがこけたり落としたりしたら・・』

男の右手が軽く刀の鍔をおさえた。口元は笑ってる。これは笑っている表情なんだろう。
そうなのだそのはずなのだ・・・。

だがその眼光が鋭すぎて足元に震えが来る。
更に太い二の腕が袖口から見える。

『今夜の晩飯になってもらう。いいな。』


「クェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ヒコイチはようやく動いた首をぶんぶん振りつづけた。

肯定の意を表すそれを見て、男はにやりと笑っのだろう。くるりと振り向いて仲間の下へ向かっていった。



『アレが“凍らない男”ですね・・隊長の説明がなくてもわかります。もう少しでこちらの心臓から凍えそうでした。』

この意見に誰も反対しなかった。
ただ・・隊長は一言付け加えた。

「でも溶けるから、心配はいらない。」





「お前はそっちの奴だ。」
「乗る子の配分してくれたの?珍しい。雨でも降るんじゃないかしら。」
細身の女は雨を受けるように手を掲げ、オレンジの頭を振って空を見た。
「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと乗りやがれ。」
「言われなくても・・。あんた?あたしはナミ。よろしくね?」

ヒコイチは涙を浮かべながら首を何度も縦に振り続けた。ナミと名乗る女がどうこうよりもその背後にいる男が怖かった。
その様子を見て、女はヒコイチの視線の先を辿った。

「・・・ゾロ?あんたこの子達になにしたの?」
「・・?」
「また無意識ね。」

双方の顔をみて彼女は溜息をつくようにこめかみを人差し指で抑えた。

そして男はその女の行動にどれほど怒るのかと思いきやまるで普通の人間のように憮然と立っている。
思いがけず普通の人間に見えてこちらの方が慌てた。

「凄んで見せたんでしょ。
 判ってる?ただでさえ目つき悪いんだから。
 普通の人にはあんたの顔って普通でも充分怖いのよ。」
「こいつらに凄んでどうすんだ?んなことするかよ。」
「あんたはカルーで慣れてるつもりでもねぇ・・。」

馬鹿じゃねぇか?と頭を掻きながら向こうを向いてぷいっと膨れている。少し頬が赤い。その男の耳を女はにゅっと引っ張った。

「何すんだ!」

二頭に向かって涼しい笑顔を見せながら女は言った。

「ほーら怖がらなくていいわよ。怖いのは顔だけだから。ね?」

思いがけず男の目が優しくなっていたように見えた。


二頭の足の震えは止まった。
そしてはたとある事実に気がつき更に震えが強まった。


「一番凄いのは・・・。」
「凍らない男じゃなくって・・・。」
「・・・・・。(太陽の女だ!!)」


(絶対落とさない)

ヒコイチは固く誓った。
今ではこの男が怖いと言う感覚はだいぶ薄れたとはいえあの恐怖を抱かせる凍らない男。

その男をあっさり押さえつける女。
そんな彼女を落としたら・・・想像することすら恐ろしい。



我々は王国の鳥最高位の超カルガモ。
そのプライドにかけても。



ただ。
アラバスタまでの小一時間。
二人の騎乗は非常に丁寧かつ心優しいものだった。
乗り方一つでその人柄はわかる。しかも、二人の会話の様子から二頭の緊張はほぐれていった。
そして声援をかけるまでにいたる。

ただし

顔さえ間近で見なければ。

それはそれで又、別の話。






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