登る



最初は侵入者だと思ったのです。

初めての出会いが敵であってもこの船には全く関係がないのだと知って居ましたからそこは驚かなかったのですが、
貴方は私が留守番しているときにもの凄く静かに登ってきたでしょう?
そう言う登り方をされたのは初めてでしたからとても不思議で・・信じられなかった。
そして、自分の色を最初は一気にするりと。
それからは逆に臆病なくらいに目立たぬように少しずつ、少しずつ溶け込ませていきましたね。

私の中の音の一つ一つに貴方が怯えなくなった頃。
私と共に空から落ちて、その笑みが円やかになった頃。




あれはウォーターセブンに入る前の航海の途中です。
月夜にきらめく水面を、私の微妙な揺れを伴う波が押し分けていく夜でした。
夜半、彼女はマストに一人で登っていました。
マストにどんどん手を咲かせてその中を運ばれていく姿はそれは美しかったですよ。

しかし。
その頬に涙が流れ続けていたのはどれくらいの時間だったでしょうか。
まるで、凍った形で運ばれて来たときと同じような顔の色。
頑なにも動かないその容貌。
そのままマストの上で静かな彫像が滴を流しておいででした。

なにも語らなかった彼女は最期の涙をぬぐい、そしてゆっくりとマストの縁を撫でてくれました。

『貴方も何も言わずに皆を守っているのよね。メリー。』

今までの静かな微笑みとは違う少し硬い、読み難い憂いが彼女のすべすべした肌の上を照らす月の光を受けていました。


『私も・・貴方みたいになれるかしら?』
躊躇うような言葉を口にしながら、貴方はもう答えを決めていたのですね。





最後にも。 貴方は最初と同じ登り方で私に上ってきましたね?
手にしたのは小さい袋を一つ。それだけを取りに来たのですね?けど。
その中にどれだけの私物が入るというのでしょう?
彼女が詰めていたのは思い出という形のない宝物。

私の中に刻まれていた笑顔という名の思い出。


『お願いよ。貴方だけは彼らと一緒に旅を続けてね。・・私が居なくなっても。』


ごめんなさい。今の私はその約束は・・・。

















Backboard illustrated COMMON SUN
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