銀魂百三十二訓感想

「私と仕事のどっちが大事なのかという女にはジャーマンスプレックス」感想

今回のタイトルはセンスが今ひとつ外れ。というか駄。




悪党を斬るために一人で乗り込んだ。相手先は死にかけてる惚れた女の許嫁。

空知センセーが新撰組をお好きなのは知ってましたけど。土方もお好きなのは知ってましたけど。
本当に「漢の浪漫は痩せ我慢」を地でいくとは思っていなかったんですがね。
それでもこちらがいくら歯がみしても、こうとしか動けない彼らを現すのにコマに一切無駄のないあたりが、逆に今までの下ネタ路線が嘘だろうと思わずにはいられないくらいのホレッぷりを感じるのです。


本当に土方の像を崩せなかったんだろうなぁとつくづく思いました。



自分が元々野犬上がりで腕っ節だけしか脳がないと土方は判ってるんです。
斬るしか能がないって事も。他に出来ることがないって事も。
それを試せる機会がきちまった。ホモとは別の意味でその器のばかでかさに惚れ込んだ近藤さんが一旗揚げにいくとなれば自分が汚れ役を買うつもりになるのはあの二人の関係から行っても自然に思えるんです。
そこで出会ってしまったミツバさん。美人で気だても良くってノリも合ってた。あっという間に惚れてしまったんでしょうね。けど、最初は惚れたなんて判ってなかったとおもいます。
もう憧れに近いの。綺麗に思えて大事にしたくて。天女を見る思いだったんだと思います。
その大切な人の幸せって言うのが普通の女の幸せだと頑なに思いこんでる不器用さだからこうしか土方は動けないんですよね。
鏡を見て自問自答するまでもない、自分はただの汚れ役。頭の先から足下まで血で汚されたような自分などミツバさんのように輝いている人の横には絶対においてはいけない、それは彼女の不幸だという図式は簡単に成立させられるんです。


こいつ真性の「M」だから。

絶対にそうですよ。自分の幸せを一番最後にしないと気が済まない真性の「M」だから。
その為になら嘘だろうが平気でつける、それが土方の美学だから。
目的が一番大事でそのほかは簡単に切り捨てるんですよ。
そちらばかりが表に出て見えるからSにも見えるけど、あいつはそんなんじゃない。

自分の恋心を押し込めて近藤さんのために斬り倒して尽くすのはもはや本能というか快感というか。
だから惚れた女の幸せのためには相手の女性を罵倒しても身を引いて貰ってしまう。
自分にそういう意味での女性を幸せにしてあげる事は決して出来ないと思ってるから。

この辺り誰の意見も、ミツバさんの意見でさえ聞かない自己中心でしかない我欲の強いMなんですよ。



そしておそらくはそう言うトシであることをミツバさんも微妙な部分だけ判ってる。
土方にとって自分を側に置くことが一番大切に出来ない不器用さも判って惚れてる。
そのくせ自分に惹かれてくれてることも判ってる。
これは・・この恋から逃げるのは容易じゃないですよ。

そこで押しかけ女房になるタマだったらきっと長生きできるタイプだったんでしょうけど、ミツバさんも自分の恋心よりも土方の想いを受け入れて通させてしまう。土方の夢は総悟の夢でもあるから。
ミツバさんも武士な女だから。受け身ではあるけれど侍だから我慢してしまう。というかそれしか知らないんですよね。

もし押しかけたらミツバさんは幸せか?といえばきっと彼女を思うあまりにおかしくなる土方を見ていられないと思うんです。側にいればいるほど相手を傷つけて自分を傷つける恋だと言うことも薄々判ってる。だから追いかけられなかった。


当て馬君が悪役で良かった。
土方が心おきなくぶっ飛ばせるから。姉の夢よりも己を優先させてしまった総悟も同じく斬れる。


何が悲しかったって、ミツバさんの最後のモノローグの「私を置いていくんだから」ここに泣きました。
「自分の道を貫いてくださいね」って。土方がミツバさんを置いてその旦那を斬りに行ったのはまさしくその行為。
ミツバさんも結局は最後の消えゆく心の中でやはり想いは土方に帰ってしまうのでしょう。
「きっと きっとよ」重ねられたここに、こんな優しい許しの言葉を受けて土方も、総悟も、真選組は明日を今までと同じように生きていけるんですよ。
本当なら許されないはずのことをした。
近藤さんも、土方も、総悟にもだれもが彼女より優先させたものを持ってて、その後悔から来る傷は深いのに。このモノローグ1ページで彼女はそれを許してしまう。
深い話だと思いますよ。

そして総悟は泣きます。
これは肉親の情から。

そして土方も涙をこぼします。
こうやってしか泣けない男だからこそこうなった結末しかなかった結論に私たちを導いていくのです。



銀さん論

銀さんはいったい?
狂言回しで語り部。読者視点のガイド。

主役だからとかじゃなくって一つは傍観者であること。
そして同じ傍観者でも突っ込まない傍観者であることが大切なんですよ。

柳生編でも言ってましたがあいつらは目的が同じでも考えが違っていれば相手を罵倒してあげつらう仲なのにここでは一切それをしない。
それどころかミツバさんにはこれまで考えられないほど優しい。

銀さんの傷=土方の傷だから。

同じような臑に同じような傷を持つ経験がある大人だから聞かなくても判る。
判るからこそトシが出来ない事=ミツバさんに優しくをしてしまう。
そして沢山の人の死を見てきたからこそ死にゆく人には敏感なのだろうと思います。
死の臭いを感じるから頑なな土方すらもその臨終の席に連れてった。土方は決して会おうとはしなかったのでしょうけれどそれを強制することはしないんです。
そして最後の土方を見届けた。まさかあの男が後を追うか?という考えも含めてこの話の幕引きをを見届けた狂言回し。
マヨラーと甘党が檄辛口のそれを口にするという行為で彼らなりの野辺送りを描いたというのも凄い。
締めの土方の台詞がこれは草履虫さんがおっしゃっていた「つらい」と「からい」に掛けたことばで。
土方のそれは自分への。最後に重ねた銀さんのそれは同じ言葉なのに全員のやるせない想いについて語って結びとなる。

巧すぎるよ!!
だから私はこの話はここで終わりだと思ってます。補完は要らないと。
総悟の苦い思いも。
ミツバさんは結局一生ものの恋をしたことも。
三人が苦い思いをかみしめながら真っ直ぐ道を通してることも。
追加の言葉も想いも皆キャラの中でゆっくりと時を掛けて抱かれていくものだと思います。



近藤さん論

こいつが一番天然で始末に負えないと近藤ファンの中で言えないから(をい!)ここでこっそり言わせていただきます。

一番の悪党じゃねぇか!!
底がないから誰でも引き受ける。引き受けたどころか自由に泳げると感じさせてしまって虜にさせる。器がでかすぎてその中でなら窮屈さを感じないと他では引き取ってもらえない癖のある土方にも沖田にも感じさせて、そのくせでかすぎる器には小回りがきかないから一人にしておけないと面倒を見させて。
普通の人にはただの馬鹿にしか見えなくてもルフィと張る天然ですよ。


けどそういう悪党が一番魅力的だって事は皆が知ってることなんですがね。




土方のらしいところが私にとってもゾロと重なるのだろうと思います。
だから多分私は二人が好きなんだと思いますよ。(こっそり告白)
ただナミさんは自分でも歩いてゆくからゾロと一緒に歩ける。
ミツバさんは身をひいた。この二つの恋の(ゾロナミも恋だと言い切る)差はここだけなのではないでしょうか。

最後につけるタイトルを送りたい
「そして恋だけが残った」



2006/09/12






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