蜜柑の木 |
「風と海があれば渡りきってみせる」 そう叫んだ彼女の言葉に応えたいと心から思いました。 たった独りで、心の底からの慟哭で、泣いていた彼女を私は知っています。 彼女と涙だけを運んだその後の村でした。 のどかな気候。島中にこんもりとした緑が広がる中。 破壊された町の傷跡が生々しいのに、そこから乗ったのは皆笑顔に溢れていました。 楽しそうに作業する人々が持ち込んだのはがっしりした三本の木。 その後私を彩った緑と橙の宝物。 大工さんと名乗る人が排水用の溝を切りながら土を入れ、締めてくれました。 「おーーい!もうこの木を乗せても良いか?」 「おお!良い木を選んだじゃねぇか!」 「ったりめぇよ!」 よろめきながら数人が岸から木を持ち上げるのを見て、それくらいは運ぶと船長さんと剣士さんが言いましたが村の人達は皆首を横に振りました。 「俺たちのなっちゃんへの餞別だもんな。」 「おい兄ちゃん達、大事にしてくれんかったら、村中で拳骨くらわしに行くからな!」 言葉は軽やかでしたが、目は本気だったと思います。 言い聞かされた4人は何も言わずににこにこにこにこと風にそよぐ緑の葉と橙の蜜柑を見ていました。 土の感触は私にとっても面白い物でしたが、ゆっくりなじんでいきます。 「土台のしっかりした良い船だな。これなら任せられるよ。」 最後にそう言って村人達は降りていきました。 何度か語らった蜜柑の木とも今は別れました。 葉ずれの音も、土の感触も、今は遠い。 別れの際に私に染みこんだ、新しい彼女の涙だけが微かな痕跡を残すだけなのです。 |
Backboard illustrated COMMON SUN
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