belief
「なぁナミ。何でなんだ?」
振り向き様に真っ赤になったビビが走っていくのが見えた。
後ろから声を掛けたら見てたんだろうと言う目で驚かずに
ルフィは真っ直ぐに質問してきた。
「当たり前じゃない。あんたみたいな迫り方じゃ普通最初は退くわよ。」
最初はね。
ある意味、思いも寄らなかった。
ルフィが惹かれた女性。
惹かれるままに想いを貫こうとする女性が現れた。
強い女の子。
もしかしたら最初にルフィとゾロにあった頃の自分よりも。
とても魅力に溢れた、自分も惹かれてしまう王女様。
………………。
「なぁ、ナミ・・」
「あのよ。」
繰り返される全幅の信頼を寄せた相談が。
隣に眠るお姫様に向けたものだと知って。
そして彼女も同じ思いを抱えたと知って。
私は壊れるかもしれない。
これほどルフィに溺れているとは知らなかった。
だって・・・あの子を拒んだのはあたしだったのに。
恋しいのはゾロだったのに。
それでも・・
ルフィが女性に惹かれたと知ってこんなに衝撃を受ける自分がいたなんて。
ナミが言ったとおり甲板の風はアラバスタに近付いているのかやや緩い。
夜半にかけて昼寝と言うには遅すぎるその静かな時間を堪能する予定だったんだが…。
ただ黙って側に立つ気配がした。
目を開ける必要もない。ナミだ。
そのまま側に腰をおろしたかと思うと胸にしがみついてきた。
誘うでもなく、祓うでもなく。
ただしがみつくという姿勢が、珍しくて片目を開けてみた。
ただ頭を人の胸に預けてただぼんやりしている風情だ。
微妙な女性心理なぞ俺が理解できないのは百も承知だろうに。
動かない事への居心地の悪さも手伝ってそのまま下半身に手を伸ばした。
ナミはいつもよりも気怠い雰囲気でその手を押し返してきた。
「今は嫌。」
「・・・・。」
そのまま引き下がるのも何だし、後ろ首にそっと歯を当てた。
軽く吸い付いたり舐めたりしてみる。
「嫌だって言ってるじゃない。たまにはおとなしく抱いててよ。」
人の気も知らないで・・確かにナミはヤルだけじゃなくてただ腕に抱かれていることが好きだ。
体温が安心するのだと言うが、こっちもただの椅子じゃあるまいしそのまま収まるわけがない。
いつもなら、なし崩して事におよぶんだが今日はさすがにいつもと違う位は判る。
「子作り作業なんてしたくない。・・絶対息子なんて産まない。
…どんなに大事にしててもあたしを置いて行っちゃうだけじゃない。」
「おいおい・・」
「もう、いやだ……。」
見えない涙で泣いているようだ。そう簡単に泣く女ではないのに。
だがその涙の訳は俺には判る。
ルフィは聖域だった。お前にとって。
なによりも信頼して全身を預けた聖域。
子供が親に対して刷り込まれるように全身にしがみついた想い。
それを信頼と言わないで何というのか俺は知らない。
全幅の信頼という言葉にお目にかかれるとは思わなかった。
それが俺に対する想いと違うのが判ってもその鮮やかさに何も言えなかった。
だが……現実にそいつはてめぇの聖域ではなく他の女を求めるただの…男という生き物だ。
他の女を求めて動くただの男。奴が求めたのは・・。
それを嫌いになれない自分にまた腹が立つのだろう。
でも俺には……奴が子供に見えるはずもなく。
ただ対等の男に見えるから。その想いも覚悟も判るから。
奴に狂いそうに嫉妬しながらも逃れられない自分がいるから。
「できちまっても産まない気か?」
「?」
訝しげに見上げる顔は涙で歪んでいる。
その言葉の意味を瞬時に理解した明晰な頭脳に遅れて全身が反応して真っ赤になった。
自分のせりふの馬鹿さ加減に気恥ずかしくなり俺は目の前のオレンジ頭を抱え込んだ。
「………自分の子供が欲しいだけなら他を当たれば?誰だって産んでくれるわよ。」
あんたのなら………誰だって喜んで受け入れてもらえるわ。
絶対言ってあげないけど。
「てめぇ以外には興味ねぇし。」
「…………!!!」
「コックと違って子種をばらまく趣味もねえし。」
ずるい。
反則だわ。いきなりこんな事態で言うなんて。
顔が真っ赤になっていることくらい判っている。
だって顔だけ暑いんだもの。
顔の廻りだけ。耳までもぼーーっと変だもの。
触られてるんだから。
判られてるなんて癪だけど。
「それで口説いてるつもり?」
「…………。」
「………馬鹿。」
腕の中には暖かくて何より柔らかくいい匂いの身体。
場所を変えた倉庫の中でも夜半の月は煌々と俺達を照らしている。
色々な想いを見てきたのであろうその光も等しく俺達に降り注ぐ。
自分が滑稽なことくらい判っているさ。
それなのに逃れられないことも……。
コイツのこの想いは俺と月だけが知っていればいいと思うのに。
ルフィはきっと解ってる。
おそらくこの好機も逃しちゃいないだろう。
さっさといっちまえ。
The End
りうさんのリクエストは
「(かるら的地雷)極甘」
甘いですか?緩いですか?温いですか?
ただこっ恥ずかしいだけですね。
思い切り酔ってから、WJの181話を読んで
「るびびるびび」と念じながら
1時間で文を作るとこうなるのです。
りうさんの祝い品としても献上いたしました。
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