「From 9th?」

私個人宛の郵便はあまり多くない。
公用の膨大さとそちらの整理を人に任せねば成り立たない今の生活の忙しさ。
それを補って余りある充実感。国は潤い人々の笑顔は輝いている。
少しくらい雨が降らなくても皆笑いながら声を掛け合っている。
「たかがこれくらい。雨はまた降るさ。」
たまに・・胸を一陣の風が通り行くことに目をつぶれば、こんなにやりがいのある人生はないだろう。

選んだ己に満足する日々の中、それはふと自室の窓際に届けられた一通の郵便鳥。指定した場所(あいて)にのみ向かうという珍種。人の声音をそのまま真似るという珍種。
そして一枚のカード。
最初その文を見ても意味がよくわからなかった。







「パパ?その手配書・・・。」
「うむ。」
彼らが行ってしまって幾日か経たある夜。書斎の父が珍しくぼんやりしているようなのでビビは声を掛けた。
彼の前の大きな机に広げられた三枚の紙片をただ黙って眺めていることに気が付いた。
その一枚ずつでもの額の大きさは、自分程度のレベルのエージェントではバロックワークスといえど見たことがなかった。個別のエージェントの力など及ぶはずのない世界の高み。そこでも笑っている彼の笑顔からは想像も付くまい。
その内の一枚、幼い女の子に掛けられているこれまた想像も出来ない巨額。その幼い瞳は空をにらみつけている・・・・この年齢の彼女は一体何を見ているのだろう?

「彼女にも・・この世界は救われたのだよ。」

あれほど憎み歯がみして自分が追い回した女とパパから聞いた話の女性が同一とは思えなかった。僅かに接点があるように思ったのは、「貴方のしたことと私とどう違うのかしら?」と言う台詞だけだった。
この言葉は聞いたときには腹立ちもしたが日を追うごとにゆっくり自分の中で重くなってくる。夢を追うことと欲を満たすことの境は一体どこにあるのだろう?そして彼女は今どうしているのだろう。捕まったという話は聞いていない。






「9番目。」
差出人の名を鳥はそう名乗った。
だが声に記憶はなかった。
差出人の望んだ名前を名乗る事もあると、そう聞いている。
音声の改竄も可能だと。

思わずどきっとした。その名前に、かのウィスキーピークで分かれた気の良い相棒の顔が思い出された。ビリビリした仮面の自分を何も聞かずにそのままの形で受け入れてくれたあの人。その懐の大きさは馬鹿なのかと思うくらいに優しかった。確かに知的なタイプとは言いかねたが、それ以上に心根の暖かな男だった。
そして『友達だ』と言ってくれた彼女の顔も。
今では彼らを自分から訪ねる術もない。どれほど感謝をしているか。それだけでも伝えられるならどんなにか良いのに。

だが宛先を見て納得がいかなかった。

"To Vivi the 6th "
私が・・6番目?


くるるるる・・・・この鳥本来の声を知るものはない。その特有の唄を知るものだけがこの鳥を得ると言う。一度人に飼われたそれはその指令に逆らうことがない。食用にはならない己が身を知っているのかこの鳥は追い立てても私の部屋を離れない。それはこの鳥が受け取り主の顔をインプットされている証拠だ。
最も重要なことにこの鳥は聞かせた音を奏でる。どんな音もそのままに。何も加減せずに。複数の音も音量もそのままに。期限は三日間。三日たつと忘れるのだという。
一体誰が・・。かなりの珍種だしアラバスタの鳥ではない。自分も偶然知っているだけのもの。
澄んだ瞳と灰色の目立たぬ姿。真剣なまなざしで訴えるので追い出すこともかなわなかった。
遠くを旅したらしいその姿にまずは手元の水を差しだした。だが彼らはその役目を一度果たさない限り受け手からのものは摂らない。溜息をついたがあきらめて、鳥の正面に椅子を持ってきて座った。

訝しみながらもその鳥の頭に触れる。

そして鳥は語り始めた。
鳥の奏でた声は思いがけない勢いで私を押し流した。
時の彼方へ。
置いてきた幻へ。
そこまで飛んでいけるものなら。
差出人は解らなくても、このまま死んでしまっても悔いがなかった。

鳥の名を鸚鵡という。












後一人で10人だ!
なにが?
この船の仲間。
俺にゾロにナミにウソップサンジがきてビビとカルーが乗ってきたろ?
それからチョッパーお前が乗って、それからあいつで9人目。
俺は8番目か!良いなその呼び名。海賊らしくてさ!
だろ?!


ガガガガガ・・・・
雑音?


なぁ・・この酒妙に旨いよなぁ。
でしょう?
どっかで嗅いだ臭いみたいだぁ・・告白草に似てるなぁ
何?それ?
聞かれたら答えてしまう草。
アラ便利。どこで手にはいるの?
俺の鞄に・・・・あれ?無くなってる。変だなぁ。


ガガガガガ・・・・



で、貴方の初恋は?



誰の声?大人の女性・・。
知らないような知っているような声。



お袋が病弱で親父がいなかったからお袋を守るのは俺様の仕事だった。
お袋がいなくなって今度はカヤが寂しがってた。
身代わりとかじゃないぞ。なんつーか・・寂しがりって放っておけねぇじゃんか。

俺様はいつか彼女と再び出会うだろう。
ただ・・その時に俺は良いおっさんであいつはきっと幸せな奥さんだ。
それは恋物語でもお伽噺にもならない・・本当の話なんだ。


なんか、かっこいいなぁ。まるで海賊みたいだ・・。
おれは海賊だっちゅうの!
にしても長っぱなの癖に洒落た事言うじゃねぇか。
寂しがり〜〜寂しがり!
誰が寂しがりだぁ??
お前。
誰がだって!こいつにまとわりつかれるの何ざぁごめんだぁ!






一番好きなのはシャンクスで、二番目がエース。三番目がマキノ。


いや・・それはなんか違うんでねぇ?
マキノって?
いつも旨いモン喰わしてくれた!
・・・ほう。旨いもの・・ねぇ。
そうだーサンジィなぁ、またビビに作った愛情弁当作ってくれよ。
あれはビビちゃんスペシャルだ。
良いじゃん俺の海賊弁当と。  んで二つとも一緒に喰うんだ。
お前一人でか!
おう!
けっっ・・・俺も一緒に喰うから後で作ってやる。








ドクトリーヌって綺麗なんだ。
患者の前に立った途端に目の色が違うんだ。
ちびの頃は生きるのに精一杯だったから・・。
他人を綺麗だと思ったのはあれが初めてだ。

げ・・あの婆さんか。
婆さんって言っちゃいけねぇ、非常に美しい方だ!
節操なし〜〜。限度なし〜〜。
ただ・・願わくば120年前にお会いしたかったぜ。
120年前ならお前は種以下だぞ。




あたし?
紙上の伝説に。
文字の情報だけのただの紙切れ一枚をずっと持ってたわ。

見せてくれます?
残念、もうないわよぅ。
え?もうやめたんです?
・・・・・・・・・。
え〜〜オレも知りてぇぇ!
ああ・・その天上の笑顔〜〜俺と言うものがありながらそんなぁぁぁ。
言ってろ、馬鹿。





俺が見てたのはライバルだけだ。
だからんなもんは  いねぇ。

剣しか興味ねぇのか?
いや・・ここだけの話ライバルってのが美少女だって話だ。
なんだと!この毬藻頭にそんな過去が!?あのルフィに対する異様な情熱はてっきりホモかと思ってたぜ。
なんで子供も作れない雄同士なんだ??じゃなくってゾロはナミといっぱい交尾してるじゃないか?
がごん!
うわ〜〜〜〜忘れようとしてんのにぃぃ!
ここだけの話が筒抜け・・。
・・・・・お前等勝手に話を作んなぁ!




モナにシェールにリンダにサリーにブレンダにナオミにチェジャにルシルにタカにマリオにファイファにドゥータにシャイラにべべにナギサに・・・・・
ああ・・数え切れない俺の女神達・・。

あらサンジ君、あたし達は?
永遠の恋人ですっ。
玩ばれたリスト増やしてどうすんだ?




一番好きなのはシャンクスで、二番目がエース。三番目がマキノ。
いやそれはもう聞いたって。
でも今は一番ビビに会いてぇな。

・・・・・・・俺も。
あたしも。
俺もだ!
俺様も。
お前等・・気が合いすぎだ。
んん・・お前は違うのか?
誰がんなこと言った。
同類が・・かっこつけんな。
んだと!


(がたっっっ・・すぅ〜〜〜〜)

ビビ〜〜〜好きだぞ〜〜〜〜!

ビビちゃぁ〜ん 愛してるよぉ〜〜〜
俺の方がもっと好きだぞぉ〜〜
俺の方が愛してるよぉ〜〜〜
ああ〜五月蝿い。大声だしゃ勝ちって訳じゃないでしょうが。
ナミお前の声、大きさは三番目。お前の負け。
うわ〜〜ぁナミが負けたのかぁ?
誰が負けよ!負けるわきゃないわよ!
俺だってカルーも好きだぞ。
誰だ!カルー用の樽でチョッパーに呑ませたの!



・・・・・
がががががががが・・・・
唐突に鳥は語りを終えた。
"time up"
鳥の許容量を超えてしまったのだ。




鳥の鞄に入っていたカード。見たことのない大人の筆跡。そのカードに落ちる水滴が止まらない。
ちらりと聞こえた9番目の仲間の聞き覚えのある声に、羨望よりはただありがたくて、鳥の餌の蜜を与えては何度も何度も鳥の頭を撫でた。
失われ行く時を愛おしむように、何度も・・何度も・・。






鳥の飛んできた空は次第に暁の光を砂漠に呼び寄せる。
黄金に染まるそれはあの海で見た景色に似ている。
晴天の下を彼らは今も行くのだろう。



『貴方は今もここにいます。』








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