すきまを埋めるための楔   (ロビン×ナミ×ゾロ)     のおさん  




男と女。

世の中にはおおむね、その2種類の人種しかいない。

最近、そんなことをよく思う。

さほど経験豊かというわけではないけれど、もちろん男と寝たことはある。相手に対する愛情うんぬんはさておき、身体の構造上、男と女は、完全に補完しあう。

あんな、無骨で奇妙な形をした肉のかたまりが、自分の身体に深く入りこみ、うつろなすきまをぴたりとふさぎ、きちんと収まることができるなんて、実際に経験してみるまではとても理解できないことだった。

ふだん、自分の体内に存在することを、意識さえしていない狭間。そこに、平常時の何倍にも膨れあがった他人の肉が、みっしりと埋めこまれ、奥深く抉り、襞の隅々を掻きむしり、愛液をこそげ出す。

あらためて考えてみると、すごく不思議なコトじゃない?

ただ、あそこを他人の肉塊で満たされただけで、どうして、あれほど満ち足りた気持ちになれるのだろう。

体の芯から熱く痺れるような充足感と、どうにかなってしまうほどハッピーな陶酔感。ちょっといいなと思う程度の男でさえ、いともやすやすと私を天国へトリップさせることができる。

それは、なぜなんだろう…種の保存を達成するために、あらかじめ巧妙にしくまれたシステムなのだろうか。

そんな詮無いことを、ちらりと思って苦笑する。



私の恋人は、私に埋め込むための肉を、持っていなかった。



*   *   *



「考えてみりゃ相当久しぶりだな…おまえとここで一緒に飲むのも」

ゾロはそう言って、手にしたグラスをひと息で飲み干した。

女部屋のソファ…かつて何度か、彼と枕をともにしたその場所に、ゾロはゆったりとくつろいで座り、まわりを見回していた。

夜も更け、あたりは静まりかえっている。港に停泊した船の中には、今宵は私たち以外誰もいないはずだった。

それなのに、しみじみした口調の中に、なんの期待も下心も感じられない。

そう、そう言えばゾロは、こういう男なのだった。妙な勘ぐりや、要らぬ深読みとは無縁な、まっすぐで気持ちのいい性格。私は、この男のそういうところが、なかなか気に入っていた筈だった。

「それにしても一体全体、どういう風の吹き回しなんだ、ナミ」

無遠慮な疑問を投げかけるゾロに、私は静かに微笑みを浮かべ答える…とりあえずの事実であるところだけを。

「今夜は、あんたとゆっくり飲みたい気分なの」
「そうか。オレは別になんでも構わねえけどよ…美味い酒さえ飲ましてくれりゃあな」
「どうぞ、お酒はいくらでもあるわ…でも、あまり飲み過ぎないでよ」

早くも2杯目を空にしたゾロに、次を注いでやりながら、私は釘をさした。

「言ったでしょ、ゆっくり飲みたい気分だって」

ゾロは、グラスを運ぶ手を止め、少し怪訝な表情を浮かべた。

「なんだ、おまえらしくねえな…なんかこみ入った話でもあるのか?」
「そういう訳じゃあないけど」

私は、口を濁した。

「それじゃあ、どういう訳だ」

私の答えに、何らかの含みを感じたのだろう…ゾロの瞳に、かすかな欲望の光が混じる。

「まさかと思うが、オレを誘ってるのか?」
「バカね、誘ってなんかいないわよ」
「いわくありげな言い方しやがって…誘ってねえなら、なんだってんだ」

私は、答えられなかった。



以前、何かのきっかけで、何度かゾロと寝たことがある。

ただなりゆきでセックスしただけではない…もちろん、ゾロが好きだったからだ。

それは、思いを確認しあい便宜上のパートナーになる以前の、ふわふわとした確立していない関係だった。とはいえ、ゾロは肉体的にも精神的にも、まあまあ申し分のない相手だった。

あのまま続いていれば、きっと恋人と呼べる存在になっていただろう。



ゾロは、詰め寄るでもなく答えを迫るでもなく、淡々と言った。

「おまえはもう、オレに興味がなくなったのかと思ってたよ」
「そんなんじゃないの、ただ…」

事実のみを口にするのが、今の私にできるせいいっぱいの誠意の形だった…たとえ、わかってもらえなくても。

「他で、いっぱいいっぱいになっていただけなのよ」
「そうか?…他に男ができたようにも、思えなかったがな」

何げないゾロの口調からかすかに、関係の消滅を惜しむそぶりが感じられ、私の心はやはり痛んだ。

「…ええ。男が、できたんじゃない」
「じゃあ、なにができたんだ?」

率直な疑問は、まっすぐ胸に響く。

「もう少し、もう少しだけ待って。もうすぐわかるから」

言いながら、新たな酒の封を切り、新しいグラスに流し込んだ。濃い琥珀色の液体が、トクトクと軽い音を立てて、グラスに溜まっていく。

ゾロは、口を開く代わりに、手渡されたグラスを干した。

ねっとりとしたアルコール分の高い液体が、ゾロの唇を越え、のどの奥へ消える。

ゾロは一瞬、なにかの表情を浮かべたが、私がすぐに次の酒を注ぐと、それを飲み干して納得したようだった。

私はひとまず安堵した。グラスの底に一滴垂らした液体には、気づかれなかったようだ。もっとも、気がついたところで、もうどうしようもないのだけれど。



グラスを重ねるゾロの顔が、わずかに火照っていた。

小さな汗の粒が、額一面に、じりじりともりあがってくるのが、見えるようだった。

「なんか暑ぃな…なんだか今夜はおかしな気分だ」

ゾロは、シャツの裾で、額を拭った。眉をしかめ、落ち着かない様子で、イライラとソファに座り直した。

「おまえが妙なこと言い出すからじゃねえか」
「うん…ゴメンね、お水、飲む?」

ゾロは差し出された水を、ゴクゴクと流し込んだ。まるで身体の中でふくれあがってくる炎の勢いを、懸命に抑えようとしているみたいだった。

でも、ダメ。私は、知っている。そんな水なんかじゃ、その火は消せないの。

ゾロは、眉を寄せ頭を振ると、首をかしげ、とまどいの表情を浮かべて言った。

「悪いが、今夜はなんか気分がよくねえ…おまえの話は、こんどゆっくり聞いてやるから」

言いながら、珍しく仕草に焦りをにじませて立ち上がった。

「部屋に帰らせてくれ」

私は急いでドアに駆け寄ると、先に立って部屋の扉を開いた。でも、それは、ゾロを部屋に帰してやるためではなかった。

開いた扉の向こうに、ひとり待つ者…その人物を、迎え入れるためだった。

長身のその人は、音もなくはしごを下りると、扉を閉じた。錠がかちゃりと乾いた音を立てた。

「どうしたんだ、街に行ったはずじゃ…街でなんかあったのか?」

問いかけるゾロに婉然と微笑んで、その人は軽くかぶりを振り、私のそばに歩み寄る。

ゾロは、本当に気分が悪そうだった。

握りしめたこぶしは色を失って青白く、額に浮かぶ汗はしずくになって頬を伝い落ち、床に大粒の染みを作っていた。

「ゾロ…悪いけど、今夜は、帰してあげられないの」

私は、ゾロの汗を拭ってやりながら言った。

「言ったでしょ、誘ってなんかいないって…あんたは、誘われたんじゃない。捕らわれたのよ」

小刻みに息を吐き、苦しげな表情を浮かべたゾロが、黙ったまま私を凝視する。

「だから、飲み過ぎないでっていったじゃない…」

ゴメンね…ゾロ。あんたのことはずっと好きだった。

「お酒に混ぜて飲んだら、効きめが強く出過ぎるかもしれなかったし…」

好きだから、あんたにもここにいて欲しいの。

「てめえら…」

ゾロは、ようやく状況に気がついたようだった。しゃがれた声が、唇をついた。

「酒に何か仕込みやがったな…」
「仕込んだなんて、人聞きが悪いわ…飲みやすくしてあげただけよ」
「クソっ…なにを入れやがった」

これからはじまる時間への期待と不安が、私の神経をたかぶらせていた。ゾロに答える私の声も、おかしいほど掠れていた。

「秘密の薬よ…ね、ロビン」



「はじめからそのつもりだったのか、ナミ…」

私が黙っていると、その問いをロビンが引き取った。

「ええそうよ、私が、航海士さんに渡して入れて貰ったの」
「てことは、てめえがこのたくらみの黒幕か」

ゾロは苦しげに肩を落とし、膝に手をついて、かろうじて自分の身体を支えていた。

「あら、心外だわ。そんな言い方しないで…あなたを望んだのは、航海士さんの方よ。もちろん私に否やもないし」

ロビンと私は、顔を見合わせ微笑みあった。

「いいかしら、あなたはここに招待されたの、私たち二人のお客様。もっとも、少々強引な手段だったことは、認めるけれどね」

ロビンはそばに寄って、ゾロの具合を調べた。容態をチェックする医者のように…というよりは、品物を値踏みする仲買人のように。

「身体に力が入んねえ…クソウ、腕が痺れる…重くて棒みてえだ」

そして、満足の笑みをもらした。

「おっしゃるとおり、そのクスリには、神経を軽く麻痺させて、身体の動きを鈍くする作用があるわ…でも、それだけじゃあないの…どう?」

ゾロはまなじりを上げ、じろりとロビンをねめつけた。

「運動神経を麻痺させると同時に、知覚神経を過敏にする。交感神経は促進させる…ほら、こんなに汗をかいて、胸がドキドキしている…そして最後に、これが一番重要なポイントなのだけど…」

ロビンの瞳が、どん欲そうに、きらりと光った。

「…性欲を昂進させるのよ、ほんのちょっぴりだけど」

ゾロはついに、その場に崩れるように座りこんだ。私はグラスの載ったテーブルを部屋の隅に寄せ、二人で崩れ落ちたゾロをソファに座らせた。ロビンはゾロが立ちあがれないように、ハナハナの能力を使って手足をソファに固定した。

「よせ…いったいなんのつもりだ、この魔女めらが」

ゾロは、力無くもがいた。ロビンは、慈愛の笑みを浮かべて言った。

「ごめんなさいね…あなた、馬鹿力なんですもの。少し大人しくさせておかないと、ここで暴れられたら、いくら私が能力者だからって、ホラ、家具を壊されでもしたら、困るでしょ。長鼻くんになんて謝ったらいいの」

私は、だらりと垂れたゾロの頭に、クッションをあてがった。身体は痺れていても、ちゃんと見ててほしかった…今から始まるコトを。

「辛い?…待ってて、もうすぐ気分よくしてあげる」

ゾロの汗に濡れた胸元をはだけようとした私を、ロビンは背後からそっと抱き取るように制止した。

「だめよ、貴女を最初に味わうのは、私」
「…ぁん」



ロビンは、ことさらに優しく、愛おしむように私の身体を抱いた。

首を後ろに反らせるように引かれ、仰向いた唇にロビンの甘い唇が重なる。思わずため息が洩れるような、ねっとりと甘やかなくちづけ。

引き延ばされた首筋を、細い指先がつまびくように撫で、私はうっとりとまぶたを閉じた。

優しく細やかな恋人に対する、せつない思いで満たされる。

せがむように舌を伸ばし、差し出された柔らかな舌先に絡めると、いっそうくちづけが深くなり、さらりとした唾液が溢れて流れた。

ロビンは微笑みながら、何度もやさしく唇を重ねた。

「ああ…ロビン」

優しいくちづけだけで、身体の芯が痺れるような快感がわきあがり、私はもう、ロビンのなすがままになる。

ゾロの目前で、ロビンに抱かれる…そのことが心に落とす陰が、私をいつもより情ふかく、感じやすくさせているのだろう。

ゾロは黙っていた…驚いてはいるかもしれないが、ひとことも口を開かず、私たちの行為をただ見つめているようだった。

両脇から前に回された手が、ひらひらと舞うような動きをすると、シャツのボタンがあっという間にはずされ、合間から胸に器用な指が伸びる。

「あ…」

その柔らかさを確かめるように、何度かおおきく胸を掴んだあと、一転して細やかな動きで、もてあそぶように乳房を摘んだ。

「…んあっ」

片手はシャツの裾をまくり上げ、脇腹から腰の線を、まるで誇示するかのように何度も繰り返し撫で上げる。背後からぴったりと密着するように、私の首筋に息を吐きかけながら、うなじの弱いところにゆっくりと舌を這わせた。

「ンン…待って、ロビン」

何度も交わした情交で、ロビンはすでに私の弱い部分を知り尽くしている…以前、ゾロに攻められ開かれた部分を、はるかに巧妙な手管でもって、ロビンはあっという間に、私の身体をつくり変えていた。

すぐに昇りつめてしまいそうな意識を懸命に身体に縛りつけ、ゾロの様子をようやく窺った。

ゾロは、唇を引き結ぶように閉じ、額から脂汗を垂らしながら、目前で絡みあう私たちを、じっと見つめている。言葉を出すことができないのか、それとも、口にする言葉が見つからないだけなのか、黙りこくったまま、ただ視線だけは、私たちから離そうとしなかった。

ロビンは、そんなゾロに見せつけるように、一枚一枚、私の身体を覆うものを剥がしていった。

ふわりとシャツを脱がせ、晒された乳房を唇で軽くはみながら、すくい取るように乳首を舌でなぶった。

短いスカートを芝居がかった仕草でめくり、下着のすきまを強引に押しひろげて、何本もの指を送り込むようにして、流れ出す熱い液体を周囲に塗り広げる。

その一部始終が、ゾロのすぐ目前で展開されるように、ロビンは意図的に私を膝立ちにさせ、粛々とその行為を進めていった。

すぐに、一糸まとわぬ姿に剥かれた。ソファに固定されたゾロの鼻先で、私はロビンの手によって何度もせつなく喘ぎ、息を荒げ、ぎゅっと目をつぶったまま、高い泣き声を上げた。

ゾロの視線を、身体中で感じた。懸命に平静を保とうとしているゾロの、それでも引きはがすことのできない真剣な視線を受けると、全身の素肌が泡立つような、ちりちりと灼けるような激しいエクスタシーを感じた。

他の誰かに愛撫され乱れる私の姿を見て、ゾロが欲情している…それがたとえ薬のせいだとしても、そう考えるだけで、たとえようもない満足感が私を包んだ。

とても長い時間がたったような気がするが、実際はほんの短いあいだだったのだろう。見られているという思いが、私をひどく興奮させていたから。

私は、床に膝をついたまま、背中を反らせ両手をぎゅっと握りしめ、喉から細い声を絞り出しながら、最初のエクスタシーに達した。

前の男の目前で、今の恋人である女の手によって。









































他の誰かに見られながらイクのは、初めての経験だった。私は頭の芯が痺れるような、甘い陶酔に酔った。

ぺたりと床に座りこみ肩で息をする私を、ロビンがそっと後ろから支えてくれた。

「素敵よ…航海士さん。貴女って本当に感じやすくて、可愛く乱れるのね…そんな貴女に私も…ホラ見て、剣士さんも、あんなに夢中になっていてよ」

顔を上げると、頭をソファにもたせかけたゾロと視線が絡んだ。

ぎゅっと噛んだ唇、ひきつれるように歪んだ口元と、額に刻んだ深い縦じわ、ふだんより少し紅潮した額を除けば、いつもと同じに静かなゾロだった。

ただ、頻回な短い呼吸を繰りかえし、おそらく必死で何かを堪えている。その心の中では、何を考えているのだろう…それとも薬のせいで、思考も混乱しているのだろうか。薬によって刺激された肉欲と、懸命に戦っているのだろうか。

だらりと伸ばされているように見えた両腕は、よく見ると細かく震えていた。

呼吸にともなって腹部は大きく上下し、シャツは汗でべっとりと濡れ、ズボンの前は大きく盛り上がって、中心に小さな染みを作っている。

「ゾロ…」

問いかけるようにふり向くと、ロビンはうなずいた。

「ええ、わかってるわ。いい加減、剣士さんもどうにかしてあげないと、そろそろ限界みたいね」

ロビンは私を目で促した。私はそっとゾロに手を伸ばした。




目の前のベルトを緩め、前を開くと、下着はすでにべとべとに湿っていて、布一枚の下で、ゾロのペニスがドクドク脈打っているのがわかった。下着の上から頭を覗かせるようにはみ出したそれは、前に見た時よりもはるかに熱く怒張し、カチカチに硬化していた。

それに触らないように注意しながら、そっとズボンを脱がせ、びっしょり濡れたシャツをはがす。ロビンは黙ったまま、ハナの手を添えて協力してくれた。

最後に下着を取り去ると、全貌をあらわした肉塊の凶暴さに、思わずふうとため息が洩れた。

「ああ…素敵」

両手のひらで、包むように触れると、ゾロは食いしばった歯のあいだから「くっ」と唸り声を上げ、かみなりに打たれたようにビクンと大きく跳ねた。

それは火のように熱く、先端は紫色にふくれあがって、今にも破裂してしまいそうに見えた。先端の分かれた部分から、透明なゼリーのような液体がとろとろと分泌され、私の手を濡らした。それをすくい取って、そっと輪を描くようにてっぺんを刺激すると、それだけでゾロは獣のように唸りながら、もう一度大きく跳ね、ペニスをビクビク脈打たせながら射精した。

「きゃ」

受け止め損ねた精液が肌に飛び散った。どろりとしたそれを拭き取りながら言った。

「もったいないことしちゃった…こんなにすぐに出るとは思わなくて」
「一度くらいいいわよ。もともと回復力は保証付きなんでしょう?」
「それは大丈夫…ほら、ね」

放ってからまだ間もないのに、すでに手の中でむくむく大きくなっているペニスを示すと、ロビンもにっこりうなずいた。

「まあ、ほんと。ステキだわ、剣士さん」
「もう、こんなに…」
「すごいわ。なんて元気なコなのかしら」

「…てめえら…」

一度放って、少し余裕ができたせいなのか、ゾロが腹の底から絞り出すようなしわがれ声で、ようやく口を開いた。

「いい加減に…しねえか…」
「あら、ダメよ。まだぜんぜん楽しんでいないでしょう?…航海士さんの悶える姿を見せつけられて、こちょこちょ触って貰ったぐらいで、すぐイっちゃうなんて、ちょっとだらしないわよ。立派な息子が、泣いてるわ」

「…黙れ…悪魔、め」
「片意地はってないで、素直になりなさい…これ、欲しいでしょう?」

ロビンはそう言うと、私の乳首を軽くつまんで引いて見せた。

「あぁん」

私が甘い声を上げると、両手の中のペニスが、ぐうっとまたひとまわり大きくなった。

「ほーら、身体は正直よ…遠慮しないでちょうだい。航海士さんも、したいって」

ね?、とロビンがこちらを見たので、私はゾロに向かって微笑んで見せた。

「黙って任せてちょうだい」

その言葉に従うつもりなのかはわからないが、ゾロは再び口をつぐんだ。私は、先ほど中断した作業を再開することにした。

ゾロの両脚のあいだに入り込むように座ると、ちょうど目前に、ごわごわと縮れた陰毛に覆われた股間があった。

意図的に、胸のふくらみをゾロの腿の内側に擦りつけるように、そこに身を寄せる。

目の前にだらりと下がった陰嚢を、持ち上げるようにしてゆっくりと揉んだ。揉みながら、頭の上のゾロを見上げる。その顔は、苦しげに喘いでいた。

胸がきゅんとなった。

懸命に耐える表情が、こんなに似合うなんて。

こうして触るのが、そんなに辛い?…私が欲しくて欲しくて、苦しいの?…もうどうしてくれようか。

その顔を、もっと歪ませてあげようか。

私は小首をかしげ、唇に微笑みを乗せ、上目遣いで尋ねた。

「ねえ、ゾロ……舐めてもイイ?」




「ぐうっ…」

ゾロは息を飲み、唇をぎゅっと結んで、私を凝視する。私は、ちらりと舌を出して、繰り返した。
「ねえ、ここ舐めてもイイ?」

ゾロは必死で耐えているように見えた。天を仰ぎ、、歯を食いしばっている。

なんて頑なな男なんだろう。この私がここまで誘ってやってるのに、まだ陥落しないなんて。

私は、ゾロのペニスにそっと頬を寄せ、わざと息が吹きかかるようにして、もう一度訊いた。

「イイっていってくれないと、できないわ」

ゾロは額に青筋をたて、ぶるぶる震えながら唸った。

「うう…」
「なに?…はっきり言って」
「…む…」
「もう一度」
「………頼む…」
「何を頼むの?」

ゾロがついに観念したように口を開く。顔をそむけたまま、絞り出すように言った。

「口で…してくれ」
「いいコね、任せて」




私はおあずけを食っていた犬のように、それにむしゃぶりついた。

舌を懸命に伸ばし、ぺろぺろと先端をしゃぶる。分かれた部分にそっと舌先を差し込むと、ゾロがまたううと呻いた。

大きく口を開いて、喉の奥まで飲み込む…もちろん全部入りはしない。すぐに口蓋のところでつっかえるのを、辛抱してそのまま舌を巻き付けるように這わせ、唇をすぼめてゆっくりと出し入れした。

片手で陰嚢をもてあそび、もう片方はペニスの根本に添えて扱く。

ロビンは少し離れた椅子に腰掛けて、黙ってこの光景を楽しんでいるようだった。

ゾロは不自由ながら、ゆっくり腰を使っていた。

手の中の硬い肉が、ピクピクと動き、脈打つ。

私は次第次第に、この行為に没頭していった。身体を寄せ、身を擦りつけるようにゾロに覆いかぶさり、夢中になって性器をなぶった。

ゾロの荒い呼吸が、いっそう短くなっていく。私の動きに同調するように、ゾロも腰を上下させ、打ち込むように喉に押しつけてきた。

手の中で、そして唇の間で、熱い肉塊がぐうっとせり上がるように膨れようとした時、私はあわてて舌を離し、付け根の部分を締め上げるようにして射精を留めた。

「くうっ…」

ゾロの顔が大きく歪む。

「てめ…ナミ、まだ弄ぶつもりかよ」
「ダメよ、まだイっちゃダメ」
「クソッ…もう、勘弁してくれ」

さしものゾロもとうとう弱音を吐き、私はうっとりと勝利感に包まれる。あんまり気分がいいので、ちょっとだけ、情けをかけてあげたくなった。

「ねえ、お願い、ロビン…入れさせてあげてもイイ?」
「しょうがないコね。もう我慢できなくなっちゃったの?」

ロビンは仕方なさそうに笑って、うなずいた。

「まあいいわ、まったく、おねだり上手なんだから…最初っからそのつもりで、ここに呼んだんだしね」
「嬉しい…ありがとロビン」

見上げるゾロの額には、脂汗が光っている。

「あんたも…イイ?、ゾロ」

決めつけるように、宣言した。

「ここから先は、合意の上よ?」
「得体の知れねえモン飲ましといて、合意も何もあったもんじゃネエだろうが…」

ゾロは、苦しげに息を吐きながら、口の端でかすかに笑った。

「ただ…くれるってモンは、ありがたくいただいとかねえと…礼儀知らずに、なっちまうだろ」
「お気遣いは無用よ」

私は四つんばいになって、ソファに這いのぼり、ゾロの身体をまたいだ。

ゾロのペニスは手を離してもそのままの大きさと硬度を保ち、腹部に添って屹立していた。それに手を添えて、すぐにでも身体を沈めたい欲望を抑えて、四つんばいのまま、まっすぐに顔と顔を近づける。

「あいにく、ご祝儀で差し上げようってな代物じゃないの」

ゾロの瞳が、濡れて光っている。

今にも額と額が触れそうになったところで動きを止め、その瞳をのぞき込んだ。刺すような視線の向こうに、私が映っている。欲望で目をぎらつかせた、淫猥で、美しい私。

「受け取るのなら、なんらかの報酬をもらうわよ」

ゾロがせわしなく吐く、息が熱い。

こうして近くで見ると、ゾロは本当に綺麗な男だ。

この顔が苦しげに歪んでいるのも、瞳が焦れて光っているのも、全部、私の中に突っこみたくてたまらないからなのだ。

そう思っただけで、あそこが熱く濡れ、あふれ出すのがわかる。

早く、早く、来て。答えを言って。

「あんたに、その覚悟が、あるかしら」

ゾロの口元がかすかに緩む。わずかに笑いを含んだ唇が、ゆっくり動き、食いしばった歯がほどけ、頑なな口が、欲しかった言葉を紡ぎ出す。

「おまえが、欲しい…ナミ」

「…いいわ」




私は、ゾロの首を抱えると、その歪んだ唇にくちづけした。ゾロは迎え入れるように唇を開いて、私の舌を捉え、飲み込むようにからめ取った。

ゾロの口の中は、カラカラに乾いていた。舌と一緒に送り込んだ私の唾液を、ゾロはいかにも美味そうに音を立てて嚥下した。

汗で濡れた頬に自分の頬をすりつけ、乳房で胸板の厚みを存分に味わいながら、身体をくねらせるようにして、ゾロのペニスを自分のそこに導く。

それは、すんなりと濡れた入り口に届き、先端を裂け目に埋めた。私は角度を合わせ、重みをかけてゆっくりゆっくり、身体を沈めていった。

しばらく満たされることのなかった私の狭間を、肉の塊が押し広げるぎりぎりという音が、聞こえるような気がした。十分濡れて熟したそこを、ぐりぐりと引き延ばすように押し入ってくるその、圧倒的な存在感。

身体の芯がじんと満たされるような、痺れてとけてしまうような深い充足に、気が遠くなる。

「ああ…いい感じよ、ゾロ」

どんと奥底を突き、まだ奥を窺うようなその熱い肉は、私のそこにおかしいほどぴったりとはまり、すきまなく満たす。それと触れあった体内の粘膜から生まれる、痺れるような快感が、身体中を満たし、背中を駆け上がって、思考力を停止させる。

「いい…ああ…んんっ…」

粘膜そのものがうねうねと動いて、絶え間なく細かいエクスタシーの波を送り続けている。思い切ってそっと腰を揺すってみると、巨大な快感の波に襲われ、私はあっというまに翻弄され打ちのめされた。

「んあああっ…」

そのまま身体をよじるようにして、軽く達した。ゾロの胸の上に腕をつき、酸素を求めて喘ぐ。ゾロはまだ私の中をいっぱいにしたまま、下から突き上げるように、腰を動かしていた。

「ゾロ…もう、動けるの?」

繋がっている部分からふたたび、じわりと熱が広がってくる。ゾロは、首をかしげて答えた。

「ああ、多少はな…あんまり期待すんなよ」
「バカ」
「それより、これで終わりじゃねえだろうな」
「…あんたって、ホント、ケダモノ…」

わかってはいたけれど、心底あきれてため息をつく。

「ていうかロビン、こんなヤツ、一服盛る必要なんてなかったんじゃないの?、貴重な薬がもったいないわ…んきゃっ」

突然、胸をきつく吸われて、私は悲鳴を上げた。ゾロが半身を起こし、乳房にかじりつくように食らいついていた。乳首を中心に薄い歯形を残して顔を離すと、むっつりと言った。

「やってる最中に、べらべらしゃべくってんじゃねえよ。おまえも動け」
「なによ、急に。その偉そうな態度」
「誰のせいで、こんなめにあってると思う」

さっきまでのけなげな態度とうってかわった豹変ぶりに、さすがにむかついた。ゾロのものをくわえ込んでいる部分にきゅっと力を込め、円を描くように腰を擦りつけると、ゾロは口をゆがめて、うっと呻いた。

「クソ、この…魔女め」
「さあ、いい加減にして、二人とも。そんなけんか腰じゃ、ムードも何もあったものじゃないわ」

諫めるようにロビンが割って入り、反省した私は、顔を伏せ素直に謝った。

「ごめんなさい…ロビン」

行為に溺れて、ホントの目的を忘れちゃいけない。

ねえ、ロビン…さっきから、私ばかりイイ思いをして、ゴメンなさい。

ロビンと二人でするとき、いつも先にイッてしまってゴメンなさい。私はいつも、ロビンのその魔法のような手に誘われて、あっという間に狂わされてしまうから、求め合っている時にロビンがどれほど感じているのか、あまりよくわかっていない。

私とセックスして、ロビンがイケてるのかさえも、本当はわからない。

「ねえ、ロビンも来て」

私は、ゾロのものを埋め込まれたまま、ロビンに向かって手を招いた。

「ロビンも一緒がイイ」

今夜は、一緒に…一緒にイキたい。私とゾロとロビンの三人で、きっと一緒に天国に行ける。

「お願いよ、ロビン…」

一緒に、イキたいの。貴女が理性を失ったら、どんな素敵な声で鳴くかが、聞きたくてたまらないのよ。




「まったく、おねだり上手ね」

ロビンは、苦笑して立ち上がった。

「ホントに…あなたのお願いは、どうして断れないのかしらね」

そして、シャツをふわりと脱ぎすてる。

















































ロビンはシャツをふわりと脱ぎすてると、ゾロの上で揺すられ続けている私の身体に、後ろからそっと覆いかぶさった。

キスするために身体を捻ろうとすると、ゾロが私の腰を持ち上げ、繋がったままの部分を中心にしてくるりと半回転させて、背後から貫く形に向きを変えてくれた。

後ろから揺すぶられ、突き上げられながら、正面からロビンと抱き合う…ロビンの身体はいつものようにいい匂いがして、しなやかに細く、すいつくように柔らかく私の肌に沿う。

夢中でロビンの胸を被う布を剥がし、豊かな胸を露出させた。あらわれた乳房は白くつるりとしていて、しっかりした形を保ち、ボリュームはあるけれど少し硬質な感じがする。でも触れてみると、本当はとてもふわふわで、優しい肉感と可愛い乳首を持っている。

その胸の谷間に、顔を埋めるのが好きだった。

弾力のあるふくらみに頬を預けるようにして、細い腰にしがみつき、ゾロのゆるやかな抽送を腰で受け止めた。私と一緒になって、ロビンの身体も揺れる。柔らかい胸が、私をふわりと止まらせてくれた。

繰り返す波となって、背中をのぼってくる快感…口をぽかりと開け酸素を求めると、吐息と一緒に声と唾液が洩れる。それはロビンの胸にたらたらと流れ落ち、ぷっくりと上向いた乳首を濡らし、光る糸を引いてこぼれた。

「あぁ…ロビン…」
「素敵よ、航海士さん…乱れてる貴女は、本当に可愛い…」

腕を絡め、唇を押しつけ、舌を重ねあわせながら、ロビンの胸に手を伸ばし、固く尖った先端を指先で摘んだ。

ロビンは、軽く息を飲み喘いだ。

私の掌では被いきれない豊かな乳房に、手を沿えるようにして、胸と胸を合わせ、柔らかなふくらみ同士がこすれ合う感覚を楽しむ。尖った乳首が触れあう、こりこりとした痛み。ロビンの乳首がしだいにツンと立ち上がって来るのを、触れあった素肌で感じた。

背後には、ごつごつした硬い肉の塊が、私を確実に攻め上げていた。

規則正しく刻む律動が、私のそこを、次第に深く抉る。だんだん大きく堪えきれなくなる快感の波に耐えながら、夢中でロビンの唇を求め、手を下着の中に伸ばして、下腹部の翳りの奥を探った。

そこは、柔らかい肉がとろけた、熱い泉だった。ぷくりとあわさった肉の狭間に、指を入れ探ると、とろとろと熱をもった愛液が、次々と滴り私の掌を濡らした。

「…あ」

ロビンが甘く鼻にかかった声を上げる。

「どうしたの…なんだか今夜は、積極的ね」
「ロビン…濡れてるわ…すごく熱い」

指を奥に進めると、ずぶずぶと深みに吸いこまれるように、そのまま根本まで埋まった。ロビンの中は身体と同じように柔らかく、ふんわりとくるむように私の指を締めつける。じわりと寄せてくる壁は細かい襞で被われ、それ自身生き物のようにうねっている。その襞のあいだを擦るようにして、指を大きくくねらせた。

ロビンは、クックッと笑いながら答えた。

「だって、貴女が可愛いんですもの」
「ねえ、…感じてる?…いつもよりイイ?」

指を二本に増やして、添えながらロビンの中を探る。私自身のイイ場所を思い浮かべながら、一生懸命指を遣った。

ロビンが、ああ、と深いため息をもらす。

「ええ、感じてるわ…いいわよ…上手。ん…続けて」

唇を重ねたままかいま見るロビンの表情に、甘い膜がかかったような、柔らかい陰が差している。

「ぁ…ふ…」

一度指を引き、手前にある小さな突起の皮を、剥くようにくすぐる。

「は…」

短く喘ぎながら、ロビンは身体をのけぞらせた。そして、うかうかと感じてしまったことを紛らわすように、私の同じ場所に腕を伸ばしてきた。

ゾロの動きを遮らないように、恥丘を包み込むようにして、そっとをクリトリスを探る。

「あ…ん、ダメよ、ロビン…ロビンは触っちゃダメ」
「いいえ…貴女の感じてるのが見たいの」

私は慌てて、ロビンの腕を抑えた。

「ダメ…今は私がしてるの…ロビンのここ、もっと触りたい」
「…航海士さん」

有無を言わさず、ロビンの立ち上がりかけた肉の芽を剥いた。あたりに溢れる愛液をたっぷりすくい上げ、肉芽に塗りつけるようにして、ちいさな円を描きながら指の腹で擦った。

ロビンの顔が、かすかに歪む。

「ん…あ…っは…」

息を飲みこむように、ロビンは静かに喘いだ。その唇から、抑えきれない喘ぎがつぎつぎと洩れだし、次第に高く細い嬌声になった。こんな素敵な声を聞いたのは初めてだった…私はうっとりしながら、熱心に肉芽をなぶった。

「んぁ…」

ロビンはちいさく声を上げ、顔を振る…奥からはどんどん熱い液体が流れ出てくる。私はゾロに後ろから抉られていることも忘れそうなぐらい、夢中になってロビンを責め立てていた。




「オイ」

その時、背後から声がかかった。

「お楽しみのトコ悪ぃが…てめえら…エロ過ぎだ…たまらん」

ゾロが、苦しげな声で、言った。

「もう限界…出そうだ」

そして、ぐっと大きく打ちつけるように、腰を使った。

「あ、ダメ、ゾロ…そんなに動いちゃ…ああっ…」

一段とおおきな快感が、脚のあいだから、身体中に走る。

「スマン…辛抱できん」

そう言うと、ゾロは身体を起こし、私の腰を持ち上げるようにして、激しい抽送を開始した。今までのゆったりした動きがウソのように、ゾロの先端は、私の身体をガクガク揺さぶりながら、 膣の奥深くに届いた。

「んあっ…あっ…ゾロ」

目も眩むような波が私に襲いかかり、身体を翻弄した。私はなすすべもなく揺られ、ロビンの腰に必死でしがみつきながら、泣き声を上げた。

「ああっ止めてよ、ゾロ…ロビン…」

ロビンは私をぎゅっと抱きしめ、くちづけした。

「ああ、ああっ…バカぁ…」

もうちょっとだったのに…あとちょっとで、ロビンをイカせてあげられたのに…口惜しい気持ちが、エクスタシーの激しい波の中に飲み込まれていく。

「悪ぃ…」

身体深くこじ入れられたものが、ぐうっと膨張しはじけそうになる。

「あああん…」

ぎゅっと閉じたまぶたのあいだに、涙が滲んだ。急速に昇りつめる意識の中で、大きな火花が何度も明滅した。

何度も何度も、けいれんするように身体が震えた。ゾロが、ううと呻きながら私の中に精を放ったのを自覚したが、次の瞬間、もうなにもわからなくなった。




*   *   *






「なあ…なんだか…すげえ、妙な感じだな」
「そう言われれば、そうね…」

ゾロとロビンは、意識を失いぐったりとしたナミを挟んで抱き合うように、至近距離で向きあっていた。二人とも荒い息を吐き、頬を紅潮させているが、表情は落ち着いていた。

ナミはゾロの腰にへたりこんだまま、頭をロビンの肩にもたせかけるようにして気を失っていた。髪は乱れ、涙に濡れた頬に貼りついている。

ロビンもまた長い脚を大きく開いて、ゾロの膝にまたがっていた。

まだ下着は身につけてはいたが、その合わせ目はびっしょりと濡れ、ゾロの脚にぴたりと密着し、柔らかい秘唇の感触をそこに伝えていた。

ゾロが再び、えんりょがちに口を開いた。

「その…大丈夫なのか…ナミは」
「ええ、いつものコトよ」
「…そうか」

二人は所在なげに、しばらく黙って顔を見合わせていた。しかし、ゾロがさすがに居心地悪そうに視線を逸らした。

「…何だよ」

ロビンは、静かに尋ねた。

「怒っているかしら」
「いや…」

ゾロは、むっつりと答えた。

「別に、怒っちゃいねえよ…ただ」

ゾロは言葉を切った。

「ただ、なんで、んな真似しやがったと思うだけだ」

ロビンは、黙っていた。ゾロは重ねて訊いた。

「薬なんか盛らなくとも、普通に誘やよかったんじゃねえのか…」
「そうね…」

視線を空に泳がせながら、言葉を選ぶ。

「航海士さんと私と、3人でセックスしない?って言えば、来た?」
「…いや、正直言って…わからん」

「そうね…あなたがモラリストだと思ったことはないけど…でも、確かに予想がつかなかった。あなたって見かけより禁欲主義者みたいだし、信じられないほど頑固だしね」

ゾロは、ぽりぽりと頭を掻いた。



「あー、その…あんたら…ずっとこんななのか」
「ええ」
「……マジなのか?」
「あなたと同じぐらいには、ね」

ゾロは、うっと詰まった。

「航海士さんを餌に誘えば、たぶんあなたはついてくると思っていたけど…」

ロビンは、気にとめる様子もなく続けた。

「でも、彼女があなたに、ただ普通に抱かれるのは、いやだったのかもしれないわね…おかしいわね、私も焼いているのね、あなたに」

そしていったん言葉を切ったあと、思いついたように言った。

「さっきの質問だけど…言うなれば、あの薬は、あなたへのペナルティってことになるのかもしれない」

ロビンは、ちいさくため息をついた。

「結局、私もあなたも、同じ穴のムジナなのね」
「なんだそりゃ」
「あなたも私もふたりとも、航海士さんのとりこ、ってことよ」

ゾロは、ニヤリと笑った。

「はっ、そりゃいいな…あんたとナミを巡って争うわけか」
「いいえ、それじゃああまりにも不毛でしょう…せっかくこうして招待したのですもの…パートナーっていうのは、どう?」

ゾロは、あきれたように言った。

「あんた、かなり屈折してンな…」
「ふふ…自覚してるわ」

ロビンは、むしろ嬉しそうに微笑んだ。



「…あー、オレは別にどうでもいいけどよ」

ゾロが、あらためて切り出した。

「あんたは、どうなんだ…最初に、はっきりさせとくべきじゃネエのか」
「なんのことかしら」
「あんたは、その…イカなくていいのか?」
「それはつまり、あなたが私をイカせてくれるってコト?」

興味を引かれた口ぶりで、ロビンが尋ねる。ゾロは焦ったように言った。

「今夜は勘弁しろよ、誰かのおかげで身体が言うこときかねえ…あ、それともあんた、もしかして男はダメ…なのか?」
「ふふっ、あなたも案外、楽しいひとね、剣士さん」

ロビンは、はじめて本当に楽しそうに笑った。唇が、愛らしい花のように開いた。こんな笑い方もできるんだなと、ゾロは思った。

「それは…そうね」

ロビンはしばし、首をかしげる。

「航海士さん次第、かしら…」







夢の中で、ロビンとゾロが、なにか話していた。

なごやかな雰囲気…ときおり、ロビンが楽しげに笑って、ゾロがムッとしたりして…なんだかちょっといい感じだった。

聞いている私も、なんとなく幸せだった。



ロビン…私の、優しい恋人。

私はいつも、ロビンに甘えてばかり。その巧妙な手管のなすがままに、翻弄され、狂わされる。抱き合うたび簡単に、天国に誘われる。その関係に、不満はない。

だけど。

私は本当に、あなたのコトが大好き。あなたもきっと、同じぐらい私のことを好きよね。

でも、たぶんそれだけでは、ダメ。

身体を合わせ、指を絡め、裂け目をさぐり、深く指を差し込みあっても、敏感な肉芽を擦りつけあっても、互いの秘所を舐めあってさえ、満たされない何かが、ある。

埋められない、すきまがある。

それがなにかわからなくて、もどかしい。

わからないまま感じて、何も考えないままイッてしまう自分の無力さが、もどかしくてせつなかった。

それが何かを知りたい…そしてあなたの乾いた部分を、満たしてあげたいのよ。




*   *   *




「ナミ…ナミ、起きろ」
「航海士さん、大丈夫?」
「…あ、あたし…イっちゃってた?」

頭を上げぼんやりと答えると、ロビンはやさしく笑った。

「そのようね…気分はどう?」
「…大丈夫」
「目、さめたか、ナミ」
「うん…ホントに大丈夫」

軽いキスのつもりで近づいてきた唇を奪い取るように吸うと、ロビンはちょっと驚いて、でもすぐに深く舌を絡めた。ゾロが背後から抱え込むように身体を引き上げてくれて、私とロビンは、ゾロの懐に包まれて軽く睦みあった。

「ロビン…ゴメンね、また私だけ先にイっちゃったんだ…」

ロビンは、あいまいに微笑んだ。

「もうちょっとだったのに、悔しいわ…ゾロも、まだ全然足りてないよね」
「ああ…まあな」

ふり向いて背後の唇をねだると、遠慮がちに落とされるのが可笑しい。わざとちいさく吐息をもらして、身体をくねらせてやると、まだ裂け目に挟まったままのモノが、どくんと脈打って硬さを増した。

「ヤダ…やっぱり、あんたってケダモノ」

触れあった肌の熱も、からみ合う腕の湿り気も、すでに次の行為を予感させていたが、私には、まずしなければならないコトがあった。

「でもちょっと待って…のどがカラカラなの」

伸びてくる手を軽く押さえ、重い身体をよっと起こすと、身体の奥から放たれた液体が、どろりと流れ出すのがわかった。

シーツの端でちょっと拭き取って立ち上がる。

「あんたも飲むでしょ、ゾロ」
「ああ」
「ロビンは?」
「ええ、いただくわ」

アイスペールの氷は、とっくに水になっていた。バーカウンターから新しい氷を取り出し、三つのグラスにウイスキーを注いだ。

ひとつをゾロに渡した。

ゾロは、手渡された酒をそのまま一気に飲み干すと、ぷはっと息をついて口を拭った。もう身体の動きに支障はないようだった。本当に、頑丈な男だ。

ぜんぜん物足りなそうなゾロに、酒瓶ごとはいと渡すと、嬉しげに受け取って、そのままラッパ飲みしようとする。ロビンと私は、顔を見合わせて苦笑した。

ゾロの悪びれなさというか、ある種の健康さに、今さらだけど驚きを感じる。こんな不道徳な行為に巻き込まれていても、ゾロにはかけらも退廃や罪悪の陰がない。たとえば軽くスポーツで汗を流しているかのような、しごく健康的な気軽さで、私とロビンの間にいる。

そんなゾロが、ありがたくて、大切で、愛しいと思う。

あんただからここに呼んだ…その気持ちにウソはない。

ゾロがここにいてくれたから…ありがとう、ゾロ。大好き。



私はグラスをふたつ持って、ロビンのそばにすわった。

「はい、ロビン」

ひとつをロビンに手渡す。

手の中で溶けていく氷の冷たさが、熱をもった身体に心地いい…その温度を少し楽しんだあと、グラスの中身を、舐めるように味わった。

舌に優しい、上等のお酒だった。

「美味しい…」

満足して、ロビンにひとつキスをする。ロビンも軽くお返しをくれた。

そして、ゆっくりとグラスを傾けた。



ロビンが喉を反らして、お酒を飲むのを見ていた。

細い喉に浮き上がった軟骨がこくりと動き、琥珀色の液体が、その体内に流れこんでいく。その綺麗な筋肉の動きに目を奪われた。

「ね…美味しいでしょう?」
「ええ」

グラスを置き、ふたたびロビンに身体を添えた。

触れあったロビンの肌が、次第にしっとりと湿ってくる。寄り添った胸の規則正しい動きが、少しずつ乱れ、荒くなるのを確信を持って、ただ待った。

「暑い?…ロビン」
「…ええ、少しね」

ロビンは、そわそわとあたりを見回した。

「あなたは暑くない?」
「いいえ、かわらないわ…あなただけよ、ロビン。汗をかいているのは」

はっとしたロビンの手からグラスが滑り落ちる前に、私はそれをそっと取り上げた。

「ゴメンね…ロビン」

そして、そのまま軽く肩を押すと、ロビンはふわりと倒れるように、ソファに深く沈み込んだ。白磁の肌は紅潮し、滅多に変わらない面にちいさな汗をかいている。

「…航海士さん?」

低い声が、ようやく疑問を投げかけた。

「あなた…まさか?」
「ゴメンね、そうなの…許して」
「…ホントに…あなたって、人は…」



「…おい」

変化に気づいたゾロが振り向いた時にはもう、ロビンは喘ぐような短い呼吸を繰りかえし、ソファにだらりと身体を投げ出していた。

「…ナミ、おまえ」
「大丈夫よ…量は加減したから」

微笑む私は、きっと無邪気な子どものように、幸せそうに見えるだろう。

じっとりと汗ばんだ乳房にぺろりと舌を這わせると、ロビンは胸を大きく上下させて、くっと息を飲んだ。

高鳴る胸を抑えながら、秘唇に指を添わせると、そこもうねうねと熱を帯びてうごめいていた。濡れた下着を剥がし、露わになった裂け目にやさしくくちづけすると、ロビンは高く細い泣き声を上げた。

胸がじんと痺れた…幸福のあまり、溶けてしまいそうだ。

「…感じてるのね?」
「…ええ」

ロビンは返事をするのも、やっとの様子だ。私も胸がいっぱいで、こう告げるのが精いっぱいだった。

「天国に、連れて行ってあげるね」

ロビンは、いつものように微笑もうとしたけれど、うまく笑顔にならなかった。

「…仕方、ないコね…来て」

だらりと伸ばされた指が、かすかに手招きするように動いた。

ゾロが私に、問いかけるような視線を向けた。

私はゾロにうなずいて、一緒にロビンの求めるものを満たすために手を伸ばした。身体を絡みあわせ、吐息と汗と愛液を混ぜあい、呻きと嬌声を重なりあわせ、ゆっくりと高く昇っていった。



そして、満たされるのを待っている部分に、心をこめて埋める。

それは、愛という名の楔。





















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