【大切】 yutakaさん (カク×カリファ) |
『男を知れ。』 長い廊下を歩きながら、カリファは上官から言われた言葉に頭を抱えた。 この組織に入れられた時からある程度予想はしていたとは言え、実際に言われるとかなりの難題だ。 訓練を受けるために集められてから外部の人間と接触する機会などほとんどない。男娼を買うのにもどこに行ったらそういう人間がいるのかすら分からない。むろんカリファが誘えばそれに乗ってくる男性も星の数程いるだろうが、ある程度信頼おける人物でないとその後が怖いこともある。 「どうした。浮かない顔じゃの。」 いつの間に追い付いて来たのか、カクが声をかけて来た。 気配を殺すのもここに来た時にくらべると格段に上手くなっているようだ。 「困ってるのよ。」 「珍しいの?お前が困る事を言われるなんて。」 「男を知れ。ですって。」 「・・・はあ。そりゃ確かに困るの。」 特にそういった様子も見せずカリファから目を反らす。最近、彼は感情を見せる事が極端に少なくなった。訓練を続けていく中で感情は邪魔だと判断したのか、こちらが怒っていようがいまいが態度一つ変える事はない。 逆にその態度がカリファが気分を害する事になる。 「誰か紹介してくれない?」 「あいにく男に知り合いはおらん。」 困らせてやろうと声をかけたが敢え無くかわされ、カリファは小さくため息をついた。 「私もいないわ。」 「じゃろうな。」 いたらわしにこんなこと言う訳がないからな。とカクは付け足した。 カリファは自分の部屋の前に立ち止まり、今日はもう訓練はない事を思い出し、カクの顔をじっと見つめた。 「なんじゃ?」 「協力してよ。」 くるりと丸い目に微かに驚きの色が見えた。 「何をじゃ。」 「決まってるでしょ?」 カクはぽかんと口を開けた。 今後の訓練の事を考えればこういう要求など可愛い物だ。それならばさっさとすませてしまおうと言うのがカリファの考えのようだ。 「言っておくがわしはそんなに経験豊富じゃないぞ。」 「そうなの?別にそんな事気にしないわ。私が経験できればそれでいいもの。」 「そう言われると傷つくの。」 「嘘ばかり。」 「確かにそうじゃが。」 んー。とカクは一瞬視線を泳がせた。だが、考えるのもおっくうと思ったのかすぐにカリファに視線をお落とした。 「それじゃ、汗でも流してこようかの。」 そのままカリファの横を通り過ぎ、自分の部屋へと入っていった。 カリファはそれを見た後、自身もまた同じようにバスルームに入っていった。 ほどなくしてカクが部屋へと入って来た。先ほどとは違ってどこかさっぱりした様子で、バスローブに身を包んだカリファに歩み寄ってくる。 ん。とカクは小さな錠剤を差し出した。 「何これ?」 「媚薬じゃと。」 「・・・どこからもらって来たの?」 「ブルーノにもらった。酒と一緒に飲むとイイらしいぞ。本来なら2錠で完全にいくらしいが、そこまで意識飛ばしたら意味ないじゃろ。最初で痛い思いして苦手意識でももってしまったらこの先もたんじゃろうし。」 確かに、苦手意識は時に死をもたらす事もあると上官はよく言っていた。 どんな辛い訓練でも最初はできるところから始めて徐々にきつくなっていく。長年の訓練でそれは身にしみて分かっていた。 「・・・御丁寧にどうも。なんて言ってもらってきたの?」 「使うといったらくれた。」 「・・・・そ。」 この調子では風邪薬をもらう感覚だったのだろう。彼なりの気遣いと受け止め、カリファは酒でその小さな錠剤を流し込んだ。 「どれくらいで効いてくるのかしら?」 「さあのう。でもあんまり長い時間ではないじゃろ。」 「そうね。」 カリファはベッドに勢い良く腰を下ろした。 横にいる男はカリファをみようとはせずほおづえをついている。 動揺とまではいかなくてももう少しなにかあるのではないかとカリファはうつむいた。慣れているはずの沈黙が今は苦しかった。 「・・・ここに来て何年かしら?」 「さあのう。死にかけた回数なら覚えているんじゃが。」 「そのうちあなたも『男を知れ』って言われるのかしら。」 「ない事を祈るの。おなご相手なら歓迎じゃがの。」 カクの思い掛けない言葉にカリファは次の言葉を失った。自分とこうしていても反応すら示さないような男が女を抱きたいなどと思うのかと。 「・・・効いてきたようじゃな。」 カクの言葉にどきりと心臓が高鳴った。 「どこか・・・変わった?」 そう言えば少し熱くなって来た気がするが、自分が気付いてもいない事をどうしてこの男に先に勘付かれてしまうのだろうか。 「頬が赤い。」 その言葉にずん、と身体が重くなった気がした。 動機がどんどん早くなり、息が上がって来ている。 カクの手が頬に触れるとびくりと身体が反応した。 「すごい利き目じゃの。あとでブルーノにもっともらっておこう。」 興味深いといったふうにカリファの潤んだ瞳を覗き込んだ。 その間もどくどくと身体は脈打ち、頭の奥が霧がかかったようにぼんやりとしてきている。 「熱・・・い・・・。」 やっと出た言葉は掠れていて、自分の声ではないような感じがした。 「そうか。もっと熱くなる。」 体重をかけられ、ベッドに倒れ込んだ。 その柔らかい衝撃にくらくらとめまいまでしてくる。目は確かに開けていてカクを見ているというのに、見なれた顔がぼやけて見える。これが薬の威力かと頭の片隅で自分を観察していた。 首筋に舌が這わされ、ねっとりとした刺激に全身が総毛立つ。不快なのかも快感なのかも分からないままシーツをきつく掴んだ。 「こういうときは声を出すもんじゃ。」 どことなく上ずった声で耳もとで囁かれ、その微かに吐息と響く声に軽く唇を噛んだ。 「どう・・・いう・・・?」 ぐらぐらと回る頭でなんとか思考を固めようとするが、カクに触れられる度に霧散していく。どくどくと脈打つ鼓動が耳の奥で聞こえ、ぼんやりしている頭とは裏腹に身体はほんの少しの刺激にも反応を示す。 「さあのう。男のわしに聞かれても困るのう。・・・まあ我慢する声というのもいいもんじゃが。」 するりとバスローブの中に手が入り込り、膨らんだ乳房を直に触れられる。 「・・・あ・・・・!」 びりっと電気が流れたような感覚が身体を走る。 それとともに小さな違和感を感じた。 カクの手は動きをとめる事なく柔らかな膨らみを揉みしだき、首筋から胸元、すでに固くなった部分を緩やかに舐めていく。 「・・・あ・・・ん・・・・。」 少しづつ気持ちもほぐれてきたのか、カリファは甘い声を漏らした。しかし、まだ彼女自身、どこか冷静に自分に触れてくるカクを感じていた。 重ねられた手は大きく、カリファの手などその手の中にすっぽりと収まってしまうだろう。筋肉質な身体も、真直ぐに結ばれた唇も昔の彼とは明らかに違っていて、柔らかなラインに包まれたあの笑顔はもう感じられない。 時が過ぎたと言ってしまえばそれまでかもしれない。 だが、そこまで変わるまでの時間が自分達には短すぎた。 過去を振り変えれば辛い訓練を乗り越えられなくて、見えない未来に向かって進むために自分を変えていくしかない現実。 頭の片隅は冷静でも身体はどんどんと熱をあげていく。すでにバスローブは脱がされ、乱れた姿を同僚でもあるカクにさらしている。しかしもとより抵抗する気もなくそれよりもカクに触れられただけで甘い声を漏らす自分がそこにいた。 カクも反応がいい事に気をよくしたのか、本能の赴くままにカリファの姿態を楽しんでいるようだった。 触れられる度に、舐められる度にとくとくと熱いぬめりが股間を濡らす。 カクの吐息すらも鋭敏になった身体には電気のように身体に突き刺さる。 「は・・・。」 ふと、カク動きが止まり、カリファは重いまぶたを微かにあげた。 「不思議なもんじゃな。」 聞こえるのは掠れた男の声。耳に柔らかく響くあの声色。 ゆっくりとカクの顔が近付き、その日初めての口付けをかわした。軽く噛まれ、舌を絡ませる。 「ワシにも薬が効いて来たのかもしれんな・・・・・なんでもしたくなる。」 はっとして目をあけるとそこには熱い目をしたカクがいて、真直ぐに自分を見ている。 指をからませられ、手をきつく結ばれるを感じて、そっと指を折った。 「・・・しましょう。」 身体を起こし、座ったカクの上に乗るような体制になる。いきましょう。一緒に。耳たぶを軽く噛み、カリファは囁いた。 薬の力を借りて頭に残る理性を投げ出し、変わってしまった自分を哀れんで、戻れない過去を思って不様に泣いてしまえと。 カリファは大きく息を吸い、それを溜め込んだままカクを見つめた。 カクの咽がごくりと音を鳴らした。お互い目を離さぬまま、カリファはゆっくりと身体を落としていった。 ぎりぎりと身体の中で音がしてカクが入ってくる。 「ふあ・・・は・・・ん!」 痛みにも似た甘い感覚が競り上がり、たまらずカリファは声を漏らした。 カクは対照的に唇を噛み締め、熱い瞳で見つめ返してくる。背中に回された手もせわしなく動き、もっともっとと急かしてくる。 痛みにも似た快感。いや、実際カリファの身体には激痛が走っているだろうが、それよりもカクを取り込みたいという欲求が勝り、急ぐように腰を落としていった。 「く・・・はあ・・・。」 全てを受け入れた後で二人、目を合わせて笑った。 無邪気な笑顔はそのままで、長い腕でカリファを抱きとめると緩やかに身体を動かしはじめた。 「ああ・・・!」 まるで重さなど感じないかのように持ち上げられ、そして落とされる。 その度にビリビリと快感が身体を駆け巡る。 自ら動こうとした身体はその快楽に負け、艶やかな嬌声が暗い部屋に響く。 「ああ・・・!あん・・!あ・・・。」 流した涙は汗とともにシーツを濡らして、空気を求める唇を塞ぐようにカクの唇が重なり、そのまま激しく舌を絡ませる。 「はあ・・・カク・・・カク・・・・!」 「カリファ・・・」 部屋にはねっとりとした水音と互いの荒い息遣い、カリファの嬌声。 隣の部屋に誰がいようと関係なかった。思うのはただ欲しいという気持ちだけ。 何度身体を貫かれようと、きつく抱き締めあおうと、それでも戻らぬもの大切な物さえこうしていれば取り戻せるような錯角。 すでにカリファも限界に近く、幾度も襲い来る波にたまらず背中に爪を立てる。その様子を知ってか知らずか、寸前の所で止められる。その度に噛み付かれるようなキスをされ、体勢を変えられまた激しく突かれる。 「んあ・・!はあ!や・・・!もう・・・!」 もう幾度目だろうか、訳も分からぬまま翻弄され、カクに懇願するがそのささやかな願いすら聞き入れる気はないようだ。カクも限界が近いのか幾度も苦しげな声を漏らすが離れてしまったら終わりと言わんばかりに執拗にカリファを求めた。 「あ・・・はああ!!!」 ついに耐えきれなくなりぴんと背中を逸らせてカリファは昇り詰めた。 そのすぐ後にカクも果て、カリファに重なるようにどっと倒れこんだ。 胸元に冷たい雫を感じ、そのままカリファは気を失った。 「じゃあの。」 何ごともなかったかのようにカクは服を着て部屋を後にした。 カリファもけだるい身体を起こし、乱れたシーツを篭に放り込んだ。 熱いシャワーを浴びて、汚れとともに全てがリセットされていく感覚を覚える。 薬が聞いている間の事は夢の中での出来事のようだった。でも確実に先ほどまでの自分ではなくなっていた。鏡にはいつもの無表情の自分が写っていた。 濡れた髪をかきあげると、ぽたぽたと冷たい雫が首筋に流れ落ちていく。 「・・・。」 ふと手を見ると濡れた手にはまだ微かに重ねられた手の温もりが残っている。 カリファは微かに笑い、手についた水滴を軽く振り払った。 |