天花雪ぐ(サンジ語りの669話) |
心地よい酔いを含んだ睡魔に身を任せている空を飛ぶような感覚の中。 その風を感じなくなって、夢の中で聞こえた二音。 途端 自分の体の中で弾けた大きすぎる感情が二心。 俺の中のはずなのに、その一つは、明らかに自分の物じゃなかった。 「ゾロ あんたも行きなさい。それからサンジ君達が私の体に触ったら10万ベリー、覗いたら20万ベリーってのはあんたにも借金に付けるわよ!」 「んだと!こんの守銭奴!!てめェ二年前から一っつも替わってねェじゃねェか!」 愛しのナミさんの指示だから断れねェがこんな馬鹿が楽園と一緒の俺に付いてくると思うと本当に鬱陶しい。 それでも間違った方向へは行っていなかったと思う。 だってこの雪山で骨の爺と迷子と一緒の割には浪漫に出会えた。 ちょっと浪漫に意識を持ってかれ過ぎたのは計算外だったが。 構 えた銃と臭いに覚えがあった。おそらくは同じガスなんだろう、二度目だったんで一瞬の差では身構えた事と・・・多分中で弾けた気持ちの衝撃で一人早めに目 を覚ます事が出来た。 三下が何かほざいていたが関係ねェ。 そういえばナミさんも身軽で体は柔らかいだけに強さはなくとも動きに違和感は少ない事に気が付い た。 だが何せ 体はか弱いナミさんのもの・・・アザでもできたら大変だ。 アザ? 手足を感じてみる。 落下の傷どころかアザ一つも無ェ。 上を見上げた。 先程落ちた先の崖は降雪で見えないくらいに高い。 ナミさんのこのお体に傷一つなかった事は喜ばしい限りだ。まだ起きないブルックの奴が軽量ながらもかなり雪の中に埋もれていたうえに首がややあらぬ方向を向 いている事と比べると、こちらは落ちた衝撃の記憶もなければ痣一つないし、寝たままのマリモがこれまた偉く盛大に雪に顔を突っ込んで埋もれている事もざ まぁみろと思える。 だが崖下に視点が止まった。ブルックの転がった先とマリモの転がった先に二つ、落下の跡が見える。自分が立ち上がった後もその一つ・・・・・・マリモ側から分かれて転がった跡に見えた。 そしてやや遠くに切り口のある剣山状の雪塊が小山のようだ。 夢の中のように思えたさっきの記憶を思い出す。 『・・・ナミ・・』 耳元で響いた時に感じた絶対的な拒否感と自分の物じゃない溢れ出す歓喜が体内で蘇る。 あの時も今でも自分の感情でない事ははっきり分かる。 ああ、陽も差さないのに雪の強い照り返しが目の裏にまで染みこむ。 染みこんで苦くとも納得した。 「ちっ・・・あの野郎に庇われたか」 喧しく文句は言う割にはナミさんを守る事に賭けては絶対に信頼を裏切らないこの男に俺が抱くのはやはり拒否感だ。さっき寝ながら感じてた俺の方の感情だ。 ただ・・ナミさんの中に俺が居て、これが不思議な事なんだが感覚も記憶も全部俺なのに意識が遠のけばナミさんの喜びを俺も感じる事が出来た。 きっかけはおそらくは抱えられて守られた腕、野郎の呼んだ声。 そこから溢れた歓喜。 ソレを分かっちまうと腹立ちも諦めも張り合う気持ちも出てきやしねェ。 あたりまえに護り守られている二人に対するこの気持ちをどう表現すれば良いのだろう。 「一本失礼・・・」 吸い込んで煙の快感が手足を巡り心の芯に煙が行き渡る。 吐き出した煙が一本空に向かって立ち上る。 あっさり喫煙を許してくれた彼女の笑顔を思い浮かべる。 「ナミさん・・・!」 重たい何かは昇華されないままでも大気に雪がれて溶けてゆく。 「さて・・・」 ナミさんのお御足で蹴り降ろして起こしてやったのはせめてもの嫌がらせ。いつものナミさんと同じ拳骨殴りになど絶対にしてやるかよ。 |