凪の海。 夜は深い。 時折、汗ばむ肌を撫でるように吹き抜けていく潮風。 月は魔女の鉤爪のように細い。 甲板で一度絡み合ったあと、二人とも呆けたように船縁に寄りかかっていた。 ゆるゆると身を起こしたナミが、首だけ捩って海を見る。 「・・・夜光虫」 「珍しいモンでもねェだろ」 「でも、綺麗じゃない」 何に惹かれるのか、淡く発光する揺らめく波を見つめる女。 気づけば、極細の月明かりにさえ反射する、女の頬。 「・・・どうした」 「わかんない」 「ヘンな女」 「理由なんかない時だってあるのよ」 どんなにきつくても、めったに泣いたことなんかない癖に。 腰を抱き寄せて引き倒す。 少し光の滲む目じりを舌先で舐め上げた。 「またヤリたくなったの?」 「・・・おめェの所為だ」 「何よそれ」 「泣いてんじゃねェ」 「泣いてる訳じゃないもん」 もうそれ以上何も云わさず、組み敷いた。 あとはナミの甘い嬌声だけが波音に混じって流れるだけ。 時として。 泣かない女の涙は媚薬に変わる。 FIN |